アナリストの忙中閑話【第21回】

アナリストの忙中閑話

(2012年8月13日)

【第21回】プロメテウスとアベンジャーズに見る映画の将来

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

8月4日(土)、「プロメテウス」の先行上映を見てきた。「プロメテウス」は当コラム【第11回】「プリクエルと欧州問題、猿の惑星とカウボーイ対エイリアン」でも紹介したように、ヒットによりシリーズ化された某SF映画の「プリクエル(前日譚)」であるが、見ごたえがあった。第11回でも述べたように、最近は、プリクエル、つまり、エピソードゼロの映画が大流行だ。プリクエルは続編ではなく、1作目の過去を舞台としていることから、前作のファン層へのアピールが容易な一方、多方面で自由度が高いというメリットがある。製作費の大型化で興行を失敗できない映画会社のリスクヘッジニーズに加え、登場人物・設定・キャスト等の大幅な変更が可能となることで、監督や脚本家の自由度が高まり、新人俳優等の採用で出演料を抑制できるというのも魅力らしい。

いずれにせよ視聴者にとっては出来が良いことにこしたことはないが、昨年公開された「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」同様、中々の出来でお薦めである。同作品は、X-MENシリーズのプリクエルであるが、同作品で若き日のマグ二ト―役を演じ、好評を博したマイケル・ファスベンダーは、今回、プロメテウスにおいて、アンドロイドのデヴィッド役に扮している。

今後もプリクエルは、「シャイニング」や「ボーン・アイデンティティー」シリーズ、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズ、「オズの魔法使い」等が公開予定。なお、ボーンシリーズの場合、前日譚というよりスピンオフ作品、外伝に近い。

先行上映と言えば、14日からは、我が国でも、ハリウッドの大作「アベンジャーズ」が公開される。

同作品は、5月4日の全米公開以降、「ハリー・ポッターと死の秘宝PART2」を超え、全米歴代オープニング新記録を樹立、既に全世界で約15億ドルの興行成績を挙げ、「アバター」の同27.8憶ドル、「タイタニック」の同21.9億ドルに次ぎ歴代第3位にランクインしている(Box Office Mojo調べ)。今後、日本等での公開により、一段と順位を上げる可能性もある。

アベンジャーズは、【第10回】「キャプテン・アメリカ」に見る最近の世界情勢、ヒーローは1人では足りない?」でご紹介したように、米マーベル・コミック社のヒーロー達を映画化したものだ。映画では、キャプテン・アメリカ、アイアンマン、マイティー・ソー、超人ハルク、ブラック・ウィドウ、ホークアイ等が登場するが、原作では、スパイダーマンやX-MENのウルヴァリン等も登場する。マーベル社が2009年に約42億ドルで米ウォルト・ディズニーに買収される前に、映画化権を他の会社に譲渡済のものもあり、今回は、こういう構成となったようだ。

最近、日本の映画やゲームでも、現役ヒーローに加え、過去の先輩ヒーロー達が一度に登場する作品が増えているが、「アベンジャーズ」も似ている。やはり、各シリーズのファン層に一斉に動員をかけることで、興行リスクを低減するとともに、製作費や宣伝費等も完全な新作に比べれば抑制されるのが強みだ。但し、登場人物を増やし過ぎると、説明に時間を要し、その分ストーリーが大雑把となったり、各シーンの表現も大味となりやすい。今回の大ヒットの背景には、監督の工夫がありそうだ。同作品のジョス・ウェドン監督は会見で、各登場人物について、「何も知らない人でも楽しめるような作品」にするべく、参考にしたのが1987年の映画「ウォール街」とし、「わたしは登場人物のしゃべっていることが何なのかまったくわかりませんでしたが、作品を楽しむことができました」と語っている。つまり、各登場人物のディテールを細かく紹介するのではなく、エモーショナルな側面にスポットを当てることで、世界観がわからなくても楽しめる作品を目指したのだという。

ちなみに、ディズニー社の株価は、3月公開の「ジョン・カーター」の興行不振で映画部門が1-3月期に赤字となり低迷していたが、「アベンジャーズ」の大ヒットで、4-6月期は業績が急回復、最近、上昇傾向となっている。「2匹目のどじょう」を狙って、「アベンジャーズ」も既に2作目の製作が決まっており、今後、原作同様、シリーズ化する可能性もありそうだ。

「ジョン・カーター」は、古典SF小説「火星のプリンセス」を原作としており、「スターウォ―ズ」や「アバター」の原点とも言える作品である。原作者は、「ターザン」で知られる小説家エドガー・ライス・バローズ。私自身は、家族で楽しめ、好印象を持ったが、市場は甘くないということだろう。但し、「ジョン・カーター」の場合、ロシア等新興国ではヒットしており、必ずしも駄作と言う訳ではなさそうだ。米国での興行は今一つだったが、これは、やはり、他のエンターテイメントとの競合により、映画を見に行く時間が減少していることも背景にあるとも考えられる。また、同作品の場合、ディズニー映画なのに、PG13(13歳未満は保護者の指導が必要)ランクとしたことや有名俳優を起用しなかったことが原因との見方もある。

これらは、我が国でも同様だ。最近、朝夕の通勤電車内では、新聞や文庫本を読む姿がめっきり減り、代わって、携帯電話やスマートフォンに視線が集中している。家庭用ゲーム機も、ベストセラーの「ドラゴンクエスト」シリーズのオンライン版が発売されたように、ネット全盛時代だ。筆者も試してみたが、オンラインゲーム等は、膨大な時間を要する。但し、人間に与えられた時間は、一日24時間で昔も今も変わらない。

最近は小説の売れ行きが不振で、人気化するのも、携帯小説やテレビ・映画等の原作ばかりで、新人作家が中々、世に出にくい、生活が苦しいという話をよく聞く。

「アベンジャーズ」と「ジョン・カーター」の興行成績の違いも、同様の理由が背景にあるのではないか。

こうした傾向が続けば、映画や小説等の内容は、益々、画一化され、多様性が失われていく可能性も想定される。

一方で、国際経済等は、新興国の台頭で、日々、多様化しており、現実は、より多角的な観点で、物事を分析・判断することが必要となっている。

最近、米国内でも、共和党と民主党、保守とリベラルの対立が激化、中間派の議員が減少しているが、結果的に、エンターテイメントの世界でも、画一化、単純化が進行、それが、益々、有権者の他文化等への受容度、寛容度を減退させている可能性も考えられる。

米国や日本で、映画全体の売上げが伸び悩む中、一部の3D作品が、興行成績で歴代最高を更新している現状は、映画業界の将来という面では、やや心配な面もありそうだ。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。日経債券アナリストランキング、14年連続10位内ランクイン。日経財政アナリストランキング2位(2004年〜2006年)。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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