アナリストの忙中閑話【第39回】

アナリストの忙中閑話

(2014年9月24日)

【第39回】スコットランド独立運動と女王陛下の007、銀河の守護者と『アベンジャーズ2』

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

スコットランド独立の是非を問う住民投票、反対多数となったが世界中の注目を集めることに

英国からの独立の是非を問い9月18日に実施されたスコットランドの住民投票は、反対55.25%、賛成44.65%となり、英国への残留が決まった。
1カ月前には、我が国ではほとんど報道されていなかった独立問題だが、今月に入り、世論調査が拮抗、一部では賛成多数の結果が出ると、報道も過熱、前週はちょっとしたスコットランドブームが起きることとなった。
背景には、ここ数年世界的に民族問題が先鋭化、中東やウクライナ等では地域紛争に繋がっていることから、同問題に対する関心が高まっていることもあるが、映像の効果も大きそうだ。

女王陛下の007とハリー・ポッター

本稿でもとり上げた英国を代表するスパイ映画『007』シリーズの初代ジェームズ・ボンド役のショーン・コネリー氏は、熱心な独立推進派。対して、『ハリーポッター』シリーズの原作者J・K・ローリング氏は、独立反対派と、映像とメロディー付で紹介されると、つい、目がテレビに行ってしまう。
ちなみに、J・K・ローリング氏の出身は、イングランドだが、シリーズ第1刊の『ハリー・ポッターと賢者の石』は、当時、シングルマザーとして生活保護を受けながら、スコットランドのエジンバラのカフェで書き上げたとされる。USJにも造成された「ホグワーツ魔法魔術学校」は、どうみても、スコットランドが舞台だろう。
ショーン・コネリー氏のスコットランド自立精神は昔から有名だが、実は『007』シリーズの最新作である2012年公開の『スカイフォール』(【第22回】スカイツリーとスカイフォール、映画と債券)でも、ダニエル・クレイグ氏が扮するジェームズ・ボンドの実家はスコットランドのハイランドの設定となっている。
ハイランドは言語(ゲール語)、宗教(カトリック)の面でも、イングランドとは遠い存在であった。今回の住民投票では反対52.9:賛成47.1で反対が多数となったものの、その比率は総平均よりは低い。
ジャームズ・ボンドと言えば、一方で、『女王陛下の007:On Her Majesty’s Secret Service』でもある。先のロンドン・オリンピックでも、開会式に、007役のダニエル・クレイグ氏がエリザベス2世女王をエスコートする形で登場、今や英国の無形文化遺産の一つと言えそうだ。
今回の独立運動でも、独立賛成派も、英国女王を引き続き、君主として戴くことを主張しており、そのあたりが、平和的な住民投票を可能とした背景とも考えられる。
スパイ映画には、最新兵器の登場がつきものだが、前週あたりは、スコットランド最大の都市グラスゴーから約40キロメートル西方のクライド海軍基地に停泊している、戦略潜水艦も登場、益々、映画的な雰囲気を高揚させることとなった。
但し、英国にとっては、同基地は極めて重要な問題で、この基地の存在が、キャメロン首相の急変した低姿勢の背景との見方もある。
英国は1952年に核実験を行い、米国、ソ連(ロシア)に続き、世界で3番目の核保有国となったが、1998年末をもって、空軍が保有する核弾頭を全て撤去、現在は、海軍の原子力潜水艦4隻に搭載するSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)が唯一の核戦力となっている。
現在、英海軍が保有する戦略原子力潜水艦は、第1世代の米国製ポラリスA3SLBMを搭載していたレゾリューション級4隻に代わり、第2世代のヴァンガード級4隻となっている。SLBMは米国製のトライデントII(D5)を搭載。1番艦は1993年に就役した「ヴァンガード(S28HMS Vanguard)」、2番艦は1995年就役の「ヴィクトリアス(S29HMS Victorious)」、3番艦は1996年就役の「ヴィジラント(S30HMS Vigilant)」、4番艦が1999年就役の「ヴェンジェンス(S31HMS Vengeance)」と何れも、頭文字が「V」で始まる。ちなみに、HMSは「女王陛下の潜水艦」の意味だ。
ヴァンガード級は、UGM133AトライデントII(D5)SLBMを各16発搭載。各弾道ミサイルには、最大12発の核弾頭を搭載可能だ。但し、通常、即応態勢に入っている核弾頭は、1隻あたり、48発(各SLBMの弾頭は3発)を上限として運用されている模様。トライデントII(D5)の射程は、7,400(〜)11,000キロとされており、英国近海からユーラシア大陸全域をカバーする。4隻中、常時1隻が、外洋で作戦任務に就いている。
英国からの独立を推進していたスコットランド自治政府は、独立した場合、2020年までに核兵器を国外に移転させる方針を表明していた。独立が決まっていた場合、将来的に移転が必要となるが、巨額の費用がかかるとともに、仮に核戦争が勃発した場合、真っ先に攻撃を受ける可能性が高い同基地を受け入れる自治体が果たして存在するのかとの疑問があった。
英国が核兵器を放棄することになれば、欧州の安全保障への影響のみならず、現在核保有国が常任理事国を占める現在の国連安全保障理事国の拡大論議に火をつける可能性もあり、我が国を含め、常任理事国に手を挙げている国々の関心は高かったと思われる。
最後には、エリザベス女王が「慎重に考えて」とやんわりと独立を牽制、英政府及び政党党首の署名入りの自治権拡大等の約束が、消極的な独立賛成派を反対派に引き戻すこととなったと考えられるが、今後の展開はどうだろう。
後日、発表された年齢別投票結果では、若年層に独立賛成派が多い一方、65歳以上等高年齢層は独立反対派が圧倒的であった。背景には、年金への不安があった模様だが、意識変化を意味している可能性もある。
将来的に、英国のEUからの脱退の可能性が高まれば、スコットランドがEU残留を唱えて、再度独立運動が高まる可能性も否定できないだろう。

