アナリストの忙中閑話【第10回】

アナリストの忙中閑話

(2011年10月18日)

【第10回】「キャプテン・アメリカ」に見る最近の世界情勢、ヒーローは1人では足りない?

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

映画「キャプテン・アメリカ」に見る古き良きアメリカのヒーロー像

前週末10月14日(金)に封切られたハリウッド映画、「キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー」を15日に視聴した。

同作品は、「スパイダーマン」や「超人ハルク」、「X−MEN」、「アイアンマン」等を輩出した米マーベル・コミック社の初代ヒーローを映画化したものだ。

ストーリーは、オフィシャルサイトによると、「1942年。兵士として不適格とされた病弱なスティーブは、軍の極秘計画『スーパーソルジャー実験』に志願し、まるで、別人の姿に生まれ変わる。パワー、スピード、身長等あらゆる身体能力が極限化され、正義感に溢れる魂もまた極限まで高められていた。しかし、政府は彼を兵士として認めず、星条旗デザインのコスチュームを着させ、『キャプテン・アメリカ』という名の軍のマスコットに仕立てる。国中の人気を集めるものの、仲間である兵士達からは相手にされなかった。そんな中、親友の所属する隊が全滅の危機に。実戦経験のないまま無断で仲間の救出に向かうスティーブ。だが、彼の前に強大な敵が立ちはだかる。ナチス科学部門(ヒドラ党)の支配者レッド・スカルが、かつてないエネルギー源で世界侵略を企てていた。彼もまたスーパーソルジャーだったが、野心を極限まで凶悪なものへと変貌させていた。大軍を率いるヒドラ党に挑む『キャプテン・アメリカ』は、果たして本物の英雄になれるだろうか?」とある。

戦時国債の広告塔だった「キャプテン・アメリカ」

この作品は、債券市場関係者にとっては、いくつかの点で興味深い内容となっている。
第1に、アメリカン・コミックス、通称「アメコミ」に出てくるスーパーヒーローは、何れもド派手なコスチュームを着ているが、その背景に国債が関係していることだ。

作品毎に理由はやや異なるが、スーパーマンやバットマンを擁する米DCコミック社と双璧をなすマーベル社の初代ヒーローでリーダーでもある「キャプテン・アメリカ」(*)が星条旗をモチーフとした派手なコスチュームを着ている訳は、大戦下で売り出された「戦時国債」の宣伝マンとして採用されたという設定にある。(*)1941年3月コミック初登場。

当時、実際に、「キャプテン・アメリカ」が「戦時国債」の販売に一役買っていたかどうかは定かではないが、第2次世界大戦下、米国債の残高は急増している。

1940年代、米国債の保有は、商業銀行と個人が双璧をなしており、両者で、6割前後の比率に達している。

さすがに大国アメリカと言えど、当時は、欧州戦線と太平洋戦線で、大戦を遂行しており、事実上、国家総動員状態に近かったものと想定され、国債の個人向け販売は、重要課題であったであろうことは容易に推察される。

ちなみに、1945年当時は、米商業銀行の総資産の6割近くが米国債となっているが、中銀の保有はあまり多くなく、FRBの保有シェアはQE2実施後の最近の方がむしろ高い。

グローバル展開を図る米ハリウッド映画

第2に、アメコミのスーパーヒーローが、グローバル市場を目指し、ハリウッド映画として再製されていることだ。

近年、アメコミのスーパーヒーロー物の実写版がハリウッドで大量に製造されている。

DC作品では、スーパーマン、バットマン、ウォッチメン、マーベル作品では、超人ハルク、キャプテン・アメリカ、X-MEN、スパイダーマン、ブレイド、ファンタスティック・フォー、ゴーストライダー、アイアンマン、マイティ・ソー等。

特に、2009年、マーベル社が約40億ドルでディズニーに買収されて以降、顕著な伸びを示しているが、やはり、近年の映画製作費の高騰、欧米経済の停滞等を受けて、新興国等グローバル市場を相手にするためには、政治色が薄く、年齢制限等の必要も少ないスーパーヒーロー物が、うってつけということではないだろうか(参考:【第5回】「夏の風物詩と言えば、お化け、恐竜、宇宙人?」)。

実は、「キャプテン・アメリカ」は、威勢の良い名前と違い、最新兵器や超能力も持たず、細胞は代謝が成人男性の4倍と活性化されているものの生身の肉体で勝負するヒーローだ。武器は、本来、防具である円形の盾だけで、銃も剣も持たない。

