アナリストの忙中閑話【第17回】

アナリストの忙中閑話

(2012年2月24日)

【第17回】欧州財政問題、マラソンはギリシャ発祥、沿道の観客の応援も必要

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

ギリシャ第2次支援策合意

2月21日にブリュッセルで開催した財務相会合で、ユーロ圏17カ国は、債務危機にあるギリシャに欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)が1,300億ユーロの追加支援を実施することで合意した。

ギリシャの債務削減のため、ギリシャ国債等を保有する民間投資家の負担も拡大、ヘアカット率は、元本の50%から53.5%に拡大され(額面の31.5%をギリシャ長期国債に、同15%をEFSF債と交換)、市場実勢より低利となったクーポン部分も含めると実質的なカット率は73(〜)74%程度、金額にして1,070億ユーロに上る模様だ。
ECB(欧州中央銀行)や各国中銀も、債務交換で得られた償還益を元に低利融資等でギリシャを支援、これにより、ギリシャ政府の債務、現在約3,500億ユーロ、対GDP比で161%を2020年までに、GDP比率で120.5%まで圧縮が可能となったと発表されている。
今回の支援策合意により、3月20日に予定されているギリシャ国債の償還(144億ユーロ)は、債務交換やEU等による支援により、一旦は、乗り切れる可能性が高まったと言える。

ギリシャは、マラソン発祥の国

今回の会合は20日夕に始まり、21日早朝、5時台に終了、結果、徹夜で13時間余り続くこととなった。

ユーロ圏財務相会合のユンケル議長(ルクセンブルク首相)は、会合終了後の会見を「グッド・モーニング」でスタート、欧州委員会のレーン副委員長も、長時間交渉に、「ギリシャは、そういえばマラソン発祥の国だった」と述べている。
実は、「マラソン」という言葉は、ファンロンパイ大統領やドイツのメルケル首相の会見でも、「危機対策は短距離走ではなく、マラソンだ」といったフレーズで、最近よく使われている。

但し、単に、「マラソン」という言葉が、「長時間」のみを意味するのであれば、それこそ、時間の無駄だ。

金融危機・財政危機には、迅速な対応が重要

わが国の不良債権問題においては、全体像の把握と抜本処理に10数年も要することとなり、クレジット・クランチ等に伴う長期の経済停滞が、一段の処理損失の拡大を招く結果となった。
わが国の反省も踏まえると、金融危機や財政危機には、迅速な対応が重要である。
初期消火とともに、世界の経済・金融市場に「大火」を波及させないための、防火壁(ファイアー・ウォール)の設定が必要不可欠である。
既に、初期消火に失敗したことは明らかであり、火の粉は、昨年来、アイルランドのみならず、ポルトガルやスペイン、イタリアに降りかかり、一部はフランスにも飛び火している。
そういう意味でも、ユーロ圏諸国は、欧州財政問題等が再噴火する前に、EFSFの機能拡充とESMの早期導入(2012年7月予定)を図り、市場の信頼たるセーフティネットの再構築に動くべきであろう。

ちなみに、昨年2011年(平成23年)の干支は、「辛卯(かのと・う)」。前回の「辛卯」の1951年には、現在のEUの前身であるヨーロッパ石炭鉄鋼共同体(ECSC)条約が調印されている。
ECSCは、1950年5月に、フランスのシューマン外務大臣が提唱したもので、永らく、ドイツとフランスの戦争の要因となった経済的権益、特に、石炭と鉄鋼産業を共有化することで、欧州大陸での戦争をなくすという発想に基づいている。
現在でも、EUの欧州議会が、ベルギーのブリュッセル(従)とともに、フランスのストラスブール(主)で開かれているのは、ストラスブールは、鉄鉱石と石炭を産出し、ドイツとフランスが領有権を争ったアルザス・ロレーヌ地方にあり、欧州統合の象徴としてふさわしいとの観点が背景にある。

欧州の叡智に期待、会議よりも実行が重要

今年、2012年(平成24年)の干支は、「壬辰(みずのえ・たつ」、字義的には、「人が動く」といった意味がある。
2011年の欧州は、「会議は踊る、されど進まず」であったが、今年こそは、1951年のECSC条約調印の原点に返って、欧州の叡智を結集、国際社会に対する鮮明なメッセージの発信と決定済事項等の着実な実行を期待したい。

「東京マラソン2012」が26日に開催

なお、マラソンと言えば、今週末2月26日、日曜日には、「東京マラソン2012」が開催される。
定員は、マラソンが35,500人
(エリート100人、チャリティランナー3,000人、東京マラソン公式クラブプレミアムメンバーから3,000人を含む)、10kmが500人。
今年の一般募集への応募人数は、28万3,988人(うちマラソン28万2,824人、10kmが1,164人)と、マラソンの抽選倍率は9.6倍に上ったとのこと。

過去最高となった2011年大会の33万5,147人(うちマラソン29万4,469人、10kmが40,678人)と比べると、10km主体にやや過熱感は和らいだが、約10倍という狭き門に変化はない。

