アナリストの忙中閑話【第44回】

アナリストの忙中閑話

(2015年2月26日)

【第44回】好天に恵まれた東京マラソン、第87回アカデミー賞はヒーロー物のブラックコメディが席巻

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

マラソン日和となった「東京マラソン2015」

2月22日(日)、国内最大規模の市民マラソン「東京マラソン2015」が開催された。東京マラソンは今回が9回目で、2013年には、ロンドンやボストンなど、世界のメジャー大会だけが選ばれる「ワールドマラソンメジャーズ」の仲間入りを果たした。
当日の天候は曇り、気温8度、湿度34%のコンディションの中、合計3万5,797名が参加した。うち外国人は5,317人。約1万人のボランティアに加え、沿道の応援と東京大マラソン祭りの観客数の合計は152万5千人に上った。天候不順の予報から観客は昨年より10万7千人減ったものの、心配された「雨」も降らず、また例年レース終盤の湾岸地区で選手を悩ます「強風」も、今年は「微風」にとどまったことで、結果的に「マラソン日和」に。マラソンの完走率も96.4%と、前回より0.4ポイント上昇した。
毎年恒例だが、今年も自宅近くの最後の難所、「佃大橋」先の豊洲付近に応援に出かけた。警備、ボランティア、近所の住民の応援等含め、年々こなれてきたような気がする。外国人の参加が増えたことに加え、今年は、2020年の東京オリンピックを控え、テロ警戒強化の観点からランニングポリスも導入されたが、ほとんど違和感がなかった。

「東京マラソン」は東京の春の風物詩として定着

ちなみに「東京マラソン2016」は2016年2月28日(日)開催予定。2015年のフルマラソンの一般倍率は約10.7倍と過去最高となったが、10万円以上の寄付(別途参加料1万800円)で先着順3千人が参加できるチャリティー枠は若干余裕があったようだ。「11万円出してまでも」という声もありそうだが、海外ではチャリティマラソンは一般的。市民の応援が大会の持続可能性を高める面もある。今年は過去最高の3億円の寄付金が集まったそうだが、「東京マラソン」が東京の春の風物詩として定着した証とも言えそうだ。
なお、マラソンの制限時間は7時間だが、一般参加者のスタートはレース開始後30分程度かかる場合もあり、完走には6時間半以内で走ることが必要か。参加資格もマラソンの一般は「6時間40分以内に完走できる男女」となっている。私は専ら、水中スポーツ主体でマラソンにエントリーする予定はないが、沿道の応援にも支えられた参加者の充実した顔を見ると、若干羨ましくもなる。体力に自信のある方は「ダメ元」で申し込んでみては、一般参加の申し込みは例年8月だ。

『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』

『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』
©2014 Twentieth Century Fox

2月22日、第87回アカデミー賞授賞式開催

『第87回アカデミー賞』授賞式が現地時間2月22日(日本時間23日)、米ロサンゼルス、ハリウッドのドルビー・シアターで開催された。

『バードマン』が作品賞、監督賞、脚本賞、撮影賞の主要4部門を制した

作品賞にはアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(日本公開4月10日)が選ばれた。同作品は監督賞、脚本賞、撮影賞の計4部門を制した。『バードマン』は落ち目となった元ヒーロー役の俳優が再起をかけて舞台に挑戦するブラックコメディ。主演は元「バットマン」役のマイケル・キートンさん。

日本勢は受賞を逃したが、日本人を主人公とした『ベイマックス』が長編アニメーション賞を受賞

日本勢では、長編アニメーション映画賞にノミネートされていた高畑勲監督の『かぐや姫の物語』、短編アニメーション映画賞にノミネートされていた堤大介、ロバート・コンドウ共同監督の『ダム・キーパー』は、惜しくも受賞を逃した。長編アニメーション映画賞は主人公が日本人の『ベイマックス』(日本公開中)、短編アニメーション映画賞は『愛犬とごちそう』が受賞した。
主演男優賞は宇宙物理学者スティーブン・ホーキング博士の半生を描いた『博士と彼女のセオリー』(日本公開3月13日)のエディ・レッドメインさん、主演女優賞は若年性アルツハイマーの主人公を演じた『アリスのままで』(日本公開6月27日)のジュリアン・ムーアさんが受賞した。
助演男優賞は『セッション』(日本公開4月17日)のJ・K・シモンズさんが受賞。『セッション』は録音賞と編集賞を含め3部門で受賞。
助演女優賞は『6才のボクが、大人になるまで。』(日本公開中)のパトリシア・アークエットさんが獲得した。『6才のボクが、大人になるまで。』は作品賞の呼び声も高かったが結果は1部門受賞にとどまった。
最多9部門でノミネートされていた『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014年6月日本公開済)は美術賞、衣装デザイン賞、作曲賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞の4部門で受賞。
脚色賞は『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』(日本公開3月13日)が、主題歌賞は『セルマ』(日本公開6月予定)が受賞。
既に日本で公開され本コラムでも紹介した作品では長編アニメーション賞受賞の『ベイマックス』に加え、『インターステラー』が視覚効果賞を受賞した。

