アナリストの忙中閑話【第67回】

アナリストの忙中閑話

(2016年12月20日)

【第67回】2017年の干支は「丁酉(ひのと・とり)」、米トランプ新政権の財務長官候補は映画製作者、今年は日本アニメの当たり年

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

2017年(平成29年)の干支は「丁酉(ひのと・とり、テイ・ユウ)」

2017年(平成29年)の干支は「丁酉(ひのと・とり、テイ・ユウ)」。
「丁酉」は、「干支」の組み合わせの第34番目で、陰陽五行では、十干の「丁」は「火(ひ)」の「弟(と、陰)」、十二支の「酉」は、「金」の「陰」で、「相剋(火剋金:『火は金属を溶かす』の意)」。

「丁」は釘の象形とされ、植物が成長し一定の大きさに達し安定・充実した姿を表す

「丁」は十干の第4番目の干で、「丁」は「釘」の象形とされる。また、前年の「丙」の「一」の続きで、陽気が延び、咲き誇った花がその重みで垂れ下がった象形を「|」が表す。「丁壮(働き盛りの男性)」と同意で、植物が成長し、一定の大きさに達し、安定・充実した姿を表す。

「酉」は、酒を醸造する器の象形とされ、草木の果実が成熟の極限に達した状態、ないし枯死した状態を表す

「酉」は十二支の第10番目で季節は旧暦の8月、動物では「鶏」に配されている。方角は西、時刻は午後6時頃の夕刻(ゆうこく)、午後6時を正酉(しょうゆう)と呼ぶことがある。季節は仲秋を表す。「酉」は酒を醸造する器の象形文字とされ、「成る・熟す・飽く・老いる」という意味がある。また、「シュウ(猶の偏が糸偏)」に通じ、縮むという意味がある。草木の果実が成熟の極限に達した状態、ないし枯死した状態を表す。

「丁酉」の年、新陳代謝(改革)が進まないと経済や政治権力等が勢力拡大の極限に達する可能性を示唆?

「丁」と「酉」を合わせると、2016年の「丙申(ひのえ・さる)」に一段と勢力を拡大した経済や政治権力等も、2017年の「丁酉(ひのと・とり)」には、勢力拡大の極限に達し、新陳代謝(改革)が進まないと、その後は収縮に向かう可能性を示唆しているとも言えそうだ。

前回の「丁酉」は1957年、戦後の「酉年」の出来事

前回60年前の「丁酉」である1957年(昭和32年)は神武景気が終焉、国際収支の悪化に直面した政府・日銀の金融引き締め策等の結果、夏以降、いわゆる「なべ底不況」に陥っていた。

海外では、欧州経済共同体(EEC)条約と欧州原子力共同体(EURATOM)条約が調印される一方、英国が水爆実験を行い、ソ連がICBM実験と人工衛星スプートニク1号の打ち上げに成功する等、核兵器が地球人類の最大の脅威となる一方、宇宙開発競争が本格化した年でもあった。そして、12年後の酉年の1969年には、アポロ11号によって人類が初めて月面に降り立つこととなる。

2005年6月にはクールビズがスタート、2017年のクールビズ期間は5月1日から10月31日とすべき

ちなみに、酉年の2005年6月には、小池百合子環境大臣(当時、現東京都知事)が音頭をとって、「クールビズ」がスタートしている。

当時の期間は6月1日から9月30日。2011年以降は東日本大震災に伴う電力不足等への対応のため、5月1日から10月31日に延長されていたが、何故か2016年は5月1日から9月30日に短縮された。2014年と2015年の夏はエルニーニョ現象の発生で全国的に冷夏傾向となっていたが、今年はラニーニャ現象の発生で、残暑が厳しいことが予想されたにも関わらずだ。実際、10月上旬は東京でも最高気温が30度を超える日々が続き、クールビズ期間の認識が国民の間で「有耶無耶」となった感がある。2017年の夏は、ラニーニャ現象が継続ないし平常状態と予想されるが、地球温暖化等の影響で、世界の年間平均気温は2017年も過去最高を更新する可能性が高い。

現時点での予測に基づけば、2017年のクールビズ期間は5月1日から10月31日と設定することが適当だろう。

戦後の首相経験者で酉年生まれは?

