アナリストの忙中閑話【第43回】

アナリストの忙中閑話

(2015年1月23日)

【第43回】安全保障問題で始まった2015年、アカデミー賞ノミネーションと今年の注目映画

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

2015年は安全保障問題で幕開け

前月号では、2015年は内外で安全保障問題が深刻化する可能性を指摘したが、不幸にも予測が的中したようだ。
年明け早々、フランスでは同時多発テロが発生した。1月11日には、テロの犠牲者を偲ぶとともに、「言論・表現の自由」を守るため、1944年8月のナチス・ドイツからのパリ解放以来となる300万人を超えるデモ行進がパリの中心部で行われた(フランス全土での参加者は370万人と過去最高規模との報道)。
一方、1月20日にはイスラム過激派組織「イスラム国」とみられるグループが日本人2人の殺害を予告したことを受け、日本政府も困難な課題に直面することとなっている。
日本人2人の人質の無事解放を祈りたいが、グローバル化と通信インフラの発達等で、今後も同様な事態が発生する可能性は否定できない。展開次第では、我が国の安全保障政策等にも影響を与えかねないと言えそうだ。
実際、米国では、「イスラム国」対応への米国民の不満がオバマ大統領の支持率を低下させ、昨年11月4日の中間選挙で、上下両院を共和党が支配する要因の一つともなった。1月6日に招集された第114議会における下院の共和党所属の議員数は1931年以来の多さとなり、戦後最大となっている。但し、共和党自体の支持率は戦後でも最低水準に近いレベルにあり、有権者が中間選挙で積極的に共和党を支持した結果とは言い難い。
この点は、昨年12月の衆院選で自民・公明の与党が3分の2超の議席を維持し、大勝した構図とも似ている点がある。
一方、フランスでは10%台に低迷していたオランド大統領の支持率が事件後50%近くに急上昇している。
構造改革推進の要因もあるが中国の成長率が鈍化するとともに、欧州で量的緩和が導入される等、国際経済の不透明感が強まっている。また、世界的に政治のポピュリズム的傾向が強まる中、内外ともに、世論がちょっとした外交問題や経済政策で大きく揺れ動く可能性には注意が必要だろう。

第87回アカデミー賞ノミネーション発表

1月15日、第87回アカデミー賞の候補(ノミネーション)が発表された。『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』と『グランド・ブダペスト・ホテル』が最多9部門でノミネートを果たし、『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』が8部門、『アメリカン・スナイパー』と『6才のボクが、大人になるまで。』が6部門でノミネートされた。
他の有名映画賞の受賞結果を勘案すると作品賞の最有力作品は『6才のボクが、大人になるまで』。対抗馬が『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』と『グランド・ブダペスト・ホテル』か。
日本勢では、長編アニメーション部門にスタジオジブリの高畑勲監督の『かぐや姫の物語』が、短編アニメ部門に堤大介氏が初監督を務めた『ダム・キーパー』がそろってノミネートされた。
昨年はやはりスタジオジブリの宮崎駿監督の『風立ちぬ』が長編アニメ部門にノミネートされたが、惜しくも『Frozen』に敗れた。但し、『Frozen』は邦題では『アナと雪の女王』として公開され、我が国で大ヒットし歴代3位の興収成績となったのはご存じの通り。今年は前月号でも特集した『Big Hero 6』、邦題『ベイマックス』がやや優勢かと思われるが、同作品は主人公が日本人でもあり、どちらが受賞しても楽しみだ。なお『ベイマックス』は国内の映画ランキングで1月18日まで3週連続で1位キープ中。
アカデミー賞の授賞式は、2月22日(現地時間)にロサンゼルスのドルビー・シアターで開催される。次号では、第87回アカデミー賞結果を速報予定。

2015年の注目映画

一方、2015年の映画の特徴は、往年の大ヒットの続編作品が盛り沢山なことと、近年の傾向でもあるが、アニメの実写版やテレビの映画版が多数公開される点だ。
前者は、現在公開中(日本)では、『96時間レクイエム』、『シン・シティ 復讐の女神』。6月には『ハンガー・ゲーム:モッキングジェイPart1』。7月には大作の『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』が公開される。前作は世界興行収入成績歴代第3位だった。7月にはアーノルド・シュワルツェネッガー氏主演の『ターミネーター:新起動ジェニシス』が新3部作で再開される。8月には『ジュラシック・ワールド』、『テッド2』、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(夏予定)と往年のヒット映画の続編が続く。11月には『007』シリーズ第24作『スペクター』、12月18日には『スター・ウォーズ』シリーズ第7作目となる『スター・ウォーズ フォースの覚醒』が公開される。舞台は『エピソード6』から30年後だ。ハリソン・フォード氏も既に72歳。昨年は『エクスペンダブルズ3』にアーノルド・シュワルツェネッガー氏(67歳)や『ロッキー』のシルベスター・スタローン氏(68歳)、『マッドマックス』のメル・ギブソン氏(59歳)らと出演、元気なところをみせていたが、さすがにアクションシーンはあまりなかった。今回はどういう役回りとなるのか注目したい。高齢化が進む我が国でも参考になりそうだ。

『エクソダス:神と王』

『エクソダス:神と王』
© 2014 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

なお、今月末日本公開となるリドリー・スコット監督の『エクソダス神と王』はエジプトに立ち向かったユダヤ教の預言者「モーゼ」の物語だが、過去にも『十戎』等で映画化されている。
邦画では10月に『図書館戦争』の続編も公開予定だ。
後者では、現在公開中だけでも『劇場版PSYCHO-PASS』、『映画ST赤と白の捜査ファイル』、『サン・オブ・ゴッド』、『アップルシード α』等枚挙に暇がない。今後、2月には『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN I 青い瞳のキャスバル』も公開される。
アニメの実写版では3月公開予定の『映画 暗殺教室』や4月公開の『寄生獣 完結編』、5月には既に実写版が7作も公開されているが『THE NEXT GENERATION パトレイバー首都決戦』の完結編も公開される。8月と9月には『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』の前編と後編も公開される(別途アニメの劇場版も公開)。
洋画では『ミュータント・タートルズ』が2月に、アカデミー賞にもノミネートされている『イントゥ・ザ・ウッズ』も3月に公開される。また『シンデレラ』の実写版が4月に公開され、『アナと雪の女王』の新作短編『エルサのサプライズ』も同時公開予定だ。
今年もディズニー映画が日本国内も席巻しそうな勢いである。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。同投資戦略室長、大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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