アナリストの忙中閑話【第31回】

アナリストの忙中閑話

(2014年1月17日)

【第31回】「ランランリラン シュビラレ」と大型M&A、アカデミー賞ノミネーション

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

「1月は正月で酒が飲めるぞ、酒が飲める、飲めるぞ、酒が飲めるぞ」

昔、流行った歌にこんな歌詞があった。「1月は正月で酒が飲めるぞ、酒が飲める、飲めるぞ、酒が飲めるぞ。」と。
忘年会に新年会続きで、アルコールはもう充分という方も多いかもしれないが、今回は、お酒の話から始めたい。

酒の歌と言えば、「酒は飲め飲め 飲むならば日の本一の(ひのもといちの) この槍を飲み取るほどに 飲むならばこれぞまことの黒田武士」という歌詞の黒田節が有名だ。
黒田節は、今年のNHK大河ドラマ「軍師 官兵衛」の長男、黒田長政の居城福岡黒田藩に伝わる歌で、黒田長政の家来、母里太兵衛友信が福島正則から、大皿の酒を何倍も飲みほし褒美に名槍(日本号)を貰い受けた(飲み取った)逸話に基づいている。

サントリーが米蒸留酒最大手ビーム社を160億ドルで買収

今週の大きなニュースに、サントリーホールディングス株式会社(以下、サントリー)が米蒸留酒最大手ビーム社を160億ドル(日本円で約1兆6,500億円)で買収するというものがあった。

同社HPによると、サントリーと米蒸留酒最大手ビーム社(イリノイ州)は、サントリーがビーム社の全株式を1株あたり83.5ドル、総額約160億ドル(約1兆6,500億円)で取得、買収することで合意したとのことだ。

ビーム社とサントリーのスピリッツ事業をあわせた売上高は43億ドルを超え、世界のプレミアムスピリッツ市場において第3位のポジションを築くことになるとのこと。

ビーム社のブランドには、バーボンで「ジムビーム」「メーカーズマーク」「ノブ クリーク」、テキーラで「サウザ」「オルニトス」、ウオッカで「ピナクル」、ウイスキーで「カナディアンクラブ」、コニャックで「クルボアジェ」、スコッチウイスキーで「ティーチャーズ」「ラフロイグ」、カクテルで「スキニーガール」、ラムで「クルーザン」、アイリッシュウイスキーで「キルベガン」、ジンで「ラリオス」、他にウイスキーの「DYC」などがある。

「ランランリラン シュビラレ」が海外で聞こえる時

サントリーは、国内の老舗ウイスキーメーカーとして著名だが、少子高齢化や若年層のアルコール離れ等の影響もあって、グループ全体の売上に占める酒類の比率は3割程度に低下、飲料や健康食品等の売上が約7割を占めるに至っている。

最近のサントリーによる酒類のCMソングは、「ウイスキーがお好きでしょ」という「角ハイ」が定番だが、筆者のイメージは違う。

かつて、日曜洋画劇場など、映画のテレビ放映時によく流れていた「ランランリラン シュビラレ」というあのフレーズ。小林亜星氏作曲の「オールド」のテーマ曲「夜がくる」だ。ちなみに「ランランリラン シュビラレ」の後は「オデーエェェーオォー、ザンザンリラン シュビラレ ランザン ジュビラレー」と続く。

小中学生の頃に、同ソングになじんだことで、大人になったら是非、あのウイスキーを飲んでみたいと思ったものだが、最近はスーパーに行っても、「ダルマ」と呼ばれた「オールド」の存在感が薄い。

代わって、ワインや焼酎、はたまた、最近は「のんある気分」など、ノンアルコール物が店頭の一番目立つ場所を占拠している。
どうせアルコールが入っていないのであれば、コーラやジュースでよいようなものだが、妻などに聞くとそれこそ「気分」が違うそうだ。筆者はノンアルコールのビールやカクテルは飲まないし、今後も飲みたいとも思わないが。