なお、戦後の首相経験者で酉年生まれは1957年(昭和32年)5月20日生まれの野田佳彦氏のみ。ちょうど2017年は丁酉生まれで還暦となる。

ちなみに、安倍首相の祖父の岸信介氏は今から120年前、2016年同様「丙申」の1896年(明治29年)生まれだが、1957年の「丁酉」の年に、第1次岸内閣が発足している。同年には憲法調査会第1回総会も開催されている。そういう意味でも2016年から2017年は、岸氏のライフワークであった憲法改正問題が、安倍首相にとっても内心では最大の政策課題となっているのかもしれない。

一方、酉年は何と言っても、1945年(昭和20年)、我が国の連合国に対する無条件降伏により、太平洋戦争、ひいては第2次世界大戦が終結した年として記憶に残る。広島及び長崎への2度の原爆投下や東京大空襲、沖縄戦等不幸な出来事も多かったが、戦前の様々なレジーム転換が一挙に起きた年でもある。日本は廃墟の中から奇跡の復興を遂げるが、「陰の極み」に「希望の光」が灯った年でもあった。

2017年は、2016年同様、内外で政治リスクが意識される年に

2017年は、2016年同様、内外で政治リスクが意識される展開となりそうだ。特に、1月20日に米国第45代大統領に就任するドナルド・トランプ氏の政策に注目が集まろう。

我が国では、年明けないし年末近くに衆院が解散され総選挙が実施される可能性がある。

通常国会での解散の可能性は茲許低下したものの、衆院の任期が2016年12月で2年を切ることから、2017年は「常在戦場」と言えそうだ。また、7月頃には東京都議会選挙が実施される。与党の公明党は毎回、都議会選挙を国政選挙なみに重要視していることに加え、小池百合子知事が新党の立ち上げに動くか否かも注目される。東京では2020年にオリンピック・パラリンピックが開催されることもあり、引き続き、地方政治における台風の目になりそうだ。なお、衆院の新たな区割り案が5月までに衆議院議員選挙区画定審議会から勧告されることから、年初に衆院解散がなければ、秋以降年末近く、ないし2018年へ持ち越される可能性が高いだろう。

安倍首相としては、自民党総裁の連続3期への任期延長問題はほぼ決着したものの、衆参で与党が3分の2の多数を維持し続け、憲法改正の発議を行うのは容易ではない。解散時期と結果は、2018年4月の黒田日銀総裁の任期とも相まって、金融市場にも大きな影響を与えることとなりそうだ。

トランプ政権は最初の99日間が重要

一方、海外では2016年同様、世界経済や金融市場ひいては安全保障にも影響を与えかねない政治イベントが続く。
前述のように、米国では2016年11月8日(火)に実施された大統領選で勝利したトランプ氏が1月20日に第45代大統領に就任する。議席数が減少したものの引き続き上下両院で共和党が多数を維持する第115議会も1月3日には招集される。

トランプ氏は、新政権の閣僚等を足元指名しているが、閣僚は上院での承認が必要だ。連邦最高裁判事を除く閣僚等大統領指名人事の承認は、2013年以前は60人の賛成が必要だったが、現在は過半数(政権与党の場合実質的には50人)で可能だ。但し、今回の選挙の結果、上院は民主党が48人を確保しており、共和党から数名の造反が出れば、否決される可能性がある。また、法律案や予算案の採決には実質的に60人の賛成が必要なため、トランプ氏が選挙戦で展開した過激な主張を継続することとなれば、議会を通過させることは困難となろう。