前週末に日本で公開されたクリント・イーストウッド監督の『アメリカン・スナイパー』は音響編集賞を受賞

前週末に日本で公開されたクリント・イーストウッド監督の『アメリカン・スナイパー』は音響編集賞を受賞。早速、公開日に鑑賞してきたが、自らが戦場にいるような錯覚を覚えるよく出来た作品だ。
『アメリカン・スナイパー』は米海軍特殊部隊「シールズ」所属の実在の狙撃手「クリス・カイル」のほぼ一生を描いた作品。この作品はクリス・カイル氏の回想録「ネイビー・シールズ最強の狙撃手」に基づいており、実話だが、最近の現実社会との関連でも深く考えさせられる作品だ。
「クリス・カイル」はイラク戦争に4回従軍するが、「レジェンド」、伝説のスナイパーとして名を轟かせる。海軍公表ベースでも戦場で敵兵を160人射殺したとのこと。当時、「クリス・カイル」のイラクでの最大の敵は「イラクのアルカイダ」、昨年来、世界を震撼させているイスラム教スンニ派過激派「IS(Islamic State、いわゆる「イスラム国」)」の前身の組織だ。
そういう意味では米国にとっても、「クリス・カイル」にとっても、「イラク戦争」はまだ終わっていないとも言える。
一方で、「クリス・カイル」は4度のイラク戦従軍により、精神を病み、退役後は退役軍人への支援活動に取り組むこととなる。

伝説のスナイパーを射殺した犯人に終身刑の判決

そうした中、回想禄がベストセラーとなり、映画化の話が持ち上がるのだが、脚本製作中の2013年2月に、クリス・カイル氏は、当時カウンセリングにあたっていたイラクから帰還した元海兵隊兵士に射撃場で殺害された。2月24日、エディー・ルース被告に対し、テキサス州の裁判所は、陪審員が有罪の評決を出したのに続き、終身刑の判決を言い渡した。被告は従軍に伴いPTSD及び統合失調症を患っていたと弁護側は主張したが、犯行は計画的で事件時はドラッグやアルコールの影響下にあったものの責任能力はあったとする検察側の主張が一審では認められたようだ。
映画のエンドロールでは、追悼式典等の模様が流れるが、ほぼ無音状態が続いて終わる。
若かりし頃は『ダーティ・ハリー』で有名だっだクリント・イーストウッドさんも1992年の『許されざる者』と2004年の『ミリオンダラー・ベイビー』で、何れも作品賞と監督賞を受賞しており、今やハリウッドの重鎮。今回は若手に主要賞を譲ったということかもしれないが、音響編集賞のみの受賞と、エンドロールの無音といい、何か隠された意図があるようにも思われる映画だ。

『娚の一生』

『娚の一生』
©2015 西炯子・小学館/「娚の一生」製作委員会

リアリティーに富むある意味怖い作品だが、世界中で地政学的リスクが拡散する一方で、国内でも安全保障法制の国会審議がスタートするなど、様々な意味でレジームが転換しつつある今日だ。同じくクリント・イーストウッド監督作品の『硫黄島からの手紙』等同様、日本人にとっては一度鑑賞すべき作品かもしれない。

「アンチエイジング」の秘訣、『娚の一生』

邦画で最近良かったのは『娚の一生』。主人公の大学教授、海江田醇(かいえだ じゅん、52歳)を演じる豊川悦司さんも現在52歳。学年では筆者と同じ年齢だ。豊川さんとは比べようもないが、肉体は枯れても心は若さを持ち続けることが「アンチエイジング」(抗老化)の秘訣かもしれないと思わせる作品だ。それでは、本日発売の週刊コミック誌でも買って帰るとしよう。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。同投資戦略室長、大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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