アナリストの忙中閑話【第30回】

アナリストの忙中閑話

(2013年12月10日)

【第30回】2014年の干支は「甲午」、午尻下がりとならぬような政策を/『47RONIN』と2014年の注目映画

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

2014年(平成26年)の干支は「甲午(きのえ・うま、コウ・ゴ)」

「甲午」は、「干支」の組み合わせの第31番目で、陰陽五行では、十干の「甲」は「木」の「兄(陽)」、十二支の「午」は、「火」の「陽」で、「相生(木生火:「木は燃えて火を生む」の意)」である。

「甲」は、「はじめ」、「創造」に通ずる

「甲」は十干の最初の干で、「甲」の古代文字は、亀の甲羅の文様の象形文字とみられる。そこから、固い殻を破った物の総称となり、植物では「よろい」をつけた草木の芽(鱗芽)が、その殻を破って頭を少し出した状態を表す。「甲」は「はじめ・はじまり」を意味し、「はじめ」とも読む。「甲」は新たな生命、新たなる創造に通ずる。

「午」は、反対勢力が台頭する意味

一方、「午」は十二支の第7番目で季節は旧暦の5月、動物では「馬」に配されている。方角は南、時刻は12時=「正午」を中心とする約2時間を表す。
「午」は「杵」の象形文字。また、「午」は「忤(ご)」に通じ、「つきあたる、さからう、そむく、おかす」といった意味がある。
草木の成長が極限を過ぎ、衰えの兆しを見せ始めた状態を表しているとされる。反対勢力の台頭で時の政権等の勢力の衰退を意味するとも考えられる。

「甲」と「午」を合わせると、2008年の「戊子(つちのえ・ね)」の混乱の中、生まれた新興勢力が、2009年の「己丑(つちのと・うし)」で表舞台に立つのだが、依然、周囲の抵抗にあい、完全には伸び切れない。

2010年の「庚寅(かのえ・とら)」の年になると、矛盾が噴き出し、2011年の「辛卯(かのと・う)」で新たな変化、再編が生じ、2012年の「壬辰(みずのえ・たつ)」の年、その胎動は一段と大きくなり周囲も無視できなくなる。2013年の「癸巳(みずのと・み)」の年、ついに地中から這い出し、世に出たが、旧来勢力は既に衰えを見せ、2014年には反対勢力も台頭する。再編等により新しい勢力を糾合し、新陳代謝を高めることが、政権等の長期化には必要ということかもしれない。

前回の「甲午」は1954年、戦後の「午年」の出来事

前回60年前の「甲午」である1954年(昭和29年)は、米ソの冷戦深刻化を受けて、国内では日米MSA協定の調印、防衛庁設置法・自衛隊法が公布され、保安隊(前身は警察予備隊)と警備隊が改組され自衛隊が設立された。海外でも西ドイツがパリ協定により主権が回復、再軍備され、東南アジア条約機構(SEATO)が発足している。

また、1954年には、ビキニ水爆実験により「死の灰」が降り注いだ第五福竜丸事件が起き、映画「ゴジラ」の封切、海外でも原子力潜水艦ノーチラス号進水、ソ連で原子力発電の開始等、核や原子力にまつわる出来事が多い。

その後、1966年には赤字国債の発行が開始され、1990年には株式バブルの崩壊が始まった。2002年には、田中真紀子外相(当時)の更迭等から内閣支持率が低下した小泉首相が北朝鮮を電撃訪問し拉致被害者5人が帰国した。小泉政権は再度、支持率が上昇した。

戦後の午年、時の政権には逆風が吹いたケースが多いが、長期政権化にはそうしたピンチを乗り越えることが必要だったとも考えられる。

戦後の「午年」の出来事

  • 2002年(1月)UFJ銀行発足、田中真紀子外相更迭、(4月)みずほ銀行、みずほコーポレート銀行発足、ゆとり教育スタート、(9月)小泉首相が北朝鮮を訪問。

    (1月)ユーロ紙幣とユーロ硬貨流通開始、(2月)ソルトレイクシティオリンピック、(7月)アフリカ連合発足。

  • 1990年(2月)衆議院総選挙、東京株式市場暴落、(4月)太陽神戸三井銀行発足、(6月)カンボジア和平東京会議、日米経済構造協議妥結、(7月)ヒューストン・サミット、(11月)即位の礼。

