アナリストの忙中閑話【第2回】

アナリストの忙中閑話

(2011年5月27日)

【第2回】「水」と「安全」と「情報」は「タダ」ではない、「今年の夏」を乗り切る方法

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

3月11日午後2時46分に発生した「東日本大震災(2011年東北地方太平洋沖地震)」から、2か月以上が経過したが、余震リスクに加え、福島第一原発事故の収束に目途はつかず、夏場の電力供給不安が、西日本にも拡大の兆しを見せるなど、「震災」は依然、進行形といえる状況だ。

「震災」の長期化は、日本人の意識やライフスタイルを大きく変化させることになるのかもしれない。

「自称:ユダヤ人」のイザヤ・ベンダサン氏が、1970年に執筆した「日本人とユダヤ人」の中では、日本人にとって、「水と安全はタダ」と書かれているが、震災後、水が「タダ」と思っている人は、ほとんどいなくなったのではないか。

今から21年前、日本で初めて、「ペットボトル入りお茶」が販売された。当時、「誰がお金を出して、お茶を買うのか」といわれたが、いまや、「お茶」は、飲料メーカーの主要な収益源と化している。

そうはいっても、「軟水」の普通の「水」が、「お茶」のペットボトルより、高くなることはありえないと思われたが、震災後、東京では、「お茶」の2リッター入りペットボトルの在庫はあっても、「軟水」のペットボトルは、店頭から姿を消し、一部には、300円前後の「軟水ミネラル・ウォーター」が、「ご家族様1本限り」で、売りに出され、そこそこ、売れる状況となっていた。

さすがに、5月の中旬頃から、廉価物の箱売りが再開したものの、震災後、同様に、スーパーの店頭から消えたトイレット・ペーパーやカップ麺が、数週間後には、在庫がほぼ復元したことと比較すると、炊飯や料理、湯沸かし用の飲料水等として、相当程度が、水道水から置き換わったたことが推察される。

一方、「安全」に関しては、治安面では、「さすが日本」と海外から絶賛されたように、被災地や計画停電時にも、大きな変化はなかったが、「食の安全」に関しては、風評被害もあって、少なくとも、海外での日本ブランドは、大きく毀損しているのが実情である。

今後、「安心・安全」といったブランド価値回復のためには、官民挙げた粘り強い対策が必要だろう。

こうした中、重要となるのが、「情報」ではないか?

「水」、「安全」と並んで、我が国で、過去、「タダ」とみられていた代表格が、「情報」だ。
特に、「情報」は、近年、インターネットの普及等もあって、益々、有料化が困難となっているともいえる。

今から27年前、筆者が、銀行に入行し、独身寮に引っ越すと、既に、郵便受けに、某経済新聞が配送されていた。当然、代金は、給与天引きである。他方、最近の若者は、新聞をとっていないものも多い。聞くと、ゴミ出しが大変だとか、情報は、携帯電話やパソコンで取れるから大丈夫という。
こうした傾向は、全国的であり、大手のマスコミも、「団塊世代」の退職後を睨んで、活字媒体から電子媒体へのシフトを徐々に進めているのが実情だ。

但し、「タダほど高いものはない」というが、「タダの情報」には、刷り込み的な広告が付随していたり、いわゆる「ポジショントーク」や根拠が曖昧なものも多い。震災後、インターネット等を通じて、多くの風評が、流布されたのも事実である。

「風評」や「偽情報」に対抗するためには、コストをかけて、情報を発信し、受信するしかない。

我が国のブランド価値を高めるためには、官民挙げて、情報を世界に粘り強く発信し続けることが必要だ。我が国に対する海外の関心は、かつてないほどに、震災の影響で高まっているのは事実であり、復旧・復興への取り組みが、科学的で根拠があり、持ち前の組織力等を発揮し、実現されていけば、次第に、風評等も駆逐され、ブランドの回復に繋がろう。

そうした意味で、政府からの情報発信は、より重要だ。特に、諸外国の関心の高い原発事故に関しては、単なる楽観的な予想ではなく、正確で、迅速な情報開示が肝要と言える。少なくとも、政府内での情報発信の齟齬や海外から情報が国内に還流して、日本政府が追認するような事態だけは、避けるべきだろう。

一方、消費者も、「安心・安全」の確保のためには、「リスク・リターン」の観点からも、最低限のコストは必要との意識転換が必要かもしれない。

夏場の電力不足への対応に加え、中長期的なエネルギー政策の転換の可能性も含め、「節電」が奨励されている。それを「義務」や「負担」としてのみ受け止めたのでは、今年の夏は、「苦行」でしかない。

とかく、日本では、戦争等、危機時には、精神論が台頭する嫌いがあるが、「心頭滅却」しても、「酷暑」を耐えるのは至難の業だ。むしろ、老人や乳幼児は、生命や健康が危険にさらされる恐れも高い。

実際、エアコンが一部を除き普及していなかった2003年、欧州では、猛暑の影響で、フランスだけで、1万5千人近くが死亡、欧州全域では3万人とも5万人ともいわれるほどの死者が発生している。

気象庁が5月25日に発表した6月から8月までの3か月予報によると、今年の夏、東日本と西日本では、気温は、6月と7月がやや高め、8月が平年並みと予想されている。「ラニーニャ現象」により猛暑となった昨年ほどではないとしても、温暖化傾向の中、今年も「暑い夏」となりそうだ。

南欧では、「バカンス(「空」という意味の長期休暇)」や「シエスタ(昼寝)」という形で、「暑い夏」を乗り越えるのが伝統だ。

南欧以上に、酷暑の「日本の夏」、無理して、働こうとせず、頭を「空」にして、休んでみるのはどうだろう。近年、定番化しつつある、「安近短」ではなく、たまには、「高遠長」の「夏休み」を日本の田舎で過ごすのはいかがであろうか。少なくとも、海外観光客の激減で「青色吐息」にある観光業等をはじめ、「人・物・金」の移動で、日本が少しは元気になることは請け合いだ。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。同投資戦略室長、大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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