アナリストの忙中閑話【第3回】

アナリストの忙中閑話

(2011年6月24日)

【第3回】AKB48ヒットの秘密とアナリストの心得

元SMBC日興証券 株式調査部長 吉田憲一郎

6月9日はAKB48の総選挙で日本中が盛り上がった。台湾や韓国でも話題となり、香港では投票が行われた。テレビや映画館で生中継されるなど、本番選挙さながらの注目度で、ファンの熱狂ぶりは有権者のそれを大きく上回った。CD1枚に1票の価値があることで金権選挙という批判もあったが、メンバーから「票数は皆さんの愛」というコメントも生まれた。
かつて「おニャン子クラブ」の仕掛け人、現在はAKB48のプロデューサーとして時代の先頭を走り続ける秋元康氏はNHK番組のトークセッションの中で、ヒットを生み出すうえで一番大切なことは、「予定調和を崩す」と語っている。「人間は、予定調和のことをされても響かない」とも述べている。

株式市場でもまったく同じことが当てはまる。市場で織り込まれていること、すなわちコンセンサスになっていることが顕在化しても株価は動かない。市場で認知されていない情報を会社が開示した場合、それがコンセンサスすなわち予定調和との比較で、ポジティブであれば株価は上昇し、ネガティブであれば下落する。通常、悪い情報は織り込まれるのが速いため、狼狽売りをともなって株価が大幅な下落となることも少なくない。

アナリストの仕事は、レポートの公表などを通じて調査対象会社の将来の業績や企業価値などのマーケット・コンセンサス形成に資することにある。予定調和としてのコンセンサス業績予想、またそれを反映した市場の株価が「おかしい」と考えた場合には、アナリストは予定調和を崩すべく、レポート等で自分のオピニオンを発信する。コンセンサスと代わり映えしないことばかり語っているアナリスト、フォロワー的な姿勢を続けているアナリストが世の中で評価されるのは難しい。

アナリストの仕事の醍醐味は、それだけではない。地道な調査活動で自分が発掘した企業が株式市場で評価されると、エクイティファイナンス等による資金調達がしやすくなる。その資金を投じたR&D(研究開発)によって画期的な新製品やサービスが生み出されれば、人類の発展につながる。工場設備やマーケティングに投資されれば、企業が成長することによる雇用創出に加え、提供する製品やサービスの品質向上と価格低下が期待でき社会的な貢献も大きくなる。
反対に、保有している資産を経営陣が有効活用していない場合は、株主から預託された資金を無駄にしているという意味で、アナリストは企業に対して資本効率の向上を求める。

秋元康氏は「予定調和を壊すということは、単に、奇をてらうということではありません。今まで普通だと思われてきたものを根本から疑い、結果的に、人々の心に響くものをつくっていくこと」とも述べている。エンターテインメントの世界のみならず、創造的仕事を求められる我々アナリストが常日頃から胸に留めておくべき心得だ。

吉田憲一郎 プロフィール

1985年一橋大学商学部卒業後、日興證券入社。96年ソロモン・ブラザーズ証券転職後、同社が古巣と合弁で設立した日興シティグループ証券へ。2006年ゴールドマン・サックス証券入社を経て2010年日興コーディアル証券(現SMBC日興証券)へ復帰し、3度目の日興入社を果たす。2010年8月〜2012年8月まで株式調査部長。
日経アナリストランキングは商社部門で1999年〜2007年と9年連続1位、同放送レジャー部門で2003年〜2007年と5年連続トップ。

このページの関連情報