    (1月)ポーランドで統一労働者党解散、(2月)南アフリカで黒人指導者マンデラ氏釈放、(5月)ソ連邦内で分離・独立の動きが拡がる、(8月)イラク軍がクウェート侵攻、東西ドイツが統一条約調印。

  • 1978年(1月)伊豆大島近海地震、(2月)社会民主連合結成、(5月)成田空港開港式、(6月)宮城県沖地震、(7月)農林水産省(旧農林省)発足、ボン・サミット、(8月)日中平和友好条約調印、(12月)第1次大平正芳内閣発足。

    (9月)中東和平3国首脳会談、(11月)カンボジア救国民族統一戦線結成。

  • 1966年(1月)丙午で出生率低下、赤字国債発行、(2月)全日空機事故(死者133人)、(3月)人口1億人突破、(6月)敬老の日・体育の日制定、(7月)新東京国際空港を成田市に建設と決定、(11月)アジア開発銀行創立、(12月)建国記念の日制定、(6月)日韓基本条約調印、(7月)参院選。

    (1月)アジア・アフリカ・ラテン=アメリカ人民会議、(3月)ソ連の宇宙船が月面に軟着陸、(5月)中国で文化大革命開始、(7月)フランスがNATO軍事機構を離脱、NATO本部がブリュッセルに移転、(11月)西ドイツでキージンガー大連立内閣発足。

  • 1954年(3月)ビキニ水爆実験:第五福竜丸事件、日米MSA協定調印、(4月)造船疑獄指揮権発動、(6月)防衛庁設置法・自衛隊法公布、(9月)洞爺丸事故、(11月)日本民主党結成、(11月)映画「ゴジラ」封切、(12月)第1次鳩山一郎内閣成立。

    (1月)米国で原子力潜水艦ノーチラス号進水、(4月)ジュネーブ会議、(6月)ソ連で原子力発電開始、(9月)東南アジア条約機構(SEATO)発足、(10月)パリ協定(西ドイツ主権回復、再軍備)。

2014年のイベント、日米で金融・財政政策が焦点に

2014年は、2013年同様、米国では財政問題と金融政策が焦点となりそうだ。
2013年10月には、2014会計年度暫定予算の成立遅延により約18年ぶりに米国でガバメント・シャットダウン(政府機関閉鎖)が発生した。10月17日に成立した歳出継続法では、暫定予算の期限は2014年1月15日までとされており、年明けに暫定予算が延長されないと再度、ガバメント・シャットダウンのリスクに晒されることになる。一方、米連邦債務上限は2014年2月7日まで撤廃されたことで、米政府の資金繰りは4月頃までは維持されると予想されるが、こちらも撤廃期限の延長や上限の引き上げがないとデフォルトリスクに晒されることとなる。

米国では11月4日に中間選挙が予定されており、選挙までに中長期的な財政赤字削減策で、民主・共和の両党が合意に達する可能性は低いと考えられる。但し、春には両党内での予備選挙がスタートすることを勘案すると、中間選挙までの先送り策で妥協することになると予想している。

この場合、米国の金融政策も年明け後までには、量的緩和政策の縮小を開始する環境が整いそうだ。バーナンキFRB議長の任期は1月末であり、2013年12月17(〜)18日のFOMCの後は2014年1月28(〜)29日のFOMCが同議長が出席する最後の会合となる。上院での承認が得られれば、2月からはイエレン副議長が議長に昇格し、金融政策の采配を振るうこととなる。イエレン氏はハト派とのイメージが強いが、やはりハト派とのレッテルが貼られていたバーナンキ氏もグリーンスパン氏も、議長就任後の最初の政策変更は利上げだったことにも留意する必要があろう。

オバマ大統領の支持率は、シリア問題への対応や「オバマケア」の不具合等もあって、大統領就任後、最低レベルまで低下している。
来年の中間選挙で敗れるようなことがあれば、完全にレームダック化することとなり、政治的には極めて重要な1年となろう。
中間選挙の情勢はガバメント・シャットダウンの影響等で政党支持率では民主党が共和党を上回っているものの、上院では民主党の改選議員20名(非改選35名)に対し、共和党は13名(非改選32名)。民主党の改選議員は共和党の地盤州でも6名程度おり、やや苦戦が予想される。一方、下院は共和党が議席を減らすものの、選挙区割り操作の影響もあって過半数を維持することとなろう。結果、上院・下院とも両党が伯仲することが予想される。

