アナリストの忙中閑話【第49回】

アナリストの忙中閑話

(2015年7月24日)

【第49回】日経が英FT買収、少子高齢化の進展で本邦企業の海外進出一段と拡大へ、IMFが無法国家と対決、巨人が進撃

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

日経、英FTを1,600億円で買収、日本のメディアによる海外企業の買収案件では過去最大

7月24日付けの朝刊各紙は1面で、「日経、英FTを1,600億円で買収」と報じている。日本経済新聞社によると、同社は23日、英国の有力経済紙フィナンシャル・タイムズ(FT)を発行するフィナンシャル・タイムズ・グループを買収することで同社の親会社である英ピアソンと合意したとのこと。買収額は8億4,400万ポンド(約1,600億円)でFTの全株式を取得する。日経によると、FTの買収で読者数が世界最大の経済メディアが誕生、日本のメディア企業による海外企業の買収案件としては過去最大となるとのこと。

FTは1888年創刊の欧州を代表する経済紙。英出版・教育関連企業のピアソンが1957年に買収し、1995年に電子版を創刊した。

IT化と少子高齢化の進展の影響を再確認、日経新聞との出会い

同紙のオレンジ色の紙面は世界の新聞の中でも異彩を放っているが、今回の買収劇を見て、再度、IT化と少子高齢化の進展の影響が再確認されたと感じたのは筆者だけだろうか。

筆者と日経新聞の出会いは1984年4月だった。新入行員として入行した都市銀行の集合研修が終わり、独身寮に帰宅すると、ポストに日経新聞が入っていた。大学時代までは地元紙と別の一般紙を購読しており、日経を読むのは初めてだったが、タダで読めるに越したことはない。当時、都市銀行の新入行員の初任給は上場企業で最低ランクだったからだ。但し、4月20日の給料の振込明細を見ると、寮費とともに新聞代が天引きされていた。購読のサインをした記憶はないが何れにせよタダではなかったのだ。断り方もわからないので、そのまま購読(既に31年間になるが)を続けると、銀行業務との関係で日経が部数を伸ばす理由がわかった。新人で法人担当に携わると、取引先企業等に関係した記事を切り取って、支店内で回覧する仕事が回ってきたが、日経は当時ほぼ毎日、企業関連のスクープ記事を1面に掲載していた。サラリーマンにとっては日経を読んでいないと会社で上司の叱責を受けることとなる。これが同紙のビジネスモデルなのだと個人的に納得していた。

然るに、近年は通勤電車やバスで新聞を読んでいる人はメッキリ減った。携帯やスマホをクリックしている人は多いが、電子版の記事ではなく、SNSやゲームのケースも多い。特に、日経にとって最大の顧客だった団塊世代が2014年末で全員65歳に達し、一斉に離職した影響は大きかったのではないか。

このことは日経に限らず、他の一般紙、地方紙、雑誌等紙媒体全体に言えることだ。日経は当然としても多くの新聞が朝刊でライバル紙のニュースを一面に掲載していることは共通の危機感の表れとも言えそうだ。

最近の本邦企業の海外企業の買収案件は1980年代以前やバブル期とは様相が異なる

本コラムでも取り上げたが「【第31回】『ランランリラン シュビラレ』と大型M&A、アカデミー賞ノミネーション」、最近の本邦企業の海外企業の買収案件は1980年代以前やバブル期とは様相が異なっている。

1980年代以前の海外企業の買収は、欧米との貿易摩擦が深刻化する中、製造業主体に現地生産比率の引上げ等を迫られた受動的な案件が多かった。

その後、1980年代後半から1990年代前半のバブル期には、日本株及び本邦不動産の含み益と円高を背景に、製造業による複数の米映画会社買収や、金融や不動産等非製造業からも多くの海外企業の買収が行われた。但し、日本の観光客が当時海外でブランド物を買いあさっていたように、長期的視点に欠けた企業買収案件が多かったこともあり、当時の案件はバブル崩壊後手放された事例が少なくない。

一方、最近の海外企業の買収は、サントリーによる米ウイスキー大手ビーム社の買収(約1兆6,000億円)、東京海上ホールディングスによる米保険大手HCCインシュアランス・ホールディングスの買収(約9,400億円)、第一生命保険による米プロテクティブ生命の買収(5,800億円)等、桁が一桁違うとともに、本業の海外展開を迅速化するため、「時間を買っている」面が大きい。

