アナリストの忙中閑話【第52回】

アナリストの忙中閑話

(2015年10月23日)

【第52回】老若男女が総活躍するための秘訣とフューチャー30周年の課題

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

安倍首相は「ニッポン一億総活躍プラン」と「新三本の矢」を発表

安倍首相は自民党総裁の続投が正式に決まった9月24日の両院議員総会後の記者会見で、アベノミクスは「第二ステージ」に移るとして、「ニッポン一億総活躍プラン」と「新三本の矢」を発表した。首相は、「ニッポン一億総活躍プラン」は、「『一億総活躍』社会であるとし、少子高齢化に歯止めをかけ、50年後も、人口1億人を維持する、その国家としての意志を明確にする」と表明した。

一方、「新三本の矢」とは、第一の矢が『希望を生み出す強い経済』、第二の矢が『夢をつむぐ子育て支援』、第三の矢が『安心につながる社会保障』。GDP(国内総生産)600兆円、希望出生率1.8を実現し、介護離職ゼロを目指すとしている。

10月7日の内閣改造では、新たに一億総活躍担当相を置き、加藤勝信前内閣官房副長官が同相に就任した。加藤氏は女性活躍・再チャレンジ・拉致問題・国土強靭化担当相に加え、少子化対策・男女共同参画も担当。

50年後も人口1億人を維持するのはハードルが高い目標

2014年6月に閣議決定された「骨太の方針2014」には、「50年後に1億人程度の安定した人口構造の保持を目指す」と謳われていたが、本年6月に閣議決定された「骨太の方針2015」には、そのような記述がなくなったことから、優先順位が落ちたのかと内心勘ぐっていた。今回の首相の会見で、人口政策は引き続き最優先事項の一つと再確認できた訳だが、実現までの道のりは険しいと言わざるを得ない。特に、50年後も人口1億人を維持するのはハードルが高い目標だ。

国立社会保障・人口問題研究所の人口推計(2012年1月推計)では、出生中位・死亡中位のいわばメインシナリオで、2060年の日本の総人口は8,674万人に減少する見通しとなっているからだ。50年後に人口を1億人で安定させるためには、2020年代には合計特殊出生率を1.8程度に引き上げ、長期的には置換水準である2.08程度で維持する必要がある。

現在、我が国の総人口は1億2,685万人(9月1日現在、概算値、総務省)。日本人人口は1億2,527万人(4月1日現在、確定値、同)。前年同月比で、総人口は19万6千人、日本人人口は27万人各々減少しているが、今後は人口減少が加速する可能性もある。1971年から1974年生まれのいわゆる「団塊ジュニア世代」が昨年末に全員40歳に到達したことから、今後は合計特殊出生率が低下するとともに、出生数が一段と減少する可能性が高まっているからだ。実際、2014年の合計特殊出生率は1.42と9年ぶりに低下に転じている。また、2015年の出生数は戦後初めて100万人の大台を割る可能性もある。

こうした状況下で、出生率を安倍首相が「十分視野に入ってくる」としている置換水準である「出生率2.08」に引き上げるためには、それこそ次元の異なる少子化対策が必要だろう。子育てには長期の時間とコストがかかる。現役世代に過度に負担を押し付けた財政運営では出生率が上昇することは望めないのではないか。人口一億人維持目標の実効性を高めるには「世代間格差の是正」が政策課題に浮上する可能性がありそうだ。

なお、私はかねて日本経済の再生には、「アンチ・エイジング」が重要と指摘している。少子高齢化の進展は企業の多国籍化(産業の空洞化)を招く可能性があり、財政破綻の可能性が拡大しかねない(国破れて、多国籍企業在り)。財政の持続可能性を高めるためにも、国力を高めること、アンチ・エイジング(抗老化と若返り)が必要であり、「成熟国」としての安定した社会の構築が重要だろう。

老若男女が総活躍するためのヒントとなる映画が現在公開中

『マイ・インターン』

『マイ・インターン』
10月10日(土)、全国ロードショー
ワーナー・ブラザース映画
(C)2015 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.
AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC ALL RIGHTS RESERVED

一方、人口一億人が仮に維持されたとしても、3千万人近くが現在より減少することから、労働力不足が課題となりそうだ。既に、中小企業非製造業ではバブル期並みの人手不足となっている状況が一段と深刻化する恐れもある。

その場合、「ニッポン一億総活躍プラン」でも期待されているのが高齢者と女性だ。「一億総活躍」というロゴは高齢層にはあまり受けは良くないようだが、現在、参考にできそうなハリウッド映画が日本で公開されている。

