アナリストの忙中閑話【第77回】

アナリストの忙中閑話

(2017年10月26日)

【第77回】日経平均16連騰、台風が鍵となった総選挙、傑作SFの続編など注目映画続々公開

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

日経平均株価指数は10月24日まで16連騰、高度成長期の14連騰の記録更新

日経平均株価指数は10月に入り連騰が続き、24日まで16連騰となった。25日は前日比97円安となったが、9月29日終値から10月24日終値までの上昇幅は1,449円に上った。連騰の過去最長は1960年12月21日から61年1月11日の14日連騰。当時は池田勇人内閣が掲げた所得倍増計画の下、高度成長期だった。今回、その記録を2日上回ることとなった。背景には、米国株が過去最高値を更新する中、10月に入り、与党の総選挙での優勢観測が浮上、実際に与党が大勝したことで、海外投資家が日本株を買い戻したと考えられる。

海外投資家は、日本株を8月には7,242億円、9月には5,715億円売り越していた(二市場ベース)。本コラム前月号でも指摘した通り、9月に向けた二つの米財政問題、具体的には米政府の債務上限問題と2018会計年度予算を懸念し、米国株価も8月以降、調整局面となっていた。但し、大型ハリケーン「ハービー」の対応のため、民主党が提案した「超党派援助法」が9月8日に成立。同法には、ハリケーン復興資金の他、連邦政府の債務上限を12月8日まで3カ月間停止するとともに、12月8日までの暫定的な歳出も盛り込んだ。これにより、9月末段階でのガバメントシャットダウン(政府機関閉鎖)やデフォルトリスクは払しょくされ、米株価は反発、至上最高値を更新した。

第48回衆院総選挙では与党が大勝、3つの台風が鍵に

但し、我が国では、9月に入り、衆院解散風が吹くことになり、9月25日、安倍首相は衆院解散を正式表明した。同日、首相会見に新党「希望の党」の結成会見をぶつけてきたのが小池東京都知事。その後、民進党が「希望の党」に合流するとの報道から、一時は、政権交代観測も浮上した。海外投資家にとっては、まさに「寝耳に水」の事態。過去2年間G7諸国では、カナダ、英国、米国、イタリア、フランス、ドイツで与党が選挙や国民投票で敗退していることもあり、一挙に政治リスクが意識されたとみられる。実際、9月下旬には日経平均株価も軟調推移となっている。

但し、小池希望の党代表の民進党リベラル派や首相経験者らの「排除」発言で潮目が変わり、同党の支持率が急低下、立憲民主党の結成もあり、小選挙区での野党の共倒れ⇒自民党優勢観測が浮上すると、海外投資家の日本株の買戻しが本格化することとなった。ちなみに、8・9月の2カ月間で、日銀はETFを1.2兆円購入しており、海外投資家の売却分は大半を日銀が吸収した形になっている。

10月22日の第48回総選挙では、新定数465議席中、与党が313議席(自民党284議席、公明党29議席)と圧勝、引き続き総議席の3分の2(310議席)を上回る勢力を確保することとなった。一方、枝野元官房長官が立ち上げた立憲民主党は55議席と野党第1党に躍進、希望の党は50議席と低迷。野党の再々編も既に呟かれている状況だ。

「政界、一寸先は闇」、「選挙は水物」という言葉もあるが、今回はまさにその言葉がぴったりの展開となった。投票日には超大型の台風21号が日本列島に接近、各地に記録的な大雨をもたらし、投票率の低下要因となったことも与党に有利に働いたと考えられる。ちなみに、台風21号の名称「ラン」はマーシャル諸島の言葉で「嵐」の意味がある。永田町の勢力図を一変させるかとみられた「小池台風」の分裂・勢力減衰、「枝野台風」の発生による野党陣営の選挙区調整の失敗と、低投票率をもたらした台風21号が、与党の3分2を超える圧勝の勝因と言えそうだ。

但し、与党に大勝の高揚感がないのも事実か。前述のように、好景気、株高にも関わらず、世界的には与党が選挙で負けている背景には、富や所得の格差拡大問題等もある。選挙期間中も、内閣支持率は大半の世論調査で不支持が支持を上回っていたことを勘案すると、第4次安倍政権も2019年の参院選に向けて、油断は禁物か。経済再生最優先姿勢の継続を期待したいが、今回の選挙結果を受けて、2018年には日本国憲法の改正発議と国民投票も具体的日程に上ることになりそうだ。

10月中旬以降一気に気温低下、今年の冬は寒い?

