アナリストの忙中閑話【第20回】

アナリストの忙中閑話

(2012年6月12日)

【第20回】6月11日は傘の日、国際的な「カネの傘」の整備が必要

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

毎年6月11日ごろは、暦の上で、雑節(ざっせつ)の一つ、「入梅」にあたる。
気象庁も、前週末8日の九州北部、四国、中国、近畿、東海に続き、9日には、関東甲信、北陸、東北南部で梅雨入りしたと発表(速報値)しており、今後、「傘」が出番となる。
ちょうど、需要期に合わせ、日本洋傘振興協議会は、6月11日を「傘の日」に指定しており、今後、販促活動が本格化しそうだ。
それにしても、最近の日本の梅雨は、「梅雨」と言うより、亜熱帯地域における「雨季」に近い。亜熱帯では、雨季の期間、猛烈な「スコール」ないし「シャワー」が降るが、その後、快晴となるケースも多い。我が国でも、最近は、この手のいわゆる「ゲリラ豪雨」というものが急速に増えており、昔の「五月雨(さみだれ)」的な「しとしと」というよりは「ザーザー」という表現に近い日が多くなった。そのせいか、傘も、最近はビニール傘でも、以前より壊れにくい構造のしっかりしたものが増えているように思われる。

我が国のことわざでは、傘と言えば、「降らぬ先の傘」や「濡れぬ先の傘」という風に、雨という「問題」に対する「対策」の位置づけにあり、傘を先んじて用意できることは、手際が良いとか、用心深いという意味で使われる。但し、傘が荷物になるのは事実であり、海外では、あまり、傘を持ち歩かず、コートで凌いだり、濡れるがままという国も多い。

発展途上国では、傘は高級品という事情があるものの、欧米でも、傘は必ずしも一般的ではないようだ。雨の多いロンドンでも、傘をもつ人は少なく、欧州では、だいたいコートの襟を立てて早足で歩いている。日本人は、雪の日も傘をさすが、今春、筆者が訪れたロシアでは、雪の日は傘はささず、はらうのだそうだ。

一方、2010年の夏、万博開催中に訪問した中国の上海では、日傘を持つ女性が多かった記憶がある。筆者が参加したツアーガイドの女性は、夜以外はずっと日傘をさしていた。中国の都市部では、女性の美白意識が高まっており、肌を焼くのはもっての他のようだ。また、上海は、夏は40度を超える。暑さ対策としても傘、特に、「折り畳み傘」が急速に普及しているようだ。
なお、お隣の韓国は日本同様、雨が多いが、こちらも、ほとんど、折り畳み傘が主流のようだ。どうも、日本人以上に、荷物になるのを嫌うのが原因とのこと。

他方、フランス人は、ファッション感覚で、雨傘・日傘、長傘・折り畳み傘を使いこなしているようだ。フランスの傘文化は、元々、イタリアの日傘文化が発祥のようだが、現代のイタリアではほとんど日傘は持たれていないとのことだ。

財政不安に揺れるギリシャはどうか。ギリシャでは、紀元前8世紀ごろには、傘に関する記述があり、当時は、祭祀に使われたようだ。その後、女性に関してのみ、日傘として普及したものの、雨のあまり降らないギリシャでは、現代ではほとんど傘は使われていないようだ。筆者が過去5月に当地を訪れた時も、日傘をさしているのは日本人観光客のみだった。

最後に、ドイツはどうか。ドイツ人も、あまり、傘をささないようだが、ドイツには、世界最古の折り畳み傘を世に送り出した老舗メーカー「クニルプス」が存在する。今でも、ドイツのみならず、欧州全体でも「クニルプス」は折り畳み傘の代名詞として完全に定着しているとのことだ。ドイツ人は、普段は傘をささないが、いざという大雨の時用に、バッグの底に、折り畳み傘を忍ばせているのだそうだ。さすが慎重で手堅いドイツ人らしい傘の利用法だ。このあたりの事情は、日本洋傘振興協議会のホームページに詳しい。

「傘」で、国民性を判断するのは、極端かもしれないが、欧州財政危機の収束のためには、ESM(欧州安定化メカニズム)等、セーフティネット(安全網)、ファイアーウォール(防火壁)の早期稼働により、必要な国に「カク(核)の傘」ではなく、「カネ(金)の傘」を差し掛け、市場の攻勢に対し、抑止力を持たせることが必要と考えられる。
この点、様々な「傘」を使いこなす「フランス」と、いざという時の「折り畳み傘」を携帯している「ドイツ」等の協働が重要と言えそうだ。その際は、「傘」が好きな日本人や「傘」が急速に普及しつつある中国等新興諸国も、国際経済全体の発展のためにも、応分の負担をするべきだろう。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。同投資戦略室長、大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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