それだけ、国内市場の先行きに本邦企業が悲観的になっている可能性もありそうだ。なお、本稿校正中には、明治安田生命保険が米保険会社スタンコープ・ファイナンシャル・グループをを49億9,700万ドル(約6,300億円)で買収とのニュースも飛び込んできた。

2015年は少子高齢化本格的元年、夕張市の事例

筆者は、「2015年は少子高齢化本格的元年」と位置づけている。その訳は前述のように、1947年から1949年に出生し現在約650万人が存命と見込まれる団塊世代が全員65歳以上(25年には75歳以上)のいわゆる前期高齢者(後期高齢者)に達したことに加え、団塊ジュニア世代(出生数816万人、現在800万人程度)が全員40歳以上に達したことで、今後は合計特殊出生率が再低下し、出生数も大幅減少すると見込まれるからだ。実際、2014年の合計特殊出生率は1.42と9年ぶりに前年(1.43)比低下に転じている。

「次元の異なる少子化対策」や「次元の異なる成長戦略」が実効に移されないと、生産の海外移転のみならず、非製造業の海外進出も益々増加する可能性が高そうだ。

働き手の減少や富の流出は、国内の社会保障問題を一段と深刻化させる可能性もある。

財政破たんし、現在再建中の北海道夕張市は、少子高齢化問題の典型例と言えるかもしれない。同市は、かつては炭鉱都市として栄えたが、閉山とその後の放漫財政等がたたり、2006年には不適切な一時借入金の問題等が表面化、2007年には財政再建団体に指定され、2010年には全国唯一の財政再生団体に指定された。

少子高齢化が一定程度進行すると「負のスパイラル」に陥るおそれ

現在は若手の市長下、様々な手法を駆使して財政再建に取り組んでいるが、人口動態面でのハンディは極めて大きいことが総務省が7月1日に発表した「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」調査でも確認された。

夕張市は、本年1月1日現在で、全国の813市区(790市1億0,772万9,338人、23区910万2,598人)の中で、年少人口割合と生産年齢人口割合が最低の一方で、老年人口割合が最高となっている。

夕張市は、322億円に上る債務を2029年度までに解消する計画を立て、財政再建を進めているが、今後も困難が予想される。なぜなら、人口動態的には、働き手は全国で最少、すなわち、税金等の歳入は最少の中、社会保障支出等歳出負担は全国で最大という状況に置かれているからだ。

この結果、行政サービスのレベルは隣接の市などに劣る一方、負担は大きくなることから、現役世代や高齢者でも富裕層が札幌市などに移転することで、再建が進まないという問題もある。

少子高齢化が一定程度進行すると「負のスパイラル」に陥るおそれには留意する必要がありそうだ。

ギリシャがIMF宛ローン返済を延滞、事実上の債務不履行に

我が国と単純比較することはできないものの、現在、財政破たんの危機に瀕しているギリシャもその要因の一つが年金問題だった。

1月のチプラス政権の誕生後、国際債権団(EU、IMF、ECB)との金融支援交渉が難航していたギリシャは、結局、6月30日から7月上旬に償還期限が訪れたIMF(国際通貨基金)へのローン返済計20億5,000万ユーロ(約2,700億円)の支払いができず、事実上の債務不履行に陥った。

ユーロ圏首脳会議では最大860億ユーロ規模の支援の条件として、財政再建策の法制化を要求

ギリシャが7月5日に実施したEU主導の緊縮策の是非を問う国民投票の結果は緊縮策に「反対」が61.31%を占め、「賛成」の38.69%を大きく上回った。

但し、ECBによる追加の流動性の供給がストップし、ギリシャのユーロ圏からの離脱可能性が高まると、チプラス首相はEU案を丸呑みし、7月13日のユーロ圏首脳会議で新たな金融支援策が決定された。

ギリシャは、ESM(欧州安定化メカニズム)による期間3年の融資最大500億ユーロを含む最大860億ユーロ規模の金融支援と引き換えに、年金のカットや付加価値税(VAT)の軽減税率(13%、標準税率23%)対象品目の縮小、500億ユーロ規模で独立した民営化基金を金融支援の担保として確保することなどが求められ、その後、ギリシャ議会で法制化が行われた。

