アナリストの忙中閑話【第23回】

アナリストの忙中閑話

(2012年12月21日)

【第23回】2013年の干支は「癸巳」。日本経済の再生なるか

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

2013年(平成25年)の干支は、「癸巳(みずのと・み、キ・シ)」

「癸巳」は、「干支」の組み合わせの第30番目で、陰陽五行では、十干の「癸」は「水」の「弟(陰)」、十二支の「巳」は、「火」の「陰」で、「相剋(水剋火:「水は火を消し止める。」の意)」である。

「癸」は、「測る」、「図る」に通ずる

「癸」は十干の最後の干で、「癸」の古代文字は、「矛」ないし「矢尻」が四方に突き出たような形をしている。水が四方より流入する形の象形との説もある。季節は晩冬を表し、草木も枯れて、測量に便利であることから、物事を「揆(はか)る」、「測る」に通ずる。また、「図る」、「計る」と物事の筋道を立てると言う意味があり、「均」に繋がる。また、首癸=首揆は、宰相の位を表す。万時、筋道を立てて処理すれば、国家を繁栄に導くことができるという意味を表すが、方針が曖昧だと、混乱し、「一揆」が起きることもある。

「巳」は、物事が表面化する意味

一方、「巳」は十二支の第6番目で季節は旧暦の四月、動物では「蛇」に配されている。方角は南南東、時刻は午前10時頃を表す。冬眠していた蛇が春になって、地中から這い出す姿を表し、いろいろな人物や問題が表面に出て活動することを意味する。

「癸」と「巳」を合わせると、2008年の「戊子(つちのえ・ね)」の混乱の中、生まれた新興勢力が、2009年の「己丑(つちのと・うし)」で、表舞台に立つのだが、依然、周囲の抵抗に出会い、完全には伸び切れない。2010年の「庚寅(かのえ・とら)」の年になると、矛盾が噴き出し、2011年の「辛卯(かのと・う)」で、新たな変化、再編が生じ、2012年の「壬辰(みずのえ・たつ)」の年、その胎動は一段と大きくなり周囲も無視できなくなる。2013年、ついに地中から這い出し、世に出るという意味ともとれる。

最近の地域政党の動きや、自民党の安倍総裁の復活劇等を暗示しているようにもみえるが、方針を立てて、政治では政策をしっかり確立して活動すれば発展するものの、そこが曖昧だと混乱し、「揆一」(原理・原則は一つであるという意味)が「一揆」に変化するように、雲散霧消するというよう風にもとれる。

前回の「癸巳」は1953年、戦後の「巳年」の出来事

前回、60年前の「癸巳」である1953年(昭和28年)は、スターリンが死去し、ソ連では、第2次世界大戦以前の指導体制が大きく変化した年である。我が国ではNHKがテレビ放送を開始、この年からメディアの勢力図は大きく変化、新聞やラジオがテレビに押され始めることとなる。

その後、戦後の巳年は、1965年には米軍が「北爆」を開始、ベトナム戦争が本格化することとなった。1977年には円ドル相場が1ドル250円を割り込み、円高不況が深刻化する。一方、円高不況に際し、金融緩和が実施されたこともあり、1980年代にはバブルが発生、巳年の1989年12月29日には日経平均株価は過去最高の38,915円をつけることとなった。

2001年にはITバブルの崩壊等を受けて、日銀が量的緩和政策を導入。政治面では、劇場型政治、メディア選挙を推進した小泉政権が誕生、2009年の政権交代に向けて政治の流動化が進展し始めることとなった。

