アナリストの忙中閑話【第11回】

アナリストの忙中閑話

(2011年10月28日)

【第11回】プリクエルと欧州問題、猿の惑星とカウボーイ対エイリアン

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

「ストラテジストが語る映画と世界情勢」シリーズ、今回は、「猿の惑星:創世記(ジェネシス)」と「カウボーイ&エイリアン」を取り上げる。

「猿の惑星:ジェネシス/RISE OF THE PLANET OF THE APES」は、1968年に公開された「猿の惑星/PLANET OF THE APES」シリーズの7作目で、新シリーズの起点と位置づけられている。

ストーリーは、原作とは異なるオリジナルだが、なぜ、猿が地球を支配するに至ったかという根本的要因が主軸のテーマとなっている。

なお、「猿の惑星」の原作者、フランス人小説家の「ピエール・ブール」は、1930年代、仏領インドシナのゴム園で、現地の黄色人種を使役していたところ、第2次世界大戦の勃発により、フランス軍に徴兵され、その後、自由フランス軍に加わるが、同じ黄色人種の日本軍の捕虜となることとなった。

「猿の惑星」や同じく映画化された「戦場にかける橋」は、当時の「捕虜体験」から着想を得たとされる。

第1作目「猿の惑星」は、人間が猿の面を被った着ぐるみで撮影されたが、その技術は当時のレベルからすると、極めて精巧なものだったため、当時の有名俳優がこぞって、キャストに手を挙げている。

一方、新作に登場する猿は、基本的に全て、CGであるが、その表情や動作は、自然で、さも実際に存在しているように映し出される。このあたりは、「アバター」等の撮影に加わったWETAデジタル社のノウハウが生かされている。

実は、筆者がこの作品を面白いと思ったのは、「猿の惑星」が成立した原因が、人間の誤った医学の使用によるものであり、天変地異や宇宙人の来襲といった「荒唐無稽」なものとは描かれていない点だ。1968年の第1作以来、40年以上、歯にはさまったままだったものがようやくとれた感じがした。

最近、映画の世界では、本作のように、そのストーリーの始まりに戻るものが増えている。

今年6月に公開された「X-MEN:ファースト・ジェネレーション/X-Men: First Class」は、X-MENシリーズ1-3作目までの「前日譚」である。

「前日譚(ぜんじつたん)/プリクエル(PREQUEL)」とは、いわゆる「エピソード・ゼロ」にあたる話だが、実際、原作に登場するケースもあれば、「猿の惑星:ジェネシス」のように後で、創作されたものもある。

代表格では、ダース・ベイダー誕生物語を描いた「スター・ウォーズ」のエピソード1からエピソード3が有名だが、同作の場合は、元々9部作、後に6部作を構想していたジョージ・ルーカス氏が、興行面の要請から、エンターテイメント性の高い、第4部作から製作、その後の成功を経て、やや自主製作映画的に6部作を撮り終えたという点で、最近のプリクエル物とは、背景がやや異なる。

今後も「ロード・オブ・ザ・リング」3部作のプリクエルである「ホビット」2部作が2012年と2013年の正月映画として公開される予定であり、「エイリアン」の新作、「プロメテウス」も2012年6月頃公開される方向だ。

近年、「前日譚」的な作品が多く製作されるのは、やはり、映画業界の厳しい現実がありそうだ。

製作費は、億ドル単位が珍しくない割には、従来のテレビやビデオ、ゲームに加え、インターネットや携帯電話、スマートフォン等の普及で、娯楽が増加、物理的に映画を見る時間が減少しつつあることが背景にあると考えられる。

我が国でも、団塊世代の引退等を受けて新聞購読数が減少、小説等も最近は、携帯小説が全盛の時代である。

結果として、リピーターによる一定の需要が見込めるシリーズ物が増加する訳だが、単に、新作を作るだけでは飽きられる。また、前作を見ていないと新作が理解できない。

そこで、プリクエルによって、よりコアのマニア層や旧作を観ていないニューカマーを劇場に向かわせようという算段ではないかと思われる。

但し、猿の惑星やXメンのように、出来の良い(筆者の感想)プリクエルは、単なるエンターテイメントとしてではなく、そのストーリーの本質、構造的な問題を炙り出すには良い試みだと思われる。

やや話が飛ぶが、10月27日、EU及びユーロ圏の首脳会議において、ようやく、欧州財政問題への包括戦略がまとまった。

その骨子は、①民間金融機関のギリシャ向け債権の5割カットによる1,000億ユーロの債務減免、②欧州金融安定化基金(EFSF)の支援能力を現行の4,400億ユーロから1兆ユーロへ拡大、③狭義自己資本比率9%達成のための1,060億ユーロの銀行資本増強策。

規模は、2010年5月に深刻化したギリシャ財政危機への対応策では、過去最大、この結果を受けて、27日の欧米金融市場や28日のアジア市場では、株価が大幅反発することとなった。

スターウォーズで言えば、シリーズ第1作「エピソード4:新たなる希望」、序盤戦で、帝国軍に圧されていた連邦軍が、デス・スターを破壊、形成を一旦、逆転するところに近いのかもしれない。

但し、同シリーズでは、その後、「エピソード5:帝国の逆襲」を経て、「エピソード6:ジェダイの帰還」によって、ジェダイの騎士ルーク・スカイウォーカーと宿敵ダース・ベイダーの対決に終止符が打たれることとなる。

欧州財政危機も、最終的な終息には相当時間がかかると思われる。

但し、解決の処方箋がないわけではない。やはり、延命策としての、対症療法とともに、構造的な問題を解決することが必要だ。

そのヒントは、プリクエルに出てくることが多い。

スター・ウォーズでは、親子の愛情によって、ダース・ベイダ―を暗黒面から救い出すことが決定打となっている。

ギリシャ財政問題もその本質は、欧州統合の中途半端さにあったと考えられる。

通貨統合のみを先行して実施した結果、ギリシャは多額の借金は可能となったが、国際競争力は低下、恒常的に貿易収支、経常収支が赤字化することとなった。

また、シェンゲン協定により、通行の自由が確保されているため、富裕層等の資金が、どんどん、スイス等に逃避したものと考えられる。

ギリシャ経済の回復のためには、財政面や社会保障政策、産業政策、教育政策等を含めた完全な統合を進めるか、債務を大幅縮減した上で、一旦、ユーロ圏から離脱、通貨の切り下げ等で、競争力を回復するしかないと考えられる。

実はこの問題は、今回、金利が急騰したユーロ圏諸国では多かれ、少なかれ、同様な問題を抱えている。

今回の包括策で、一旦、資金繰りに目途がつけば、早期により構造的な解決策の策定に係る必要があろう。

話を映画に戻すと、前週末、国内の映画興行成績で、前述「猿の惑星」に次いで、2位となったのが、スティーブン・スピルバーグ氏が製作総指揮を務めた「カウボーイ&エイリアン」だ。

タイトルは、B級映画的な響きがあるが、主演は、「007シリーズ」のダニエル・クレイグ氏と「スターウォーズ」や「インディ・ジョーンズ」シリーズのハリソン・フォード氏が務める大作だ。

今年は、宇宙人物の映画の当たり年だが、この映画の興味深いところは、なぜ、エイリアンが地球にやってきたかというところ。

実は、最近の金融市場の動きと関連が深い。週末にご覧いただければ、相場観が変わるかもしれない?

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。日経債券アナリストランキング、14年連続10位内ランクイン。日経財政アナリストランキング2位(2004年〜2006年)。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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