アナリストの忙中閑話【第47回】

アナリストの忙中閑話

(2015年5月22日)

【第47回】ギリシャがデフォルト寸前?大作映画が多数公開、景気・気候変動等も映画製作に影響

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

ギリシャ政府の資金繰りがひっ迫

ギリシャ政府の資金繰りがいよいよ切迫してきた。ギリシャは2009年の政権交代で過去の財政粉飾が明らかとなったが、当時は、リーマンショックを始め、国際金融危機の真っ只中。海外投資家のギリシャ国債売却と国内富裕層などの資本逃避が相次ぎ、ギリシャの経済及び財政状況は一気に悪化した。

米サブプライムローン問題の余波に苦しんでいた欧州では財政危機が、スペインやイタリアに波及。ここでギリシャが破たんすると危機が欧州全域に拡大しかねないことから、ユーロ圏諸国とIMF(国際通貨基金)、ECB(欧州中央銀行)のいわゆる「トロイカ」による2度にわたる総額2,400億ユーロ規模の金融支援が策定された。現在既に2,300億ユーロを上回る支援が実行されている。

但し、ギリシャは経済が低迷する中、年金減額や公務員の給与カット、増税等の財政緊縮策を継続した結果、国民の不満が一気に爆発、2015年1月の総選挙では、1974年の共和制移行後初めて、新民主主義党と全ギリシャ社会主義運動党の2大政党以外の政党連合である急進左派連合が政権についた。新政権のツィプラス首相は、トロイカからの金融支援の単純延長を拒否、債務再編を主張し、財政緊縮政策も撤回したため、トロイカからの追加支援が止まり、銀行からは預金の流出が続いている。

現在は、どうにかECBによる緊急流動性支援により民間銀行の資金繰りを繋いでいるが、6月にIMF宛の長期ローンの返済が15億ユーロ程度予定されており、7月には100億ユーロ程度の国債償還も控えている。元々現在の第2次支援が6月末で終了することに加え、第3次支援の協議が全く開始されていないことを勘案すると、このままでは、1カ月以内に資金繰りに窮する可能性が高い。

ドイツのショイブレ財務相も19日、米仏紙とのインタビューで、2012年には否定したギリシャのデフォルトの可能性を今回は排除できないと語っている。

ギリシャがデフォルトを起こし、最終的にユーロ圏からの離脱に追い込まれるリスクがかつてなく高まる

ギリシャ問題については、【第4回】ギリシャ危機とコレリ大尉のマンドリンなど本コラムでも幾度か取り上げたが、ギリシャがデフォルトを起こし、最終的にユーロ圏からの離脱に追い込まれるリスクはかつてなく高まっているように思われる。

最大の要因は、新政権の姿勢にあるが、ユーロ圏サイドの懐事情の変化も大きい。欧州の民間金融機関によるギリシャ国債の償却がほぼ終わり、また、ECBの量的緩和の影響もあり、ギリシャが仮にデフォルトを起こしても、欧州の他の国の金融システムや財政に大きな影響をもたらさないと考えられることが挙げられる。

ギリシャ財政の粉飾が発覚した2009年当時、ギリシャ長期国債の残高は3,000億ユーロに迫り、そのうち2,000億ユーロ以上を海外投資家、特に欧州の民間金融機関が保有していた。現在では、長期国債の残高は約470億ユーロ(2014年12月末現在)に過ぎず、海外投資家の保有額も300億ユーロ程度にまで減少している。その大半は、ECBが保有しているものと考えられる。一方、総額2,400億ユーロに上る第1次及び第2次のユーロ圏及びIMFによるギリシャ支援に伴い、長期国債の残高減少分は、そっくり長期借入にシフトすることとなった。いわば、欧州民間金融機関が保有していたギリシャ向け債権をユーロ圏とIMF及びECBが肩代わりした格好だ。

ギリシャがデフォルトを起こしたり、ユーロ圏から離脱することとなれば、ユーロ圏とIMF、ECBは損失を被ることになるが、実際のところ、ギリシャに3,000億ユーロ規模の債務返済能力があるのかも疑問だ。ギリシャ中央政府の債務残高は2014年12月末段階で3,241億ユーロ(ギリシャ財務省)。ツィプラス政権の姿勢次第では、トロイカが追加支援を見送る可能性も否定できないと言えそうだ。

