アナリストの忙中閑話【第50回】

アナリストの忙中閑話

(2015年8月28日)

【第50回】中国発世界同時株安が猛暑を一気に冷却、戦後70年と現代の情報戦争

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

「猛暑」と「エルニーニョ現象」は矛盾しない

8月の半ば、ちょうど「お盆」の頃までは、「今年の夏はかつてなく暑い」との声がよく聞かれた。実際、東京では7月31日から8月7日まで、8日連続で最高気温が35度以上の「猛暑日」となった。東京のこれまでの連続猛暑日記録は4日間だったが、8日連続というのは1875年の観測開始以降の最長記録。

本コラムでは、今年は過去最大級のエルニーニョ現象が発生する可能性を指摘してきたが、「エルニーニョ現象⇒冷夏」といった過去のイメージとの関係で、違和感をお持ちの方も少なくないようだ。然るに、ここまでの天候は同現象と矛盾しないばかりか、同現象の影響が強く出ているとも考えられる。

今年の夏が猛暑となった要因として主に、①太平洋の海面水温の上昇、②偏西風が日本付近で北に蛇行し、大陸性の高気圧が張り出した影響、③多数の台風発生に伴う暖気や水蒸気の供給、④インド洋におけるダイポールモード現象の発生 等が指摘されている。これらの背景、特に前2つは、地球温暖化の影響が大きいが、台風の発生数の増加は、エルニーニョ現象の影響が大きいと考えられる。また、ダイポールモード現象とエルニーニョ現象には一部関連性があるとみられている。

暑い夏は景気には良いと言われる。エアコンに加え、夏物衣料、ビール・清涼飲料等が売れ、レジャーにもプラスだからだ。4-6月期に減退した消費回復への期待からか、株価も堅調で日経平均株価も8月中旬までは21,000円近くを維持していた。

お盆までの猛暑が双子台風来襲で一転、冷やされる、金融市場は中国発の世界同時株安に

但し、同時期に発生した台風15号及び16号の接近とともに、気温は低下、東京でも17日以降は最高気温が30度に届かない日が多くなった。

金融市場でも、お盆の頃までの堅調な株式相場を一気に冷やしたのが、中国発の世界同時株安だ。今年は年後半には、11年ぶりとなる米国の利上げ転換観測から、兜町の相場格言通り、「未辛抱」となる可能性があったが、中国株式バブルの破裂が一気に、国際金融市場に冷水を浴びせる形となった。

中国の代表的な株式指数である上海総合指数は、昨年末の引値3,234ポイントが、本年6月12日には5,166ポイントをつけるなど、6割も急騰したが、6月をピークに下落に転じた。その後中国政府の株価下支え対策により8月中旬までは4,000ポイント弱でもみあっていたが、8月18日以降急落、8月25日には2,964ポイントと年初来安値を割り込んで引けた。日経平均株価も25日には17,806円まで下落して引けた。

中国株の下げがきつくなった背景には、天津爆発事故以降、習近平指導部の政権担当能力にやや疑問符がついたことが大きいと考えられる。

ちょうど、8月には中国の河北省北戴河(ほくたいが)で、現指導部と長老等との非公式の北戴河会議が開催されていた。習指導部が進める反腐敗運動等への支持とり付けへの懸念も不安感を大きくしたようだ。習指導部の政権掌握力への懸念払拭には9月3日の対日戦勝70周年記念式典や今後の地方人事の動向等も見極める必要がある。暫くは中国問題が世界経済や国際金融市場の不安定要因となりそうだ。

宮内庁は、戦後70年を機に8月1日、「玉音放送」の録音音声等を公開

今年が戦後70年と重要な節目であるのは我が国も同様だ。今夏には、テレビや新聞等でも、第2次世界大戦・太平洋戦争を扱ったドキュメンタリーやドラマが数多く放送され、特集記事が掲載された。

内外で議論を呼んだ「戦後70年談話」は、安倍首相が8月14日に発表。

翌15日の終戦記念日には、天皇陛下が全国戦没者追悼式で、「ここに過去を顧み、さきの大戦に対する深い反省と共に、今後、戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い、全国民と共に、戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し、心からなる追悼の意を表し、世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります」とお言葉を述べられた。天皇陛下が終戦の日のお言葉の中で「さきの大戦に対する深い反省」との文言を盛り込んだのは初めて。