マラトンの戦い

前述のように、マラソンは、ギリシャに起源がある。

紀元前450年9月12日(同年8月12日他諸説あり)、ギリシャのアッティカ半島東部のマラトン(Marathon)に上陸したペルシャ軍(アケメネス朝ペルシャ王国)をアテナイ・プラタイア連合軍が迎え撃った。

マラトンの戦いである。

兵力は、ペルシャ軍約2万人に対し、アテナイ軍9千人、プラタイア軍1千人と約2倍の差があったとされる(ヘロドトスによれば、ペルシャ軍は2万6千人)。
歴史書等によると、アテナイの将軍ミルティアデスは、ペルシャの大軍に対し、重装歩兵を駆け足で突撃させるという奇襲戦法を駆使、ペルシャ軍を撃退したとされる。
ヘロドトスの「歴史」によれば、その際、ギリシャ語で「勝利」を意味する「エウアンゲリオン」、英語では「エヴァンゲリオン」をアテナイに伝えるためにフィディピディス(Philippides)という兵士が伝令に選ばれた。
フィディピディスは、マラトンから約40km離れたアテナイまでを駆け抜け、アテナイの郊外で「我勝てり」と告げた後に力尽きて息を引き取ったと言われている。なお、プルタルコスによれば兵士の名前はエウクレス(Eukles)とされる。

近代マラソンは、市民マラソンが隆盛

近代マラソンは、上記の故事にちなみ、フランスの言語学者ミシェル・ブレアルの提案により、1896年にアテネで開かれた第1回オリンピックで、マラトンからアテネ競技場までの競走競技として採用されたのが始まりである。

東京マラソンの応援

由来によれば、マラソンは、完全な個人競技であるが、近代マラソンは、市民マラソンと言われるように、ある意味、最大の集団競技である。

東京マラソンには、3万5千人以上が参加するが、沿道の観客は、100万人を越し、日曜の午前中、全国ネットでテレビ中継される(東京では終了まで中継)。

筆者は、マラソンの参加経験はないが、自宅前がマラソンコースとなっており、車両通行が禁止されることもあって、毎年、沿道で観戦することにしている。

東京マラソンは、2007年に始まり、今回で6回目だが、この時期は、天気にバラツキが多く、雪の日もあれば、雨の日も、快晴の日もある。
午前中雨でも、午後には晴れて来る時もあり、寒暖の差も激しい。今年は、今のところ、晴れか曇りの予報となっているため、参加者には朗報だ。
筆者が応援する地点は、ゴール近くの38kmから40km地点だが、37km地点には、「佃大橋」という長い橋があり、ランナーは相当の体力をここで失うこととなる。
だいたい厳しい表情で、橋を下ってくるのだが、40km地点では一転、表情が明るくなる。沿道で多くの住民が旗等を振るのに加え、テレビ局や雑誌、新聞等のカメラが大挙して押し寄せているため、カメラを意識してか、元気が出てきて、最後の数キロを頑張ろうという気になるのだろうと思われる。
筆者の趣味は「水泳」だが、水泳の場合、水中でのスポーツであり、声援すら聞こえずに、あっと言う間に出番が終わることが多く、リレーを除けば、完全に個人競技だ。
一方、マラソンの場合、個人競技とは言えども、実は集団競技ではないかと思われるのはこのあたりの事情が背景にある。

アテナイまでの道は遠く、途中で倒れることも

話を戻すと、今回、ギリシャ支援策は、2010年5月の総額1,100億ユーロの第1次支援策に続き、2011年10月に合意した第2次支援策をようやく具体化(EU・IMF負担1,300億ユーロ、民間負担1,070億ユーロ)することで合意された。

但し、まだ、アテナイまでの道は遠いと言わざるを得ない。
今回、フィディピディス(ないしエウクレス)は、2,500年前と異なり、結局、アテナイの郊外にも到達できないかもしれない。
なぜならば、ギリシャからは、この2年で預金が2割以上海外(筆者予想では、主にシェンゲン協定加盟国のスイス?)に流出し、緊縮財政の影響もあり、マイナス成長が続いている。もとより、観光・海運、農林水産業が主体で、国際競争力の劣るギリシャの場合、ユーロ圏にとどまることは、通貨切り下げ等による競争力回復手段を奪う面もある。
筆者には、数年後、ギリシャが「ユーロ圏」から離脱する可能性は依然高いように思われる。

沿道の観客の応援を得るためにも、鮮明なメッセージの発信と着実な実行が重要

但し、一方で、2年近いマラソン協議は、ユーロ圏諸国が本音で「ユーロ」の将来を考える機会をもたらしたのも事実だろう。
7月稼働のESMには、日本や中国等新興国の資金も採り込んで、セーフティネットを1兆ユーロ超の規模に膨らますものと想定される。
繰り返しとなるが、沿道の観客の応援を得るためにも、ユーロ圏諸国には、国際社会に対する鮮明なメッセージの発信と決定済事項等の着実な実行を期待したい。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。日経債券アナリストランキング、14年連続10位内ランクイン。日経財政アナリストランキング2位(2004年〜2006年)。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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