アナリストの忙中閑話【第55回】

アナリストの忙中閑話

(2016年1月22日)

【第55回】申が大騒ぎして始まった2016年、中国・地政学的リスク台頭と原油安で日経平均株価は2014年10月以来の水準に下落後急反発、第88回アカデミー賞ノミネーション

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

申(さる)が大騒ぎして始まった2016年、日経平均株価は戦後発の年初来6営業日連続安、2014年10月以来の安値水準に、その後急反発

前月号の「【第54回】『スター・ウォーズ』新3部作第一弾が世界同時公開、歴史の節目に見たい邦画、2016年の干支は「丙申」、申酉騒ぐ?」で特集したが、2016年の干支は「丙申(ひのえさる)」。兜町の相場格言では「申酉(さるとり)騒ぐ」とされ、相場変動が激しい年とされるが、格言通り(?)、2016年の年明けは世界同時株安と円高等、急激な相場変動でスタートした。日経平均株価が年初来6営業日連続で下落したのは、1950年9月に指数の算出を始めて以来初めて。その後も軟調推移となり、1月21日には16,017円と2014年10月30日以来の安値で引けた。その翌日、2014年10月31日は日銀の追加緩和とGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)による運用見直しが発表され日経平均株価が前日比で755円上昇した日であり、二つの政策効果が1年3カ月で剥落したことになる。22日には日経平均株価は追加緩和期待から前日比941円高と大幅反発したが、変動率の高い展開は今後も続きそうだ。

中国リスク及び地政学的リスクの台頭に加え、原油安が世界同時株安を招いた

年初から中国株の急落等中国リスクに加え、サウジアラビアとイランの関係悪化、北朝鮮の核実験といった地政学的リスクも台頭した。中国等新興国の為替・株式市場の混乱の背景には米国の金融政策の影響も大きい。米国は2015年12月16日に9年半ぶり、利上げ転換では11年半ぶりの利上げに踏み切ったが、過去の利上げ局面と異なり、欧州や日本は金融緩和を強化中で米国に資金が回帰し易い環境にある。結果、資源安も相俟って、ドル・ペッグ国の負担が大きくなっている。原油相場はWTI先物及び北海ブレント先物ともに、1バレル30ドルの大台を下回り2003年以来の安値水準に下落(WTI先物は一時1バレル26ドル台に下落)した。原油安は、中国等新興国の景気減速や米利上げ・ドル高等の影響も大きいが、米国のシェール革命と40年ぶりの原油輸出解禁、米戦略備蓄放出、OPECの価格調整能力の低下、イラン産原油の市場復帰といった構造変化も見逃せない。

今年は政治リスクや気候変動リスク、経済リスクも意識される可能性

今後のスケジュールを勘案しても、我が国では7月(10日か24日が有力)に参院選、米国では11月8日に大統領選と議会選が予定されており、株安やテロの発生が続けば、今年は政治リスクも意識されそうだ。

また、世界的な暖冬をもたらしたスーパー・エルニーニョ現象は2015年末にピークアウトしたが、年央以降は、スーパー・ラニーニャ現象が発生する可能性もある。気候変動面でも、2016年から2017年は慌ただしい展開となりそうだ。

「WEF(世界経済フォーラム)が1月に公表した「グローバルリスクレポート2016」では、発生可能性の高いリスク第1位が難民等の「大規模な非自発的移動」、最も影響のあるリスクの第1位は「気候変動の緩和・適応の失敗」となったが、2016年は地政学的リスクや政治リスク、新興国等経済リスクも無視できないと言えそうだ。

株式相場と違って、異次元緩和下にある本邦債券相場は、歴史的な超低金利、低ボラティリティの状況が続こうが、申年生まれの黒田日銀総裁が追加緩和に踏み切れば、出口政策は益々困難となりそうだ。長期金利は年明けの1月14日には一時0.190%と過去最低を更新した。

好調な映画興行、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』は世界歴代興収ランキングで第3位、米国内では第1位に