10月中旬以降、急激に気温が低下、東京では10月15日からの週は最高気温が15度に満たない日が続いた。特に19日の最高気温は東京都心で12度3分。東京の都心で最高気温が13度を下回るのは、10月中旬としては、昭和32年以来、60年ぶり。

既に、今年の冬は寒そうな気配が漂っているが、日米豪の気象当局も、今秋から冬にかけて、ラニーニャ現象が発生する可能性を指摘している。エルニーニョ現象の「冷夏・暖冬」と反対に、ラニーニャ現象は「猛暑・厳冬」を招きやすい。尤も、地球温暖化の影響もあり、記録上、今年の冬が厳冬に分類される可能性は低そうだが、ひさしぶりに「冬らしい冬」となる可能性はあろう。

今冬は厚物のコートやダウン等の売れ行きが増すかもしれない。一方で、飽和水蒸気量の増大等で、大雪が降る可能性も想定される。太平洋側や瀬戸内海沿いなど、普段、雪が少ない地域では思わぬ大雪にも注意する必要がありそうだ。

なお、台風22号(サオラー)が29日の日曜日には、日本列島を2週連続で直撃するおそれがあり、要警戒か。10月下旬の台風の発生及び大型化の背景にも、地球温暖化に伴う海水温の上昇が影響している可能性がある。

大作洋画の公開が目白押し、日本の影響を受けた傑作SFの続編が明日公開

年末が近づくと、クリスマス・正月に向けた映画が多数公開されるが、今年は特に洋画の大作の公開が目白押しだ。

『ブレードランナー 2049』
10月27日(金)全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

明日、10月27日公開の『ブレードランナー 2049』は、1982年に公開されたリドリー・スコット監督の傑作SF『ブレードランナー』の30年後を描いた続編。本作では、今年のアカデミー賞で音響編集賞を受賞した『メッセージ』のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督がメガホンをとり、スコット氏は製作・総指揮の役回り。

レプリカントと呼ばれる人造人間を追う捜査官ブレードランナーの「K」役は、2017年のアカデミー賞を総なめした『ラ・ラ・ランド』主演のライアン・ゴズリングさんが務めた。前作のブレードランナー役のハリソン・フォードさんも元気な姿を見せている。配給は米国内はワーナー、日本を含め米国外はソニー。

なお、来日中のヴィルヌーヴ監督は24日のジャパンプレミアで、「日本という国や文化からの影響は、第1作で顕著だった。本作でも、できるだけその流れを受け継いでデザインや衣装に反映したよ。広告や看板にも日本的な部分が感じられるはずだから、注目してほしい」(映画.com ニュース)と語っている。ハリソン・フォードさんも「この作品を皆さんにお見せできるのは、誇りであり幸せ。日本は前作をいち早く評価してくれた国だからね。本当にありがとう」(シネマ・カフェ)と挨拶。ちなみに、第1作に登場する都市は新宿をイメージしているとのこと。本作が世界的にヒットすれば、外国人観光客が一段と増加する可能性もありそうだ。

ハリソン・フォードさんと言えば、1977年公開の『スター・ウォーズ』が出世作だが、12月15日には『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』が公開される。米国公開も12月15日。『スター・ウォーズ フォースの覚醒』に続く、シリーズ第8作(エピソード8)。