もっと言えば、バブル期には「飲ミニケーション」という言葉が流行り、社内での飲み会を正当化する風潮も強かったが、最近では下手すると、パワーハラスメントと誤解されかねない。社内や仲間内での情報伝達手段も、電子メールやライン等のチャットが中心となり、よりバーチャル化しているのが実情だ。
但し、こうした国内市場の状況を勘案し、少子高齢化等を展望すると、今回の大型M&Aの背景も理解できる。

かつて、「ラフロイグ」等と並んで有名なアイラウイスキーの「ボウモア」(サントリー商品)を筆者に紹介してくれた同社に勤める高校時代からの友人も、英国やオーストラリア等に長く駐在しており、同社の酒類販売の主戦場は海外に移っているようだ。
買収成立後はビーム社の国際的な販売網にサントリー商品が乗ることとなる。「響」や「山崎」といった同社のプレミアムウィスキーの評価は海外で近年急速に高まっている。将来的には、リニューアルした「オールド」とともに、「ランランリラン シュビラレ」のCMソングが海外で流れることとなるかもしれない。

今回のビーム社の企業買収もサントリーの海外戦略の一環と言えそうだが、こうした傾向は製造業・非製造業問わず一般化しつつある。
サントリーは今回の買収に関連して、内部留保に加え、都市銀行からの借入を1兆円超の規模で行うようだが、何れにせよ、その資金は海外流出することとなる。

11月の経常赤字は過去最大の5,928億円

こうした中、財務省が14日発表した2013年11月の国際収支(速報)によると、11月の経常収支は、5,928億円の赤字と、2012年1月の4,556億円を上回り、現行統計で過去最大となった。赤字幅は前年同月比で4,132億円拡大した。
赤字は2カ月連続。季節的に12月及び1月も経常赤字となりやすいことから、2014年1月まで過去最長となる4カ月連続の赤字となる可能性がある。

円安の影響で自動車などの輸出が伸びた一方(前年同月比+17.6%)、LNGや原油など輸入は一段と増加(同+22.1%)、貿易収支の赤字は1兆2,543億円と11月としては過去最大となった。赤字幅は前年同月比で4,035億円拡大した。

一方、サービス収支の赤字は1,100億円と前年同月に比べ345億円改善した。訪日外国人旅行者数の増加と出国日本人数の減少等が背景にある。

所得収支は9,002億円の黒字と、黒字幅は前年同月比75億円(同+0.8%)拡大した。
また、経常移転収支は1,287億円の赤字と、赤字幅は前年同月比518億円拡大した。

なお、11月の季節調整済の経常収支は▲466億円の赤字となったが、現行統計では過去5回目の赤字。そのうち3回が2013年9月、10月、11月。いわゆる「Jカーブ効果」における、輸入増⇒貿易収支の悪化⇒輸出数量の増加⇒貿易収支の改善という段階への変化が起こりにくくなっていると言えそうだ。

背景には、既に輸出企業の海外生産へのシフトが相当程度進んでいるとともに、少子高齢化やグローバル化の影響で、今後も国内での設備投資が更新投資等を除き見込みづらいことが挙げられる。

細川元首相が小泉元首相の支援を得て東京都知事選に出馬へ

成人の日の連休明け後の1月14日の東京市場では、前週末に発表された2013年12月の米雇用統計が市場予想を大きく下回ったことで、円高・株安・債券高が進行したが、日経平均株価が前週末比500円近い大幅安となったにも関わらず、円ドルレートは依然、1ドル=103円程度にとどまり、翌日には1ドル=104円台後半に戻すこととなった。

また、14日昼には、細川護熙元首相(76)が小泉純一郎元首相(72)と会談。細川氏の東京都知事選への出馬と小泉氏の支援が確認された。政策の旗印は「脱原発」となる模様。
12月号では、2014年は原発問題が政治問題化する可能性を指摘したが、お屠蘇気分が抜けきれない段階から、雲行きが怪しくなってきたようだ。

こうした状況を勘案すると、長期的な円の上昇トレンドは東日本大震災が発生した2011年に既に終焉した可能性が高いのではないか。
円安は、デフレ脱却にはプラス要因だが、賃上げがついてこないと消費増税もあって、庶民の暮らしは厳しくなる。
今年4月には消費税率は現行の5%から8%に引き上げられるが、政府は年末には2015年10月の同10%への追加引き上げの是非を判断することとなる。

