アナリストの忙中閑話【第32回】

アナリストの忙中閑話

(2014年2月14日)

【第32回】冬の嵐とソチ五輪、ブラックマンデーとウォール街の狼

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

大雪は温暖化の影響、それともミニ氷河期入り?

2月に入り、関東地方は大雪に見舞われている。
前週末には、大雪の影響で交通網が寸断され、国民生活にも大きな影響が出た。2月8日23時には、東京都心で積雪27センチを記録。1969年に30センチを記録して以来45年ぶりの大雪となった。千葉市では9日午前2時、33センチの積雪を記録、1966年の観測開始以来最大となった。

東京では9日には都知事選の投開票が行われたが、大雪の影響もあり、投票率は2012年の前回を約16%下回り、過去3番目の低さとなった。今回のように、新人だけで争われた選挙でみれば、過去最低。低投票率の影響もあってか、都知事選では序盤戦でリードしていた舛添要一氏が次点に大差をつけて勝利することとなった。
前週末に降った雪が日陰などに残る中、本コラムを執筆している14日も窓の外では雪が降り続いている。予報では東京23区の多いところで15日朝までに10センチの積雪。

大雪と言えば、昨年来、米国東海岸を襲っている大雪の影響が雇用統計等にも大きなゆがみを生じさせ、金融市場に影響を与えている。12月分、1月分と非農業部門の雇用者数は市場予想を下回り、特に1月には新興国不安問題とあいまって、円高・株安・金利低下要因となった。
2月13日には、冬の嵐(winter storm)の影響でワシントンの政府機関が閉鎖されることとなった。

実は、winter stormの到来が、上下両院での米政府の債務上限延長法案(Temporary Debt Limit Extension Act)の可決を加速するという副産物も生んでいる。下院は11日、上院は12日に可決。オバマ大統領の署名により同法案が成立すれば、2015年3月15日までは米政府による追加的な国債発行や借入が可能となる。強制歳出削減問題、2014及び2015会計年度予算を含め、米財政問題は一旦、11月4日の中間選挙後への先送りが決まった。このことは、米経済及び国際金融市場にとっては当面の安定化要因と言えそうだ。

但し、今後とも、天候要因は経済・金融市場の変動要因となりそうだ。
今冬、東アジア、米東部及び南部、東ヨーロッパを襲っている寒波の要因については、温暖化の影響に加え、真反対のミニ氷河期の到来等、様々な説が唱えられている。
現状、日米欧政府の公式見解は、温暖化に伴う極渦の不安定化、偏西風の蛇行や飽和水蒸気量の増加によって、局地的な豪雪などを説明しているが、未解明の部分も多い。
今年暖冬となっている西ヨーロッパでは大雨が続き、英国の一部では250年ぶりの大雨となり、ロンドンのテムズ川が氾濫するなどしており、北半球の異常気象は温暖化の影響が大きいと筆者は考えている。

2004年公開の米映画「デイ・アフター・トゥモロー」は温暖化が原因で、深層海流の流れが急変、氷河期が訪れるという設定だが、足元、偏西風の流れが変化しているのは事実であり、温暖化が異常気象の原因となっている可能性は高そうだ。
一方、南半球ではやや事情が異なる。従来、温暖化の結果とされていた南極の氷の減少だが、長期的な陸氷の減少傾向は続いているものの、ここ数年海氷に関しては増加基調に転換したことが明らかとなっている。

2013年末から2014年初にかけて、ロシアの砕氷船が南氷洋で身動きがとれなくなり、救出に向かった中国の砕氷船も同様な状況に陥ったのは有名な話だ。最終的には両者とも自力で脱出したが、一時は米国やオーストラリアの砕氷船が救出に向かうこととなった。
一部の気象学者らは、太陽の黒点やフレア活動が通常の周期を過ぎても活発化しないことから、今後、地球はミニ氷河期に入る可能性があると指摘している。
彼らの説ではその傾向が強まるのは2014年からとのことなので、もう暫く様子を見る必要があるのかもしれない。

一方で、夏が猛暑となるケースが増えているのも事実であり(【第27回】猛暑と映画、事実は小説より危なり)、今後も異常気象が経済統計のブレやエネルギー価格の変動を大きくする可能性が高そうだ。

