アナリストの忙中閑話【第45回】

アナリストの忙中閑話

(2015年3月24日)

【第45回】70年ぶりに戦艦武蔵発見、第二次世界大戦終結を2年早めた男の物語

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

フィリピンのシブヤン海で戦艦武蔵発見の報

第2次世界大戦終結から70年の節目となる今年、フィリピンのシブヤン海の海底で、旧日本海軍の戦艦とみられる船体が発見された。

米マイクロソフトの共同創業者で資産家のポール・アレン氏は3月3日、第2次世界大戦中に撃沈された日本の戦艦「武蔵」をフィリピン沖の海底で発見したと発表した。アレン氏が公表したビデオ画像等を見ると、武蔵でほぼ間違いないようだ。

武蔵は、戦艦「大和」の姉妹艦で、大和型の2番艦。当初、大和型は4隻建造される予定だったが、3番艦は空母「信濃」に改装され、4番艦は建造中止となったため、武蔵が旧日本海軍が建造した最後の戦艦となった。武蔵は、基準排水量65,000トン、満載排水量72,809トン、全長263m、全幅38.8m、主砲として46cm砲を3連装3基9門擁し、大和と並び当時、世界最大の戦艦だった。

武蔵は1944年10月のレイテ沖海戦で、米軍の攻撃で撃沈されたが、約70年間、その所在は不明だった。大和も1945年4月、坊ノ岬沖で撃沈されたが、沈没地点は水深345mと比較的浅かったこともあり1985年に海底探査で発見された。今回は、水深1,000mとされる。アレン氏は武蔵の一部だけでも引き揚げ、日本に帰したい意向とされる。今後の調査や回収作業には多くの困難が予想されるが、技術進歩による進展を期待したい。

第2次世界大戦の終結を2年早めた男の物語

『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』

『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』
(C)2014 BBP IMITATION, LLC

第2次世界大戦は、人類史上最大の戦争だ。期間こそ、1939年9月から1945年9月と約6年に過ぎないが、死者は連合国と枢軸国合わせ、軍人が約2,500万人、民間人は4,000万人近くに及ぶとの見方もある。

ただ、ある人物の活躍がなければ、大戦はあと2年は継続し、戦死者も1千万人以上増えたとする映画が現在公開されている。

『第87回アカデミー賞』で脚色賞を受賞した『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』だ。脚本はグレアム・ムーア氏。原作はアンドリュー・ホッジス著の「エニグマ アラン・チューリング伝』。

最近では、コンピュータは携帯電話を始め、我々の身近な物となっているが、「チューリング・マシン」の名を残し「コンピュータの父」と評されるアラン・チューリングのほぼ生涯を描いた実話だ。

第2次世界大戦当時、ドイツ軍は「エニグマ」と呼ばれる高度な電気機械式暗号機を軍の主要な通信手段として使用していた。ドイツ空軍の英国本土爆撃やUボートによる輸送船への攻撃により、兵站や食料・エネルギーの輸入に支障を生じ、戦争遂行が危ぶまれていた英国は、ケンブリッジ大学の若き天才数学者、チューリング(俳優はベネディクト・カンバーバッチさん)に、暗号解読を託した。協調性に欠く彼の性格も災いし、暗号解読は遅々として進まないが、仲間の協力とチューリング・マシンの完成で遂にエニグマは解読される。但し、チューリングの進言もあり、英国政府はエニグマの解読を最高機密とし、ドイツ軍は終戦までエニグマを使用し続けることとなる。

その結果、スターリングラードの戦いやノルマンディー上陸作戦等、第2次世界大戦の帰趨を決めた主要な戦いは連合国の勝利に終わり、大戦の終結を早めたとされる。

多様性を尊重することの重要性

チューリングの活躍だけで連合国が勝利したとは思わないが、大戦で連合国が最終的に枢軸国を下した要因の一つに、多様性を尊重したことがあることは否定できないだろう。第2次世界大戦中、米国はナチスドイツ等に追われた亡命者らを世界中から受入れ、多くの技術革新等を生んだ。その中には、将来人類を滅亡させることになるかもしれない核兵器も含まれるが、多様性を認め、その才能を支援する文化が戦後の米国等の繁栄を支え、今なお、超大国であり続けている原動力であることは間違いないだろう。

但し、人と違っていることは、他人からの警戒や攻撃を受けやすいのも事実。チューリングが成功を収めることができたのも、当時のイギリス首相チャーチルが彼の直訴に応じ、予算と権限を与えたことが大きい。イノベーションには、リーダーの役割も重要と言えそうだ。

実は、同じような趣旨の映画が現在もう一本公開されている。

やはり、今年のアカデミー賞を受賞した『博士と彼女のセオリー』だ。著名な宇宙物理学者スティーブン・ホーキング博士の半生を描いた作品で、ホーキング博士を演じたエディ・レッドメインさんは主演男優賞を受賞した。

ホーキング氏は「車椅子の物理学者」としても有名。20歳の若さでALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症し、余命2年と宣告されるが、73歳の現在でも存命だ。ただ、この映画を見るまで、ホーキング氏に3人のお子さんがいることは知らなかった。