2015年には、1947年から1949年生まれの団塊の世代は全員65歳以上となり、年金生活に入るケースが増えるともに、医療の面では前期高齢者となり、医療費や介護費が嵩み始める。2025年には同世代は全員75歳に到達、後期高齢者となる。国内の資金循環も今後10年間は大きな変化が予想されそうだ。

そういう意味では消費増税は避けて通れないとも言えるが、景気が腰折れしては元も子もない。年末には追加的な経済対策の策定がスケジュールに乗ることとなろう。

異次元緩和も今年は2年目、黒田日銀総裁らの予測に基づけば、来年の春頃には消費者物価(除く生鮮食品)は前年比で、消費税の転嫁分を除き約2%、含めれば約4%に上がっているはずだが、到達できなければ、追加緩和等が必要になる一方、到達しそうになれば、消費者対策の財政出動や金利の上昇懸念が出てくることも想定される。
12月号の繰り返しとなるが、今年は安倍政権、黒田日銀にとっても正念場と言えそうだ。

第86回アカデミー賞のノミネート作品等を発表、「風立ちぬ」と「九十九」が候補に

1月16日、米映画芸術アカデミーは第86回アカデミー賞のノミネート作品等を発表した。発表・授賞式は3月2日。
長編アニメーション賞に宮崎駿監督の「風立ちぬ」が、短編アニメーション賞に森田修平監督の「九十九」がノミネートされた。
最多ノミネートとなったのは、「ゼロ・グラビティ」と「アメリカン・ハッスル」の10部門。次いで、「それでも夜は明ける」が9部門で後を追っている。

作品賞には、「アメリカン・ハッスル」「キャプテン・フィリップス」「ダラス・バイヤーズクラブ」「ゼロ・グラビティ」「her/世界でひとつの彼女」「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」「あなたを抱きしめる日まで」「それでも夜は明ける」「ウルフ・オブ・ウォールストリート」の9作品が、監督賞には、デビッド・O・ラッセル「アメリカン・ハッスル」、アルフォンソ・キュアロン「ゼロ・グラビティ」、アレクサンダー・ペイン「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」、スティーブ・マックイーン「それでも夜は明ける」、マーティン・スコセッシ「ウルフ・オブ・ウォールストリート」の5作品がノミネートされた。

なお、アカデミー賞の前哨戦となる第71回ゴールデン・グローブ賞(以下、GG賞)は1月12日に発表された。
映画の部では、作品賞が「それでも夜は明ける」(ドラマ部門)、「アメリカン・ハッスル」(コメディー/ミュージカル部門)。監督賞が「ゼロ・グラビティ」のアルフォンソ・キュアロン氏で、脚本賞「her/世界でひとつの彼女」のスパイク・ジョーンズ氏となり、アカデミー賞のノミネート作品が各賞を受賞することとなり、判断材料とはなりにくい結果となった。

なお、アニメ作品賞は「アナと雪の女王」が受賞。外国映画賞にはイタリア作品の「THE GREAT BEAUTY」が受賞、同賞にノミネートされていた「風立ちぬ」は惜しくも逃しており、アカデミー賞に期待がかかる。

GG賞とアカデミー賞の違いは、選考において重視されるのが前者のエンターテイメント性に対し、後者は芸術性と評されるが、むしろ前者の国際性に対し、後者は米国内の事情や世相と言えるではないか。
なぜなら、1944年にスタートしたGG賞(映画部門)の審査員は、ハリウッド在住のハリウッド外国人映画記者協会に所属する会員約100人であるのに対し、1929年からスタートしたアカデミー賞は、米映画芸術科学アカデミーに所属する会員約6,000人の投票によって選ばれるからだ。
アカデミー賞受賞作を我々が見ても、今ひとつピンとこないケースが多いのにはこのような事情もあろう。