経済や気候変動、政治なども映画製作に大きな影響

ギリシャは、ハリウッドがよく使う題材であり、ロケ地でもあるが、そういえば、今年に入り、ギリシャ関連の大作映画を見た記憶がない。昨年までは、『タイタンの戦い』シリーズや『300』シリーズなど、ギリシャ神話や古代ギリシャをテーマにした映画が多数製作されていた。ちなみにエーゲ海に浮かぶギリシャの島を舞台にした大ヒットミュージカル映画『マンマ・ミーア!』が公開されたのは財政粉飾発覚前の2008年だった。

ギリシャに対する世界の視線が冷たくなった影響か、2010年公開の『タイタンの戦い』及び2012年公開の『タイタンの逆襲』では、ゼウス神を演じていた俳優リーアム・ニーソンさんも、最近は『96時間』シリーズの続編や『フライト・ゲーム』等で、完全にサスペンス・アクション映画俳優となっている。現在日本公開中の『ラン・オールナイト』に続き今月30日公開の『誘拐の掟』にも出演。なお、ニーソンさんは現在製作中の「狐狸庵先生」こと遠藤周作原作の歴史小説「沈黙」の映画版『SILENCE』(マーティン・スコセッシ監督)にも出演している。『SILENCE』は2016年公開予定。

5月に入り、海外では大作映画が続々公開

国内のGW商戦は、昨年に続き予想通りディズニーの『シンデレラ』が同時上映の『アナと雪の女王』短編物の支援もあって制したが、海外では5月に入り、大作が続々と公開されている。

5月1日からは歴代興収第3位の『アベンジャーズ』の第2弾『アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン』(日本公開7月4日)が公開され、15日からは『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(日本公開6月20日)が公開されている。

『アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン』の米国内の興行成績は約3億8千万ドルと、約3億4千万ドルの『ワイルド・スピードSKY MISSION』(原題: Furious 7)及び約2億ドルの『シンデレラ』を抜いて既に今年のトップに浮上した(5月21日現在、Box Office Mojo調べ)。

国内では『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の方が先の公開となるので、今回はこちらを取りあげるが、同作品はオーストラリア映画でメル・ギブソンさんの出世作となった1979年公開の『マッドマックス』シリーズ第4弾。前作からは27年ぶりの作品で年齢の問題もあり、ギブソンさんに代わり、主役のマックス役はトム・ハーディさんが務めた。既に、予告編ではド派手なアクションが砂漠で繰り広げられているが、当初、ロケ地はオーストラリア東部のブロークンヒルで2011年2月に撮影が行われる予定だった。しかし、ラニーニャ現象の影響による大雨で、砂漠が緑に覆われることになり、断念。同様な状態が2012年も続いたため、結局、撮影は2012年7月から世界最古の砂漠とされるナミブ砂漠があるアフリカのナミビアで行われた。

今年はエルニーニョ現象が広範囲に発生か、異常気象に注意

2011年当時は、ラニーニャ現象が発生していたが、今年はエルニーニョ現象の発生で、オーストラリアは一転干ばつに見舞われている。日本では既に昨年からエルニーニョ現象が発生していると気象庁はみているが、今年は勢力を増す可能性がある。

ちなみに、エルニーニョ現象とは、太平洋赤道域の日付変更線付近から南米のペルー沿岸にかけての広い海域で海面水温が平年に比べて高くなり、その状態が1年程度続く現象。逆に、同じ海域で海面水温が平年より低い状態が続く現象はラニーニャ現象。エルニーニョの語源はスペイン語の「男の子」ないし「神の子」、ラニーニャは「女の子」を意味するとされる。

エルニーニョ現象が発生すると日本では、梅雨明けが遅れ、冷夏や暖冬になりやすいとされるが、過去の記録では必ずしもそうなるとは限らない。但し、エルニーニョやラニーニャ現象が発生すると、日本を含め世界中で異常な天候が起こることが多いのは事実。今年は米カリフォルニアでは、歴史的な少雨で砂漠化現象が進むなど、既に世界的に異常気象が起きており気候変動には一段と注意が必要となりそうだ。