このことは、与党共和党でも同様だろう。トランプ氏の税制改革プラン等を全て実行すれば、10年間で10兆ドル程度の財政赤字が発生すると試算されていた。本選間近の9月に若干公約が修正されたものの、表面で4兆から6兆ドル、経済成長等勘案しても3兆〜4兆ドルの財政赤字が発生する見込みだ。

トランプ氏は、選挙戦中、HPに掲げた公約以外にも、様々な過激な主張を行った。
不法滞在者1,100万人を強制送還(犯罪歴ある200万人を優先)、TPP交渉即時離脱、NAFTA即時再交渉(応じなければ脱退)、中国・日本・韓国等に高率関税賦課(38〜45%)、日本・独・韓国・サウジアラビア等に米軍駐留経費を全額負担させる、イスラム教徒の入国禁止、「地球温暖化」は中国によるでっち上げ、パリ協定脱退、インフラ投資10年間で1兆ドル、金融規制や環境規制の緩和、等だ。

トランプ氏の公約

  • Pay for the Wall:壁の建設代金を支払わせる
    • メキシコとの国境に「万里の長城(トランプ・ウォール)」を造るため、50億〜100億ドルの建設資金をメキシコに支払わさせる
  • Healthcare Reform:医療保険制度改革
    • オバマケアの即時廃止、トランプケアの創設
    • メディケアの見直し(不法移民へのサービス停止等)
  • U.S.-China Trade Reform:米中貿易改革
    • 不法な関税と非関税障壁で守られた中国の保護貿易主義の「万里の長城」を壊す
    • 中国を為替操作国と即時認定、知的所有権違反とサイバー攻撃、輸出補助金を廃止させる
    • 米国の法人税率を15%に引下げ、米国の債務と貿易赤字を削減、東シナ海と南シナ海に米軍を配置
  • Veterans Administration Reforms:退役軍人省改革
    • 退役軍人省を改革、各種ケアの即時提供
  • Tax Reform:税制改革
    • 年収2万5,000ドル未満の単身世帯と年収5万ドル未満の夫婦世帯への所得税免除(7500万人が対象)
    • 現行7つの所得税率の階層を0%・10%・20%・25%に再編→33%を追加
    • 相続税を廃止 
    • 法人税の15%への引下げ
    • 財政収支には中立(税控除や富裕層の節税策の縮小、海外留保資金の本国送還、海外における税の繰り延べの終了、法人の節税策の縮減)
  • Second Amendment Rights:武器保有権利の保護
    • 銃保有の権利保護、銃規制、アサルト・ウェポン規制等へ反対
    • (参考)合衆国憲法修正第2条:規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって必要であるから、人民が武器を保有し、また携帯する権利は、これを冒してはならない
  • Immigration Reform:移民制度改革
    • 南部国境における壁の創設
    • 国境通過カードとNAFTA労働ビザの手数料引き上げ(オプションとしてのメキシコ向け関税導入と援助の削減)
    • ICE(移民・関税執行局)職員の3倍増
    • 米国人労働者優先
  • 出所:トランプ氏の公式HP資料等よりSMBC日興証券作成

今後、それらの公約がどの程度維持されるか、政策責任者の人選とともに、議会との交渉の結果、どの程度実現されるかを見極めることが重要となろう。

現時点の金融市場では、トランプ氏の良い意味での変節により、公約は修正され世界経済や安全保障等にとって、大きな問題とはならず、むしろ、リフレ政策により、成長率や株価等が上昇するとの期待が優勢になっているようだが、トランプ氏を支持した有権者の思いはやや異なっている。過度な楽観は禁物かもしれない。

まずは最初の99日が重要だろう。というのは、4月28日には2017会計年度暫定予算の期限が来るからだ。「トランプ予算」がそれまでに成立し、大統領指名人事が上院に承認を得られるかが試金石となろう。ちなみに、夏までには、3月16日に再設定される米政府債務上限の引き上げないし撤廃も必要となる。