それでも夜は明ける

「それでも夜は明ける」
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「アメリカン・ハッスル」と並び最多ノミネートとなった「ゼロ・グラビティ」は筆者も視聴したが、映像的には、それこそ序盤は目が回りそうなほど極めて斬新だった。但し、アカデミー賞の特性等を勘案すると「アメリカン・ハッスル」や「それでも夜は明ける」の方が有力かもしれない。
アカデミー賞の結果は3月号で特集の予定。

国内でも16日、第37回日本アカデミー賞優秀賞が発表された。
映画「そして父になる」「東京家族」「舟を編む」の3作品が最多12部門を受賞した。
最優秀賞は3月7日に行われる授賞式で発表される。

優秀賞は、2012年12月16日(〜)2013年12月14日に公開され、選考基準を満たした作品の中から日本アカデミー賞協会員の投票によって決定。今年の優秀作品賞は、5位の作品が同票数だったため、「凶悪」「少年H」「そして父になる」「東京家族」「舟を編む」「利休にたずねよ」と6作品が選ばれた。

また、優秀アニメーション作品賞には、「かぐや姫の物語」「風立ちぬ」「キャプテンハーロック」「劇場版 魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語」「ルパン三世vs名探偵コナン THE MOVIE」が選出された。

往年のアクションスターがスクリーンに本格復帰

年末・年始は東京の自宅で過ごしたこともあり、日米のアカデミー賞ノミネート作品等多くの映画を見たが、筆者の印象に残ったのは、「大脱出」と「キリングゲーム」。
前者の主演はシルヴェスター・スタローン(67)とアーノルド・シュワルツェネッガー(66)。後者はロバート・デ・ニーロ(70)とジョン・トラボルタ(59)。何れも往年の名アクションスターだが、4人の平均年齢は65.5歳。我が国では前期高齢者だ。但し、映画では、本格的なアクションをこなしている。特に「キリングゲーム」では主演の二人以外ほとんど登場せず、ほぼ全編アクションシーンに尽きる。

ちなみに、シルヴェスター・スタローンとロバート・デ・ニーロは4月公開予定の「リベンジ・マッチ」ではボクサー役で直接対決を行う。スタローンは「ロッキー」、デ・ニーロは「レイジング・ブル」で各々ボクサーを演じているが本作にはそれらのパロディーシーンも盛り込まれているようだ。

また、今年米国で公開予定の「エクスペンダブルズ3」ではシルヴェスター・スタローン、ジェイソン・ステイサム(46)、ジェット・リー(50)、ドルフ・ラングレン(56)、ランディ・クートゥア(50)、テリー・クルーズ(45)、アーノルド・シュワルツェネッガーらに加え、「ブレイド」のウェズリー・スナイプス(51)、「マスク・オブ・ゾロ」のアントニオ・バンデラス(53)、「マッドマックス」のメル・ギブソン(58)、「インディ・ジョーンズ」シリーズのハリソン・フォード(71)と何れも筆者(52)を含むアラフィフから上の世代が出演し、アクションシーンを繰り広げる予定だ。
世界的な高齢化の影響か、東京都知事選同様、ハリウッドでも元気なお年寄り(ちょっと失礼か)が増えているようだ。

第2次大戦時の英国首相ウィンストン・チャーチルは、多くの名言を残しているが、無類の酒好きだったこともあり、お酒に関する名言も多い。たとえば「酒は良くないと人は言うが私から奪ったものよりも遥かに多くのものを酒は与えてくれた。」などだ。ちなみにチャーチルは回顧録「第二次世界大戦」で1953年にノーベル文学賞を受賞した後、1965年に90歳の生涯を閉じた。

社会保障制度改革の鍵は元気なお年寄りの活用か

適度な飲酒は健康にも良いとの説もあるが、これには異論があるかもしれない。
何れにせよ、スポーツや趣味、特技等を活かして、心身ともに健康な老後を過ごすことが本人にとっても社会にとっても重要だろう。まして、社会に貢献できれば一石二鳥だ。

今後の社会保障制度改革の鍵は、健康寿命を延ばし、元気なお年寄りを増やすとともに、社会が上手く活用することかもしれない。但し、若年層に煙たがられないような配慮も必要だろうが。。。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。同投資戦略室長、大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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