ロバート・デ・ニーロさんとアン・ハサウェイさん主演の『マイ・インターン』だ。ハサウェイさんが演じるのはファッションサイトCEOのジュールズ、30歳。社会貢献の一環で、ロバート・デ・ニーロさん演じる70歳のベンを「シニアインターン」として雇うことになる。なお、「インターン」とは正社員になる前の見習い、実習生や短期雇用契約者等。ジュールズには長女がいるが、夫は仕事を辞め家事のため専業主夫に。一方、ベンは40数年間勤務した電話帳作成会社を退職、妻にも先立たれ、時間をもてあます日々。一念発起して、再就職するものの、若手社員からは当初、PCの起動も出来ず、「絶滅危惧種」とからかわれ、ジュールズからも疎まれる。しかし、ベンの経験と人間性が徐々に浸透すると、会社に欠かせない「みんなのオジサン」に。発生したトラブルなどに的確なアドバイスをし、周囲を公私ともに盛り上げていくストーリーとなっている。ジュールズやベンの悩みは、我が国でも十分理解でき、むしろ日本の方がより起こりそうな問題が多い。ベンの服装を含む礼儀正しさや気遣いは、日本のサラリーマンに近いのでは。ほのぼのとした映画だが、女性や高齢者の活躍を具体化するための、課題と解決策のヒントを提供してくれる内容となっている。なお、パワーの源泉は老若男女問わず「生き甲斐」かもしれない。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の公開から30周年

今週21日には、都内で米映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の公開30周年記念イベントが行われた。また、米国ではトヨタ自動車が量産型燃料電池車(FCV)「ミライ」の販売開始に合わせ、同映画にちなんだCMを放映し話題を集めた。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』はロバート・ゼメキス監督、スティーブン・スピルバーグ氏製作総指揮の米ハリウッド映画。高校生がタイムマシンで30年前へさかのぼり、さえない家族の運命を激変させる物語。ユニバーサル・スタジオ作品のため、大阪のUSJには同映画にちなんだアトラクションもある。

1985年に公開され、国内でも大ヒットしたが、1989年公開の第2作『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2』では、主人公が1985年から2015年10月21日へタイムスリップする。ちょうど今週21日の水曜日が同映画で描かれた未来(ミライ)のその日にあたったことから、世界中で記念行事が開催された。

もう一つの「フューチャー30周年」

実は今週は、もう一つの「フューチャー30周年」にあたった。こちらの「フューチャー」は「先物取引」の「先物」だ。

1985年10月19日に、東京証券取引所(2014年3月以降は大阪取引所)に、国債先物(長期国債先物標準物)が上場、同市場が開設されてから、今週19日(月)で30周年の節目を迎えた。

この間、上場直後にはプラザ合意を受けた円高を意図した日銀の「金利高め誘導」の洗礼を受けた。上場初値が102円丁度で寄り付いた1985年12月限は、一旦102円04銭まで上げたものの、10月25日にはストップ安となり、次についた値段は96円台、11月中旬には89円台まで暴落することとなった。当時、多くの個人投資家が国債先物取引で痛手を被ったことは、今なお同市場への個人投資家の参入が乏しい一因となっている。

1987年には債券バブルの生成とその崩壊がいわゆる「タテホショック」に繋がった。1987年5月の高値と同年10月の安値の差は約24円、国債先物史上最大の暴落となっている。また、1990年秋には「バブル退治のための金融引き締め」による暴落、1994年春には「第1次資金運用部ショック」、1998年暮れには「第2次資金運用部ショック」、2003年夏には「VaRショック」、2008年春には「ベアスターンズショック」と、様々なショックに見舞われながらも、国債先物は債券市場に多大な流動性とヘッジやスペキュレーション(投機的取引)、アービトラージ(裁定取引)等の機会を提供してきた。

ちなみに、株価指数先物の市場開設は1988年9月3日と国債先物より3年弱遅い。

また、過去30年の間には、長期国債先物取引以外にも、超長期国債先物取引やT-Bond先物取引、長期国債先物オプション取引、中期国債先物取引、限月間スプレッド取引、中期国債先物オプション取引、ミニ長期国債先物取引など多くの取引が導入された。

但し、現時点で、豊富な流動性が提供できているのは、長期国債先物取引とその関連取引にとどまっている。中期国債先物取引は、開店休業状態であり、2014年4月に取引が再開され、2015年7月には商品性が見直された超長期国債先物取引も最近では日中売買高が10億円前後と低迷している。

私は市場開設直後の1986年春から国債先物の場電兼ディーラーを担当していたこともあり、「30周年」は感慨深いが、同商品にとってはこれからが、過去最大の試練となる可能性もあるのではないかと心配している。

というのも、足元の国債先物相場は堅調な足取りとなっているが、2013年4月の日銀による異次元緩和導入後は変動率が低下、株価や海外金利等を含む様々な外部要因への感応度が低下しているからだ。

背景には、異次元緩和導入後、利付国債の増加額を上回る額を日本銀行が吸収しており、国内銀行保有分等を含む市場の国債現存額が減少(筆者試算で、2013年度は約23兆円、2014年度は約36兆円、2015年度は50兆円超を日銀が国債市場から吸い上げる見通し)。また、長期金利の低下により、特に国内投資家の国債保有ニーズが減退していることも挙げられる。

