アナリストの忙中閑話【第35回】

アナリストの忙中閑話

(2014年5月19日)

【第35回】GW映画は「アナと雪の女王」が圧勝、成熟国としてのビジネスモデル

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

今年のGW映画は「アナと雪の女王」が圧勝

今年のゴールデンウィーク(GW)は日並びが悪く、消費税増税に伴う節約志向もあってか、近場でレジャーを楽しむ「安・近・短」が主流だった。
そうした中、シネマコンプレックスも賑わいを見せたが、今年のGW映画では「Frozen」(原題)が圧勝となった。
「レリゴー」と聞こえる主題歌「Let It Go(〜)ありのままで(〜)」が爆発的なヒットを飛ばしている「アナと雪の女王」(邦題)である。

「アナと雪の女王」は国内興業成績でベスト3に入る可能性も

国内での興行収入は、5月15日現在で176.8億円を突破、9週連続の首位を記録し、「アバター」の156億円、「ハリー・ポッターと秘密の部屋」の173億円、「踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」の173.5億円を抜き、歴代6位に浮上した。
この勢いが続けば、歴代5位の「もののけ姫」(1997年:193億円)、歴代4位の「ハウルの動く城」(2004年:196億円)、歴代3位の「ハリー・ポッターと賢者の石」(2001年:203億円)をも上回り、トップ3に入る可能性もある。
累計動員数も5月15日現在で1,391万人を突破した。
既に、全世界での興行収入は、約12億ドルと歴代第6位、全世界アニメーション映画で1位となっている。「アナと雪の女王」のヒットで、配給元の米娯楽・メディア大手ウォルト・ディズニーの2014年1-3月期決算は27%の増益となったほどだ。

【日本歴代興行収入記録】(※5月16日興行通信社調べ)

ランク 作品名 興業収入
1位 『千と千尋の神隠し』(01) 304億円
2位 『タイタニック』(97) 262億円
3位 『ハリー・ポッターと賢者の石』(01) 203億円
4位 『ハウルの動く城』(04) 196億円
5位 『もののけ姫』(97) 193億円
6位 『アナと雪の女王』(14) 176億円
7位 『踊る大捜査線THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(03) 173.5億円
8位 『ハリー・ポッターと秘密の部屋』(02) 173億円
9位 『アバター』(09) 156億円
10位 『崖の上のポニョ』(08) 155億円

【全世界歴代興行収入記録】 (※5月12日Box Office Mojo調べ)

ランク 作品名 興業収入
1位 『アバター』(09) 27億8230万ドル
2位 『タイタニック』(97) 21億8540万ドル
3位 『アベンジャーズ』(12) 15億1180万ドル
4位 『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』(11) 13億4150万ドル
5位 『アイアンマン3』(13) 12億1543万ドル
6位 『アナと雪の女王』(13) 11億9074万ドル
7位 『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』(11) 11億2370万ドル
8位 『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』(03) 11億1990万ドル
9位 『007 スカイフォール』(12) 11億0860万ドル
10位 『ダークナイト ライジング』(12) 10億8440万ドル

進化するディズニー映画と絶妙なプロモーション

「アナと雪の女王」のヒットの背景は、かつてのディズニー映画や他の洋画アニメとは違ったややひねったストーリー展開に加え、「ドラマティック・ミュージカル」と称される日本版独自の観客を巻き込んだプロモーションにあったと考えられる。
実際、GW中の躍進の背景には、4月26日にスタートした「3D吹き替え版」や「みんなで歌おう歌詞付版(2D字幕・吹き替え)」の貢献が大きく、主人公のアナやエルサの衣装に身を包んだ家族連れが、映画館で熱唱する姿が多く見られた。
ちなみに、筆者が見たのは封切当初の「3D字幕版」。2014年の第86回米アカデミー賞長編アニメ映画賞と第71回ゴールデングローブ賞アニメ作品賞を受賞したことが鑑賞のきっかけだが、よく考えると、同作品はアカデミー賞の歌曲賞も「Let It Go」で受賞しており、国内でのプロモーションは目の付け所が良かったということだろう。
同作品の国際的なヒットの背景は、ディズニーがその伝統的なブランドを守りつつ、日々進化していることの表れと考えられる。

ディズニーランド訪問は幼少期の夢

筆者が初めてディズニーの創業者であるウォルト・ディズニー氏を知り、ファンとなったのは、そのアニメーション作品とともに、小学生の頃、同氏の伝記を読んだのがきっかけだ。
部屋の隅にいた「ねずみ」から「ミッキーマウス」を描くシーンや「夢の国、ディズニーランド」を建設するシーン等は今でも記憶の片隅に残っている。実際は、子供向けの伝記のため、様々な脚色がなされていた可能性が高いが、米国のディズニーランドを訪問するのが幼少期の夢だったのは確かだ。
その機会は、大学時代に訪れた。1人旅で米国を2カ月かけて1周した際、まずは、フロリダ・オーランドのディズニーワールド(1971年開園)に、また、世界最初のディズニーランドであるカリフォルニア・アナハイムのディズニーランド(1955年開園)を訪問した。
ディズニーワールドは、春という時節柄か米国のお年寄りの姿が多かったが、当時の日本の遊園地とは大きく異なる「夢の国」が存在していた。
1983年には東京ディズニーランドが、1992年にはディズニーランド・パリが、2005年には香港ディズニーランドが開業、現在、2015年開業を目指して上海ディズニーランドが建設中である。
ディズニーランドは、リピーターないしフリークの多さで知られるように、ディズニーブランドのコア(核)の位置づけにある。
ちなみに、マジックキングダム(魔法の王国)の中心にあるお城は、オーランドと東京のみがシンデレラ城であり、オリジナルのアナハイム、パリ、香港は、眠れる森の美女の城となっている。