欧州でも2017年は政権交代が相次ぐ可能性

一方、欧州でも2017年は政権交代が相次ぐ可能性がある。

12月4日に実施された上院の直接選挙廃止等大幅な権限縮小等を柱とした憲法改正法案の是非等を問うイタリアの国民投票は大差で否決された。憲法改正を主導してきたレンツィ首相は辞任しマッタレッラ大統領は11日、中道左派・民主党のジェンティローニ外相(62)を指名、その後イタリア下院で13日、上院で14日、ジェンティローニ新内閣に対する信任投票が行われ、何れも賛成多数で可決されたことで、新内閣が正式に発足した。新内閣は暫定内閣の位置付けだが、2017年5月にはイタリアのシチリア島でG7サミットが開催されることに加え、選挙法の改正が必要なため、総選挙は2017年夏以降と見込まれる。五つ星運動の台頭等もあり、イタリアの政情は不透明感が強まることとなりそうだ。

フランスでは、2017年4月23日に大統領選挙(第1回投票)が実施される。支持率10%台のオランド大統領は再選に向けた出馬を断念、政権与党ではバルス首相らが出馬の予定だが、中道・左派陣営は分裂選挙となる可能性が高く、5月7日の決選投票に進めない可能性が高い。世論調査では、中道・右派のフィヨン氏と極右の国民戦線のル・ペン氏の決選投票となった場合、フィヨン氏が勝利するとの予想が出ている。フィヨン氏は中道・右派連合の中でも右派寄りの保守政治家だが、新自由主義的な市場経済主義者でロシアに融和的とされる。移民問題に強硬でシェンゲン協定の見直し等も主張している。フィヨン大統領の誕生で、EUが変質することも想定される。

ドイツでは2017年9月に連邦議会選挙が予定されている。11月20日、メルケル首相は4期目を目指して首相候補として出馬することを表明した。メルケル氏は前回の酉年の2005年に初の東独出身・女性首相となったが、2017年に再選されれば累計4期16年となる。ここまで、高支持率を維持してきたメルケル氏だが、移民問題に加え、フォルクスワーゲン問題、ドイツ銀行問題等、経済的な不祥事も相次ぎ母体のキリスト教民主・社会同盟の支持率は低下、州議選でも苦戦が続いている。選挙結果次第では社会民主党との大連立が解消となる可能性もあり、予断を許さない状況だ。

既に、G7の一角である英国では、2016年6月23日のEU離脱が多数となった国民投票の結果を受けて、首相が交代したが、2017年にイタリア、フランス、ドイツでも相次いでトップが交代することとなると、EUやユーロ圏の求心力が低下するおそれもある。2017年は欧州にも目が離せないと言えそうだ。

アジアでは中国が要注目だろう。中国では11月頃に5年に一度の第19期中国共産党全国代表大会が開催され、その後、第19期中央委員会第1回総会(1中全会)も開催される。
習近平党総書記・国家主席にとっては10年の任期の折り返し局面となり、新たなトップ候補が選出される大会となるはずだが、今回は定年(現在68歳)の延長や「総統」職等新たなトップの地位を創出する噂等が絶えない。選挙戦におけるトランプ氏の演説を聞く限り、「アメリカ・ファースト」にとって最大の標的は中国と考えられる。中国では、現在、構造改革とともに反腐敗運動(中央八項規定精神闘争等)が進行しているが、2017年は、政治・経済両面で中国にとって、重要な年となる可能性が高そうだ。展開によっては、我が国の安全保障にも大きな影響をもたらす可能性があろう。

申に続き、酉も騒ぐ?