結果的に、近年の国債先物市場では、国内投資家の売買が減少している。特に、過去には(2000年当時まで)最大の取引主体だった銀行のシェア低下が著しい。この15年間で約5割から約1割へと5分の1の水準に低下している。一方、通貨スワップ等の組み合わせで、低利調達が可能な海外投資家の日本国債投資需要やCTA・ヘッジファンド等の取引需要に起因した海外投資家のシェアが、2014年には1985年の国債先物の上場後初めて、50%超に達した。但し、日本国債の残高総額に占める海外投資家のシェアは、2015年6月末段階で9.2%。利付国債においては4.7%に過ぎないことから、むしろ、国内投資家の国債先物の利用が減少しているとみるべきだろう。

現物の公社債店頭売買高も、国債現存額の累増に伴い増加傾向にはあるものの、2013年の異次元緩和導入後は、アウトライト(売り切り・買い切り)の一般売買高が低迷、現先取引の割合が増加している。

国債先物市場の拡大にとって現在、最大の脅威は出口の見えない日銀の異次元緩和?

このまま、国内民間投資家の国債保有額の減少が続き、一般売買高も低迷することとなれば、一段と国債先物の売買高も減少することが懸念される。国債先物市場の拡大にとって現在、最大の脅威は出口の見えない日銀の異次元緩和と言えそうだ。その結果、国債先物市場が一段と縮小することとなれば、出口局面における市場の流動性確保の観点からもリスクが増すと考えられる。足元、極めて低位な金利水準で安定している国債市場だが、水面下ではマグマが溜まりつつあるのかもしれない。

今年は、例年になく映画の当たり年に

今年は、例年になく映画の当たり年となっていることは、本コラムでも幾度か記した。

現在、2015年の世界興収ランキングは、第1位が『ジュラシック・ワールド』、第2位『ワイルド・スピードSKY MISSION』(原題: Furious 7)、第3位『アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン』、第4位『ミニオンズ』、第5位『インサイド・ヘッド』(原題: Inside Out)、第6位『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』、第7位『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』、第8位『シンデレラ(2015)』、第9位『カリフォルニア・ダウン』(原題: San Andreas)、第10位『アントマン』、第11位『ターミネーター:新起動/ジェニシス』、第12位『キングスマン』(原題:Kingsman:The Secret Service)の順(10月22日現在、Box Office Mojo調べ)。

今後、米国で最近公開された『オデッセイ』(原題:The Martian)や12月公開の『007 スペクター』 (原題:SPECTRE)、『STAR WARS/フォースの覚醒』(原題:Star Wars: The Force Awakens)などが10傑入りを狙うものと予想される。

このうち、現時点で第4位の『ミニオンズ』までが歴代世界興収ランキングでも上位10位に入っていることからも、今年の映画人気と映画人口の拡大がわかる。歴代世界興収ランキングは、各3位、5位、6位、10位。

ちなみに、現在日本で公開中の映画の中で、秀逸と感じたのは第12位の『キングスマン』と第6位の『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』。今年はスパイ映画の当たり年とお伝えしたが、何れも噂に違わぬ出来だった。11月に公開される『コードネームU.N.C.L.E.』(原題:The Man from U.N.C.L.E)も試写会で視聴したが、ハードボイルドでダンディでシュールな映画だ。簡単に言えば格好いい映画。同じスパイ映画でも3作ともスタイルが大きく異なっており、個性的な作品揃いだ。『007 スペクター』にも期待したい。

国内のプロダクツやアイデア、文化等を、映画や観光、新製品等によって、世界ビジネスに繋げることが課題

『バクマン。』

『バクマン。』
(C)2015映画「バクマン。」製作委員会

邦画では、前月号で特集した『図書館戦争THE LAST MISSION』も良かったが、『バクマン。』は漫画・アニメファンには必見の映画だろう。かつて漫画雑誌として最高の発行部数653万部を記録した集英社の「週刊少年ジャンプ」編集部の舞台裏を明らかにした「バクマン。」の実写化作品。

今年6月には「週刊少年ジャンプ」で連載中の人気漫画「ONE PIECE(ワンピース)」が「1人の作者が描いたコミック累計発行部数が世界最多」としてギネス世界記録に認定された。ギネス・ワールド・レコーズによると、昨年末の時点で、約3億2,086万6,000冊が発行されたとのこと。

国内のプロダクツやアイデア、文化等を、映画や観光、新製品等によって、世界ビジネスに繋げることができるかが、「ニッポン一億総活躍プラン」やGDP600兆円等「新三本の矢」の成否にも影響するのではなかろうか。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。日経債券アナリストランキング、14年連続10位内ランクイン。日経財政アナリストランキング2位(2004年〜2006年)。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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