アナリストの忙中閑話【第18回】

アナリストの忙中閑話

(2012年4月4日)

【第18回】From Russia with Lada、新興国に見る自動車事情

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

2012年は選挙の年、ロシアではプーチン氏が返り咲き、今後、6年(〜)12年大統領職に

2012年、今年は選挙の年だ。
国連安全保障理事会常任理事国、いわゆる5大国のうち、英国を除く4か国(注)で、大統領等新指導部が選出される。

  • (注)3月4日:ロシア大統領選、4月22日:フランス大統領選(決選投票は5月6日)、10月頃:第18回中国共産党大会で習近平国家副主席が国家主席に選出される見通し、11月6日:米大統領選。

その先陣を切って、3月4日、ロシアで大統領選挙が実施された。

結果は、ウラジーミル・プーチン首相が63.6%の得票率と過半を制し、第1回目の投票で、大統領職への返り咲きを決めた。大統領就任式は5月7日の予定であり、過去2期計8年に加え、今回から任期は6年に延長されたため、6年後に再選されれば、最長20年の長期政権となる。

ロシアの選挙については、毎回、不正の噂がつきまとい、今回は投票所の様子をインターネットで中継するという試みもとられたが、国営企業従業員による集団投票疑惑等、今回も選挙に関する疑惑は絶えない。
但し、そうした状況にロシア国民が本当に不満を感じているかと言えばそうでもなさそうだ。
投票日直後の10日の土曜日は、さすがに1(〜)2万人規模の抗議デモがモスクワ中心部で繰り広げられたが12月の議会選直後の10万人規模と比べると下火とも言える。

筆者は、前週、旅行でモスクワを訪れたが、週末の日曜も翌月曜も、クレムリン周辺では、反政府デモどころか反政府ビラ・ポスターの1枚も見かけなかった。

昨年12月公開のトム・クルーズ主演映画「ミッション・インポッシブル ゴースト・プロトコル」で爆破されたはずの「赤の広場」に面したクレムリンの尖塔も、当然ながら普通に立っており、周りには、観光客の賑わいばかりが目立った。
クレムリン内部も通常通り開放されており、大統領府の前まで、観光客が近づいて写真撮影も可能で、特に緊張した雰囲気は感じられなかった。

政権への支持率は経済状態で決まる?

この点を、サンクトぺテルブルグ出身のツアー・ガイドに聞くと、ロシアの国民も今回の選挙が完全に公正に行われたとは思っていないが、ロシア人全体としては、1980年代の経済停滞、ソ連邦崩壊後の経済混乱が身に染み、何より安定を望んでいるため、全体の半数程度はプーチン氏を支持しているとのことであった。
やはり、自らの生活水準が向上している限りは、現政権への批判が出にくいというのは、我が国を含め、世界中どこでも同様のようだ。

記憶に残ったのはロシアの自動車事情

筆者が今回のロシア旅行で記憶に残ったのは、世界3大美術館の一つであるエルミタージュ美術館等、帝政ロシアが世界中から収集した宝物・絵画や建造物の豪華さもあるが、実は、自動車事情だ。
日本からモスクワへ航空機で飛行すると、この時期は、シベリア上空を過ぎる5(〜)6時間はいつまで経っても景色が変わらない。一面真っ白なツンドラ(永久凍土)が続き、川跡の筋は見えるものの、山すらない。ようやくウラル山脈に達して若干景色が変わる。高い山脈が続き、ほとんど平地のない日本とは全く景色が異なる。
ちなみに、ロシア人はウラル以西をヨーロッパ、以東をアジアと認識しているとのことである。

これだけ国土が広いと、当然ながら、都市部でも道路は広いのだが、モスクワやサンクトぺテルブルグの朝夕の渋滞は凄まじい。

片道4車線や5車線の幹線道路がどこでも大渋滞でノロノロ運転だ。
ちなみに、あまりに渋滞が激しいので地下鉄はないのかと聞くと、幹線通り沿いに、世界共通の地下鉄マーク「M」をよく見かける。
実はモスクワは地下鉄が発達しており、世界の地下鉄の年間輸送人員においては、東京に続いて世界第2位とのことである。

ロシアでは自動車はその人物のステータスを表す

それでは、なぜ、車通勤をするのかとガイドに聞くと、ロシアでは、自動車はその人物のステータスを表し、車が買えるようになれば車通勤となり、年収にあわせ、より高価な車に乗り換えるのだそうである。

クレムリンの「武器庫」(実際は美術館)には、ロマノフ王朝時代の多くの宝物が展示されているが、その中に「馬車」が10数台、飾られている。それらの馬車は主にエリザベータやエカテリーナ2世といった女帝が愛用したもので、当時、欧州で最新式のモデルを購入していたとのことである。
中には車輪ではなく、「ソリ」がついたものもある。
ロシアでは、冬場はむしろ、「ソリ」の方が乗り心地がよかったとのことであり、フラットで広い国土を象徴していると言えそうだ。