株式相場に関する格言では、「辰巳天井、午尻下がり、未辛抱、申酉騒ぐ、戌笑い、亥固まる、子は繁栄、丑つまずき、寅千里を走り、卯跳ねる」とされている。

下図のように、2015年までで見ると、相場格言と日経平均株価225種の年間騰落率は相当程度フィットしている。

  • 出所:QUICK資料等よりSMBC日興証券作成

最近でも2012年と2013年は、「辰巳天井」の相場格言通り、日経平均株価は年末高で終えている。

2014年は、「午尻下がり」の格言通り、地政学的リスクの台頭や欧州・新興国の景気低迷等を受けて、夏までは、本邦株価は調整局面が続いたが、10月末の日銀の追加緩和、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用見直し等を受けて急伸。安倍首相は、消費増税の先送りとともに衆院の解散総選挙を決めた。

2015年は、株価は前半堅調を維持したが、夏には中国発の世界同時株安で急落、米国の利上げ開始を遅らせることとなった。その後、株価は反発基調となり、米国では12月に利上げが開始された。過去の米利上げ開始局面では米経済の好調さを背景に暫く世界的に株価は堅調を維持したが、今回は米経済が「一人勝ち」的な状況にあるため、新興国等海外経済や金融市場への影響が懸念される。

2016年は、年明け後は原油安と中国株安で日本株も急落、その後持ち直すも、6月末には英国の国民投票でEU離脱が多数となったことで急落。11月には米大統領選の結果を受けて、急落と急反発を繰り返し、変動率の高い展開となった。日銀の年間6兆円に上るETF買いや公的年金の運用見直しの影響もあり、下値は相対的に堅いものの、方向感が掴みにくい展開となっている。実際、世界的に見ても、主要国で株価が過去最高値水準にあるのは米国のみだ。

2017年は、トランプ新政権の政策や欧州の選挙結果次第では、「申に続き、酉も騒ぐ」年となる可能性があろう。我が国でも、衆院解散の可能性がある。結果次第では、G7諸国では相対的に目立つ「政治の安定」が失われる可能性もあり、内外の「政治リスク」には引き続き注意が必要だろう。

「地政学的リスク」や「気候変動リスク」も無視できない

また、中東やアフリカ、場合によっては、欧州やアジアを含む地域での「地政学的リスク」は高止まりが予想されることに加え、「気候変動リスク」も無視できないと言えそうだ。2014年夏に発生し、過去3番目の規模に勢力を拡大した「エルニーニョ現象」は2016年春に終息したが、2016年夏以降は代わって「ラニーニャ」現象が発生している(速報ベース)。ラニーニャ現象は「猛暑・厳冬」をもたらすとされるが、地球温暖化と相俟って、気候変動も大きくなる可能性があり注意が必要だ。

トランプ氏はスティーブン・ムニューチン氏を次期財務長官に指名

次期米大統領のドナルド・トランプ氏は11月30日、スティーブン・ムニューチン氏を次期財務長官に指名した。
上院の承認の後、2017年1月以降に就任する新財務長官は、トランプ氏が公約で掲げている税制改革やインフラ投資、為替政策等の指揮を執ることとなる。金融市場でも最も注目される閣僚となろう。

ムニューチン氏はウォール街出身だがハリウッドでは映画製作者として有名

ムニューチン氏は2016年5月から、トランプ氏の財務責任者を務めており、最有力の財務長官候補として、選挙戦終盤から名前が挙がっていたが、金融市場での知名度は低かった。

一般には、ムニューチン氏はゴールドマン・サックス(以下「GS」)出身で、ウォール街の住人として認識されているが、ハリウッドでは、ヘッジファンドの創立者としてよりも、映画製作者として有名である。

ムニューチン氏は17年務めたGSを2002年に退社、その後ジョージ・ソロス氏のファンド等で一時働いた後、2004年にヘッジファンドのデューン・キャピタル・マネジメント(Dune Capital Management)を設立するが、2006年には映画製作会社のデューン・エンターテインメント(Dune Entertainment, LLC、現、RatPac-Dune Entertainment)も創業している。

同社は、20世紀フォックスやワーナー・ブラザーズ作品に主に出資しており、同社が投資した2009年公開の『アバター』(20世紀フォックス配給)は世界興行成績が約28億ドル(Box Office Mojo)と現在でも歴代最高で、大成功を収めている。実際、『アバター』のエンドロールでは、「20世紀フォックス」に続き、「デューン・エンターテインメント」の文字が映し出されている。また、同社は、ワーナー・ブラザーズの『Xメン』シリーズ等も手掛けている。