金融市場の混乱とは裏腹に、映画興行が好調だ。12月号で取り上げた『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(原題:Star Wars: The Force Awakens)は既に、世界歴代興収ランキングで第3位(1月21日現在、Box Office Mojo調べ)となり、『ジュラシック・ワールド』を抜いて2015年公開映画で1位となった。全米のみの興収では、既に『アバター』、『タイタニック』を抜いて、歴代1位となっており、世界興収ランキングでも1位に浮上するかが焦点。なお、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』は基本的に全世界で2015年12月に公開されているが、中国は米映画の年間公開枠を消化しきっていた関係で2016年1月公開となった。中国でも公開後、大ヒットしているが、最初の3部作は中国では文化大革命直後で、公開されていないため、同シリーズの知名度が中国では低いのも事実。ディズニーは今年6月、上海で世界6カ所目となるディズニーランドをオープンすることもあり、宣伝に力を入れている。

参考:【第35回】GW映画は「アナと雪の女王」が圧勝、成熟国としてのビジネスモデル

最終的に歴代世界興収1位に上り詰めることができるかどうかは中国次第の面もあり、注目が集まりそうだ。

ちなみに今月、中国一の富豪である王健林氏が率いる大連万達集団は、米映画会社レジェンダリー・エンターテインメントの過半数の株式を35億ドルで買収することで合意したが、背景に中国国内で上映される外国映画枠の問題もあったとされる。レジェンダリーは、『ジュラシック・ワールド』、『ダークナイト』、『GODZILLAゴジラ』、『パシフィック・リム』、『インターステラー』などの製作に加わったハリウッドの映画製作会社。レジェンダリーは2014年には、ソフトバンクグループから2億5,000万ドルの出資を受け入れた(ブルームバーグ)。

第88回アカデミー賞ノミネーション

米映画芸術科学アカデミーは1月14日、第88回アカデミー賞のノミネート作品を発表した。

レオナルド・ディカプリオさん主演の『レヴェナント:蘇えりし者』(日本公開4月22日)が最多12部門でノミネートされた。作品賞をはじめ、監督賞にアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥさん、主演男優賞にディカプリオさん、助演男優賞にトム・ハーディさん、他に撮影賞、編集賞、美術賞、衣装デザイン賞、メイキャップ&ヘアスタイリング賞、視覚効果賞、録音賞、音響編集賞と主要賞の大半でノミネートされた。監督のイニャリトゥさんは昨年は『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』で作品賞、監督賞、脚本賞を受賞しており、2年連続の受賞となるか注目される。また、ディカプリオさんがアカデミー賞にノミネートされるのは今回で5度目となるが、過去受賞はなく、初めてオスカーに輝くかどうかにも関心が集まっている。2014年は本コラムで特集した『ウルフ・オブ・ウォールストリート』でやはり、主演男優賞にノミネートされたが惜しくも受賞を逃した。但し、筆者の予感では今年は可能性が高そうだ。というのも、アカデミー賞の前哨戦と言われる第73回ゴールデン・グローブ賞(GG賞)で、『レヴェナント:蘇えりし者』は監督賞に加え、ドラマ部門の作品賞と主演男優賞の3冠を達成。主演男優賞はディカプリオさんが受賞しているからだ。

続く10部門にノミネートされたのは、昨年、本コラムでも取り上げたジョージ・ミラー監督の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』。作品賞、監督賞、撮影賞、編集賞、美術賞、衣装デザイン賞、メイキャップ&ヘアスタイリング賞、視覚効果賞、録音賞、音響効果賞の候補となった。

GG賞では『レヴェナント:蘇えりし者』と『オデッセイ』、レオナルド・ディカプリオさんとマット・デイモンさんが対峙したが、アカデミー賞は?

『オデッセイ』

『オデッセイ』
2016年2月5日
スカラ座他全国ロードショー
© 2015 Twentieth Century Fox Film

マット・デイモンさん主演の『オデッセイ』(原題:The Martian、日本公開2月5日)も作品賞、主演男優賞、脚色賞、美術賞、視覚効果賞、録音賞、音響効果賞の7部門にノミネートされた。GG賞では、コメディ/ミュージカル部門で、『オデッセイ』は作品賞を、同主演男優賞はデイモンさんが受賞しており、ドラマ部門の『レヴェナント:蘇えりし者』とディカプリオさんに対峙する形となった。