アベンジャーズの前に、リベンジャーズとジャスティス・リーグが勝負

11月3日公開の『マイティ・ソー バトルロイヤル』(原題:THOR: RAGNAROK)は、「マイティ・ソー」シリーズ第3作だが、本作には「アベンジャーズ」の雷神ソー及び超人ハルクに加え、ソーの義弟のロキやドクター・ストレンジらマーベル・コミックのスーパーヒーローらも多数登場する。「アベンジャーズ」ならぬ「リベンジャーズ」を結成して、オスカー女優のケイト・ブランシェットさん演ずる死の女神ヘラと戦うストーリー。ソーを演ずるクリス・ヘムズワースさん、ソーの父オーディン役のアンソニー・ホプキンスさん、ハルク役のマーク・ラファロさん、ロキ役のトム・ヒドルストンさんら豪華出演陣にも注目。米国公開も11月3日。配給はディズニー。

マーベルのアベンジャーズに対抗するのが、DCの『ジャスティス・リーグ』。11月23日公開。ベン・アフレックさん演じるバットマン、ガル・ガドットさん演じるワンダー・ウーマンに加え、アクアマン、サイボーグ、フラッシュら、DC・コミックのスーパーヒーローらが集結、ジャスティス・リーグを結成。監督は2016年公開の『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』を手掛けたザック・スナイダー氏。米国公開は11月17日。配給はワーナー。

11月には、マーベルとDCのスーパーヒーロー・ヒロインの全面対決がスタート、ディズニーとワーナーの商戦も本格化する。世界興収の行方も注目か。2作品とも我が国の最近の仮面ライダーシリーズのように、キャラクターの多さは似ているが、規模は半端ない。予算は『マイティ・ソー バトルロイヤル』が1億8千万ドル。『ジャスティス・リーグ』は未公表だが近い金額だろう。

なお、アベンジャーズ第3弾『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』は2018年4月27日公開予定。米国公開は5月4日。

ノーベル平和賞受賞者の憂いが滲み出る映画も公開

『不都合な真実2:放置された地球』
11月17日(金) TOHOシネマズ みゆき座ほか全国公開
配給:東和ピクチャーズ
(C) 2017 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

11月17日公開の『不都合な真実2 放置された地球』は、2007年の第79回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞、主題歌賞の2部門を受賞した2006年製作の環境ドキュメンタリー『不都合な真実』の第2弾。環境啓蒙活動への貢献が評価され、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)とともに、ノーベル平和賞を受賞したアル・ゴア元米副大統領が地球温暖化が一段と進展した地球の現実を解説する。

冒頭、ゴア氏は小話を披露するがこれが面白い。ある婦人がゴア氏の前を通りすぎるが、再度やってきて、ゴア氏に話しかける。「あなた、髪が黒ければ、ゴア元副大統領にそっくりね」と。ゴア氏が「ありがとう」と言うと、「声もそっくりだわ」と返される。クリントン元大統領同様、1990年代の副大統領当時は映画俳優のようであったゴア氏も現在(69歳)の風貌は白髪頭にやや中年太り(筆者も同じだが)。それでも、映画の中では地球温暖化防止のための「パリ協定」締結に向けた精力的な取組が描かれている。但し、インドを説得して見事、妥結した時の高揚感もトランプ大統領の誕生と米国の同協定からの離脱宣言で再度、失望に変わる。本作の公開はゴア氏の新たな挑戦、「ファイティング・ポーズ」の表れかもしれない。

ちなみに、中米ニカラグアは23日、「パリ協定」への参加を表明。同協定への不参加国はトランプ大統領が離脱を表明した米国と内戦状態のシリアの2カ国のみとなった。2015年に世界の約200カ国・地域がパリ協定を採択した際、これを拒否した唯一の国がニカラグアだった。内戦下のシリアは当時から交渉に参加していない。

スポ根恋愛コメディ映画とギャグ漫画の実写版が上位に

前週末の国内観客動員ランキングは上位二つを邦画が占めた。

第1位の『ミックス。』は珍しい卓球スポ根恋愛ハートフル・コメディ映画。ダブル主演の新垣結衣さんと瑛太さんに加え、水谷隼さん、石川佳純さん、伊藤美誠さんら日本を代表する本物の卓球選手も出演し、同作品に加え、東京オリンピックを盛り上げている。

第2位は『斉木楠雄のΨ難』。「さいきくすおのサイなん」と発音。本コラムでは今年、コミックの実写映画を度々紹介しているが、本作も「週刊少年ジャンプ」で連載5周年を迎えた麻生周一さんの人気コミックを、映画『銀魂』を手掛けた福田雄一監督が実写映画化したもの。