ムニューチン自身も、映画データベース(IMDb)によると、2014年以降でも34作品で「製作者」としてクレジットされている。2014年公開作品では、『アメリカン・スナイパー』や日本人原作の『オール・ユー・ニード・イズ・キル』、2015年公開作品では『マッドマックス 怒りのデス・ロード』、2016年公開作品では、『バットマン対スーパーマン、ジャスティスの誕生』、『スーサイド・スクワッド』、『ハドソン川の奇跡』等が我が国でもヒットしている。

また、ムニューチン氏は俳優としても紹介されている。同氏が出演している作品は、伝説の映画人ともいわれるウォーレン・ベイティ氏が監督し、自らもハワード・ヒューズを演じた『Rules Don’t Apply』であり、全米で本年11月23日に公開されたばかりだ。1958年のハリウッドを舞台にしたロマンティック・コメディだが、映画の紹介資料(IMDb)によると、スティーブン・ムニューチン氏は、投資銀行メリルリンチの役員(Merrill Lynch Executive)でスティーブ・ムニューチン役 (as Steve Mnuchin)として出演している。なお、ムニューチン氏は同作品に製作者(producer)としてもクレジットされている。

なお、同作品の興行成績は、公開週の週末の全米順位が12位、翌週末は17位、その後は43位と(Box Office Mojo調べ)と今のところ鳴かず飛ばずのようだ。

映画製作者の主要な任務は資金調達と興行の成功

著作権法では、映画製作者は「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者をいう」(第2条10号)とされているが、企画立案とともに、映画の製作者の主要な任務は、資金調達と興行の成功だ。前述の2009年公開の『アバター』の製作費は2億3,700万ドル(IMDs)とされる。映画はハイリスク・ハイリターンの典型的な商品であり、製作者には、「目利き」とともに、リスクを選好する投資家との人脈が重要だ。

また、監督が映画の主観的、芸術的な出来を重要視するのに対し、一般に製作者は客観的な興行成績、万人受けを重視する。そういう意味では、ムニューチン氏は支持率がアップするような助言をトランプ氏に行う役回りが期待されているとも言えそうだ。

『ザ・コンサルタント』
2017年1月21日(土)丸の内ピカデリー・新宿ピカデリーほか全国公開
配給:ワーナー・ブラザース映画 
(C)2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED

ちなみに、1月21日に我が国でも公開される『ザ・コンサルタント』は、ムニューチン氏が製作に参画した最新作だ。アカデミー作品賞と脚本賞も受賞した監督・製作兼俳優で「バットマン」も演じるベン・アフレック主演のサスペンス・アクション映画。既に、試写会で鑑賞したが、良い出来だった。トランプ氏の選挙戦での偏狭な主張とは反対に、多様性が重視されているのも特徴。

今年は、日本アニメの当たり年、年末に見たい映画

既に「師走」の12月20日、今年も残すところ10日余りとなったが、毎年この時期になると1年が短くなったと感じる。実際、相対的な1年の長さは、10歳の頃と比べると、「アラカン」の今では5分の1未満。こうなったら、思い出を詰め込むしかないと思い、年末に見たい映画を採りあげる。

今年は、日本アニメの当たり年だった。新海誠監督の『君の名は。』は12月18日現在で興収が209.0億円に達し、国内歴代1位の『千と千尋の神隠し』の308.0億円、2位『タイタニック』の262.0億円、3位『アナと雪の女王』の254.8億円に次ぐ4位に浮上。同作品は、12月2日に封切られた中国でも既に、16日間で5.34億元(約90億円)の興収を記録し、山崎貴監督作『STAND BY ME ドラえもん』の5.3億元という成績を上回った。また、4日には、「第42回ロサンゼルス映画批評家協会賞」にて、アニメ映画賞(BEST ANIMATION)を受賞、ゴールデングローブ賞と並びアカデミー賞の前哨戦として注目される受賞で、年明けのアカデミー賞への期待も高まっている。