こうした中、2013年の経常黒字は3.3兆円と2012年から31.5%減少、現行統計では過去最少となった。要因は貿易赤字の拡大にあるが、少子高齢化や企業の多国籍化の影響などもあって、いわゆるJカーブ効果が発揮されず、足元では円安がむしろ輸入を増やす結果となっている。

2020年には、東京オリンピックが開催されるが、同年初には団塊世代が全員70歳代に達し、高齢化が本格化する年でもある。いまから6年後には、物価上昇率や長期金利の水準も欧米諸国にさや寄せされ、普通の国になっているのかもしれない。その際には、天候要因の影響も一段と拡大しそうだ。

ソチ冬季オリンピック開幕

こうした中、「winter storm」ではなく「winter sports」の祭典、ソチ冬季オリンピックが7日、開幕した。
23日の閉会式まで17日間にわたって、7競技98種目でアスリートたちの熱戦が(冬季だから「冷戦」?)が繰り広げられる。

今大会には史上最多の87の国と地域が参加。国内オリンピック委員会が開会式段階では資格停止中だったインドは、当初個人資格で3選手が参加、その後資格が回復、国旗の掲揚が認められた。

冬季オリンピックの参加国・地域数は1998年長野大会が72、2002年ソルトレイクシティ大会が77、2006年トリノ大会が80、前回バンクーバー大会は最多の82だった。
開会式は7日だったが、今大会では、冬季オリンピックとしては史上初めて、開会式に先立って6日から競技を施行した。

また、新種目としてフィギュアスケート団体、スキージャンプ女子、スキーハーフパイプ、スキー・スノーボードスロープスタイル、スノーボードパラレル回転、バイアスロン男女混合リレー、リュージュ団体が採用された。

我が国の冬季オリンピックの成績は、1998年長野の金5、銀1、銅4の計10個が最高。これに、1992年アルベールビルの金、1、銀2、銅4の計7個が続く。但し、最近はやや不振であり、2002年ソルトレイクシティは銀1、銅1の計2個にとどまった。2006年トリノは金1のみ。2010年バンクーバーでは銀3、銅2と計5個となったが、金はゼロとなった。
ソチでは、日本は金メダル5個を含む10個のメダルを獲得し、長野を上回る成績を目指しているが、13日現在、銀2、銅1の計3個。

スキージャンプ女子などは残念な結果となったが、フィギュアスケート男子ショートプログラムで歴代の最高の101.45点をマークした羽生結弦選手らの活躍に今後期待したい。

冬季オリンピックにおける日本のメダル獲得数

年明け後、内外の金融市場は調整ムード

ソチオリンピックの盛り上がりとは対象的に、年明け後、内外の金融市場ではやや嫌な雰囲気が漂っている。

2013年12月のFOMC(連邦公開市場委員会)会合で、米FRBが量的緩和の縮小を決定。年明けから従来の毎月国債450億ドル、MBS400億ドル計850億ドルの買入を、各々50億ドル計100億ドルの減額でスタートしたことにより、元々、やや成長が鈍化気味の新興国、特に経常赤字国から資金が流出、株安や通貨安に繋がっている。そうした影響に加え、前述のように大寒波到来で足元の経済指標が悪化している米国でも株安が進み、円高の影響もあって、日本株も調整局面にある。

日経平均株価は昨年末の引け値(16,291円)から一時2千円以上下落、2月5日には一時、14,000円の大台も割り込んだ。年明け後調整、2月に急落というのは、前々回の午年で株価が大暴落した1990年と似ており、やや気味が悪いのも事実だ。
但し、1989年末はバブルのピークであり、日銀の利上げも1989年にはスタートしていたが、今回は異次元緩和の真っ最中だ。

米国でも、やや誤解があるが、現状は量的緩和の拡大は継続中だ。今年に入って拡大のペースを落としただけで、年内はFRBのバランスシートの拡大が続く見込みだ。現状の追加部分の縮小ペースを勘案すると、国債やMBSの償還減によって、FRBのバランスシートが縮小し始めるのは年末から来年初にかけての見込みであり、足元の動きはやや思惑が先行している可能性が高い。