最近の世界興収ランキング上位の特徴

国内では6月5日に『ハンガー・ゲーム FINAL:レジスタンス』が公開される。『ハンガー・ゲーム』シリーズ第3作目。過去2作の注目度は国内ではやや低かったものの、米国では第2作目品は2013年の興収第1位、第3作目の本作も『アメリカン・スナイパー』に抜かれるまで、2014年公開映画で全米第1位だった。2014年の第3位は筆者お薦めの『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』。

ちなみに、世界興収番付け第1位は、2012年は全米も含め前述の『アベンジャーズ』だが、2013年は『トランスフォーマー/ロストエイジ』、2014年は『アナと雪の女王』(原題:Frozen)と若干異なっている(何れもBox Office Mojo調べ)。

背景には、中国など新興国で大規模なロケを行っていることや、敵が宇宙人やモンスターなど政治・宗教・民族色などを排して、グローバルな興行に支障がないことも影響しているものと考えられる。

迷路とビリギャルと鎌倉

『メイズ・ランナー』

『メイズ・ランナー』
© 2014 Twentieth Century Fox Film

今月22日に国内では『メイズ・ランナー』が封切られた。3部作の1作目で、『ハンガー・ゲーム』にやや似た雰囲気の作品だ。「メイズ」とは「迷路」を意味するが、語呂が似ているのが面白い。ゲームでの「迷路」や「ダンジョン」攻略が好きな筆者は早速鑑賞する予定。

日本映画も最近は予想外に面白い映画が増えているようだ。

代表格は『ビリギャル』。「学年ビリのギャルが偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話」の映画版だ。公開初日に観たこともあり、金髪のJK(女子高生)の映画ポスターには、同じくJKを子に持つ親としてやや引いたものの、実際に観ると良くできていた。やはり、実話の迫力に加え、主人公の有村架純さんをはじめ、塾講師役の伊藤淳史さん、母親役の吉田羊さん、父親役の田中哲司さんらの等身大の演技に吸い込まれた。何しろ、元気をくれる映画であり、昨年公開の米映画『インターステラー』同様、家族で観たい映画だ。映画のヒットもあり、坪田信貴さんの原作も100万部を超えるミリオンセラー。NHKも前週の夜9時のニュースで取り上げ、まさに『ビリギャル』旋風か。

『海街diary 』

『海街diary 』
© 2015吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ

また、6月13日公開の『海街diary』も面白そうだ。こちらもNHKが前週土曜の朝7時のニュースで取り上げていたが(偶然どちらも視聴)、2013年の第66回カンヌ国際映画祭審査員賞受賞作『そして父になる』の是枝裕和監督が吉田秋生さんのベストセラーコミック「海街diary」を映画化したもの。「海街diary」は2013年マンガ大賞を受賞。鎌倉を舞台に4姉妹の共同生活を、四季折々の美しい風景を交えて描いた作品で、第68回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された。2度目の快挙を祈りたい。

映画を含むソフト産業を成長戦略として位置付けるのであれば、グローバルな販売戦略は不可欠

筆者が映画の興収ランキングをよくお伝えするのは、映画もビジネスだからだ。但し、米アカデミー賞受賞作品の興収が良いとは限らない。『アメリカン・スナイパー』は不幸な事件もあり、2014年の全米興収第1位となったが、作品賞を取るような作品で興収があがるのも近年はむしろ稀だ。然るに、そういう作品が生まれる土壌を支えているのもハリウッドの映画ビジネスであることを忘れてはいけないだろう。

我が国は、漫画やアニメ等コンテンツは良いが、ビジネス展開は今一つと過去言われてきた。映画を含むソフト産業を成長戦略の一つとして位置づけるのであれば、グローバルな販売戦略は不可欠だろう。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。日経債券アナリストランキング、14年連続10位内ランクイン。日経財政アナリストランキング2位(2004年〜2006年)。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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