一方、欧州では、2013年中にドイツではキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と社会民主党(SPD)の大連立が、イタリアではレッタ政権を支える連立組み替えにより、政治的にはむしろ安定することも予想される。欧州財政問題は徐々に収束すると予想されるが、成長率の改善策が焦点となりそうだ。

中国では1966年の午年には文化大革命がスタートしている。習近平氏が国家主席に就いて2年目に入るが、腐敗防止・構造改革と年率7%以上の高い経済成長を維持するという目標を両立させるのは大変だろう。足元では成長率に回復の兆しがみられるものの、暴動の増加や環境汚染等社会不安も深刻化しており、引き続き注視が必要か。

我が国では、2014年は安倍政権が発足して実質的に2年目となる。また、2年で2%の物価目標達成に向けて導入された日銀の「異次元緩和」も2年目に入る。4月には消費税率が8%に引き上げられ、年末には2015年10月の10%への再引き上げの是非を決定する必要がある。
安倍政権、また日銀にとっても、2014年は成果が問われる年となりそうだ。

戦後第3番目の長期政権を誇った小泉政権でさえ、政権発足後2年目には田中真紀子外相の更迭問題等で支持率が低下した。
支持率が再度、反転・上昇した要因は、小泉首相が北朝鮮を電撃訪問し、拉致被害者を連れ戻したことだった。

2014年は、安倍政権が支持率の低下を食い止め、長期政権化への基盤を固めることができるかに注目したい。政策課題としては、引き続き、アベノミクスや異次元緩和による日本経済の再生、デフレからの完全脱却とともに、原発の再稼働問題、中韓等との外交関係改善問題か。TPP問題や国土強靭化問題も具体策は2014年の課題となろう。

原発問題が政治問題化する可能性も

特に、原発の再稼働問題は、小泉元首相が「脱原発」を強く主張していることもあり、2014年の大きな政治問題となる可能性がある。ちょうど60年前の1954年は前述のように、水爆実験による被ばくとともに、原子力発電の軍事利用と平和利用が本格化した年でもある。第五福竜丸事件をモチーフとして製作された映画「ゴジラ」も1954年に封切られたが、2014年には2度目となる海外版が公開予定だ。

2014年は、我が国が原子力と今後どのように付き合うかを決める歴史の分岐点となる可能性もある。

「午尻下がり」とならぬよう、長期的な観点での成長戦略の策定と実行が重要

一方、株式相場に関する格言では、「辰巳天井、午尻下がり、未辛抱、申酉騒ぐ、戌笑い、亥固まる、子は繁栄、丑つまずき、寅千里を走り、卯跳ねる」とされている。

「卯跳ねる」の2011年は、東日本大震災の発生もあり、大地や水、風、人心、経済や金融システム等は揺れ動いたものの、肝心の本邦株価は底を這うばかりの1年であった。

2012年は「辰巳天井」の1年目だったが、春先を除けば、日経平均株価で8,000円台の推移が長く、「近いうち解散」の日程が決定した11月14日以降、新政権等への期待から円安・株高基調に転じた。
2013年は世界的な株高に加え、アベノミクス効果等もあって、日経平均株価は15,000円台に上昇した。
問題はこの勢いを2014年も維持できるか否かだ。

2014年4月には消費税率も引き上げられる。復興需要や増税前の駆け込み需要、安倍政権による景気対策効果等が発揮された2013年度が経済の天井となり、2014年度は「午尻下がり」となり、その後は長期の衰退局面に陥る可能性も否定できない。

日本経済の長期的な成長のためには、短期的な政策とともに、少子高齢化対策や将来的にも国際競争力が維持・強化可能な分野への重点的・戦略的な投資、規制改革や税制改革、行財政改革等、長期的な視点に立った政策の策定と実行が重要だろう。

2014年の注目映画

最後に、1年間、「アナリストの忙中閑話」におつきあい頂き誠にありがとうございました。
2014年も、「映画と世界情勢」に関する話題を主体に、引き続き面白い話、役に立つネタ等をご提供したいと存じておりますので、よろしくお願い申し上げます。なお、本シリーズは2013年10月号から原則、毎月発行となりました。

ちなみに、2014年に公開される映画で、私が注目しているのは、以下の作品。
2014年も多くの大作が封切られるが、続編、リメーク、プリクエル(前日譚)、スピンアウト(外伝)、また、リブート(新シリーズ)作品等シリーズ物の公開が多い。