基本的に平和主義で、自己犠牲に溢れた高潔な人格者として描かれており、このあたりが、米国以外でも、受容されている理由だろう。

我が国でも、かつて人気のあった勧善懲悪型の典型的なヒーローであり、見ていて、不安にならない。今後、新興国等含め世界中でリリースされることになりそうだ。

余談だが、我が国でも、10月9日の日曜日から、筆者世代には絶大の人気を博した「機動戦士ガンダム」シリーズの新作「機動戦士ガンダムAGE」のテレビ放映が始まっている。内容は、従来の人類間の戦争から、UE(Unknown Enemy=未知の敵)を相手にし、3世代に渡る物語という点で異なるが、視覚的には、新作はキャラクターが「子ども向け」に見える点が最も印象に残った。

一方で、制作会社によると、同作品は、海外に向けて、英語や中国語、韓国語等5言語の字幕をつけてネット配信するとのことであり、ゲーム等含めたグローバルな市場展開が変化の背景にあるのかもしれない。

多極化する世界、ヒーローは1人では足りない

第3に、最近は、世界中で政治・経済面で混乱が発生、自然災害も多発している。一方で、人々の忍耐度・我慢強さは弱まっており、ヒーローが1人では足りないということだ。

我が国でも、指導者が1年毎に代わり、この5年で既に6人の首相が誕生している。

支持率の低下は、欧米でも同様であり、欧州不安の真っただ中にあるベルギーでは、過去1年4か月にわたって、政治空白が続き、3月にイラクを抜いて、選挙から政権樹立までの世界最長記録を更新中である。ようやく11月には、連立政権樹立の方向となったが、民族や言語の対立が背景にあるだけに正常化は容易ではなさそうだ。

「欧州のヘソ」と言われEU、EU委員会事務局やNATOといった国際機関に加え、トヨタ自動車等本邦企業含め、世界の大企業の欧州統括会社の多くが首都ブリュッセルに置かれているベルギーで、政治空白が1年半近くも続いているのは異常という他ない。

また、欧米主体に、格差是正等を求めるデモも頻発、世界各国で総選挙の前倒しが打ち出されており、経済不安が政治不安に繋がる状況となっている。

今後も、経済面や自然災害等で未知の危機(UC)が訪れる可能性も否定できない。

そうした政情不安を背景にしたせいか、マーベル社は、2012年、大作「ジ・アベンジャーズ」を公開する予定だ。同作品も、元々、コミック化されているが、作品中には、「キャプテン・アメリカ」をリーダーに、「アイアンマン」、「超人ハルク」、「マイティ・ソー」等、マーベル社のスーパーヒーローが多数登場する。

我が国の子ども向け特撮映画でも、最近はやたら登場キャラクターが増えている印象だ。

現実世界でも、戦後の超大国アメリカだけでは、手に負えなくなり、G5がG6→G7→G8に拡大、最近では、G20でないと、世界への影響力を示せない状況だ。「ジ・アベンジャーズ」は、多極化した世界、最近のリーダーシップ待望論に重なるところがある。

ちなみに、「ジ・アベンジャーズ」のリーダ―が、「キャプテン・アメリカ」となっているのは、その人物像のせいである。前述のように、自己犠牲精神あふれた正義漢だから、キャプテンに推されたのである。実力だけであれば、北欧神話に登場する雷神である「マイティ・ソー」等に敵うはずがない。なお、生身の人間と雷神がチームを組むという、このあたりの設定は、やはり、コミックの世界ではある。

危機時にこそ、寛容な心が必要に

但し、「キャプテン・アメリカ」は、第2次世界大戦以前のややモンロー主義的な古き良き時代の寛容なアメリカを表しているとも言える。

欧州財政危機も、各国が自国の利害を主張しているだけでは、終息は程遠い。

世界経済の安定と平和(過去、恐慌は戦争の引き金となっていることが多い)のためにも、経常黒字国であるドイツや中国等の大人の対応を求めたいものである。

一方で、政策実現には時間がかかる。我が国でも、政治家は、ビジョンや具体的な政策について、説明責任を果たす一方、有権者も一定の忍耐は必要かもしれない。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。日経債券アナリストランキング、14年連続10位内ランクイン。日経財政アナリストランキング2位(2004年〜2006年)。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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