また、当面の資金繰り対策として、EU諸国向けの緊急金融支援用に設けられている欧州金融安定化メカニズム(EFSM)による総額71億6,000万ユーロのつなぎ融資が20日に実施された。この資金を使って、ギリシャはIMF宛延滞金20億5,000万ユーロを返済するとともに、同日、ECBが保有する10年国債35.9億ユーロの元本と利息合計42億ユーロ(約5,700億円)を支払った。

ECBがギリシャ中銀を通じて、ギリシャの4大銀行に実施している緊急流動性支援(ELA)も2回にわたり増額され、910億ユーロ程度(報道ベース)となった。ECBは6月28日以降、同限度額を890億ユーロ程度で据え置いていた。

ギリシャ経済や金融市場の正常化の道のりは険しい

今回のつなぎ融資と、8月に実施されると見込まれるESMによる融資により、当面のギリシャの資金繰りに目途はついたものの、ギリシャ経済や金融市場の正常化の道のりは険しそうだ。なぜなら、資本規制の長期化が予想されるとともに、財政緊縮等により、ギリシャ経済には一段の下押し圧力が加わる中、成長戦略が展望できないからだ。

ギリシャの国内銀行は20日、3週間ぶりに窓口業務を再開したものの、預金の引き出し制限は1日60ユーロから1週間に最大で420ユーロへと変更になっただけで、海外送金も一部の特例を除いて制限されるなど資本規制は継続している。仮に今窓口が完全に再開されれば、預金者による預金の引き出しが殺到するのは必至だ。海外送金が可能となれば大口資金は大半が海外銀行に流出することも予想される。

一方で、ギリシャ経済はマイナス成長が続き、ギリシャ4大銀行の貸出等は不良債権化が進行している。預金流出が続けば、ELAに必要な適格担保が不足する可能性も高い。年金や給料が銀行口座に振り込まれても、一部しか引き出せない状況が続きそうだ。金融は経済の血液と言われるが、銀行業務が正常化しないことでは、内外の設備・住宅・証券・直接投資等も停止状態が続く。

結果、国内だけで流通するIOU(借用証書)や政府紙幣等補助通貨の発行を余儀なくされることも想定される。ギリシャ経済が今後回復し、資本規制から脱することができれば、それらの補助通貨の交換価値はユーロと同等となるが、国内経済や金融市場の正常化が遅れれば、資本逃避も続き、結果、国家間の国際取引は「ユーロ」なるも、国内取引は「ヘレニック・ユーロ」といった二重通貨制度が恒常化することとなるだろう。但し、治安の維持等が可能であれば、海外からの旅行客等にとっては、事実上大幅な通貨安となるギリシャ観光は魅力的に映るかもしれない。年金債務や公務員の給料等も実質的に減価することとなる。

ユーロ圏首脳会議でドイツが提案した「一時的なユーロ離脱」のように、二重通貨制の採用は債務減免とセットであれば、ギリシャ経済の構造改革に長期的にはプラスとなることも予想される。何れにせよ、ギリシャ経済及び財政の構造改革なくしては、今回の金融支援も、計2,400億ユーロに上った過去2回の金融支援同様、単なる危機の先送り策に過ぎなくなる可能性が高そうだ。

「IMF」と「無法国家(ROGUE NATION)」との戦いがまもなく繰り広げられる

IMFを含む国際債権団とギリシャの戦いは、今回は国際債権団側にギリシャが白旗を揚げた格好となったが、まもなく、映画の世界でも、IMF(Impossible Mission Force、不可能作戦部隊)と無法国家(ROGUE NATION)「シンジケート」との戦いが繰り広げられる予定だ。

「Light the fuse.(導火線に火をつけろ)」のシーンで始まる『スパイ大作戦』は、1960年代から1970年代に日本でも放映された米国のスパイテレビドラマだが、1996年からはトム・クルーズさん主演で映画版が製作されている。その第5作目にあたる『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』(原題:MISSION:IMPOSSIBLE ROGUE NATION)が8月7日、国内で公開される(米国公開は7月31日の予定)。

同作品の魅力は、トム・クルーズさん自身が相当部分をこなしているスタントだろう。

前月号で紹介した『ジュラシック・ワールド』は、既に2015年の全米及び全世界興行収入で第1位となり、歴代世界興収ランキングでも第3位となっている。ちなみに、歴代第1位は『アバター』、第2位は『タイタニック』、第4位は2012年公開の『アベンジャーズ』、第5位が今年公開の『ワイルド・スピードSKY MISSION』(原題: Furious 7)、第6位が現在公開中の『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(7月23日現在、Box Office Mojo調べ)。今年は既に、歴代興収ランキングトップ10に3作品が入っており、大ヒット映画の当たり年となっている。