スペインのカタルーニャ自治州でも、11月9日に住民投票が実施される

同じく、独立問題を抱えるスペインのカタルーニャ自治州でも、11月9日に住民投票が実施される。同自治州の議会では19日、住民投票を行うための法案を可決した。但し、英国と違い、中央政府は、投票が憲法に違反する可能性があるとして、裁判所に訴える構えを見せている。
今年は、スペイン継承戦争で、カタルーニャが自治権を失った日(1714年9月11日)から300年の節目にあたり、9月11日の「カタルーニャの日」には、バルセロナ警察発表でデモ参加者が180万人に膨れ上がった。
バルセロナは、過去夏季オリンピックも開催され、同州は産業の振興も進んでいるが、欧州財政危機では中央政府の支援を要請するなど、最近は経済の状況は必ずしも芳しいとは言えない。但し、同州にすれば、財政悪化の要因は国への移転支出が収入を上回っているからとの見方であり、むしろ、独立機運が高まることとなっている。
スペインでは、かつて爆弾テロが相次いだバスク地方の独立運動も存在し、他のEU諸国内でも、ベルギーやイタリア等で独立運動が起きている。
9月同様、11月の住民投票の結果も目が離せないと言えそうだ。

ソフトバンクとソニー、日本を代表する企業で明暗が分かれるニュース

一方、日本に関する話題では、やはり前週、日本を代表する企業で明暗が分かれるニュースが報道された。
中国の電子商取引会社アリババ・グループ・ホールディングは19日、ニューヨーク証券取引所に上場し、公開価格の68ドルを大幅に上回る92.7ドルの初値をつけた。その後も株価は上昇、99.7ドルの高値をつけた後、終値は93.89ドルと、公開価格から38.1%上昇して初日の取引を終えた。時価総額は何と2,310億ドル、日本円で25兆円規模だ。
そのアリババの筆頭株主が約32%の株式を保有するソフトバンク。ソフトバンクの孫社長はアリババ創業の翌2000年に20億円でアリババ株を取得。その後、アリババは急成長し、19日の終値で試算するとソフトバンクの含み益は約8兆円に上る。14年間での上昇率は約4,000倍となる。
アリババの時価総額は、日本企業で最大の時価総額を誇るトヨタ自動車を上回る規模であり、最近の中国経済の発展とともに、ハードからソフトへのシフトを見せつけるものとなった。
一方、凋落を再認識させたのがソニー。ソニーが17日に発表した2015年3月期連結決算(米国会計基準)の業績予想で、税引き後赤字の額が500億円(7月時点)から2,300億円に拡大すると発表した。
ソニーが会社再生の重点分野としていたスマートフォン事業の不振が背景で、1958年に東京証券取引所に上場して以来、初めて中間・期末とも配当を見送る。
他の電機大手が過去数年、家電分野のリストラを断行、企業向け事業などに重点を移して業績回復を果たしている一方、消費者向けの事業に力を注ぐソニーは、一人負けの状況だ。

ソニーが30年前には、どれだけ輝いていたかを実感させる映画が全米で大ヒット

但し、ソニーが30年前には、どれだけ輝いていたかを実感させる映画が今、公開されている。
マーベル・スタジオズ最新作である『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』だ。日本での公開は9月13日(土)だったが、8月に公開された米国では大ヒット、米国内の興行収入が3.1億ドルでランキング第1位(9月23日現在)と今年最大のヒット作品となっている。
映画のCMでは、「アライグマ」に「歩く植物」、「緑色の女性暗殺者」と「野獣のような破壊王」、リーダー役が「胡散臭いトレジャーハンター」と、さもB級映画のような雰囲気を醸し出しているが、百聞は一見に如かずの価値ありの作品と言えそうだ。
同映画は、ソニー・ピクチャーズでなく、ウォルト・ディズニー・スタジオが配給しているが、1980年代に幼くして地球から誘拐され、今や宇宙をまたにかけるトレジャーハンターとなった主人公ピーター・クイルの愛用はソニー製品だ。
ソニー再生の鍵はこのあたりにあるような気がする。
マーベル・スタジオズと言えば、世界興行収入ランキングで、『アバター』、『タイタニック』に次ぐヒット作『アベンジャーズ』を2012年に公開している。

