アナリストの忙中閑話【第64回】
(2016年9月16日)
【第64回】スーパー台風に注意、「君の名は。」が大ヒット、「こち亀」が連載終了、日米で決死隊が活躍
金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙
スーパー台風14号が台湾、中国に大きな被害、26年ぶりの強さ
9月10日にフィリピンの東海上で発生した台風14号「ムーランティ」は14日には、中心の気圧が890 hPa(ヘクトパスカル)、中心付近の最大風速は60メートル、最大瞬間風速85メートルと猛烈な勢力に発達し、アメリカのJTWC(米軍合同台風警報センター)は「スーパー台風」になったと発表した。
気象庁によると、中心気圧が890 hPa以下にまで発達した台風は、統計を取り始めた1951年以降、今回を含めて21個しかなく、26年前の1990年の台風19号以来の強さとのこと。スーパー台風14号は、日本時間の15日午前4時すぎに中国の福建省アモイに上陸したあと、15日午後、熱帯低気圧に変わったが、台湾及び中国では家屋等に大きな被害をもたらした。今年は、台風1号の発生が7月3日となり、1998年7月9日に次いで過去2番目に遅かった。これは、1998年同様、エルニーニョ現象が終息し、ラニーニャ現象に移行する際の特有の現象だ。
気象庁は9月9日に発表したエルニーニョ監視速報(No.288)で、「ラニーニャ現象が発生しているとみられる」「今後冬にかけてラニーニャ現象が続く可能性が高い(70%)」と、今夏、ラニーニャ現象が発生した可能性を指摘した。
エルニーニョ現象が過去3番目の規模に発達した2015年には、史上最大のハリケーン「パトリシア」がメキシコ太平洋岸に上陸した。中心気圧は一時879hPa まで低下した。
スーパー台風やスーパーハリケーンの発生には地球温暖化も影響しているとみられる。2015年の世界の平均気温は過去最高となったが、NASAの予測では今年は更新する見込みだ。今秋、スーパー台風が再度発生するおそれもあり、注意が必要だ。なお、台風16号「マラカス」が来週前半、本州に近づく見通し。
金融市場においても、今秋はスーパー台風に見舞われる可能性
金融市場においても、今秋はスーパー台風に見舞われる可能性がある。9月20・21日には日米で金融政策が決定される。日銀は両日開催の金融政策決定会合で異次元緩和等の総括的検証結果を公表する予定であり、金融政策の枠組みの修正や追加緩和の有無が注目される。7月の会合で日銀が総括的検証の実施を表明して以降、債券市場では変動率が高まっており、今回も注意が必要だろう。
米国では、FRB幹部から一時、9月FOMCにおける2015年12月以来の利上げ実施の可能性を織り込ませるような発言が続いた。その後発表の米経済指標がやや不芳なものが続いたことで、現在では12月FOMCでの利上げが金融市場のメインシナリオとなっているが、サプライズがあるか注目される。
より大きな問題は、11月8日の米大統領選だろう。7月の共和・民主両党の全国大会終了後、一時クリントン氏がトランプ氏を支持率で10ポイント近くまで引き離したが、メール問題の再燃と健康問題の浮上等で、足元では差が急縮小している。8月26日から9月14日の平均支持率は、クリントン氏の45.7%に対し、トランプ氏は44.2%と僅か1.5ポイントの差だ(RCP調べ)。
金融市場では、クリントン氏勝利がメインシナリオだが、トランプ氏の支持者の方が、クリントン氏支持者よりも積極的であり、投票率が高くなる可能性がある。ちょうど、6月23日に実施された英国のEU離脱を巡る国民投票に似た構図となっており、大ドンデン返しの可能性にも注意したい。
『君の名は。』が爆発的ヒット
本コラム7月号で取り上げた新海誠監督の長編アニメーション『君の名は。』が爆発的なヒットを飛ばしている。
8月26日公開の同作品は、9月10日・11日の土日2日間で約85万2000人を動員し、興行収入約11億3,500万円を上げ、興行通信社による全国映画動員ランキングで3週連続1位を獲得した。累計では早くも動員481万人、興収62億円を突破した(62.9億円、9月12日現在、興行通信社調べ)。
同じく6月号で特集した『シン・ゴジラ』もヒットしているが、同作品は7月29日公開で、動員約421万人(9月6日現在、同)、興収が65.7億円(9月12日現在、同)であり、『君の名は。』は、『シン・ゴジラ』の倍速ペースで観客を動員している。