チューリング氏同様、ホーキング氏もその家庭生活はあまり語られなかったが、映画では愛情と苦悩の日々も描かれている。

この2作品、よく似ていると思ったのは、いくら天才と言っても一人だけでは業績を残せないということもあるが、両者とも英国のケンブリッジ大学で教べんを執った経験があるということからかもしれない。オックスフォードから追われた教授や学生が作った町であるケンブリッジには元より多様性を尊重する気風が備わっているのかもしれない。

最近の国際社会では、多様性よりも、原理主義や民族主義が幅を利かせつつあるのが現実

ただ、最近の国際社会では、多様性よりも、原理主義や民族主義が幅を利かせつつあるのが現実だ。

クリミア併合から約1年となる今月15日に放送されたロシア国営テレビの番組の中で、ロシアのプーチン大統領は、昨年、ウクライナから同自治共和国を併合した際、核兵器の使用を準備したことを明らかにしている。

米ロ(当時はソ連)が核兵器の使用を準備した最後のタイミングは、キューバ危機前後と理解していた筆者にはショッキングな話であったが、ウクライナと近接している欧州では事態はより深刻かもしれない。

WEFのグローバルリスクレポート2015で、初めて地政学的リスクが最大のリスクに

ダボス会議で有名な世界経済フォーラム(WEF)は毎年1月にグローバルリスクレポートを公表しているが、2015年版では、今後10年間の世界の安定への最大の脅威は、「地域に重要な結果をもたらす国家紛争」と地政学的リスクが挙げられた。発生可能性の高い上位5のグローバルリスクに「地政学的リスク」は第1位と第3位(国家統治の失敗)、第4位(国家の崩壊または危機)と3つが入った。発生可能性の高いグローバルリスク第2位には「異常気象事象」が入った。

また、影響がある上位5のグローバルリスクは、第1位が「水危機」、第2位が「感染性疾患の迅速かつ広範囲にわたる蔓延」、第3位に「大量破壊兵器」、第4位に「地域に重要な結果をもたらす国家紛争」、第5位に「気候変動への適応失敗」となり、やはり「地政学的リスク」が第3位と第4位を占めた。

グローバルリスクレポートは約900人の専門家によるアンケート調査によって作成されているが、過去5年間の主要リスクに「地政学的リスク」は一度も挙げられておらず、2014年以降のウクライナ情勢や中東情勢の緊迫化が、「地政学的リスク」への意識を高めたものと考えられる。

終末時計が2分進められ、冷戦期以来の残り3分に

「地政学的リスク」の拡大は、他の指標にも見てとれる。

米核問題専門誌BAS(Bulletin of the Atomic Scientists)が発表しているいわゆる「終末時計(Doomsday Clock)」が1月22日に3年ぶりに2分進められ、ミッドナイトまであと3分となった。

核軍縮の停滞と地球温暖化が主な要因。人類滅亡までの残り時間が3分となったのは、冷戦期の1984年以来。1988年に残り6分に戻された。過去最も終末に近かったのは1953年の残り2分前。

最も残り時間が長くなったのは1991年の17分だが、当時は1989年11月にベルリンの壁が崩壊し、1991年に旧ソ連が解体される最中であり、冷戦体制の崩壊が核戦争等の脅威を大きく低減させたものと想定される。

但し、1991年には湾岸戦争が勃発、90年代にはユーゴスラビアで様々な内戦が勃発、2003年にはイラク戦争と、国際紛争はむしろ拡散しつつある。特に、今回は、P5(国連安保理常任理事国)の一角であるロシアが当事者となった紛争がウクライナで発生したことで、旧ソ連圏諸国を含め欧州での懸念が強まったものとみられる。

前述の武蔵の発見は、こうした国際情勢への警告のようにも思われる。

現実化しそうなところが怖い映画

『ソロモンの偽証 前篇・事件』

『ソロモンの偽証 前篇・事件』
©2015「ソロモンの偽証」製作委員会

話を映画に戻すと、今月観た邦画で印象に残ったのは、宮部みゆきさん原作の『ソロモンの偽証』。

ミステリー作品のため、ストーリーにはふれないが、前月号でご紹介した『アメリカン・スナイパー』同様、ある意味怖いが引き込まれる作品だ。『アメリカン・スナイパー』は実話だが、『ソロモンの偽証』も最近の社会情勢等を勘案すると、現実に起こりそうなところが怖い。

東京ではスギ花粉の飛散量は昨年の倍以上に、花粉症には映画鑑賞がお薦めか

今年、スギ花粉等の飛散は、関東では昨年の2〜10倍に達するとの見方もある。昨年少なかった反動もあるが、朝の天気予報否、花粉予報でも、なぜか、ほぼ毎日、東京都だけは「非常に多い」という真っ赤な表示が続いている。

花粉症の原因には、戦後の植林政策の失敗、大気汚染、道路の舗装率向上等都市化、食生活の変化、複合アレルギー要因等様々な原因が指摘されているが、最近は、PM2.5や黄砂等も増えており、筆者の予想では花粉症患者は今後も増加が続く可能性が高い。アレルギー反応は、コップから水があふれるようにある日突然襲ってくる。今春は、花粉症デビューする人が東京で増えそうだ。

筆者同様、花粉症に苦しむ読者にとっては、この時期は、「花見」ではなく「映画鑑賞」がお薦めか。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。同投資戦略室長、大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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