ディズニーは2006年にピクサーを買収

一方、ディズニーは「トイ・ストーリー」や「ファインディング・ニモ」などの製作で知られるピクサー・アニメーション・スタジオの作品を配給し、2006年には同スタジオを買収している。
「アナと雪の女王」は、伝統的なウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの作品だが、最近の作風の変化には、他のスタジオ作品の影響等もみられそうだ。
原作はアンデルセン童話の「雪の女王」とされているが、完全なオリジナルに近い。ネット上では、我が国のテレビアニメ「聖闘士星矢 北欧アスガルド編」との類似点も指摘されている。ちなみに、「聖闘士星矢」は最新作の「Legend of Sanctuary」の映画公開が6月に予定されている。
同じくディズニー映画の「ライオンキング」と手塚治虫原作の「ジャングル大帝」の関係にも似ていると言えるが、前述のように、ビジネスとして世界中に拡販する能力は、我が国アニメの数段上を行っているのは間違いない。
アジアに3つ目となるディズニーランドを上海に建設するのも、GDP第2位、購買力平価では既に第1位とも試算される中国市場を見据えた動きであろう。

ディズニー等米国の娯楽産業に見習うところは多い

我が国の漫画・アニメ関連のコンテンツの質の良さは疑いようがないが、ディズニー等米国の娯楽産業に見習うところも多いと言えそうだ。
むしろ、ハリウッド映画は一歩先を行って、最近では日本発のコンテンツの取り込みを積極化させている。今年公開の「オール・ユー・ニード・イズ・キル(海外版題名:『Edge of Tomorrow』、原作:桜坂洋氏)」(日本公開7月)、「GODZILLA ゴジラ」(同7月)、「トランスフォーマー/ロストエイジ」(同8月)は何れも原作が日本発の作品だ。

今年誕生60周年となる「GODZILLA」が好発進

なお、「GODZILLA」は北米で5月16日に公開されたが、初日の興行収入は3,850万ドルと「キャプテン・アメリカ ザ・ウィンター・ソルジャー」の3,690万ドルを上回り、今年の最高記録を更新した。本コラムでも取りあげたが、「ゴジラ」の初回作品は1954年に封切られ、今年は60周年にあたる。ハリウッド版2作目となる本作は、5月18日放映のNHKアーカイブス「ゴジラからのメッセージ」でも特集されたが、ギャレス・エドワーズ監督は初回作を英国で鑑賞したことがあるとのことであり、前回のハリウッド版と比較するとゴジラの風貌を含め、原作に忠実な作品に仕上がっているようだ。なお、同作品には、科学者役の渡辺謙さんら日本人俳優も多数出演している(日本公開は7月25日)。

欧州でも「アルプスの少女ハイジ」等が幾度も再放送

筆者がかつて、イタリアやフランスを訪問した際、テレビをつけると「アルプスの少女ハイジ」が放映されていた。声以外は日本で放映されたままだったと記憶している。
「アルプスの少女ハイジ」に限らず、日本のアニメは世界中で放映されているが、過去、世界に拡散した背景には、版権の管理が十分でなかったことも影響しているようだ。
そのことが、世界中に日本のアニメファンを醸成したことも確かではあるが、ビジネスとしては、まだ、道半ばと言えそうだ。

東京ディズニーランドは興行面で最も成功を収めた施設

ディズニーランドは、前述のように現在、世界で5地域にあるが、興行成績面では、東京ディズニーランドが最も成功を収めた施設と言える。
実際、当初の構想段階では、必ずしも恒久的な施設の位置づけにはなかったと記憶しているが、興行的な大成功により、2001年には東京ディズニーシーがオープンし、今後も施設拡張が計画されている。
いわゆる日本的な「おもてなし」とディズニーのブランドやビジネスモデルが上手く融合した成功事例であり、「アナと雪の女王」も同様だろう。

2013年度の我が国の貿易サービス収支は過去最大の赤字となり、経常収支の黒字はわずか0.8兆円

2013年度の我が国の貿易サービス収支は、円安等に伴うエネルギー価格の上昇や国内企業の海外生産の拡大等から、14.4兆円の赤字と過去最大の赤字となり、経常収支の黒字もわずか0.8兆円と比較可能な1985年以降で最少となった。

成熟国としてのビジネスモデル

今年の年末には、いわゆる「団塊の世代」が全員65歳以上と前期高齢者となるなど、今後、我が国は本格的な高齢化社会を迎える。少子化も歯止めがきかず、国内市場が縮小する中、今後は、成熟国としてのカルチャー等の輸出や観光立国の重要性が増すこととなる。
政府は、成長戦略の一環として、「クールジャパン」を推進しているが、我が国の放送コンテンツの輸出額は「韓流」の半分程度にとどまる。
こうした中、「角川書店」で知られる出版大手のKADOKAWAと動画配信サービス「ニコニコ動画」を手掛けるドワンゴは5月14日、10月に経営統合すると正式に発表した。KADOKAWAが持つアニメやゲームなどのコンテンツと、ドワンゴのインターネット技術を融合させ、内外に情報交換の機会を提供するとのことだ。
今後、我が国が貿易・サービス収支を改善させ、所得収支の黒字を維持・拡大するためにも、ソフト関連のビジネスモデルの見直しは急務だろう。
この点に関しては、ソフト先進国である米国等諸外国を見習う点は多いと言わざるをえない。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。同投資戦略室長、大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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