過去、日本のアニメ映画で興収100億円を突破したのは、スタジオジブリの宮崎駿監督作品のみだが、新海監督が「100億円超興収監督2人目」となる可能性もありそうだ。
『君の名は。』の挿入歌を提供したRADWIMPSの楽曲も併せて大ヒットし、CDアルバム「君の名は。」、オリコンの8月月間ランキングで1位となった。まさに社会現象だ。
「君の名は。」のヒットの背景には、ストーリー、映像、演技、音楽の全てが出来が良く上手く調和していることが挙げられるが、宮崎作品ほど有名でない新海作品がSNSの拡散を含む口コミでここまでヒットしたことは、日本の映画ファン、特にアニメファン層が老若男女まで厚くなった証左と言え、若手の監督やクリエイター等にも大きな励みとなろう。
人気漫画「こちら葛飾区亀有公園前派出所」が40年の連載に終止符
ただ、アニメや漫画の新陳代謝が進むということは、古い漫画の連載終了等に繋がる面もある。
1976年9月から一度も休載せずに「週刊少年ジャンプ」(集英社)に連載されていた人気漫画「こちら葛飾区亀有公園前派出所」が、遂に明日9月17日発売号で、40年に及んだ連載に終止符を打つこととなった。ちなみに、「週刊少年ジャンプ」は月曜発売だが19日は「敬老の日」の祝日のため土曜発売となる。
作者の秋本治氏は、連載40周年とコミックス200巻発行という区切りのいいところで終わらせたかったと、9月3日の記者発表において理由を述べている。浅草生まれ江戸っ子の「両さん」らしい終わり方と言えそうだ。
なお、「こち亀」は「最も発行巻数が多い単一漫画シリーズ『Most volumes published for a single manga series』200巻」として、ギネス世界記録TMに認定され、9月14日には公式認定証授与式も実施された。累計部数は1億5,000万部超。
「こち亀」の主人公の両津勘吉は、いわゆるヒーローとは言えない。眉がひとつながりで異様に太く、体型もズングリむっくり。職業は、警察官(葛飾区亀有公園前派出所の巡査)なるも、ギャンブル・飲酒が大好きで、時に違法行為もいとわない。趣味は、プラモデル、アニメ、フィギュア、ミリタリー等の典型的な「オタク」。但し本質は正義感と義理人情に極めて厚い性格で、同僚や近隣の住民からも、迷惑がられつつも基本的には好かれている。
筆者も、若い頃、葛飾区亀有公園前派出所を探しに、亀有まで行った経験がある。亀有公園はあったものの、派出所はなかった。なお、亀有警察署は実在し、同署が改築された際は漫画でも新しくなったと記憶している。漫画では実在の警察署との混同を避けるため、後に「葛飾警察署」及び「新葛飾警察署」に設定変更がなされた。
長期連載の秘訣は、人間味溢れたキャラクターと時代変化への対応
筆者も愛読していた「こち亀」が40年間も連載が続いたのも、単なるヒーローではなく、時に悪役にもなりうる人間味溢れたキャラクターにあったのではないか。また、「こち亀」は毎回、時代のトレンドをテーマにしていたことも読者の興味をそそる面で大きかった。
そういう意味では、さいとうたかを氏原作の「ゴルゴ13」も同様だろう。「ゴルゴ13」は1968年に11月に「ビッグコミック」(小学館)で連載を開始しており、「こち亀」よりさらに古い。単行本は182巻まで。
こちらの主人公「デューク東郷」は超一流のスナイパー、通常はヒットマン(殺し屋)として登場する。さいとう氏は主人公を「社会悪」として描いたとのことであるが、その相対的な評価を読者に任せたことで、飽きが来ない設定となったと考えられる。
ちなみに、「ゴルゴ13」と言えば麻生財務大臣の愛読書として知られるが、麻生氏は「こち亀」の連載終了について、13日の記者会見で、「キャラが立った漫画で、話が幅広く、古い江戸時代の話に近いような下町の話から最先端な話まで組み合わせて、描いている夫婦もなかなかおもしろい夫婦ですけれども、いろいろな意味でこれを200巻で、来週で打ち切るという話は先週出ていましたので知ってはいましたけれども、ああいうキャラが立っている漫画はなかなかおもしろいと思っていましたからとても残念です。ネタ切れかなと思うわけでもないけれども、ほかの漫画でネタ切れしているような感じがあるのに続いている漫画もありますから、何となく200巻で締め切ってしまうのというのは少々残念かなと思います。」(財務省HP)とコメントしている。
DCコミックスの悪役たちが活躍する『スーサイド・スクワッド』が日本でも公開
