アナリストの忙中閑話【第8回】

アナリストの忙中閑話

(2011年8月19日)

【第8回】時価総額世界トップが5年7カ月ぶりに交代
−世界を変えたアップルCEOスティーブ・ジョブズ氏のドラマチック人生

元SMBC日興証券 株式調査部長 吉田憲一郎

8月10日、アップルの株式時価総額は終値ベースで3,372億ドル(1ドル=77円換算で約26兆円)とエクソンモービルを上回って、世界最大となった。エクソンモービルは2006年1月にゼネラル・エレクトリック(GE)から世界1位を奪取して以来、原油高などをフォローにペトロチャイナなどと争いつつトップを維持してきたものの、アップルに王座を譲った。

アップルを世界一の会社に導いた立役者は紛れもなく、カリスマCEOのスティーブ・ジョブズ氏である。ジョブズ氏は1976年に実家のガレージでスティーブ・ウォズニアックと2人でアップルを創業したが、自分がスカウトした経営陣によって85年にアップルから追い出される憂き目をみる。しかし、97年にカムバックするや否や、積年のライバルだったマイクロソフトから1億5,000万ドルの資金提供を受けると同時にMac向けソフト開発の約束をとりつけるなど、ウルトラCの再建策を次々と断行、見事に立て直した。ジョブズ氏がアップルに14年前に復帰して以来、同社の時価総額は100倍となった。

ジョブズ氏の壮絶な生き様については、2005年6月スタンフォード大学卒業式で自ら語った感動的なスピーチに集約されている。YouTubeなどで日本語字幕付き画像もアップされており、是非とも視聴をお薦めしたい。スピーチ原稿はスタンフォード大学のホームページでも読める。また、彼の公認する伝記が2011年11月21日に発売されることになっており、今から楽しみだ。

21世紀の代表企業としてアップルが飛躍する引き金となったのは、2001年10月発売のiPodであり、その後のiTunes Storeとともに世界の音楽ビジネスに革命を引き起こした。2007年1月にはiPhoneを発売してスマートフォン市場を開拓、2010年1月のiPadのリリースは記憶に新しいところだ。

ジョブズ氏はアップルの経営から離れていた間に、「トイ・ストーリー」や「ファインディング・ニモ」など世界的大ヒット映画を製作したアニメーション・スタジオのPIXARを共同設立していた。その意味では、パソコン、携帯電話、タブレットPCなどの各種デバイス、音楽、映像、書籍、ソフトウェアなどのコンテンツ流通、更にはアニメ映画製作など、あらゆるコンシューマー向けIT商品の分野でイノベーションを創り出したといえよう。

ジョブズ氏とアップルについては、数々の雑誌、書籍、ブログなどで既に紹介されているが、トリビアを二つ紹介したい。一つはジョブズ氏の服装へのこだわり(というか無頓着さ?)。彼のトレードマークは黒のタートル・ネックセーターとブルー・ジーンズ、スニーカー(それぞれのブランドも決まっている)。アップルの新製品の発表時にジョブズ氏が行うプレゼンテーションの絶妙さに出席者は毎回圧倒され、それが本になっている程だ。その場で紹介するデバイスは最新のものに進化しているものの、服装は98年から2011年まで同じ出で立ちで勝負服との差が際立っている。

二つ目は、iPodとiTunes Storeの開発の裏に三洋電機が関わっていたというストーリー。iPodが発売される前の2000年に三洋電機はデジタル・ダウンロード・プレイヤーの開発をアップルに提案していた。また音楽流通に革命を起こしたアップルのiTunes Storeのサービス開始は2003年4月だったが、三洋電機は2000年4月に「music.sanyo.com」という音楽配信サイトをネット上に開設していた。このあたりは2006年5月15日発行の「日経ビジネス」の記事(94-96ページ)に詳しい。

世界の金融市場はかつて誰も経験したことのない混乱局面にある。史上初めて格下げされた米国の10年もの国債利回りが1950年4月以来という60年ぶりの2%割れ水準まで低下したことが象徴的だ。日本が90年代から20年近く経験してきた超低金利下の成長率低下ということが欧米でも続くのではないかという懸念が高まっている。アナリストとしては「不易流行」の志で、次の時代を切り拓く経営者、企業の発掘に努めたい。

吉田憲一郎 プロフィール

1985年一橋大学商学部卒業後、日興證券入社。96年ソロモン・ブラザーズ証券転職後、同社が古巣と合弁で設立した日興シティグループ証券へ。2006年ゴールドマン・サックス証券入社を経て2010年日興コーディアル証券(現SMBC日興証券)へ復帰し、3度目の日興入社を果たす。2010年8月〜2012年8月まで株式調査部長。
日経アナリストランキングは商社部門で1999年〜2007年と9年連続1位、同放送レジャー部門で2003年〜2007年と5年連続トップ。

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