『この世界の片隅に』
全国にて大ヒット上映中!
配給:東京テアトル
(C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

一方、11月12日から公開され、当初は全国63カ所と小規模上映だったが、口コミとSNSで観客が増えているのが、『この世界の片隅に』。こうの史代さん原作で、片渕須直さんが監督・脚本を務めた。

昭和一桁から戦中・終戦までの広島県呉市が主な舞台となっている。時代柄、戦争映画と思われがちだが、片淵監督は「日常生活」を描いたとしている。問題はその精緻さ。登場人物は昔ながらの4頭身かせいぜい5頭身のアニメキャラだが、風景の凝り方が尋常ではない。呉の軍港が舞台のため、戦艦大和や戦艦武蔵等も登場するが、片渕監督によると、艦上の手旗信号も解読できるように作っているとのこと。また、空襲シーンでは、米軍機を迎撃する高角砲の煙の色が赤・オレンジ・黄色・青・白・黒とカラフルに色づくが、これは、どの軍艦の艦砲かを区別するための着色弾で実際に呉軍港で使用されたことが史実として確認されているとのことだ。

但し、この映画は当初資金集めに苦労したため、エンドロールで出資した個人の名が上映される。昨年春、クラウドファンディングで協力者を募った際、8日間で目標の2,000万円を達成したとのこと。

筆者も遅ればせながら、12月に入り鑑賞したが、昭和の時代の様々な記憶を風化させないためにも一度見ておきたい映画だろう。年末年始は上映館が拡大される予定とのこと。

我が国原作の映画の完結編が世界最速公開

『バイオハザード:ザ・ファイナル』(PG-12)
公開日:2016年12月23日
<配給・宣伝>ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

最後に紹介する映画は、我が国が原作で、今週23日に世界最速公開となる『バイオハザード:ザ・ファイナル』だ(米国での公開は2017年1月27日予定)。

カプコンのサバイバルホラーゲーム「バイオハザード」を原作とした実写映画シリーズの最新作で、2002年の第1作『バイオハザード』から足掛け15年におよぶシリーズ第6作にして完結編となる。

監督・脚本はポール・W・S・アンダーソン氏。主演は同氏の夫人でもあるミラ・ジョヴォヴィッチさん。本作には、夫妻の実娘であるエヴァ・アンダーソンさんがレッドクイーン役で出演している。また、本作にはタレントでモデルのローラさんが主人公のアリスと共に戦う女戦士コバルト役で見事ハリウッドデビューを飾っている。

『バイオハザード』シリーズは女性が主人公。「女性活躍」の時代らしく近年、世界的に流行っている映画は、『アナと雪の女王』や『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』、『ローグワン/スター・ウォーズ・ストーリー』等女性が主人公の映画が多い。『君の名は。』も女性役の登場シーンが多い。特に、本作は多くの重要な役回りを女性が担っており、2016年最後の話題作として、女性は必見か。筆者も23日からの3連休で鑑賞する予定だ。

本コラムで度々指摘していることではあるが、日本の漫画やアニメ等の素晴らしいコンテンツをビジネス化して、映画や観光等に結びつけることは、少子高齢化が進展する中でも、有力でかつ持続可能性の高い成長戦略と言ってよいだろう。但し、具体的な方策に関しては、次期米財務長官に、レクチャーをお願いする必要があるかもしれない。

年末のご挨拶

最後に、1年間、「アナリストの忙中閑話」におつきあい頂き誠にありがとうございました。2017年も、「映画と世界情勢」に関する話題を主体に、面白い話、役に立つネタ等をご提供したいと存じておりますので、よろしくお願い申し上げます。

それでは良いお年をお迎えください。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。同投資戦略室長、大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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