悪役(ヴィラン)だが、人間味あふれるキャラクターが登場する映画は、格差拡大が問題となっている米国でも今年受けているようだ。
本コラム5月号で紹介した『デッドプール』はマーベル・コミックの作品だが、マーベルとアメコミ映画の双璧をなすDCコミックスの悪役たちが活躍する『スーサイド・スクワッド』が日本でも9月10日に公開され、前週の週末観客動員数は『君の名は。』に次いで2位となった(興行通信社調べ)。米国では2016年の興収ランキングが現在第8位(9月15日現在、Box Office Mojo調べ)。
同作品は、本コラム3月号で紹介した『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』の続編的位置づけとなっており、DCがマーベルの「アベンジャーズ」に対抗し、複数キャラクターを揃えた総力戦・チーム戦に挑む先駆けの作品とも言えそうだ。
登場人物が多い分、中身はやや積み込み過ぎ感があるが(筆者は既に2回鑑賞)、キャラの立ち方は続編に期待させるものだった。
実生活での子煩悩ぶりが映画にも出ている(?)ウィル・スミスさん演ずるデッドショットや本コラム8月号で紹介した『ターザン:REBORN』の妻のジェーン役を好演したマーゴット・ロビーさん演ずるハーレイ・クイン、ジャレッド・レトーさん演ずるジョーカー等は今後もスクリーンでお目にかかれそうだ。
同作品には日本人女性も登場する。米ロサンゼルス生まれの福原かれんさんが演じるのは、スーサイド・スクワッドを率いるエリート軍人、リック・フラッグ大佐の右腕で、顔をマスクで隠した無口で冷酷な女サムライ、カタナ。福原さんは同作品が映画初出演ながら、この役をオーディションで見事射止めた。福原さんは英語はネイティブだ。デヴィッド・エアー監督の演出なのだろうが、映画では日本語を話しているのがやや不思議だった。
『スーサイド・スクワッド』を訳すれば、自殺部隊、決死部隊、決死隊といったところか。邦画でも今月22日、決死隊をテーマにした映画が封切られる。
『真田十勇士』と『真田丸』を比較するのも面白そう
『真田十勇士』は、堤幸彦監督と中村勘九郎さんがタッグを組んだ2014年の舞台『真田十勇士』を映画化したもの。関ヶ原の戦いから10年後。真田幸村は天下の名将としてその名を世に轟かせていたが、実際の幸村は奇跡的に運に恵まれ続けただけの腰抜け男で、自分の虚像と実像の差に悩んでいた。そんなある日、幸村は抜け忍の猿飛佐助と出会う。自分の嘘とハッタリで幸村を本物の天下一の武将に仕立てあげることを決意した佐助は、同じく抜け忍の霧隠才蔵ら9人の仲間を集め、「真田十勇士」を結成。佐助役を中村勘九郎さん、才蔵役を松坂桃李さんが舞台版に続いて演じている。
三谷幸喜氏脚本の今年のNHK大河ドラマ『真田丸』は高視聴率を誇っているものの、戦国物にしては合戦シーンが少ないのも特徴。9月11日放送の「勝負」でも、関ケ原の合戦シーンはゼロ。やっぱり合戦シーンが見たい方には、『真田十勇士』がお薦めか。今後、NHKの大河ドラマでも、さすがに最終盤では「真田丸」攻防戦が描かれるとみられる。比較するのも面白そうだ。
なお、9月17日(土)には、スタジオ・ジブリの最新作『レッドタートル ある島の物語』が公開される。ジブリ初の海外との共同製作による作品(日・仏・ベルギー合作)であり、オランダ出身のアニメーション作家、マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット氏が原作・脚本・監督を務めた。今年のカンヌ国際映画祭で「ある視点」部門特別賞を受賞した。
今年は既に台風が5個も上陸、天候不順な日には、映画館で映画を見るのも一興か
今年は前述の通り、台風1号の発生は7月3日と統計開始以来2番目の遅さとなったが、過去の統計では、エルニーニョ現象発生年もラニーニャ現象発生年も、台風の発生数はほぼ平年並みの25〜26個。実際、今年は8月以降発生ペースが増加、既に16号まで発生、日本列島への上陸数も平年値の2.7個を上回る5個に上る。
相次ぐ台風来襲で我が国でも今年は大きな被害が出ているが、天候不順な日には、構造のしっかりした映画館で映画を見るのも一興か。
末澤 豪謙 プロフィール
1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。同投資戦略室長、大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。