ロマノフ王朝時代は、最新式で豪奢な馬車を世界中から購入していたとのことであるが、筆者が驚いたのは、赤の広場に面したモスクワの高級百貨店「グム百貨店」にドイツの高級車「ポルシェ」が10数台も展示されていたことである。
さすがに「ポルシェ」がどんどん売れているようには見えなかったが、モスクワやサンクトぺテルブルグ市内では、「ベンツ」や「BMW」、「アウディー」、「レクサス」といった高級車がそこそこ目につく。
こういった高級自動車は、資源関係等の富裕層が買うのだろうが、一般の人はどういう車に乗っているか。
両市内を走る車を渋滞の中、チェックすると、ドイツ車、米国車、フランス車、イタリア車、日本車と様々な国の車が走っている。

確か、ロシアで一番売れている車は、ソ連時代の高級車で、ロシア自動車最大手アフトワズが生産している「ラダ」のはずだが、結局、両市内では一台も確認できなかった。

韓国車の伸長が目立つ

代わりに目立つのが、「現代」、「起亜」といった韓国車である。

そうした事情を件のガイドに尋ねると、「今でも、ロシア全土では『ラダ』が一番売れているが、『ラダ』はデザインも古く、よく故障する。一方で価格は韓国車と変わらない」ため、都市部では急速に韓国車に置き換わっているとのことである。

実際、欧州ビジネス協会(AEB)によると、韓国の現代自動車の2012年2月のロシア市場での新車販売台数は前年同月比55%増の1万4,703台で、ロシア最大手アフトワズの「ラダ」ブランドに次いで2位を記録したとのこと。

韓国車は、現代自動車及び現代自傘下の起亜自動車も、ここ1年、前年比2倍近いペースで販売台数を増やしており、「ラダ」のシェアを奪っていることが窺われる。

AEBによると、ロシアの2011年の新車販売台数は前年比39%増の265万3,408台となったとのことである。資源価格の急騰を追い風に、個人消費が堅調に推移していることが背景にある。対前年伸び率は2010年(30%)を上回り、総販売台数もリーマン・ショックが9月に発生した2008年の290万台に迫る勢いとなっている。

ロシアは、2009年に新車関税を25%から30%に引き上げる一方、現地生産する外国メーカーには部品の輸入関税を引き下げる優遇措置を適用しており、現代自動車が、サンクトぺテルブルグ工場で生産している「ソラリス」は2011年の外車として売れ行きが首位となっている。

韓国車が目立つのは、同じく新興国の中国でも同様だ。筆者が最近訪れた北京や上海でも、タクシーは大半が韓国車かドイツ車のフォルクスワーゲンであり、日本車の出遅れが目立った。

筆者が「日本車は伸びが鈍いですね」とガイドに言うと、件のガイドは、笑って言い返した。「心配しなくても大丈夫。日本車はイメージが良いし、間もなく、『ラダ』は『日本車』となって、日本のシェアが急拡大するから」と。
実は、日産は、仏ルノーと共同で、ロシアのアウトワズに約25%出資しているが、早ければ本年4月にも、50%プラス1株を取得し、経営権を握る方向にある。

買収後は、「ラダ」等の車体やエンジンは、日産・ルノー連合が供給するものと予想され、再度、「ラダ」が、ロシア国内でシェアを奪い返す可能性が想定される。

「ラダ」は日本車?

但し、新生「ラダ」が、ガイドの言うように、日本車と言えるのだろうか。

最近、日本の自動車メーカーは相次いで、新興国での自動車生産の拡大を発表しているが、その裏返しとして、国内での設備投資は抑制が予想される。

我が国では、少子高齢化が進み、最近の若者は、自動車への関心が薄いのは事実である。

消費地に近く、コストも安いところで、生産するのは当然だが、必ずしも合計特殊出生率の高くないロシアでこの状況であることから、新興国全体での、日本メーカーの存在感の低下が懸念されるところだ。

なお、ロシアの人口は、1億4,285万人(2012年2月)と日本と1千5百万人程度しか違わないが、国土は約1,707万平方キロメートルと日本の約45倍。出生率は、最近、向上しているようだが、日本よりやや高い1.4(〜)1.5程度と想定される。

「成長戦略」に、日本のソフトカルチャーを本格的に加えるタイミング?

といっても、日本に戻り、再度、確信するのは料理の旨さが「ダントツ」なことだ。

ロシア料理も旨いが、大陸系の料理は、ヨーロッパでもアジアでも、やや味が画一的であり、長く滞在すると飽きがきやすい。
その点、「海の幸」、「山の幸」を豊富に揃え、形や色彩等にも気を使った日本料理の国際競争力はそう簡単には衰えないだろう。むしろ、新興国の生活水準が向上すれば、世界的に選好が高まるのではないか。
日本文化と言えば、今回は取り上げないが、アニメ等の人気も根強い。

そろそろ、「成長戦略」にも、日本の食文化等ソフトカルチャーを本格的に加えるタイミングかもしれない。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。日経債券アナリストランキング、14年連続10位内ランクイン。日経財政アナリストランキング2位(2004年〜2006年)。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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