アナリストの忙中閑話【第29回】

アナリストの忙中閑話

(2013年11月15日)

【第29回】日本人野球選手の活躍の裏に背番号「42」あり

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

今年は日本人プロ野球投手の活躍が目立った

米国では、メジャーリーグベースボール(MLB)の最高峰を決めるワールドシリーズ(米国内の大会にも関わらず、ネーミングがさすが米国的)で、上原浩治、田澤純一両投手が大車輪の活躍を見せ、ボストン・レッドソックスの6年ぶり8度目の世界一に貢献した。特に、11月30日の最終戦に、田澤投手とともに、登板した上原投手は、最終バッターを三振に打ち取り、ワールドシリーズ制覇のマウンドに立った史上初の日本人投手となった。

一方、国内では東北楽天ゴールデンイーグルスの田中将大投手が今シーズン、昨シーズンから通算29連勝(レギュラーシーズンでは28連勝、日本シリーズを含めると30連勝)という世界新記録を達成した。チームも日本シリーズで読売巨人軍を4勝3敗で下した。楽天イーグルスは、球団創設9年目で初のリーグ優勝に続き、初の日本シリーズ優勝も果たした。

田中投手も上原投手同様、日本シリーズ最終戦にクローザーとして登場、やはり最終バッターを三振に打ち取り、日本シリーズ制覇に貢献した。

普段あまり野球を観ない筆者も日米の熱戦に夢中

実は筆者はあまり野球を観ないが、今年は久しぶりにワールドシリーズや日本シリーズの試合を数戦、生放送で観た。

普段、野球を観ないことには訳がある。実家がある四国には、現在でもプロ野球チームはない。筆者が小学生だった40年前は、野球人気は凄く、シーズン中は月曜日を除き、毎日野球のナイター(和製英語、本来は「ナイトゲーム」)中継がゴールデンタイムにテレビで放映されていた。但し、日本のほとんどの地方では、放映されていたのは巨人戦だけだ。結果、地元にプロ野球チームがない地域では、常に巨人の選手を見ることとなり、アニメ「巨人の星」や「侍ジャイアンツ」のように、巨人が「ガリバー」、「鯨」のような存在であった。また、当時は、カラーテレビは高価であり、通常、一家に一台、居間に鎮座することとなっていた。

父は野球ファン、特に熱烈な巨人ファンだったため、毎日のように野球中継にチャンネルがセットされていたが、筆者はむしろ、時代劇やドラマ、歌番組等に関心があった。映画放送は9時からが主流だったが、時としてプロ野球中継は9時台に食い込んできた。筆者があまり野球を観ず、どこのファンと聞かれると「アンチ巨人」と答えるのにはこうした幼児体験がある。

但し、一時、軟式野球チームに入っていたこともあるし、若い頃はソフトボールに親しんでいたので、野球自体が嫌いな訳ではない。あまりプロ野球を観ないということだ。

そうした筆者にも、今年の上原投手やマー君こと田中投手の活躍は早くから耳に入ってきた。田中投手は来シーズン、メジャーリーグへの移籍も噂されている。日本野球の国際競争力が一段と増している証左と言え、この点は嬉しい限りだ。

日本人野球選手の高評価の裏には、先人の努力・活躍があった

日本人野球選手の高評価の裏には、やはり、先人の努力・活躍があったことを忘れてはいけないだろう。

今年のワールドシリーズのMVPには、ボストン・レッドソックスの主砲で同シリーズでも打率6割8分8厘(16打数11安打)、2本塁打、6打点の大活躍を見せたデビッド・オルティス選手が選出された。オルティス選手はドミニカ共和国生まれの37歳。

近年、ワールドシリーズのMVPを有色人種が獲るのは2009年のニューヨーク・ヤンキースの松井秀喜野手(当時)のように、珍しくはないが、70年前は相当事情が違ったようだ。現在、日本公開中の映画「42(〜)世界を変えた男(〜)」(ブライアン・ヘルゲランド監督)」は、アフリカ系アメリカ人初のメジャーリーガーであるジャッキー・ロビンソンさんの半生をつづったものだ。

当時、野球は白人のスポーツ。ロビンソン選手の登場までメジャーリーガー計400人は全員白人だった。

黒人選手の登場に相手チームからも球場の観客からもブーイングを突き付けられる。ある時は、保安官に球場から追い出され、デッドボールを頭に受け、守備の際には足をスパイクで踏みつけられる。数々の脅迫や迫害にも負けず、ロビンソン選手は努力を惜しまず実績を残す。リーグ優勝にも大きく貢献、遂に、チームメイトのみならず、観衆からも絶大な拍手を浴びることとなる。