1944年にスタートしたGG賞の審査員は、ハリウッド在住のハリウッド外国人映画記者協会に所属する会員約100人であるのに対し、1929年からスタートしたアカデミー賞は、米映画芸術科学アカデミーに所属する会員約6,000人の投票によって選ばれることから、これまで、GG賞は国際的でエンターテイメント性に溢れる作品が受賞しているのに対し、アカデミー賞は米国内の歴史や世相を反映した作品が受賞しているケースが多い。

そういう意味では、米西部開拓時代の実話に基づく『レヴェナント:蘇えりし者』が有利かもしれない。また、作品賞ノミネート作品では、『ブリッジ・オブ・スパイ』(日本公開中)や『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(同3月4日)、『スポットライト 世紀のスクープ』(同4月)も米国を舞台とした実話を題材としており、穴馬か。

このうち、『ブリッジ・オブ・スパイ』はスティーブン・スピルバーグ監督で、トム・ハンクスさん主演。一見スパイ映画と思いきや、原題は『Bridge of Spies』となっており、「スパイ達の架け橋」的な意味となる。アカデミー賞では6部門でノミネートされた。冷戦下の1960年、米軍の高高度偵察機U2がソ連領空でS-75地対空ミサイルにより撃墜され、パイロットがソ連に拘束され公開裁判にかけられた。その後、米ソがスパイの交換を行ったという実話に基づくストーリー。但し、交換は実は1対1でなかったことが同映画で明かされる。

やはり6部門にノミネートされた『キャロル』(同2月11日)からは、ケイト・ブランシェットさんが主演女優賞、ルーニー・マーラさんが助演女優賞にノミネートされた。

『スポットライト 世紀のスクープ』も6部門でノミネート。

前述の『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』も、編集賞、視覚効果賞、録音賞、音響効果賞、作曲賞の5部門でノミネートされた。

11月号「【第53回】パリで同時多発テロ、オランド大統領は非常事態宣言を発令、「007シリーズ」の新作がまもなく公開」で特集した『007 スペクター』はサム・スミスさんが歌う主題歌「ライティングズ・オン・ザ・ウォール」が歌曲賞にノミネートされた。同曲はGG賞で主題歌賞を受賞しており、アカデミー賞への期待が高まる。

作品賞は前述の『レヴェナント:蘇えりし者』、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』、『オデッセイ』、『ブリッジ・オブ・スパイ』、『マネー・ショート 華麗なる大逆転』、『スポットライト 世紀のスクープ』に加え、『ブルックリン』(日本公開7月)、『ルーム』(同4月8日)の計8作品が候補に選ばれた。

主演男優賞はディカプリオさん、デイモンさんに加え、『スティーブ・ジョブズ』(同2月12日)のマイケル・ファスベンダーさん、『リリーのすべて』(同3月18日)のエディ・レッドメインさんらが、主演女優賞にはブランシェットさんに加え、『JOY』のジェニファー・ローレンスさん、『さざなみ』(同4月)のシャーロット・ランプリングさん、『ブルックリン』のシアーシャ・ローナンさんら各5人が選ばれた。

『ブリッジ・オブ・スパイ』

『ブリッジ・オブ・スパイ』
2016年1月8日
スカラ座他全国ロードショー
© 2015 DREAMWORKS II DISTRIBUTION CO., LLC and TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION.

助演男優賞は『マネー・ショート』のクリスチャン・ベールさんや『クリード チャンプを継ぐ男』(同公開中)のシルベスター・スタローンさんらが選出された。

『クリード』は正月休みに筆者も視聴したが、往年の『ロッキー』ファンにはたまらない泣ける作品に仕上がっていた。シルベスター・スタローンさんはGG賞でも助演男優賞を受賞。

『思い出のマーニー』が長編アニメーション賞にノミネート、スタジオジブリ作品のノミネートは3年連続、5回目、受賞すれば13年ぶりの快挙

泣けると言えば、本コラムでも紹介した米林宏昌監督のスタジオジブリ作品『思い出のマーニー』が長編アニメーション賞にノミネートされた。スタジオジブリ作品のノミネートは、2014年の『風立ちぬ』、2015年の『かぐや姫の物語』に続いて3年連続、5作品目。受賞となれば 2003年の『千と千尋の神隠し』以来、13年ぶりの快挙となる。GG賞を受賞した強敵、ディズニー/ピクサー作品の『インサイド・ヘッド』(原題:Inside Out)もノミネートされているが「クールジャパン」を世界に示すためにも、是非受賞を期待したい。