改造アベンジャーズ内閣が9月3日、発足

映画とは直接関係ないが、第2次安倍改造内閣が9月3日に発足している。
内閣改造は、2012年12月の第2次安倍内閣発足以来初めて。ちなみに、閣僚の交代がなかった改造前の第2次安倍内閣の期間は617日と、第1次佐藤改造内閣(425日)を上回り、戦後最長となった。
安倍首相は改造後の会見で、今回の内閣を「実行実現内閣」と表現、引き続き、経済最優先でデフレからの脱却を目指し、成長戦略の実行に全力を尽くすと表明した。
筆者は、2012年12月に発足した第2次安倍内閣を「アベンジャーズ内閣」と評したが、今回は「改造アベンジャーズ内閣」と名付けたい。
『アベンジャーズ』は、前述のとおり、2012年にハリウッドで実写版が映画化された米マーベルコミック作品の登場人物達の名でもあるが、直訳すると「復讐者たち」「報復者たち」という意味になる。但し、「リベンジ」が個人的な恨みを晴らす意味があるのに対し、「アベンジ」は、正義のため、公の雪辱を果たすというニュアンスがある。
短命に終わった第1次安倍政権の雪辱を果たし、長期政権化を図る、経済再生とデフレ脱却を実現するとともに、安倍氏のライフワークである憲法改正等に道筋をつけるという意味では、ぴったりのネーミングだろう。
特に、今後、安倍政権は、年末の消費追加増税の是非の判断、来春の統一地方選、来年秋の自民党総裁選、2016年の衆参同日選挙(筆者予想)という大きなハードルを越える必要がある。
ちなみに、第2次安倍政権が発足した2012年に公開された映画『アベンジャーズ』は、世界興行収入が15.2億ドルで歴代第3位となった。その第2弾『アベンジャーズ2/エイジ・オブ・ウルトロン』は2015年に封切られる。
安倍氏にとっても、2015年は秋に自民党総裁選という重要日程が待っている。2012年9月の前回総裁選は、1回目の投票では石破氏の後塵を拝したが決選投票で逆転した経緯がある。また、来年は2016年12月の衆院議員の任期満了を控え、解散の時期を探る年となりそうだ。
今回の改造と自民党役員人事で、2015年に向けた挙党体制を再構築するとともに、経済再生等重要政策課題に取り組む態勢を整備したと言えそうだ。但し、景気や株価を持続的に回復・上昇させ、改造で上昇した内閣支持率を高水準に維持するためには、安倍首相の会見でも使われた「有言実行、政策実現」、すなわち「実行実現」が重要になろう。

「猿」と「アジア」がキーワードの映画がお薦め

猿の惑星:新世紀(ライジング)

(C) 2014 Twentieth Century Fox

最後に、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』と並んで、現在公開中の作品で、お薦めは、邦画では『思い出のマーニー』『STAND BY ME ドラえもん』と『るろうに剣心』2部作。前2作品は日本アニメ(含むCG)の技術進歩を楽しみつつ、泣ける。『るろうに剣心』2部作は「殺陣」、いわゆる「チャンバラ」の醍醐味を再確認できる。
洋画では、『LUCY/ルーシー』と『猿の惑星:新世紀(ライジング)』か。洋画2作品は、ちなみに何れも「猿」と「アジア」がキーワードとなっている。
『LUCY/ルーシー』は、今年、現時点で世界興収ランキング1位の『トランスフォーマー/ロストエイジ』同様、アジアで大規模なロケを敢行している。ハリウッド映画も世界興行面では、アジア、特に中国の存在を無視できず、実際、『トランスフォーマー/ロストエイジ』の興収は米国よりも中国の方が多い。但し、収益面ではDVD等関連製品の売上が入る米国が断然多いらしい。なお、「猿」との関連はそのタイトルに隠されている。
一方、『猿の惑星:新世紀(ライジング)』は「アジア」は舞台として出てこないが、その原作に関係がある。猿の惑星シリーズの原作者は、フランスの小説家ピエール・ブールである。同氏の代表作には、やはり映画化されアカデミー賞を受賞した『戦場にかける橋』がある。ブール氏は、第2次世界大戦前、仏領インドネシアに駐在、レジスタンス運動に参加、旧日本軍の捕虜収容所に収容されたことがあり、その経験が、二つの作品のモチーフになったと言われている。
結果、『猿の惑星』第1作が1968年に公開された際には、「猿」は日本人等アジア人を意味するとの解釈も一部でなされたが、当時のハリウッド俳優は、こぞって斬新なメーキャップを行った「猿」役を希望したとされ、背景にアジアに対するどういう感情があったかはよくわからない。
但し、当時、着ぐるみであった「猿」は現在は、基本的にCGで撮影されており、このあたりも、「ハード」から「ソフト」へのシフトが見受けられる。
映画が先行するように、世界の潮流は、現在、「アジア」と「ソフト」へのシフトかもしれない。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。同投資戦略室長、大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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