メジャーリーグで「42」は永久欠番であり、4月15日には全選手の背番号が「42」に

ロビンソン選手は、抗議の声や暴力ではなく、野球の実績でメジャーリーグに「倍返し」どころか「新しい世界」を作ったと言える。

米国では、同選手の功績を称え、1947年に彼が初めてメジャーリーグにデビューした「4月15日」を「ジャッキー・ロビンソンの日」として制定し、その日はグラウンドにいる全選手が背番号「42」を付けて試合を行う。当然42番は永久欠番だ。

米国生まれの黒人でさえ、このような状況であったことから、今では多数が活躍する日本人選手も、当初は相当苦労したものと思われる。パイオニア(開拓者)への敬意は米国でも日本でも重要だろう。

ちなみに、ロビンソン選手がメジャーリーグに登場した時の球団はブルックリン・ドジャース。当時はニューヨークに本拠地に置いていたが、その後、ロサンゼルスに移った球団だ。今のロサンゼルス・ドジャースは、NBAのスター選手であったマジック・ジョンソン氏らが名を連ねる投資グループの傘下にある。豊富な資金力を背景に、田中投手獲得に大きな関心を寄せているとされ、ニューヨーク・ヤンキースと並び移籍先の有力候補だ。

時代の変化とともに、何か歴史の輪廻を感じさせる話題である。

新聞・小説・テレビは冬の時代?

一方で、有力選手がどんどん米国へ旅立ったせいか、近年、プロ野球のナイター放送は、日本シリーズやクライマックスシリーズを除くと、地上波での放送が大幅に減少しているようだ。

巨人戦の視聴率の低下の影響が大きいが、BSやCS、地方のローカルテレビ局での放送等はむしろ増加しているので、プロ野球のファン層が地元球団重視に変化している結果とも考えられる。また、日本人の娯楽や趣味が多様化、スポーツ界においてもプロ野球の地位が相対的に低下している表れとも言えそうだ。

但し、「ザ・ベストテン」に代表されるような歌番組がかつての隆盛を取り戻したとも言えない。時代劇も減った。映画もDVD等のレンタルビジネスの発達等でテレビ放映は減っている。お笑い・バラエティ番組も飽和状態であり、むしろ減少しつつある。

今、増えているテレビ番組は何か。

地上波で近年、増えているのは、クイズ番組とドラマのようだ。ドラマは連続ドラマというよりも、一話完結的なものが多い。10月スタートの秋ドラマの視聴率を見ても、視聴率上位の米倉涼子さん主演「ドクターX(〜)外科医・大門未知子」(テレビ朝日系列放送)や堺雅人さん主演の「リーガル・ハイ」(フジテレビ系列放送)は何れも、一話完結型だ。

秋ドラマは、番組数が近年では最高ペースでスタートしたが、視聴率は伸び悩むものが多い。

携帯電話やスマートフォン等の普及により、新聞や小説に加え、テレビも冬の時代に入ったと言えるかもしれない。一方で、若者らにおいては、流行に遅れたくないという心理も強くなっているとみられ、良い番組を作れば「半沢直樹」のような高視聴率が期待できるかもしれない。

秋の夜長、日本映画もじっくり見てみたい

なお、10・11月は、夏休み映画と年末・正月映画の狭間で、大作の公開は少ないが、日本映画に冴えたものが多い。

筆者のお薦めは「謝罪の王様」(水田伸生監督)と「人類資金」(阪本順治監督)。前者は構成・脚本が抜群だ。後者は金融・証券市場にも関連したストーリーであり、エンドロールまで席を立たずにご覧頂きたい。長期金利の行方が占えるかもしれない。「清須会議」(三谷幸喜監督)も三谷映画の良さが出ていた。「そして父になる」(是枝裕和監督)はハリウッドでリメイクされる予定だ。間もなく公開される「かぐや姫の物語」(高畑勲監督)も見てみたい作品だ。

外国映画では、日本公開は12月となるが「ゼロ・グラビティ」(アルフォンソ・キュアロン監督)が米国での評価が高く注目している。一方、12月6日に世界最速公開となる予定の「47RONIN」(カール・リンシュ監督)は、忠臣蔵をモチーフとしている。原作とは相当雰囲気が異なるようだが、製作費は1億7千万ドルの大作。主演は「マトリックス」のキアヌ・リーブスさん。真田広之さんや柴崎コウさん、浅野忠信さん、菊池凜子さん、赤西仁さんら日本人俳優も多数出演する。公開はやはり12月以外ないだろう。

「ウルヴァリン・SAMURAI」(ジェームズ・マンゴールド監督)同様、日本を舞台としたハリウッド映画が、世界でどの程度の興行成績をあげられるかにも注目したい。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。同投資戦略室長、大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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