アナリストの忙中閑話【第40回】

アナリストの忙中閑話

(2014年10月24日)

【第40回】このまま「午尻下がり」となるか正念場、オレがやらなきゃ誰も信じなくなるぜ、夢は必ず叶うってことを

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

10月20日、小渕経済産業大臣と松島法務大臣が辞任

10月20日、小渕優子経済産業大臣と松島みどり法務大臣が辞任した。内容や金額等は異なるものの、何れも政治資金規正法や公職選挙法違反が疑われる問題が辞任の背景にあった。
9月3日に発足した第2次安倍改造内閣の目玉は「女性の活躍」だ。
安倍政権は「2020年までに指導的地位の女性の割合3割」を目標としている。「先ず隗より始めよ」のごとく、9月の改造で、女性閣僚の数は2001年4月に発足した第1次小泉内閣の5人に並び過去最高となっていた。18人の閣僚のうち女性比率は27.8%。なお、2001年当時、自民党3役は全て男性であったが、今回は稲田朋美氏が政調会長に就任しているため、党3役を含めれば過去最高の女性の登用数となっていた。
実際、女性登用は政権浮揚に効果があり、内閣改造後に実施された世論調査では軒並み安倍内閣の支持率は上昇した。

内閣支持率は10月に反落、一段の下落の可能性も

但し、10月の世論調査では、大半で反落している。共同通信、毎日新聞、産経新聞は2大臣の問題が報道された後の調査だが、共同・毎日は40%台、産経でも前月比2.7ポイント下落し53%となった。
実は、9月後半以降の調査では、既に内閣改造に伴う内閣支持率の浮揚効果は剥落しつつあった。背景には、消費増税に加え、円安・物価高に、賃金上昇が追いついていないことや、台風被害・御嶽山噴火等で消費マインドが委縮したことが影響したものと考えられる。
安倍首相は、2大臣の同時辞任と後任人事の即決によって、事態を早期に収束させる方針だが、「女性の活躍」を掲げた改造内閣の最初の綻びが、女性2閣僚の辞任となったことは打撃が大きい。
安倍首相は20日の記者会見で、任命責任に言及、国民に向かって陳謝したが、内閣改造による支持率の浮揚効果が大きく損なわれたことは否定できないだろう。
また、小渕氏に関しては、谷垣幹事長、二階総務会長の起用と併せて、中韓シフト人事との思惑を呼び、対中、対韓関係の改善が、内閣改造後の株高要因ともなっていた。
日経平均株価は、2大臣の辞任が決まった20日は、前週末の米株価の反発等を材料として、前週末比578円高の15,111円に大幅反発したが、21日には前日比306円安の14,804円と大幅反落して引けた。同日発表された中国の7-9月期のGDP成長率が5年半ぶりの低水準となったこともあるが、改めて、2大臣の辞任が安倍内閣の政権運営へもたらす悪影響が材料視された面もありそうだ。
前述のように、今後の世論調査では、2大臣の辞任問題に加え、世界的な株価の調整等も支持率の低下要因となる可能性がある。

9月に入り、「Frozen」相場から高変動率相場に転換

今年の金融市場は、大ヒットを飛ばしたディズニー映画『Frozen』(邦題『アナと雪の女王』)同様、同映画が国内で公開された3月以降、凍結相場、膠着相場が続いていた。
それが、同映画の長期公開が終了すると、為替と株式市場、欧米債券市場や商品市場でも大きな動きが出てきた。但し、その方向性は、9月中は円安・株高・金利上昇方向であったものが、10月には一転、円高・株安・金利低下方向に急転換している。
背景には、欧州や新興国経済の減速懸念等があるが、今年の世界経済のエンジン役である米国経済に大きな変化は見られない。
最近の株価急落等の主因は年末に向けた決算期末(投資信託は10月、ヘッジファンドは11月、金融機関や事業法人等は12月が多い)を控え、「変化」や「未知なもの」に対する不安感から、海外投資家がリスク資産の利益確定売りを出していることが大きいと考えられる。
日々報道されるエボラ出血熱(EVD)の感染拡大問題や「イスラム国」の台頭、香港のデモ等に加え、米量的緩和の利上げ及び償還減ステージへの移行問題は、ゆっくりとクリスマス休暇をとりたい投資家にとって、手仕舞い売りを急がせる誘因となったと言えそうだ。原油先物の急落等も需給見通しを誤った投機筋のロスカット売りが主因と考えられる。

このままでは「辰巳天井、午尻下がり」に

但し、株価が大幅調整したことで、年末に向けた内外での政策発動の可能性は一段と高まったと考えられる。特に我が国ではそうだろう。
日経平均株価の昨年末の引値は16,291円。株価は昨年、一昨年と年末高値となり、相場格言通り「辰巳天井」となった。但し、足元では一時1万5千円を割り込むこととなった。
安倍首相は昨年末の大納会で、2014年について「午の尻下がりという人がいますが、皆さん忘れてください。来年も午(うま)くいきます」と挨拶されたが、このままでは相場格言通り「午尻下がり」となりかねない。
前回の午年の2002年はITバブル崩壊と金融システム不安再燃で日経平均株価は年間で約19%下落。前々回の午年の1990年は株式バブル崩壊で1989年末の過去最高値38,915円から年間で約39%の大幅下落となった。戦後の十二支別での騰落率で午年は▲7.5%と最下位だ。単なる「相場格言」と馬鹿に出来ない「レコード」がある。
安倍首相は、今年同様「甲午」生まれで、9月に「還暦」を迎えたばかりだ。
小泉元首相に仕え、前回の午年である2002年に起きた支持率低下等、「首相在任2年目のジンクス」等にも直に接してきた。
また、第1次安倍政権時の教訓もあり、安倍首相は戦後3番目の長期政権となった小泉元首相の政権運営を参考にしている面もありそうだ。

