アナリストの忙中閑話【第7回】

アナリストの忙中閑話

(2011年8月18日)

【第7回】アラフィフ受難の2011年、「敢えて、火中の栗を拾う」気構えが復興の第一歩

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

2011年は、アラフィフ受難の年

「アラフィフ」とは、「Around50」の略で、年齢的には、45歳以上54歳までの世代を指す。
今年は、アラフィフ世代の男性にとっては、受難の年と言えるのかもしれない。

今日は、2011年8月18日だが、ちょうど50歳の誕生日を迎えるのが、米国のティモシー・ガイトナー財務長官だ。

ガイトナー長官は、一部報道では、米政府債務の上限引き上げ問題が片付けば、財務長官を辞して、出身地でもあるニューヨークへ家族と移り住む意向と伝えられていたが、8月5日に、S&P社が、米国債の格付けを初めて最上級から引き下げ、金融市場が混乱したことで、2012年11月の米大統領選までは、現職にとどまる方針に転換した模様だ。

ちなみに、オバマ大統領も、8月4日に50歳の誕生日を迎えたばかりだ。

論語(為政第二)によれば、50歳は、「知命」の年となる。孔子は、50歳にして、天が自分自身に与えた使命を自覚したと弟子に答えている。

ガイトナー氏は、アジアでの滞在経験が長く、中国語や日本語の研究も行っていたとのことであり、孔子の言葉を知っていたのではないか。

当初は、家族との生活が、天命と思っていたものの、米財政問題の深刻化を受けて、新たな天命に向かって、再始動したのかもしれない。

実は、筆者も、今月下旬に、ちょうど50歳の誕生日を迎える。

今年、50歳を迎える世代は、国内では、共通一次試験1年目ないし2年目であり、筆者が銀行に就職した当時は、「新人類」とか、「機動戦士ガンダム」の流行もあってか、「ニュータイプ」と呼ばれたが、当時は、円高不況で就職環境等も良くなかったため、その後のバブル世代の方が、より「新人類」のイメージに近いのではないかと思っている。

1961年生まれの男性は、社会保障制度の面では、大きな過渡期にあたっており、この年の4月2日以降生まれから、完全に公的年金の受給資格が65歳となる。一方、1961年でも4月1日以前の生まれの男性は、「報酬比例部分」については、64歳から受け取れる。なお、1959年4月1日以前生まれの男性は、63歳からという風に、2年毎に繰り下がり、1953年4月1日以前の生まれであれば、報酬比例部分は60歳から全額受け取れる。

但し、本当に65歳から公的年金が受け取れるのかと言うと心許ない。

50年前の1961年に現行の公的年金制度の原型が始動しているが、その後の少子高齢化の進展や経済や運用利回りの悪化で、再度、受給時期が繰り下げられる可能性は否定できないからだ。

今年は、千年に一度と言われる規模の東日本大震災が発生、国力は一段と低下しており、まずは、8月末にも発足すると見込まれる新政権が遅ればせながらも、震災復興に全力を挙げて取り組めるかどうかが、公的年金制度の持続性を占う上でも試金石と言えそうだ。

その際、新たな首相が誰になり、政権の顔ぶれ、野党との関係、経済財政政策がどうなるかも注目される。

実は、自薦・他薦を問わず、現在、民主党代表選に名前が挙がっている面々には、アラフィフ世代が多い。

図表 1 民主党代表選の顔ぶれ(敬称略)

  枝野 幸男 前原 誠司 馬淵 澄夫 樽床 伸二 原口 一博
生年月日 1964年
(昭39)
5月31日
1962年
(昭37)
4月30日
1960年
(昭35)
8月23日
1959年
(昭34)
8月6日
1959年
(昭34)
7月2日
選挙区 衆院
埼玉県第5区
衆院
京都府第2区
衆院
奈良県第1区
衆院
大阪府第12区
衆院
佐賀県第1区
当選回数 6回 6回 3回 5回 5回
グループ 前原G
(凌雲回)
前原G
(凌雲回)
  樽床G
(青山会)
維新の会
政策 財政再建派 財政出動・
再建両立派
積極財政派 財政出動・
再建両立派
積極財政派
現職 官房長官 懲罰委員会
委員
国家基本政策
委員会委員
党国家基本
政策委員長
党総務委員長
元職 元党幹事長 元外務大臣 元国土交通
大臣
元党国会
対策委員長
元総務大臣
  野田 佳彦 小沢 鋭仁 海江田 万里 仙谷 由人 鹿野 道彦
生年月日 1957年
(昭32)
5月20日
1954年
(昭29)
5月31日
1949年
(昭24)
2月26日
1946年
(昭21)
1月15日
1942年
(昭17)
1月24日
選挙区 衆院
千葉県第4区
衆院
山梨県第1区
衆院
東京都第1区
衆院
徳島県第1区
衆院
山形県第1区
当選回数 5回 6回 5回 6回 11回
グループ 野田G
(花斉会)
国家ビジョン研究会 鳩山G 前原G
(凌雲会)
 
政策 財政再建派 積極財政派 積極財政派 財政再建派 積極財政派
現職 財務大臣 環境委員会
委員長
経済産業大臣 官房副長官 農林水産大臣
元職 元財務副大臣 元環境大臣 元経済財政
担当大臣
元官房長官 元衆議院
予算委員会

出所:民主党HP等より筆者作成。政策は筆者私見。

アラフィフ世代から次期首相の可能性

上記リストは、年齢の若い順に並べているが、マスメディアが有力視している野田財務大臣は、現在、ちょうど、54歳であり、今回の代表選がアラフィフ最後の機会となる可能性が高い。

既に、出馬宣言をしている馬淵氏は現在、50歳だが、代表選時には、51歳となる。

隠れた本命とされる前原氏は49歳、樽床氏と原口氏は52歳。出馬の可能性は低いと考えられるが、震災以降、菅政権の顔となった枝野官房長官は、47歳である。

野田氏は、松下政経塾一期生でもあり、アラフィフ世代、また同塾出身議員にとっても先輩格と言える。

現在名前の挙がっている約半数がアラフィフ世代のため、同世代から次期代表、首相が生まれる可能性も十分考えられる。

但し、野田氏が、自民党や公明党と「大連立」を提唱しているように、現在のネジレ国会では、政権運営は容易ではないだろう。

また、政党支持率等を勘案すると、衆院を解散しても、国民の支持を得るのは難しそうだ。むしろ、昨年の参院選の結果を勘案すると、政権を失う公算の方が高そうだ。

「敢えて、火中の栗を拾う」気構えが復興の第一歩

アラフィフ首相が誕生しても、米国同様、受難な時代は続きそうだ。

但し、ここは、天命と思って、「敢えて、火中の栗を拾う」気構えが、まずは、復興に向けた第一歩ではないか。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。同投資戦略室長、大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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