アナリストの忙中閑話【第63回】

アナリストの忙中閑話

(2016年8月18日)

【第63回】リオ五輪でお家芸復活、東京五輪を後世に残る遺産・伝説へ、ジャングルの物語と王者

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

リオデジャネイロ夏季オリンピックが開幕

8月5日にリオデジャネイロ夏季オリンピックが開幕した。8月21日までの17日間、サンバやカーニバルで有名な当地で熱戦が繰り広げられる。

南米大陸初の開催となったリオ五輪はインフラ整備の遅れ、ジカ熱・治安問題に加え、開催国ブラジルのルセフ大統領が職務停止となり、ロシアの組織的なドーピング疑惑が浮上するなど、過去に例がないほど問題山積みだった。無事開催できるか懸念されていたが、どうにか大会自体は予定通り進行されているようだ。但し、メディア関係者のバスが投石で襲撃されたほか、金メダルを獲得した米競泳選手が祝勝会後に強盗に遭ったり、ダイビング競技用プールでは突然、水が緑色に変色、馬術センター近くで発砲があったりと、異常・異例な状態は継続しそうだ。

柔道・水泳・体操のお家芸復活、東京五輪に向けては広い裾野、若い力も重要

今回、日本選手団は、既に金10、銀5、銅18の計33個(8月17日現地時間)とロンドンオリンピック(金7、銀14、銅17の計38)を金メダル数で上回り、総数でも近い数のメダルを獲得しているが、特に目立ったのは柔道、水泳、体操といったお家芸の復活だ。柔道は金3、銀1、銅8の計12個と過去最高の数を獲得、前回のロンドンオリンピックでは金1、銀3、銅3の計7個にとどまったが、今回は発祥国として雪辱を果たした。

また、競泳400m個人メドレーでは、萩野公介選手が金、瀬戸大也選手が銅を獲得した。筆者も40年以上水泳をたしなんでいるが、個メ(コンメ)で大会に出たことはない。まして、「水の王者」とも言える400m個メで日本人選手が2人も表彰台に上がるとは隔世の感がある。日本選手が同時に表彰台に上がったのは1956年メルボルン大会の200m平泳ぎ(1位古川勝、2位吉村昌弘)以来60年ぶり。競泳は今回金2、銀2、銅3の計7個のメダルを獲得(ロンドン五輪は金0、銀3、銅8の計11個)。

また、体操ニッポンの復活も特筆できるだろう。男子体操団体で2004年アテネ大会以来12年ぶりに金メダルを獲得、金2、銀0、銅1の計3個となった(ロンドン五輪は金1、銀2、銅0の計3個)。

JOC(日本オリンピック委員会)がリオ大会に向けて掲げた「メダル30個以上」の目標は既に達成したが、「金メダル14個」はやや厳しい。本来、金メダル獲得の実力のある柔道や競泳、体操等で確実に獲得することが必要だが、今回は団体戦と比べ、個人戦でややミスが目立つ結果となった。東京五輪への課題と言えそうだ。とは言っても、柔道等で金メダルを独占したのでは、かつて、長野五輪後、スキージャンプでルール変更が行われたように、種目・階級数の減少等に繋がる恐れもあり、視野を拡大することも必要だろう。東京五輪に向けては、地の利を生かし、新しい種目等で、メダルを確保するなど、開催国のメリットを活用することが肝要か。なお、東京五輪では、「野球・ソフトボール」「空手」「サーフィン」「スケートボード」「スポーツクライミング」の5競技18種目が追加されることとなった。

何れにせよ、長期的には、各種目でスポーツ人口を増やし、裾野を広げることで、「富士山」のように頂上を高くすることが持続可能性の面でも重要だろう。また、才能溢れる若い力を発掘することも必要だ。但し、あくまでドーピングではなく、自発的なスポーツ振興こそが、スポーツ立国の実現のみならず、国民の健康寿命を延ばすことで、我が国の人口・経済・財政の「アンチ・エイジング(抗老化、若返り)」にも資すると考えられる。

ジャングルの物語とジャングルの王者

体操ニッポンの活躍に触発されたこともあり、本号では関連した(?)映画を取りあげたい。

オリンピック体操種目で、金メダルを取れそうな小説のキャラクターと言えば、『ジャングル・ブック』に登場する少年「モーグリ」か、「ターザン」だろう。「モーグリ」が狼と黒豹に育てられたのに対し、「ターザン」は、ゴリラに育てられたことから、鉄棒やつり輪などは「ターザン」の方が高得点を弾き出すかもしれない。 『ジャングル・ブック』(原題『The Jungle Book(2016)』)も『ターザン:REBORN』(原題『The Legend of Tarzan』)も現在、日本公開中だが、どちらも、夏休みの家族向け作品としてお薦めだ。