宮内庁は8月1日には、1945年8月14日の御前会議等が開かれた御文庫附属庫関係資料等とともに、終戦の「玉音放送」を録音した音声を公開しており、先の大戦の記憶を風化させまいとの天皇陛下の強い思いが感じられる。なお、今回実際に聞いた「玉音放送」の音声は従来、ニュースフィルムで聞いた音声よりも鮮明だ。別添の「詔書」の文面を見ないと意味がわかりにくい部分も多いが、70年前にタイムスリップしたような感覚にさせられた。

但し、戦争経験を持つ近親者が少なくなった今の若者にとって、第2次世界大戦が遠い記憶であるのも事実であろう。

戦後の日本が分割されず、経済発展を遂げることができた大きな要因が「日本のいちばん長い日」にあった

『日本のいちばん長い日』

『日本のいちばん長い日』
©2015「日本のいちばん長い日」製作委員会

終戦時の状況を疑似体験するのに格好の映画が現在公開されている。『日本のいちばん長い日』。半藤一利氏のノンフィクション「決定版 日本のいちばん長い日」(文春文庫)が原作で、原田眞人監督がメガホンをとった。なお、同作品は1967年には岡本喜八監督、三船敏郎氏ら主演で映像化されている。

「日本のいちばん長い日」とは、1945年8月14日昼に前述の御文庫附属庫で開催された御前会議にて、昭和天皇の「ご聖断」によってポツダム宣言受諾が決定されてから、翌15日正午、「玉音放送」によってそれが国民に知らされるまでの24時間を指している。前作がその1日に限定したのに対し、本作では鈴木貫太郎内閣が発足した1945年4月から始まることで、より人間味に溢れた作品に仕上がっている。

一億総玉砕を主張する陸軍若手将校たちの血気たぎる思いを背負いながらも、かつて侍従武官を務めた天皇陛下の身を案じて苦悩し、平和的解決を成し遂げようとする陸軍大臣阿南惟幾(あなみこれちか)には役所広司さん、国民の苦しみを憂い、断固として戦争終結を求める昭和天皇には本木雅弘さん、死刑を覚悟し、法を破ってでも、戦争を終わらせようとする鈴木貫太郎首相に山崎努さんと、重厚なキャストで布陣されている。

終戦の8月15日に阿南陸軍大臣は割腹自殺するが、遺子で六男の惟茂さんは戦後中国特命全権大使を務めた。かつて知人の外務省OBが阿南大使には中国政府も一目置いていたと語っていたが、本作を見てその理由がわかったような気がする。

ベトナム戦争や、アフガニスタン戦争、イラク戦争を見ても、戦争を始めるのはある意味簡単だが終結は困難だ。戦後の日本がドイツや朝鮮半島のように分割されず、経済発展を遂げることができた大きな要因が「日本のいちばん長い日」にあったことを確認するためにも、一見の価値のある作品だろう。

ちなみに本作品の副題は『THE EMPEROR IN AUGUST』。2013年夏に日本で公開された米映画『終戦のエンペラー』(原題:Emperor)は1945年8月15日以降、マッカーサー連合国軍最高司令官と昭和天皇の会談が行われた同年9月27日までを主に扱っている。見比べてみると興味深い。なお、同作品は日本での興行収入はそこそこだったが米国では大苦戦したとのこと。

オバマ大統領がNSAによる通信記録の収集問題について安倍首相に陳謝

時代を現代に戻すと、安倍首相とオバマ米大統領は8月26日午前9時30分(日本時間)から約40分間電話会談を行った。

菅官房長官によると、電話会談は米側からの申し出に基づくもので、内部告発サイト「ウィキリークス」が伝えた米国家安全保障局(NSA)による日本政府や企業への盗聴疑惑問題について、オバマ大統領が「本件が日本で大きな議論を呼んでおり、安倍首相及び日本政府にご迷惑をかけていることを大変申し訳なく思う」と日本側に謝罪したほか、「2014年の大統領令を踏まえ、然るべき措置をとっており、米政府として、日米関係の信頼を損なう行動は行っていないとの説明があった」としている。

これに対し、安倍首相からは、「日本の関係者が対象になっていたのが事実であれば、同盟間の信頼関係を揺るがしかねない。深刻な懸念を表明せざるをえない」と指摘し、「調査のうえ結果を日本に説明するよう求めた」とのこと。