国内では東京都知事選も終わった。米債務上限問題も2015年3月までの先送りが決まった。大寒波の影響が剥落する春からは、再度、円安・株高トレンドに回帰するのではないか。
但し、11月には米中間選挙が行われ、年末には真の意味での米量的緩和の縮小がスタートする。新興国問題が正念場を迎えるのは来年となりそうだ。

我が国では、年末に消費税率の追加引き上げ(2015年10月に10%)の是非を決定する予定だ。日銀の異次元緩和が当初予定どおり2年で2%の物価上昇の目標を達成できるか否かも見通しがつこう。年後半には、アベノミクスの柱である第1の矢、第2の矢、第3の矢が再度、一斉に放たれる可能性もありそうだ。

ブラックマンデーとウォール街の狼

株価の暴落は、日本では1990年が代表格だが、米国では1929年の世界大恐慌を除けば1987年が記憶に新しい。
いわゆる「ブラックマンデー(暗黒の月曜日)」だ。

ブラックマンデーは、1987年10月19日(月曜日)に、ニューヨーク市場で発生した株価の大暴落をさす。それは、1929年の10月24日の暗黒の木曜日(ブラックサーズデー)と、続く10月28日(暗黒の月曜日)の下げ率(12.8%)を大きく上回る、率にしてマイナス22.6%、価格で508ドル安(ダウ工業株30種平均)という前代未聞の大暴落であった。暴落の理由は、日米欧の金融政策をめぐる不協和音に加え米国のイラン海上油田攻撃等がきっかけとされるが、下げ幅を拡大させたのは、プログラムトレーディングと言われている。
プログラムトレーディングとは、その名のとおりコンピュータプログラムの指示に基づいて株式を売買する手法であるが、主に先物と現物の価格差による値鞘を稼ぐアービトラージ等が主体である。

ブラックマンデーから1年以上前の1986年9月11日(木曜日)ダウ工業株は、史上最大の下げ幅(当時)を記録した。トリプルウィッチングデー(3か月に1度、株価指数先物・株価指数オプション・株式現物オプションの決済日が重なる日。魔の金曜日)を次週に控え、アービトラージの手仕舞い(SECが9月19日より規制策を実施する予定になっていた。)が入り易いところに、西独の利下げ見送り等の要因が重なり、機関投資家の先物売りが殺到、株価指数の下げが、先物買い・現物売りのプログラム売りを呼び込んだといわれている。この日のことを、ブルーサーズデー(憂鬱な木曜日)と人は呼んだ。
ブルーサーズデーから1年、SEC・CFTC・議会では、株価乱高下の犯人として「プログラムトレーディング」を規制するかどうか議論を進めたが、犯人説は否定され、さしたる規制はなされなかった。

そして、1987年10月、ブラックマンデーは起きた。ブルーサーズデーから1年、年金資金を主体に広まったポートフォリオ・インシュアランス(フロアーを確保すべくダイナミック・ヘッジ・オペレーションを実施)の手法は、アービトラージと相まって、史上最大の株価暴落を演出したのである。

筆者は、ブラックマンデーが起きる半年前の1987年5月、出張でNYのウォール街にいた。実は、研修がてら、ブルーサーズデーとプログラムトレーディングを調査しに行っていたのである。
当時の光景を思い出させる映画が現在、我が国で公開されている。
レオナルド・ディカプリオ氏主演の「ウルフ・オブ・ウォールストリート」だ。同作品は、アカデミー賞で、作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、脚色賞の5部門でノミネートされ、ゴールデン・グローブ賞では、ディカプリオ氏は主演男優賞を受賞した。
但し、同作品はお世辞にも子供の教育に良いとは言えず、国内ではR18+指定(18歳未満鑑賞不可)を受けている。

ディカプリオ氏演ずるジョーダン・ベルフォート氏は実在の人物で経歴は次の通り。1987年5月にウォール街の投資銀行LFロスチャイルドに入行。但し、外務員資格が取得できた半年後の10月、ブラックマンデーが起こり、勤務先の投資銀行は倒産。その後、ペニー株(くず株)を扱う証券会社に入社するが、持ち前の才能を発揮、証券会社を創業し、社長に就く。詐欺的な手口を駆使して、一時は年収5千万ドル以上を稼ぐが、証券詐欺と資金洗浄の罪でFBIに逮捕・起訴され、22か月間服役、証券界を追放される。現在は経営コンサルタントをしながら、映画の版権売却収入も含め年収の相当額(一説には50%)を証券詐欺の被害者らに弁償しているとのこと。