前月号では今年の夏休み映画の特徴として「アニメが熱い」と紹介したが、『ジャングル・ブック』は主人公のモーグリを除き基本的に全編CG(コンピュータ・グラフィック)作品。インドのジャングルも登場する動物も全てCGであり、基本的にスタジオで撮影されている。

1967年公開のアニメ映画『ジャングル・ブック』は英国人のノーベル文学賞受賞作家ラドヤード・キップリングの同名の小説が原作だが、ウォルト・ディズニーの遺作でもある。1967年公開の同作品には一部で人種差別的との批判もなされたが、半世紀の時を経て今年公開された作品は、かつて見たこともない映像表現を駆使し、家族愛・友情に溢れた作品に仕上がっていた。一見、実写と見間違うが、視点を移動しながら季節の変化を映し出すなど、実写では撮影不可能なシーン等も登場する。

既に、『ジャングル・ブック』は、2016年の世界興収で『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』、『ズートピア』に次いで第3位(8月18日現在Box Officem Mojo調べ)となっているが、僅差のため日本等での公開でトップに浮上する可能性もありそうだ。

『ターザン:REBORN』

『ターザン:REBORN』
7月30日(土)公開
丸の内ピカデリー 新宿ピカデリー他2D/3D全国ロードショー
ワーナー・ブラザース映画
© 2016 Edgar Rice Burroughs, Inc. and Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

一方、『ターザン:REBORN』は米国人作家エドガー・ライス・バローズの小説が原作だが、筆者の年代では「アーア・アー」の雄叫びが印象的なロン・エリー主演のTVシリーズの映像が頭の片隅に残っている方が多いのではないか。

ターザンの本名はグレイストーク卿ジョン・クレイトンで、英国の貴族の嫡男だが、ある事件により、西アフリカで生まれゴリラに育てられることになる。その後、妻となるジェーンと出会ったことで、出生の秘密も解明され、英国に戻り貴族として暮らすのだが、本作では陰謀に巻き込まれ、故郷のコンゴに戻ることとなる。過去のターザン作品と異なるのは、物語の背景として欧米列強の植民地主義等が描かれていることに加え、米南北戦争時の軍人でアフリカ歴史作家のジョージ・ワシントン・ウィリアムズ等歴史上の人物が登場することだ。

また、ターザンの妻のジェーンが好奇心旺盛で自ら考え行動する女性として描かれていることも「女性活躍」の時代らしい。ちなみにジェーン役のマーゴット・ロビーさんは、現在、米国で2週連続週末興行成績ナンバー1となった『スーサイド・スクワッド』では、元精神科医でありながら、自分自身の頭がいかれているぶっ飛んだキャラクターのハーレイ・クインを演じている。

ターザンは「ジャングルの王者」とも言われるが、リオ五輪で陸上100メートルで3連覇に輝いたウサイン・ボルトさんは「トラックの王者」もっと言えば「陸の王者」の風格があった。余談だが筆者がかつて購読していたマンガに「ジャングルの王者ターちゃん」というのがあった。

マーベル・コミックのキャラクターがハリウッド映画に大量に出現するさきがけとなった映画が公開

一方、こんな選手が登場すれば、ボルトさんでも形無しというのが、『X-MEN:アポカリプス』には多数登場する。代表格が高速移動が可能なクイックシルバーことピーター・マキシモフ。

『X-MEN: アポカリプス』

『X-MEN: アポカリプス』
2016年8月11日
© 2016 MARVEL & Subs. © 2016 Twentieth Century Fox

本作品は、マーベル・コミックのスーパーヒーローチーム「X-MEN」シリーズの第6弾(スピンオフ作品除く)で、2011年公開の『X-MEN: ファースト・ジェネレーション』及び2014年公開の『X-MEN: フューチャー&パスト』に連なる3部作最後の作品。主要な舞台は米レーガン政権期の1983年で、「ウルヴァリン」の登場等、2000年公開の初作の『X-MEN』に橋渡す位置づけとなっている。

ちなみに、『X-MEN』の成功により、2002年には『スパイダーマン』が公開され大ヒット。結果、「アイアンマン」、「ハルク」、「キャプテン・アメリカ」、「マイティ・ソー」、加えて「アベンジャーズ」シリーズ等、マーベル・コミックの実写作品の大量製作・公開に繋がることとなった。本年11月にはベネディクト・カンバーバッチさん主演の実写版『ドクター・ストレンジ』も公開予定(日本公開2017年1月予定)。

なお、「アベンジャーズ」シリーズはディズニーが手掛けているが、「X-MEN」シリーズはディズニーがマーベルを買収する前に、映画化権を購入していた20世紀フォックスが製作・配給している。

『X-MEN:アポカリプス』は『X-MEN』シリーズの完結編ないし集大成と謳われているがエンドロール等を見ると、続編がありそうな予感も。将来的には、ディズニーと提携して、ソニー・ピクチャーズが映画化権を持つ「スパイダーマン」のように、「アベンジャーズ」シリーズ等に登場する可能性もありそうだ。ちなみに原作の「アベンジャーズ」では、ウルヴァリンもメンバー。