世界遺産の頂上で「デフレ脱却、地方再生」を願う

実は、今年夏にも、安倍首相は小泉政権を意識したような動きを見せた。中南米5カ国を歴訪中の7月26日、安倍首相が訪問先のメキシコ郊外の世界遺産テオティワカン遺跡を視察したときのことだ。テオティワカン遺跡は、紀元前2(〜)7世紀頃に栄えた都市で、1987年にユネスコの世界文化遺産に登録されている。太陽のピラミッドは高さ約60メートル、248段の階段がある。
昭恵夫人とともに、ペニャニエト大統領の案内で、同遺跡最大の遺構であり、願い事をすると叶うとの言い伝えがある「太陽のピラミッド」の頂上に辿りついた安倍首相は、記者団から何を願ったか聞かれ、「デフレ脱却、地方再生を願った」と語った。
2004年に現地を訪問した小泉純一郎首相(当時)は、同じく頂上で記者団から何を願ったか聞かれ、「郵政民営化」と答えている。

戦後の「午年」生まれの首相経験者は実力者揃い

実は、安倍首相同様、小泉元首相も「午年」生まれだ。戦後の首相経験者には、あと2人、「午年」生まれがいる。田中角栄元首相(故人)と中曽根康弘元首相だ。何れも実力者揃いだ。
特に、安倍氏と小泉氏は、首相官邸HPに掲載されている総理プロフィールにも、「午年」と星座(安倍氏は乙女座、小泉氏は山羊座)が明記されていることから、自身が「午年」生まれということを強く意識しているものと想像される。

政策発動は近い?

このまま「午尻下がり」となっては、「デフレ脱却、地方再生」に黄信号が灯るほか、安倍首相のライフワークとも言える「憲法改正」、特に在任中の「憲法改正発議」には赤信号が灯ることになりかねない。
今回の女性2閣僚の辞任に加え、年末の消費再増税の判断を控え、アベノミクス「3本の矢」の再放出や外交面等での政策発動が、安倍首相主導で打ち出される局面が近づいてきたと言えそうだ。

夢や理想を追いかける人々への応援歌的な映画が公開中

首相のような重責は誰もが担えるものではないが、一人ひとりが夢や理想を追いかけることが必要な時もある。「青い」と言われるかもしれないが、体はついてこなくても、気持ちだけは若者でいたいものだ。今、そうした男達、女達への応援歌的な映画が公開されている。
今回は、邦画では『イン・ザ・ヒーロー』と『舞妓はレディ』、洋画では『グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札』をご紹介したい。

オレがやらなきゃ誰も信じなくなるぜ、夢は必ず叶うってことを

イン・ザ・ヒーロー

(C)2014 Team REAL HERO

「オレがやらなきゃ誰も信じなくなるぜ、夢は必ず叶うってことを」がキャッチフレーズの『イン・ザ・ヒーロー』は、『20世紀少年』の唐沢寿明さん主演で、日本の特撮ヒーローにおける縁の下の力持ち的存在の「スーツアクター」にスポットを当てた痛快アクション・エンタテインメントだ。なお、「スーツアクター」とは着ぐるみを着用してスタントなどの演技をする俳優のこと。
共演は『仮面ライダーフォーゼ』『あまちゃん』の福士蒼汰さん。
冒頭部分は、前月号でご紹介した米国で今年最大のヒット映画である『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』同様、B級映画ののりだが、とても良くできており、泣ける映画だ。
やはり、唐沢さん自身が俳優として売れる前、仮面ライダーシリーズの「ライダーマン」などの「スーツアクター」を実際にやっていたことが臨場感を盛り上げているのだろう。唐沢さんは私より二つ下の51歳だが身のこなしには脱帽した。歩く距離を増やしたり、スポーツジムに行く回数を増やさなければと思わせる映画でもある。

一方、『舞妓はレディ』はオードリー・ヘプバーンさん主演で1964年に公開されたハリウッド映画『マイ・フェア・レディ(My Fair Lady)』のリメイク?と思わせる映画だ。
『Shall we ダンス?』などを手掛けた周防正行監督が舞妓をテーマに撮り上げたドラマ。とある少女が舞妓を夢見て京都の花街に飛び込み、立派な舞妓を目指し成長していく姿を歌や踊りを交えて描く。京都の風景も良いが、主演の上白石萌音さんや共演の長谷川博己さんらは演技も上手いが歌も上手い。ほのぼのとする映画だ。

グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札

(C)2014 STONE ANGELS SAS

『グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札』は、ニコール・キッドマンさん主演で、ハリウッド女優からモナコ公国大公妃へと華麗な転身を遂げたグレース・ケリーの生き様を描いた感動作。
ニコール・キッドマンさんは、グレース・ケリーに実際よく似ているが、グレース・ケリー自身も大女優だっただけに記録映画と見間違うシーンも。
上記3作品では、何れも主人公は自らの夢を最終的に実現するのだが、途中、幾多の困難に見舞われる。成功の背景には周囲の支援も大きいのだが、まずは自分自身のたゆまぬ努力と強い意志が重要なことを教えてくれる映画である。
見終えた後は、元気が出るので、お薦めの映画だ。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。同投資戦略室長、大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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