アナリストの忙中閑話【第41回】

アナリストの忙中閑話

(2014年11月25日)

【第41回】衆院電撃解散、吉と出るか凶と出るか、アカデミー賞への関心が高まる季節に、リアリズムを追及した2作品公開

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

11月21日、衆院解散、第47回衆院総選挙は12月14日投開票

11月21日衆院が解散された。第47回衆院総選挙は12月2日、12月14日投開票となる。
前月号の『【第40回】このまま「午尻下がり」となるか正念場、オレがやらなきゃ誰も信じなくなるぜ、夢は必ず叶うってことを』では、午年生まれで今年が還暦の安倍首相は、このまま「午尻下がり(株価の下落)」を放置することなく、アベノミクス「3本の矢」の再放出や外交面等での政策発動をまもなく打ち出す可能性を指摘した。
その後10月31日に実施された日銀の追加緩和やGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の基本ポートフォリの見直しは、ある意味想定内だったが、さすがに、安倍首相が消費再増税を先送りするとともに、衆院の解散・総選挙に踏み切ることまでは見通せなかった。

解散の名称は「消費増税先送り解散」、「アベノミクス解散」?

前回2012年の解散を筆者は「近いうち解散」ないし「これでいい野田解散」と呼んでいるが、今回の解散は何と名づけるべきだろうか?
「消費増税先送り解散」「アベノミクス解散」「電撃解散」「奇襲解散」「リセット解散」等が考えられるが、いまひとつしっくりこない。
安倍首相は衆院解散を表明した18日夜に出演したNHKの番組等では「代表なくして課税なし」というアメリカ独立戦争時のスローガンを引用し、衆院解散の大義名分として説明したが、今回は2年前の総選挙と違い、「増税」ではなく、「増税先送り」であること、野党は「3党合意」の当事者である民主党を含め全て「増税先送り」に賛成しているため、選挙戦の争点となるか疑問だ。「アベノミクス」の評価についても、第3の矢である成長戦略や構造改革を進め、国論が二分した段階で、解散に踏み切った方がもっと迫力があったのではないか。
実際、世論調査では、2015年10月の消費再増税に関しては、7(〜)8割が反対しているものの、この時期の衆院解散にも6(〜)7割が反対している。

2012年総選挙での自民党大勝の要因は、低投票率と民主党及び第3極の潰し合い

前回2012年の総選挙で、自公両党が全議席の3分の2超という地滑り的大勝利を収めた要因は、自公の選挙協力が効果的に機能したという要因もあるものの、投票率の低下に加え、民主党と第3極政党が、潰し合いを演じ、自民党がやや「漁夫の利」的に、300の小選挙区で相対1位を獲得、比例代表でも無党派層の一部を含む支持を得たことが大きかった。
その点、投票率も上昇した2005年の小泉自民党、2009年の鳩山民主党への有権者の積極的支持に比較すると、消極的、消去法的な支持が主体であったようだ。

2012年総選挙の投票率は、2009年に比べ、約10%低下、過去最低に

当時、バッファー・プレイヤーと呼ばれる政治意識の高い有権者も含め、一定程度の有権者は、自民党の勝ち過ぎを警戒して、民主党や第3極へ投票するのではなく、棄権を選択、投票率の大幅低下に繋がったものと考えられる。
小選挙区の投票率は、59.32%となり、2009年8月の前回選挙(69.28%)を約10%下回り、1996年に小選挙区比例代表並立制となってからは、1996年の59.65%を下回り、過去最低となった。
「漁夫の利」は、議席数占有率と小選挙区得票率との差にも表れている。
2012年の自民党の議席占有率と小選挙区得票率との差は約36%と、2009年の政権選択選挙時の民主党の約26%、2005年の郵政選挙時の自民党の25%と比較しても際立って大きい。つまり、野党サイドでは極めて多くの死票が生まれた訳である。
今回は、野党サイドにおいても前回の反省を踏まえ、小選挙区での候補者調整に前向きな発言が増えている。さすがに、超党派の若手議員から出されている統一比例名簿の作成はハードルが高く時間的な制約も大きいが、共産党を除く野党が候補を一人に絞ることとなれば、形成が逆転する選挙区も出てきそうだ。

吉と出るか、凶と出るか

第47回衆院総選挙が安倍政権や金融市場等にとって波乱要因となるかどうかは、「風」が吹くかを含めた投票率の動向と野党の選挙協力の行方に負うところが大きいと言えそうだ。
安倍首相の決断、吉と出るか、凶と出るか。結果次第では、2015年の自民党総裁選やアベノミクスの持続可能性のみならず、日本経済や金融市場にも大きな影響をもたらす可能性があることから今後の展開を注目したい。