2020年7月には、東京で1964年以来56年ぶり2回目の夏季五輪が開催される

2020年の7月24日から8月9日には、東京で1964年以来56年ぶり2回目の夏季五輪が開催される。1972年札幌、1998年長野の冬季五輪を含めれば、日本で4回目の五輪開催となる。

今回のリオ五輪は、前述のように、2009年10月の誘致決定時の熱気はどこへいったのかと思われるほど、問題含みとなっている。

21日の閉会式には、次回の夏季五輪開催国の安倍首相と小池東京都知事が出席予定だが、開催国ブラジルのテメル大統領代行は開会式のブーイングに懲りたためか欠席の意向を示している。

現在、職務停止中のルセフ大統領は、五輪閉会後の今月末にも開廷予定の弾劾法廷で上院の3分の2が賛成すれば失職する。10日の上院の弾劾裁判実施を勧告した採決では議長を除く59人が賛成、反対の21人を上回った(定数81)ことから、ルセフ氏が失職する可能性は高い。失職後はテメル氏が2018年末までの任期を引き継ぐ見込み。

筆者が若い頃、「20世紀はブラジルの世紀」と言われていたが必ずしもそうはならなかった。21世紀に入り、BRICsともてはやされたが、資源価格急落後は政治や経済の混乱ばかりが目立っている。

2020年の東京五輪を1964年同様、良い意味で後世のレガシーやレジェンドとなるような大会に

一方、映像技術が進歩し、趣味や娯楽が多様化する中、欧米では、ライブでの観戦が主体のスポーツ番組における広告・宣伝価値が上昇している。

実際、ライブと録画ではワクワク・ドキドキ感は全く違う。今朝(日本時間8月18日)出社前に、レスリング女子58キロ級の決勝戦を観戦したが、伊調馨選手も終了4秒前までは筆者も今回は決勝で敗退かと半ば諦めていた。ところが土壇場で逆転、金メダルを獲得、五輪の全競技を通じて史上初の女子個人種目4連覇を達成したシーンは心臓には悪いが脳裏に焼き付いた。

今朝は、伊調選手に加え、登坂選手と土性選手も金メダルを獲得した。レスリングは今大会で男女合わせ、金3、銀1を獲得しているが、女子53キロ級の吉田沙保里選手にも伊調選手に続き女子2人目、男女合わせ6人目となる個人種目4連覇を期待したい。

このように、スポーツ番組はライブで視聴する観客が多いため、CM視聴率も高くなり、米国のスーパーボウルやFIFAワールドカップ、オリンピック等の放映権料が高騰している。他方、民放1社による独占放送による問題も各国で指摘されている。

また、施設整備費も高騰しているが、リオ五輪では、治安問題の影響か、国内での人気の低さのためか、稚拙なマーケティングの影響か、TV画像からもスタジアムに空席が目立つ。大会終了後、ブラジルオリンピック委員会が多額の赤字を抱えることとなれば、今後、誘致に二の足を踏む国が増えそうだ。

東京五輪の施設整備費も当初計画から膨張しているとの報道が多い。会場整備費と大会運営費の合計で3兆円規模に膨らむとの観測もある(当初計画では大会の総経費は7,300億円規模)。小池都知事は透明性を確保するとしているが、都民や国民が納得して、五輪を楽しめるように説明責任を果たしてもらいたい。

東京五輪後には、国内景気がピークアウトするとの見方も多い。ブラジルのような新興国でも、オリンピック開催前の2015年にはマイナス成長(▲3.8%)に落ち込んでおり、IMFの見通しでは今年もマイナス成長(▲3.3%)の見通しで、1930年代以来で最悪のリセッション(景気後退)局面となっている。背景には、原油価格の急落等資源価格の下落もあるが、2014年のFIFAワールドカップやオリンピック特需の反動もありそうだ。

我が国では東京五輪が開催される2020年には団塊世代が全て70歳代に到達、2025年には75歳以上の後期高齢者となる。前述の通り、アンチエイジング対策が重要なのは当然であり、東京五輪を「スポーツ立国」、「観光立国」実現のための起爆剤とすべきだが、一方で、東京五輪の開催費用やインフラが将来的に負の遺産とならないように、知恵を絞ることも重要だろう。

ボルトさんは今回のリオ五輪が最後の五輪となる可能性を表明しているが、相撲の横綱同様、「王者」には引き際も重要だ。五輪はスポーツ最大の祭典であり、スポーツ大会の「王者」でもある。

2020年の東京五輪も1964年同様、良い意味で後世のレガシー(遺産)やレジェンド(伝説)となるような大会に仕上げたいものだ。私自身も機会があれば微力ながらボランティア等で協力したいと思う。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。同投資戦略室長、大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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