NSAによる通信記録の収集問題に関しては、安倍首相が8月5日(日本時間)に、米国のバイデン副大統領と電話で会談し、「事実であれば深刻な懸念を表明せざるをえない」と述べ、事実関係を調査したうえで結果を説明するよう求めていたが、今回、直接、オバマ大統領から謝罪があった格好だ。

なお、菅官房長官によると、同会談では東アジア地域情勢や経済全般の議論も行われ、気候変動問題に関するCOP21やTPPの早期妥結に向けて協力することでも一致したとのことであり、安倍首相が発表した戦後70年談話について、オバマ大統領は歓迎する旨、述べたとのこと。

ちなみに、「ウィキリークス」は7月31日、NSAが、少なくとも2007年以降、日本政府、内閣府の交換台や官房長官秘書官、財務省、経産省、日銀のほか、三菱商事や三井物産のエネルギー部門、日本企業など35の回線を盗聴していたと発表していた。

2013年6月、NSAに出向していた米中央情報局(CIA)元職員のエドワード・スノーデン容疑者がNSAによる内外の情報収集活動を暴露したことで、米国政府は内外から強い反発を受けた。オバマ大統領は、2014年1月に、情報機関の活動を改革し、安全保障上、やむをえない場合を除いて同盟国の首脳の通信は傍受しない方針を明らかにした。2015年6月、米国内外での情報収集活動を規定した「米国愛国者法」に替わる「米国自由法」が成立した。

NSA(National Security Agency:国家安全保障局)は、第1次世界大戦後に、米軍と国務省によって創設された暗号局を源流とし、第2次世界大戦後の1949年に設立されたAFSA(Armed Forces Security Agency:軍保安局)が前身とされる。但し、1999年までその存在自体が秘匿されていた。

NSAのHPによると、NSAの設立は1952年11月4日となっており、公開されている60年史等では、1946年に設立されたBRUSA(British-United States Agreement)や、1952年に改組されたUKUSA(United Kingdom-United States Agreement)との関係等も説明されている。連携して情報収集活動にあたる同協定には、当初、米国と英国が参加し、現在では、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドを含む5カ国が加盟している。

米対外情報機関で有名な中央情報局(CIA)との違いは、CIAが主にヒューミント(Humint:human intelligence) と呼ばれるスパイなどの人間を使った諜報活動を担当するのに対し、NSAはシギント(Sigint;:signal intelligence) と呼ばれる電子機器を使った情報収集活動とその分析、集積、報告を担当する。なお、現在では、1972年に設立されたCSS(Central Security Service:中央保安部)と連携して米国防総省のもとで国家情報活動が行われている。

同様の問題は2001年にEU議会で問題化、自助努力も重要

今回、問題となった活動は、既に2000年頃に主に欧州で問題となり、2001年7月に欧州議会の「エシュロン通信傍受システムに関する特別委員会」が発表した「世界的な私的、または商業通信の傍受システムの存在(エシュロン傍受システム)」という最終報告書で指摘されている「エシュロン」システムが活用された可能性がある。同報告書では、前述の「UKUSAによる全世界的な傍受システムが存在することは疑いない」と断定している。UKUSAに加盟する5カ国は、最近では一般に「ファイブ・アイズ」と呼ばれている。

今月になって、本邦の多くのマスコミ各社が社説等で同問題を取り上げているが(一部紙は既に2001年段階で特集)、過去の経緯や2013年以降のメルケル首相の携帯電話が盗聴されていたとして大問題となったドイツ等の対応を見ると、今回の問題も驚くには当たらないと言えそうだ。

現実に、情報漏えいがあったか否かは別にしても、麻生財務大臣は8月4日の閣議後会見で以下のように述べている。「同盟国とはいえ、企業やら何やら、競争しているわけですから、いろいろな形でその種の話があり得るだろうというようなことは思いますけれども、同時に我々としては防御するなり何なり、いろいろなことをきちんとやっていく努力というのは引き続きやっていかなければいけない話なのだとは思っています」と。まさに、自助努力が必要だろう。

米国政府職員等の情報がサイバー攻撃を受けて大量に流出

実は、筆者が最近、情報漏えい問題で驚いたのは、日本政府の情報が米国に一部漏れていたこと(可能性含め)ではなく、米国の政府職員等の情報がサイバー攻撃を受けて大量に流出していたことだ。

国内での報道の扱いは必ずしも大きくなかったが、米国のOPM(Office of Personnel Management:人事管理局)のキャサリン・アーチュレッタ長官が7月10日、辞任した。同管理局のシステムが何者かに不正にアクセスされた事件に関連したものだが、政府コンピューターからの情報流出量が当初推定よりもはるかに大規模だったことが7月9日に発覚し、ベイナー下院議長ら議会からも長官辞任を求める声が強まり、辞任に至ったようだ。