洋画では「ロボコップ」「300 ライズ・オブ・アン・エンパイア」「マッド・マックス・フューリー・ロード」等往年の人気作の新作が久しぶりに公開される。また、トランスフォーマーシリーズの新作の「トランスフォーマー ロストエイジ」やロードオブザリングの外伝であり前日譚でもある「ホビット 竜に奪われた王国」「ホビット ゆきて帰りし物語」、猿の惑星:創世記(ジェネシス)の続編である「ドーン・オブ・ザ・プラネット・オブ・ジ・エイプス」、バイオハザードシリーズ新作の「バイオハザード6」も公開される。

邦画では2012年に大ヒットした阿部寛さんと上戸彩さん主演映画の新作「テルマエ・ロマエII」の公開が予定されている。場合によっては、年後半には平成最大の民放ヒット番組となった「半沢直樹」の続編がドラマとともに映画化される可能性もありそうだ。
アメコミの実写版の続編も多い。2014年公開の「マイティ・ソー ダーク・ワールド」「キャプテン・アメリカ/ザ・ウィンター・ソルジャー」は2015年公開予定の「アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン」の序章的な意味合いもありそうだ。他には、「X-MEN:フューチャー&パスト」「ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシー」「アメイジング・スパイダーマン2」も公開される。

旧東側諸国や新興国向けの販路拡大を狙い、近年益々製作数が増えている「怪獣と宇宙人物」も多くが封切られる。
怪獣物では、前述のようにゴジラ誕生60周年を記念してか海外版のゴジラ「GODZILLA」が5月頃公開予定。前作はローランド・エメリッヒ監督だったが、今回はギャレス・エドワーズ監督。日本からは渡辺謙さんらが出演。

宇宙人物では、「エンダーのゲーム」「インターステラー」「ジュピター・アセンディング」「エッジ・オブ・トゥモロー」等の大作が控えている。「エッジ・オブ・トゥモロー」は桜坂洋さん原作のSF小説「All You Need Is Kill」をトム・クルーズさん主演で映画化するもの。2013年公開のオブリビオンに似たテーストが感じられる。

童話の実写化では、眠れる森の美女の「マレフィセント」。3Dアニメでは「アナと雪の女王」。ちなみに邦画では「ルパン三世」「魔女の宅急便」「寄生獣」の実写版の公開が予定されている。
アフガン戦を舞台とした「ローン・サバイバー」やギリシャ神話をベースとしたものでは「ヘラクレス」も公開される。

証券界を舞台とした映画では「ウルフ・オブ・ウォールストリート」、筆者同様、経済アナリストが本職の主人公が諜報活動に巻き込まれる「エージェント:ライアン」等も見てみたい作品だ。
これらの作品は、来年、本コラムでご紹介させて頂きます。

ハリウッド版忠臣蔵「47RONIN」公開、海外での評価は如何に?

47RONIN

『47 RONIN』
12月6日(金)、世界最速公開
(C)Universal Pictures

最後に海外では2013年クリスマス封切りで、実質的には2014年映画とも言えるが、12月6日に「47RONIN」が日本で封切られた。同作は、忠臣蔵をモチーフとしており、主演はマトリックスのキアヌ・リーブスさん。真田広之さん、柴咲コウさん、浅野忠信さん、菊池凜子さんら日本人俳優も多数出演している。製作費1億7千万ドル以上をかけた大作。一説には公開の1年遅延等の影響で総製作費は2億ドルに上ったとも。筆者も封切り直後の前週末、早速鑑賞してきたが、ハリウッドの完全なエンターメント作品にも関わらず、武士道を描くシーンが多い。最初のうちは「グラディエーター」か「パイレーツ・オブ・カリビアン」かと見間違うが、キアヌ・リーブスさん演ずる主人公の「カイ」が血判状に「魁」と署名するシーンは日本の時代劇そのものだ。ちなみに、キアヌ・リーブスさんは全編、日本語での収録(公開中の映画は英語か吹替)も行ったとのことであり、気合いの入り方は相当なものだ。また、筆者だけかもしれないが、「カイ」は「安堂ロイド」に似ているような気がする。

問題は、見事仇討を果たした後の展開が海外で理解されるかどうか。海外でも好評価を受けることができれば、日本文化も相当海外で一般化した証だろう。

その場合は2020年の東京オリンピック開催を起爆剤に、政府が掲げる外国人観光客3000万人目標も早期に達成されるかもしれない。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。同投資戦略室長、大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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