本映画はベルフォート氏の回顧録を原作として作られているが、実際にベルフォート氏が「ウォール街の狼」と呼ばれるほど有名だったかどうかは筆者にはわからない。原作(早川書房刊)も読んでみたが、どうも誇張等が含まれているようだ。
なお、ディカプリオ氏は主演に加えて製作にも参加、企画から完成までおよそ8年かかったという作品で、同氏は同作品の完成後暫く休業することを宣言している。

アメリカン・ハッスル

(C)2013CTMG

さすがに、ストーリー的に3月2日発表のアカデミー賞で作品賞を受賞するのはきついかもしれないが、ディカプリオ氏の熱演から主演男優賞はあるかもしれない。
一方、作品賞有力とされる「ゼロ・グラビティ」(日本公開中)、「アメリカン・ハッスル」(日本公開中)、「それでも夜は明ける/、原題『12 Years a Slave』」(日本公開3月)の中では、「それでも夜は明ける」と「アメリカン・ハッスル」が最有力か。なぜならば、この2作は、「ウルフ・オブ・ウォールストリート」同様、実話に基づくからだ。最近のアカデミー賞作品賞は、2013年の「アルゴ」、2011年の「英国王のスピーチ」、2010年の「ハート・ロッカー」等、実話に基づいた作品が多い。

特に「それでも夜は明ける」は、米国のかつての奴隷制度をテーマとしており、話題性は十分だろう。製作は同作品にも出演しているブラッド・ピット氏が務めている。一方、「アメリカン・ハッスル」は1970年代に実際に起きた汚職事件を取り上げているが、筆者の印象ではストーリー展開はやや複雑。

両賞とも、作品制作に携わった人脈の効果もあってか、ここまでアカデミー作品賞や監督賞に近いとされる内外の賞を受賞しており、接戦となりそうだ。
また、「ゼロ・グラビティ」も少なくとも視覚効果賞は獲りそうだ。
アカデミー賞の結果は3月号で特集予定。

冒頭、異常気象の話をしたが、その要因として、温暖化説は人類の生産・消費活動の影響、寒冷化説は太陽活動の影響との解説がなされている。
「ゼロ・グラビティ」で宇宙から見る地球はあくまで青く、美しい。映像は数十年前とは比較にならないほど進歩した。一方、人類が月に最初に降り立ったのは1969年7月のアポロ11号、最後は1972年12月のアポロ17号によるものだ。現在、中国が月への有人着陸計画を進めているが、既に40年以上、月に降り立った人類は存在しない。

一方、この間、コンピュータのハードやソフトは飛躍的に進歩、これが、CG等最近の映像技術の発達を促しており、また、世界的な金融緩和の効果もあって金融界も回復してきた。他方、エネルギーや航空宇宙技術等は、この間、革新的なイノベーションはあまり進んでいないのではないか。

時価総額順位で見ても、1位のアップルに続き、最近、グーグルがエクソン・モービルを抜き、2位に躍り出ることとなった。そのあとにマイクロソフトがつけており、金融銘柄も株高と相まって順位を上げてきている。

筆者が中学生の頃には、21世紀には高速増殖炉や核融合炉が実用化されているとの予想が出されていたが、現状ではその時期は見通せない状況だ。
また、航空機等もここ数十年、目立った進歩は見られていない。米国の空軍、海軍、海兵隊や航空自衛隊が運用予定のマルチロール戦闘機F38ライトニング(ロッキード・マーチン社製)は開発の遅れから、未だ実戦配備時期は定かでない。既に就航中のボーイング787ドリームライナーも電気系統などの故障続きだ。

温暖化の影響が深刻となっているのも、新興国を含む人類の生活水準の向上に比べ、エネルギーや輸送手段等でのイノベーションが進んでいない表れと考えられなくもない。

証券界に身を置く筆者が言うのもなんだが、「ウルフ・オブ・ウォールストリート」を観た後に、大雪が降る窓の外の景色を振り返ると、環境技術を含め、物づくりの意義を再認識する必要があるようにも思えてくる。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。日経債券アナリストランキング、14年連続10位内ランクイン。日経財政アナリストランキング2位(2004年〜2006年)。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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