OPMは当初、ハッカー集団がOPMから盗みだした情報は、政府職員や元職員など420万件で、その内容は氏名、住所、社会保障番号などの基礎情報としていた。但し、7月9日には、政府機関への勤務や契約を希望した2,150万人の身元調査などの情報が漏えいしたことを発表した。その内容は、学歴、職歴、病歴、犯罪歴、面接結果、指紋などの詳細な個人情報で、家族や知人、親しい外国人の情報も含まれるとのこと(ロイター等)。計2件の情報漏えいは重複分を除いて2,210万人分に上る(同)。

展開によっては、米中関係や米ロ関係等が悪化し、国際経済や国際金融市場にも大きな影響を及ぼすおそれ

現役の米公務員に加え、米政府のために働いているエージェント等の情報も含まれる可能性が高く、米国や同盟国の安全保障、特に情報活動等に多大な影響を及ぼす可能性がある。

米政府は、現段階でサイバー攻撃の犯人を特定していないが、クラッパー国家情報長官は中国が「主要な容疑者」と明言している。今後、展開によっては、米中関係や米ロ関係等が悪化し、国際経済や国際金融市場にも大きな影響を及ぼすおそれがあることから、推移に注目したい(スノーデン容疑者はロシアに亡命中)。

情報はある程度漏えいすることを前提に、伝達や保存・記録をすることが必要な時代に

以上、二つの問題は、我が国にとっても「水と安全と情報は、もはやただではない」ということと、情報はある程度漏えいすることを前提に、伝達や保存・記録をすることが必要な時代になりつつあることを、示唆しているようだ。

また、経済や国際金融市場がグローバル化・一体化する中、軍事面以外でも、新興国を含むグローバルな情報収集力の重要性が一段と増していることを再認識させられたとも言えそうだ。

スパイが活躍する諜報活動(ヒューミント)を題材とした作品は過去も多数製作され、映画の人気分野に

映画との関連では、通信衛星やパラボラアンテナ、大型コンピュータを駆使した情報収集活動(シギント)は、何か陰湿でせちがらく、ドラマ性に欠けることから、過去題材としてはあまりとりあげられていない。代表的な映画は1998年米公開の『エネミー・オブ・アメリカ』か。

一方、スパイが活躍する諜報活動(ヒューミント)を題材とした作品は過去も多数製作され、映画の人気分野となっている。

前月号でもとり上げた現在日本公開中のトム・クルーズさん主演の『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』(原題:MISSION:IMPOSSIBLE ROGUE NATION)は、実際に鑑賞してみて、同シリーズ最高傑作と評価しているが、今年はスパイ映画の当たり年でもある。

今年はスパイ映画の当たり年

『キングスマン』

『キングスマン』
(C)2015 Twentieth Century Fox Film Corporation

9月11日に日本公開の『キングスマン』(原題:Kingsman:The Secret Service)は『英国王のスピーチ』で知られるコリン・ファースさん主演。ロンドンの老舗高級テーラー、キングスマンを拠点にした同名スパイ機関の活躍を描く。

11月14日には、1960年代に人気を博したTVシリーズ「0011ナポレオン・ソロ」をガイ・リッチー監督が映画化した『コードネームU.N.C.L.E.』(原題:The Man from U.N.C.L.E)が公開される。

また、12月4日には『007』シリーズ第24作となる『007/スペクター』(原題:SPECTRE)が公開される。前作からの続投となるサム・メンデス監督が「ジェームズ・ボンド」の宿敵である悪の秘密結社「スペクター」をどのように描くのかに注目。

6代目ジェームズ・ボンドのダニエル・クレイグさんは本作が4作目となる。クレイグさんも既に47歳。シリーズ第25作目は続投し、第26作目から新たな「ジェームズ・ボンド」が生まれるとの観測もある。但し、IMF(Impossible Mission Force)のトム・クルーズさんは既に53歳ということを勘案すると、まだ2〜3作は大丈夫かも。筆者も実は現在53歳。アンチ・エイジングの秘訣を極秘情報として特別に提供してもらいたいものだ。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。日経債券アナリストランキング、14年連続10位内ランクイン。日経財政アナリストランキング2位(2004年〜2006年)。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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