映画の予告編にも「予告編をご覧の皆様。今、山崎賢人実写やりすぎじゃね?と思いましたね。あなたの考えることはお見通しです。なぜなら僕は超能力者だから」とあるが、主演は『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』や『一週間フレンズ。』、『オオカミ少女と黒王子』等コミックの実写映画主演を多数務めてきた山崎賢人さん。共演は『銀魂』でヒロイン神楽役を演じた 橋本環奈さん。映画の評価は分かれそうだが、やはり実写版の『帝一の國』主演の菅田将暉さん同様、両人の演技はすごい。

天皇の料理番と世界3大料理

「ラストレシピ〜麒麟の舌の記憶〜」
(C)2017 映画「ラストレシピ〜麒麟の舌の記憶〜」製作委員会
(C)2014 田中経一/幻冬舎

『ラストレシピ 〜麒麟の舌の記憶〜』は11月3日公開。原作は「料理の鉄人」を手がけた演出家田中経一氏のデビュー小説。二宮和也さん主演、西島秀俊さんや綾野剛さんらが出演。滝田洋二郎監督。一度食べればどんな味でも再現できる絶対味覚「麒麟の舌」を持つ天才料理人を二宮さんが演じ、伝説のフルコースの再現に挑む。西島さんは天皇の料理番役。

天皇の料理番と言えば、本コラムでも紹介したが、2015年春にTBS日曜劇場「天皇の料理番」が放送され、東京ドラマアウォード2015で連続ドラマ部門のグランプリを受賞するなど、好評を博した。

世界3大料理と言えば、伝統的に中華料理、フランス料理、トルコ料理を指すが、日本料理は伝統的な和食に加え、世界中の料理をアレンジしているところが特徴的でもある。日本の中規模以上の都市ではどこでも各国の料理を食すことが可能だ。海外では、食材の入手に加え宗教上の理由等もあり、こうはいかない。日本料理、また、日本の食文化は、長期的にも国際競争力を維持・向上することが可能な一大産業と言えるのではないか。

ゴジラ映画の新バージョン公開

GODZILLA 怪獣惑星
11月17日(金)全国公開
©2017 TOHO CO.,LTD.

11月17日公開の『GODZILLA 怪獣惑星』は「ゴジラ」シリーズ初の長編アニメーション映画。『名探偵コナン』シリーズの静野孔文氏と、前月号でご紹介した『亜人』の瀬下寛之氏が監督を務めた。本作では、地球は「怪獣」や「ゴジラ」に乗っ取られ、人類は宇宙に追い出された設定で始まる。故郷を取り戻すべく帰還した人類の闘いを描く3部作の第1部。

金融市場にバブル期のような高揚感がない背景は?

前述のように、日経平均は16連騰と新記録を樹立したが、高度成長期はおろか、1980年代後半のバブル期のような高揚感は筆者にはない。背景には、生産年齢人口も増加していたバブル期と違い、現在は少子高齢化に人口減といった構造変化もあるが、株式市場や国債市場が日銀等の公的マネーや海外投資家に席巻されていることも大きいのではないか。

ちなみにバブル期の1990年3月末の海外投資家の日本株(上場株式)の保有比率は約4%、日銀はゼロだったが、2017年3月末では海外投資家は約30%(全国4証券取引所資料)。日銀はETFを含めると約3%で現在も上昇中。一方、2017年6月末の日本国債(含むTDB)の保有比率は海外投資家が10.8%、日銀が40.3%と、国債市場は既に両者で過半を占めており、現在も上昇中だ(日銀資料)。

国内民間投資家が『GODZILLA 怪獣惑星』のように、国内金融市場から追い出されている、言わば「新たなクラウディング・アウト」状態にあると感じるのは筆者だけであろうか。2017年ももうすぐ終わる。さて、2018年、政策に変化はあるのであろうか。総選挙の結果からは、当面、異次元緩和等は継続されそうだが、「政界、一寸先は闇」とも。。。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。同投資戦略室長、大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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