なお、アカデミー賞の選考方法は次回から大幅に変更となる可能性がある。今回ノミネートされた男優及び女優計20名が2年連続で全員白人だったことで、批判が高まったため。

アカデミー賞授賞式は2月28日(現地時間、日本時間29日)。次号で、結果を特集予定。

2016年の注目映画、日米ともに、コミックの実写化作品が多数公開

アカデミー賞ノミネート作品以外で、2016年に日本で公開される作品で筆者が注目している作品は以下の通り。

近年の特徴として、映画製作費の高騰に伴う興行リスク低減等のため、コミックの実写版や後日譚、前日譚、外伝、スピンオフ、リブート作品等が多いのは今年も同様。

洋画では3月25日に、DCコミックスの2大ヒーローの対決を描く『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』(原題:BATMAN V SUPERMAN: DAWN OF JUSTICE、ザック・スナイダー監督)の公開が予定されている。

DCコミックス原作では『スーサイド・スクワッド』も実写版が夏に公開される予定。ぶっ飛んだキャラクターの悪役オールスターチームの活躍を描く物語。日本ではややなじみが薄いが、ウィル・スミスさん等人気俳優も出演するためブレークの可能性も。

一方、『アベンジャーズ』シリーズの続編とも言える『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』は4月29日に日本公開となる予定。5月6日の全米公開に先駆けての劇場公開。同作品には、原作では「アベンジャーズ」の一員でありながら、映画化権の関係で登場していなかったスパイダーマンも、今回、ソニー・ピクチャーズとマーベルが提携した関係で、登場する模様。

『アベンジャーズ』同様、マーベル・コミック原作では『X-MEN:アポカリプス』も夏公開予定。こちらは20世紀フォックス配給。X-MENの一員の『デッドプール』も20世紀フォックスにより夏公開予定。

また、『インデペンデンス・デイ』から20年後を描く『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』も夏頃に公開される予定だ。

『アリス・イン・ワンダーランド』の新作『時間の旅』も7月公開予定。『スター・トレック』シリーズ新作『スター・トレック ビヨンド』も夏公開予定。

人気ゲーム「Warcraft」シリーズを実写化した『ウォークラフト』も年内公開予定。

ハリー・ポッターたちが魔法学校で使っていた教科書を編纂した魔法使いが主人公の物語『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』は冬に公開される予定。

12月には、『スター・ウォーズ』シリーズのスピンオフ作品である『Rogue One:A Star Wars Story』も公開される。

アニメでは、『アーロと少年』が3月12日に、日本でも大ヒットした『ファインディング・ニモ』の続編、『ファインディング・ドリー』が7月に公開。何れもディズニー/ピクサー作品。ディズニーの『ズートピア』は4月に公開される。

今年はディズニーの人気アニメ『ジャングル・ブック』の実写版も8月に公開予定だ。

なお、ディズニーは1月20日、『スター・ウォーズ』シリーズの次回作『エピソード8』(タイトル未定)の公開が2017年12月15日になると発表した。当初は2017年5月の公開が予定されていた。2017年12月には『アバター2』の公開も予定されている。

邦画では、今年もアニメが台風の目か。『妖怪ウォッチ』が『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』を公開第1週に観客動員数で抜いたことには驚いたが、今年は『ワンピース』の新作『ONE PIECE FILM GOLD』が7月に公開される。8月公開の『君の名は。』や『ルドルフとイッパイアッテナ』にも注目したい。

累計発行部数1400万部を超える大人気コミックを広瀬すずさん主演で実写化した『ちはやふる−上の句−』は3月19日公開予定(2部作)。やはり人気コミックを実写化した『テラフォーマーズ』は4月29日に公開予定。

『ゴジラ』シリーズ第29作目となる庵野秀明総監督・脚本の『シン・ゴジラ』(英題: GODZILLA Resurgence)は7月29日公開予定。

今年のNHKの大河ドラマは「真田丸」だが、映画『真田十勇士』は9月に公開予定。

本コラムでは今年も注目の映画と国際情勢を特集しますので、引き続きよろしくお願い申し上げます。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。同投資戦略室長、大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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