長野県北部で震度6弱の地震

衆院解散の翌日11月22日午後10時過ぎ、長野県北部で震度6弱、マグニチュード6.7の地震があった。幸い死者は出なかったものの、長野県内を主体に住宅47棟が全壊し、45人がけがをした(25日現在)。
ちょうど、私はその時間、東海道新幹線に乗っており、熱海駅を過ぎたところだった。突然、照明が暗くなり、非常ブレーキがかかった。「停電のため緊急停止」とのアナウンスが流れたが、車内どころか外も真っ暗。スマートフォンに「地震発生」の文字。遂に南海トラフか首都直下型地震発生かと一瞬身構えたが、よく見ると、トンネルの中だった。但し、夜のトンネルというのは不気味なものだ。
その後、20分ほどで、電気が復旧し、列車も動きだしが、長野県では9月には御嶽山も噴火した。今回の震源は、フォッサマグナ西縁の糸魚川―静岡構造線上にある。帰りの電車の中で、ふと映画「日本沈没」のワンシーンが蘇ってきた。
今年は年初から豪雪、大雨、スーパータイフーン、火山噴火、大地震と天変地異が続いている。地球温暖化の影響等で、「異常気象」も既に日常化しているのが現実だ。緊急防災対策が必要と言えそうだ。

2014年のアカデミー賞への関心が高まる季節に、リアリズムを追及した2作品

師走が近づき、米国では来年2月に発表される2014年のアカデミー賞への関心が高まってきた。
アカデミー賞の受賞作品は選定が翌年となる関係もあり、通常、米国で年後半に封切られる作品が多い。今、まさに、米国内外で受賞有力候補が上映されている。
今回は、そうした作品の中から、アカデミー賞作品賞の有力候補とされる『フューリー』と『インターステラー』の2作品を紹介する。

結果はわかっていても、やらなければならない時がある、『フューリー』

フューリー(Fury)

(C)Norman Licensing, LLC 2014

『フューリー(Fury)』はデヴィッド・エアー監督、ブラッド・ピット主演の戦争映画。舞台は1945年4月、第二次世界大戦・ヨーロッパ戦線の終結4週間前。死に物狂いで最後の抵抗を繰り広げるドイツ軍兵士300人に、“フューリー”(=激しい怒り)と命名された戦車で立ち向かった米軍兵士5人の想像を絶する一日の出来事を映し出した作品。
予告編の中で、ブラッド・ピットさん演じる戦車長ウォーダディーが部下に告げる言葉「理想は平和だが、歴史は残酷だ」や「ここ(Fury)が俺の家だ」が既に筆者の脳裏にしみついているが、同作品の見どころは、リーダーと仲間たちとの絆、5人の男達の熱きドラマとともに、歴史考証だ。
デヴィッド・エアー監督は元米軍人だけあって、戦車等の兵器や衣装等への凝り方が半端じゃない。米軍の「M4 A3シャーマン」戦車に立ち向かう敵方のドイツ軍戦車には、映画史上初めて、現存している6台の「ティーガーT型」戦車のうち、唯一実際に走行できる「ティーガー131」を英国のボービントン戦車博物館から借りて映画撮影で使用している。過去の戦争映画では、ドイツ軍の戦車も大半が米軍か旧ソ連軍の戦車を使用しているが今回は本物。リアル度合は最上級の映画だ。日本公開は11月28日。

必ず見つける、人類の希望を、『インターステラー』

一方、前週末11月22日に封切られたクリストファー・ノーラン監督、マシュー・マコノヒー主演の『インターステラー』は、近未来の地球を舞台にしたSF大作。マシュー・マコノヒーさん演じる主人公は、自分の子どもたちが安心してくらせる環境を探すため、人類が移住できる星を探そうと、宇宙に旅立っていく。途中幾多の困難に見舞われ、遂にたどり着いた先には。
エアー監督同様、リアリティにこだわるノーラン監督は撮影にあたって、極寒地でのロケや、実物大の宇宙船を制作、トウモロコシ畑を作り、本物の砂嵐のなかで役者に演技をさせた。技術顧問にも一流の学者を揃え、相対性理論や量子論等の最新の研究成果をもとに、徹底的なリアリズムにこだわった作品となっている。
筆者も早速、22日朝一番で鑑賞してきたが、「重力」をテーマにしている点では、2013年のアカデミー監督賞等7冠を制した「ゼロ・グラビティ」にやや似ている。
但し、『インターステラー』はSFにはやや少ない親子愛をテーマとした感動作であり、娘をもつ父親の身にとって、涙腺がゆるむこと今年最高の映画だった。
両作品とも、近年人気のアニメやコミックを原作した映画とは、一味違った大人の映画と言える。特に、往年の戦争映画やSF映画ファンには、たまらない作品であり、是非お薦めしたい。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。日経債券アナリストランキング、14年連続10位内ランクイン。日経財政アナリストランキング2位(2004年〜2006年)。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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