○戦後の「巳年」の出来事

  • 2001年
    • 【国内】(1月)21世紀スタート、日銀、即時グロス決済制度導入、中央省庁再編、(2月)えひめ丸事件、(3月)日銀、量的緩和政策導入、(4月)小泉純一郎内閣発足、
    • 【海外】(1月)ギリシャがユーロを導入、ジョージ・ブッシュ氏、米大統領に就任、(4月)海南島事件、(9月)米同時多発テロ事件(9.11)、(10月)米軍によるアフガニスタン侵攻開始
  • 1989年
    • 【国内】(1月)昭和天皇没、明仁親王皇位継承、改元、(2月)相互銀行、普通銀行へ転換、大葬の礼、(4月)消費税導入、(6月)宇野宗佑内閣発足、(7月)参議院選挙で自民党過半数割れ、(8月)海部俊樹内閣発足、(9月)日米経済構造協議開始、(11月)日本労働組合総連合会(連合)発足、(12月)日経平均38,915円の最高値(12月29日)、
    • 【海外】(6月)天安門事件、(11月)ベルリンの壁崩壊、(12月)米ソ首脳会談(ブッシュ、ゴルバチョフ)、東西冷戦終結
  • 1977年
    • 【国内】(5月)領海法等制定、(7月)参議院選挙、円高不況深刻化、
    • 【海外】(3月)第1回アラブ・アフリカ首脳会議(カイロ)、(5月)ロンドン・サミット、映画「スター・ウォーズ」公開、(9月)パナマ運河返還条約調印
  • 1965年
    • 【国内】(6月)日韓基本条約調印、(7月)参院選、
    • 【海外】(2月)米軍機、北ベトナムへの爆撃開始、(8月)シンガポール、マレーシアから独立
  • 1953年
    • 【国内】(2月)吉田首相「バカヤロー」発言、NHKテレビ放送開始、(3月)中国からの引き揚げ第1船舞鶴入港、(4月)衆院選、参院選、(5月)第5次吉田内閣発足、(12月)奄美群島返還日米協定調印
    • 【海外】(3月)スターリン死去、(8月)ソ連水爆実験公表、(9月)フルシチョフ、共産党第一書記に就任、(10月)米韓相互防衛条約調印

2013年のイベント、政治面及び金融政策面で内外で大きな変化も

2013年は、1月に米国では第113議会が召集されるとともに、オバマ政権の2期目がスタートする。「フィスカル・クリフ(「財政の崖」)」や「シーリング(債務上限)」問題を、与野党の妥協により無事乗り越えることができるか否かが、2013年の米経済のみならず、世界経済の先行きを相当程度規定することとなりそうだ。

バーナンキFRB議長の任期は2014年1月で終了する。本人は再任を希望していないとの報道もあり、その場合、オバマ大統領は2013年後半には後任を決定する必要がある。

ドイツも9月までには連邦議会で総選挙が実施される予定だ。世論調査に基づけば、ドイツでは、現状のキリスト教民主同盟(CDU)、同社会同盟(CSU)及び自由民主党(FDP)の連立政権から、社会民主党(SPD)と緑の党の連立政権やキリスト教民主同盟と社会民主党の大連立等へ政権交代があってもおかしくない状況だ。欧州財政問題の先行きはドイツの総選挙次第という面も強そうだ。

中国でも、2012年11月15日に中国共産党総書記に就任した習近平国家副主席が国家主席に就くのは2013年3月の予定であり、完全な指導部の交代は2013年となる。国交正常化以降、最悪と言われる日中関係の先行きは、習氏のスタンスに負うところが大きそうだ。

我が国では、2012年12月16日の衆院総選挙で自民党が大勝、自公両党で衆院定数の3分の2を上回る325議席を獲得することとなった。12月26日召集予定の特別国会では、自民党の安倍晋三総裁が第96代内閣総理大臣に指名されることとなる。その後、安倍政権が発足するが、10兆円規模とされる2012年度補正予算案や2013年度予算政府案の策定等は年明けとなり、新政権のスタートも実質的には2013年1月となりそうだ。

7月には参院通常選挙が実施される予定であり、衆参での「ネジレ」が解消するのか、はたまた新たな勢力図に基づく「新たなネジレ」が生じるのか注目される。

また、巳年は、戦後、金融政策の転換点となっている年が多い。1989年には日銀はバブル退治のため、本格的な金融引き締めに転じ、公定歩合を3回、計1.75%引き上げた。一方、2001年には量的緩和政策を導入している。