トム・クルーズさんやアーノルド・シュワルツェネッガーさんの体当たり演技に注目

このうち、『ジュラシック・パーク』シリーズ、『アベンジャーズ』シリーズ及び12月公開の『STAR WARS/フォースの覚醒』を含む『スター・ウォーズ』シリーズは、SFXを多用しているが、『ワイルド・スピード』シリーズや『ミッション:インポッシブル』シリーズ、また、現在公開中の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は、主演俳優を含むスタントに特徴があり、やはり実物ならではの見応えがある。公開が待ち遠しい。

なお、早速視聴してきたが、現在公開中の『ターミネーター:新起動/ジェニシス』は、『ターミネーター』ファンにとっては見どころ満載だった。筆者は同シリーズの中で、最高作品と思っているが、その理由は同シリーズ全作品の中でも、アーノルド・シュワルツェネッガーさんの出番が最も多く、完全に主演となっているからだ。同氏の演技に注目を。

巨人が進撃開始、ゴキブリ退治も実写映画化

『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』

『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』
(C)2015 映画「進撃の巨人」製作委員会
(C)諫山創/講談社

国内でも夏休みに入り、注目の作品がまもなく公開される。

8月1日には既刊16巻が全世界累計5,000万部という諫山創さんの大ヒットコミック「進撃の巨人」を実写映画化した2部作『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』の前編が公開される。樋口真嗣監督で、主演はエレン役が三浦春馬さん、ミカサ役が水原希子さん、シキシマ役が長谷川博巳さんら。9月19日には後編『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ワールド』も公開される。同作品は、世界63の国と地域で配給が決定しているが、7月14日に米国ロサンゼルスで行われたワールド・プレミアも好評を博した模様であり、内外でのヒットに期待したい。

同作品はコミックで既刊の全巻を読んだが、最初は荒唐無稽に思えた一方で、何か従前の漫画とは違うインパクトがあった。

実は同じようなインパクトを受けた作品が、現在、週刊ヤングジャンプで連載中の「テラフォーマーズ」(作:貴家悠さん、画:橘賢一さん)だ。

同作品も映画化され、2016年に実写版『テラフォーマーズ』が三池崇史監督で公開される予定だ。先般、主演の小町小吉艦長役は伊藤英明さんが務めることが発表された。同作品の舞台は絶望的人口爆発を迎えた約500年後の地球。人類の未来をかけた「火星移住計画」のために放たれたゴキブリが人型へ進化した「テラフォーマー」たちと、それを駆除するために特殊な手術が施された人類との戦いが描かれたSF漫画。小町艦長はオオスズメバチをベースに手術が施されている。

映画では、戦いの舞台となる火星は、リドリー・スコット監督の『プロメテウス』やトム・クルーズ主演の『オブリビオン』、クリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』などハリウッド映画のロケ地としても注目を集めているアイスランドが選ばれたとのこと。

同作品の仕上がりにも注目したい。

漫画、アニメと馬鹿にするなかれ、我が国では知的財産が最後の砦とならざるを得ない

我が国は、欧米に比べ、製造業の現場等では、過去、オリジナリティーに欠けると言われた時期があった。実際、高度成長期には、欧米に「追い付け、追い越せ」が合言葉で、今の中国同様、コピー商品が主体だった。

但し、コピー商品は、コモディティー化し、人件費等の安い新興国には到底敵わない。実際、テレビや携帯電話の製造は、米国から日本、そして、韓国や台湾に移り、それらの国々も、現在では中国等に追い上げられている。

やはり、成熟国は、新興国とのビジネス商戦で差別化するためにも、自国の強みを最大限に生かした上での、アイデアやソフトでの勝負が欠かせないと言えそうだ。

実際、米国の株式市場で時価総額ランキング上位企業は、IT、金融、エネルギー、軍事・航空宇宙産業等が大半だ。これらの企業は、米国が持つ強み、アドバンテージを最大限生かすことで生き残り、日々、時価総額を拡大させている。

漫画、アニメと馬鹿にするなかれ。成熟国であり、人類史上かつてない少子高齢化が進行する我が国では、「知的財産」が最後の砦とならざるを得ないだろうから。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。日経債券アナリストランキング、14年連続10位内ランクイン。日経財政アナリストランキング2位(2004年〜2006年)。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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