アナリストの忙中閑話【第5回】

アナリストの忙中閑話

(2011年7月19日)

【第5回】夏の風物詩と言えば、お化け、恐竜、宇宙人?

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

今年の夏は、全国的に、平年より約2週間、梅雨明けが早く訪れた。

海の日を含む3連休の中日の17日、日本は、太平洋高気圧に覆われ、北海道を除く広い地域で猛烈な暑さに見舞われた。気象庁によると、全国の観測点920カ所のうち、最高気温が35度を超える「猛暑日」を記録したのは、143カ所、最高気温30度以上の「真夏日」を記録した地点も674カ所と何れも今季最多となったとのことである。

暑い夏の風物詩と言えば、「入道雲に夕立」、「うちわと風鈴」、「麦わら帽子にビーサン」、「盆踊りと花火」、「海水浴にスイカ割り」、「アサガオやヒマワリ」、「セミとカブト虫」、「かき氷やビール」といったところが定番だが、筆者は、敢えて、「お化けに恐竜、宇宙人」を挙げたい。

夏のお化けと言えば、怪談、肝試し、お化け屋敷が浮かぶが、怪談や肝試しは、我が国では、平安時代から語り継がれており、伝統的な風物詩と言える。

但し、うちわや海水浴、かき氷などと違って、皮膚感覚として物理的に体を冷やすものではなく、風鈴や花火にように、聴覚や視覚から、精神的に「肝を冷やす」ものであり、より日本的と言えそうだ。

一方、恐竜も、ここ数十年、日本の夏には、定番のアイテムとなっているようだ。

筆者も、大学時代、夏休みのアルバイトとして、大手百貨店主催の「恐竜展」のスタッフを務めた経験があるが、百貨店では、夏休み中、恐竜展や甲虫展、熱帯魚展を開き、家族連れを動員するのが、以前は当たり前だった。近年は、百貨店の催し物は、やや縮小傾向にあるが、映画「ジュラシック・パーク」に代表されるCGやロボット技術の発達で、博物館等主催のより規模の大きなイベントが開催されるようになっている。

今年も、全国各地で恐竜展が開催されているが、東京・上野公園の国立科学博物館で10月2日まで開催中の「恐竜博2011」で登場する、恐竜の代表格ティラノサウルスには、背中に羽毛が生えていたとの新説も再現されている。また、名古屋市科学館では、中国の巨大な恐竜の全身骨格が展示されるなど、時代を反映した、従来とは、趣向を変えた催しも増えている。

猛暑の日本列島では、こうした室内イベントは、家族連れの強い需要を集めそうだ。

他方、夏と宇宙人は、あまり関係がないと思われるかもしれないが、ここ数十年、夏場に封切られる米国製のSF映画には、宇宙人が登場するものが格段に増えている。

その背景として考えられるのが、7月4日の米独立記念日だ。独立記念日と夏休みシーズンを前に、家族で楽しめる娯楽映画として、宇宙人モノが、ハリウッドで大量に製作されていると想定される。ポスト冷戦後、米国等西側諸国にとっても、仮想敵があいまい化、また、新興国を含むグローバルな営業面からも、宇宙人を仮想敵と見立てる手法が近年採られているものと見受けられる。

宇宙人モノの米製映画としては、ズバリ独立記念日を指す「インディペンデンス・デイ(1996年)」が挙げられるが、「スター・ウォーズ(1977年)」、「エイリアン(1979年)」、「E.T.(1982年)」、「プレデター(1987年)」、「宇宙戦争(2005年)」等、代表的な映画の大半が、5月(〜)7月に米国内では公開されている。

ちなみに、今年は、宇宙人モノの当たり年だ。

既に、米国では、3月に「世界侵略:ロサンゼルス決戦(国内9月公開予定)」、5月に「マイティ・ソー(国内公開中)」、6月に「スーパー8(国内公開中)」と「トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン(国内7月公開予定)」が公開され、7月には、「カウボーイ&エイリアン(国内10月公開予定)」が予定されている。また、上記に加えて、現在、国内では、昨年末から今春にかけて米国で公開された「スカイライン」や「アイ・アム・ナンバー4」も公開中である。

このうち、「スーパー8」は、米映画情報サイトMoviefoneによって、2011年上半期に全米公開された映画でベスト1位に選出されている。

同映画は、スリーマイル島原発事故が起きた1979年を舞台に、自主製作映画を作っている若者達を主人公としたものだが、実は、1979年当時、筆者は、高校3年生であり、いわゆる「映研」に属し、同映画のタイトルでもある「スーパー8ミリ」フィルムを使って、自主製作映画を撮っていた。

同フィルムは、コダックに加え、国内では、小西六写真工業(現在のコニカミノルタ)がスーパー8を販売、筆者は、やや廉価な同社のフィルムを使って、8ミリ映画を製作していたことから、今なお、「スーパー8」には強い思い入れがある。

現在、公開中のため、ストーリーは明かせないが、「未知との遭遇(1977年)」や「E.T.」などを思い起こさせる内容とともに、SFマニアには、格別のスパイスがふりかけられている。一般の方々にも、少年・少女時代の初恋の思い出とともに、夏のスリラー的な「肝を冷やす」効果も期待できるのでお薦めだ。

また、時代背景が、原発事故という点で、現在の日本と重なっているところも気になる映画だ。

以上、「夏」と「お化けと恐竜、宇宙人」というテーマで、綴ってきたが、本稿を頭の中で練っていた16日(〜)18日の3連休、「大化け」が登場することとなった。

「なでしこジャパン」が、第6回FIFA女子ワールドカップ、ドイツ大会で、世界ランク1位の米国を破って優勝したのである。FIFAワールドカップでの優勝は男女を問わず初の快挙だ。

「化ける」とは、変化するという意味だが、証券市場で、「大化け(おおばけ)」という場合、ポジティブ・サプライズ、つまり、良い方向にびっくりするぐらい変化、価格が急騰することを言う。

今年の「なでしこジャパン」は、歴代最強と言われていたが、さすがに、ドイツや米国に勝てると思っていた向きは少なかったのではないか。特に、米国との決勝戦、序盤戦は米国優位で、相当、ハラハラさせられた。但し、先制点を取られたものの、最後まであきらめず、延長戦を含め、2回同点に持ち込み、PK戦で最終的な勝利をものにした。

千年に一度と言われる大震災に見舞われ、今なお、放射能汚染や電力不足に悩む我が国であるが、少なくとも、心さえ折れなければ、逆転の可能性が残されていることを、「なでしこジャパン」は、身をもって示してくれたと言えそうだ。

日本の夏の「お化け」には、何か、痛快、爽快な響きもある。今年も暑い夏が予想されるが、「病は気から」と言うが、気持ちだけでも強く持ち、後で振り返って有意義な思い出を残したいものである。

但し、精神論だけでは、熱中症に勝てないのも事実。備えも怠らないようにしたい。この点は、【第2回】「水」と「安全」と「情報」は「タダ」ではない、「今年の夏」を乗り切る方法をご参照頂きたい。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。同投資戦略室長、大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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