2013年、日銀では3月19日に山口・西村の両副総裁、4月8日には白川総裁の5年の任期が満了する。安倍政権の誕生を受けて、日銀ないし財務省OB主体という従来とは相当経歴の異なる人物が執行部を率いることとなる可能性も想定される。

「辰巳天井」2年目、日本経済の再生が最大の課題

一方、株式相場に関する相場格言では、「辰巳天井、午尻下がり、未辛抱、申酉騒ぐ、戌笑い、亥固まる、子は繁栄、丑つまずき、寅千里を走り、卯跳ねる」とされている。

東日本大震災の発生もあり、2011年は、大地や水、風、人心、経済や金融システム等は揺れ動いたものの、肝心の本邦株価は底を這うばかりの1年であった。

2012年は「辰巳天井」の1年目だが、春先を除けば、日経平均株価で8,000円台の推移が長く、「近いうち解散」の日程が決定して以降、新政権等への期待から上昇基調に転じている。

但し、2014年4月には消費税率も引き上げられる予定であり、復興需要や増税前の駆け込み需要、新政権による景気対策等が期待される2013年度が経済の天井となり、その後は長期の衰退局面に陥りかねない。

日本経済の長期的な成長のためには、短期的な政策とともに、少子高齢化対策や将来的にも国際競争力が維持・強化可能な分野への戦略的な投資、規制改革や税制改革、行財政改革等、長期的な視点に立った政策も重要だろう。

2012年、自民党の安倍氏は、9月の総裁選、12月の衆院総選挙を勝ち抜き、見事、復活を果たしたが、後世に名前を残すためには、単に返り咲いただけではなく、吉田茂氏のように、実績を残すことが必要だ。

そのためには、「竜頭蛇尾」のように2012年の躍進が2013年に尻すぼみにならないように、また、今回のチャンスを「流星光底長蛇を逸す」とならないように、最大限生かすことが重要だろう。

その際、年の巡りとしては、前述のように「初心、忘るべからず」、「初志貫徹」ではないが、政策方針をしっかり確立して、優先順位をはっきりさせて、内閣を総理することが肝要と言えそうだ。一度に多くの政策目標を掲げ過ぎたり、優先順位の低い課題に注力し過ぎると、却って、「藪蛇」となるかもしれない。

やはり、最優先課題は、「日本経済の再生」だろう。

2013年の注目映画

最後に、1年間、「アナリストの忙中閑話」におつきあい頂き誠にありがとうございました。

2013年も、「映画と世界情勢」に関する話題を主体に、面白い話、役に立つネタ等をご提供したいと存じておりますので、よろしくお願い申し上げます。

ちなみに、2013年に公開される映画で、私が注目しているのは、以下の作品。

洋画では、「パシフィック・リム」と「ウルヴァリン:SAMURAI」。何れも、ハリウッド映画だが、前者には、菊池凜子さんと芦田愛菜さんが出演し、後者は日本が舞台となっている。他に、トム・クルーズ主演の超大作「オブリビオン」やブラッド・ピット主演の「ワールド・ウォーZ」、「スター・トレック イントゥ・ダークネス」やスーパーマンの新シリーズ「マン・オブ・スティール」等も見てみたい作品だ。また、ハリウッド映画だが、「47RONIN」は、忠臣蔵をベースとしており、真田広之ら日本人俳優も多数出演する。

なお、2012年作品だが、日本公開が2013年となる作品では、「ルーパー」や「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」、「リンカーン」等が2012年のベスト10に入っている。

邦画では、「かぐや姫の物語」と「風立ちぬ」を見てみたい。何れもスタジオジブリの作品だ。

これらの作品は、来年、本コラムでご紹介させて頂きます。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。同投資戦略室長、大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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