アナリストの忙中閑話【第53回】

アナリストの忙中閑話

(2015年11月20日)

【第53回】パリで同時多発テロ、オランド大統領は非常事態宣言を発令、「007シリーズ」の新作がまもなく公開

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

フランスのパリ中心部で同時多発テロが発生、オランド大統領は非常事態宣言を発令

11月13日夜(現地時間、日本時間14日未明)、フランスのパリ中心部で、同時多発テロが発生した。自動小銃及び爆発物で武装した犯行グループがサッカースタジアムやレストラン、コンサート劇場を襲撃、死者129名、負傷者300名以上が発生し、テロによる被害としては、フランスで戦後最大規模の惨事となった。

まずは、犠牲者のご冥福をお祈りするとともに、ご家族や関係者の方々にお見舞いを申し上げたい。

オランド大統領は14日、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国(IS:Islamic State)」による犯行と断定、フランス全土に非常事態宣言を発令した。フランス軍は15日、シリア領内にあるISの拠点を空爆。今回の空爆は、フランスがシリア国内で空爆を開始して以降、過去最大の規模となった(ロイター)。

14日、インターネット上に掲載されたISを名乗るグループの犯行声明によると「フランスはISの攻撃対象であり続ける。なぜならイスラム教の預言者を侮辱したり、ISの領土に空爆を加えたりしているからだ。今回は最初の攻撃にすぎず、その通告として行ったものだ」(NHK)と述べさらなる攻撃を示唆している。

フランスでは、本年1月に、週刊誌「シャルリ・エブド」編集部に武装勢力が侵入し、編集長やイラストレーターら12人を自動小銃で射殺する事件も発生している。また、同時期に、別のテロリストがパリ南部で警察官を殺し、パリ東部のユダヤ系スーパーマーケットに立て籠り、ユダヤ人4人を殺害。何れもアル・カイダ等イスラム教スンニ派系過激勢力及びそれらに感化を受けた人物の犯行とみられている。

中東・アフリカ系移民の多いフランス

フランスは第2次世界大戦以前、アルジェリアやチユニジア、モロッコ、シリア等、イスラム教スンニ派を信仰する住民の多い地域を植民地(及び委任統治領)としていたこともあり、現在でも、イスラム系の移民等がパリ市等中心に多く住んでいる。特に、今回、劇場やレストランで多くの死傷者が発生したパリ10区や11区等パリ北東部は元々、中東やアフリカ等からの移民が多数住んでいることでも知られている。

出身地を記載するフランスの国勢調査等に基づけば、フランス総人口(約6,632万人:2015年1月1日、仏国立統計経済研究所)に占める移民の割合は10%程度と考えられる。

今回のテロの背景に、フランスで出生した移民の若者の高失業率や疎外感等の問題があるとすれば、一過性の問題としては片付けられないかもしれない。

難民問題への波及

また、犯人グループの1人がシリアのパスポートを持っていたことも、問題を複雑化させている。15日から16日までG20首脳会議が開催されていたトルコのイスタンブール(G20の会場はトルコ南部アンタルヤ)で13日、トルコ警察がISの戦闘員とみられる5人を拘束したことが明らかとなっているからだ(AFP)。5人は何れもシリア経由で入国しており、シリア難民を200万人も受け入れているトルコとシリア、また、トルコとギリシャ等の国境管理の問題が問われることとなりそうだ。

EUのユンケル欧州委員長は15日の記者会見で、パリ同時多発テロがEUの難民政策に与える影響について、「本物の難民申請者とパリを攻撃した容疑者を同等に扱うべきでない」(時事通信)と述べたものの、今後の政策遂行について「困難さを感じている」(同)とも述べており、難民受け入れ政策にブレーキがかかる可能性が考えられる。

欧州経済等への影響は短期的には限定的だが、中長期的な課題が浮上する可能性

一方、欧州経済等への影響は短期的には限定的と考えられる。

2001年9月11日に、米国のニューヨーク等で発生した同時多発テロの場合も、米国経済への影響は短期的には限定的だった。同テロでは3千人以上の死者を出したものの、株価の下落等は一時的であった。日米ともに、テロ発生後急落した株価は1カ月後にはテロ以前の水準を回復した。

但し、その後、当時のブッシュ政権は、アフガニスタンに加え、イラクへ進攻し、現在でも米国のOCO(海外緊急対応作戦)関連の軍事費は膨大な金額となっている。また、2003年3月に発生したイラク戦争は、世界的な株安要因となるとともに、長期的には、金融危機の発生に加え、戦費の増大が米国の財政問題を深刻化させ、保守とリベラル、共和党と民主党の対立等、米国の世論を2分させる背景ともなっている。

長期的影響を判断するには、もう暫く時間が必要だろう。

当面懸念されるのは欧州観光への影響

当面、懸念されるのは、欧州観光への影響だ。

前述のように、フランスが今後、中東やアフリカでのISに対する武力行使を本格化させると、フランスの軍事予算が膨張するとともに、テロの危険も増え、欧州全体での観光収入の減少要因となる可能性も想定される。

フランスは、外国人観光客数で世界トップ、国際観光収入では世界4位だ(UNWTO)。また、国際観光客数、国際観光収入ともに上位10位のうち、フランス、スペイン、イタリア、ドイツの4カ国が、欧州のシェンゲン協定加盟国となっている。

シェンゲン協定の見直しに繋がる可能性

シェンゲン協定は、加盟国間で、原則国境管理を廃止するものであり、通常時はパスポートを提示せずとも、国境を通過できる(テロ発生後、フランスでは国境管理を実施中)。

現在、シェンゲン協定には、英国とアイルランドを除くEU加盟国22カ国(キプロス、ルーマニア、ブルガリア、クロアチアは加盟準備中)と、EU非加盟のアイスランド、ノルウェー、スイスの3カ国及びリヒテンシュタインの計26カ国が参加している。

同協定により、日本人等は例えば、スイスのチューリッヒ空港で入国審査を終えれば、その後の同協定加盟国の国境通過は基本ノーチェックとなることから、観光やビジネスにとって極めて便利なシステムとなっている。特に、欧州の複数国を大型バスや電車で回る観光ツアーの設定を容易にし、外国人観光客数の底上げに寄与しているのは間違いないだろう。

問題は本来、シェンゲン協定発効後は、協定加盟国と非加盟国との間の国境管理を厳格化することとなっているが、難民の大量流入等で、特に財政危機に陥っているギリシャ等では、国境管理が緩くなっていることだ。

今回のパリ同時多発テロ事件で自爆したシリアのパスポートを持っていた人物は、ギリシャ経由でシェンゲン圏に入国したことが明らかとなっている。また、今回のテロはフランスの隣国ベルギーで準備された可能性が指摘されており、国境管理の厳格化等、シェンゲン協定の見直し論議に繋がる可能性があろう。

フランスのオランド大統領は、法律で認められている12日間の非常事態宣言実施期間を法改正することで、最長3カ月に延長する方針を示しているが、少なくとも同宣言が出されている間は、国境管理の厳格化とともに、観光客も減少が予想される。

また、近年勢力を増している右派政党が選挙等で台頭すれば、移民政策等にも影響が及ぶ可能性がある。足元、深刻な問題となっているシリアやアフリカ等からの難民問題への対応も、世論の硬化により変化する可能性が考えられる。

米国では19日、オバマ大統領が進めるシリア難民の受け入れ拡大策(年間1万人受入れ)に反対する共和党が、下院で実質的に受け入れを不可能とする法案を可決、また、米50州のうち共和党系を中心に30州を超える知事が受け入れ反対を表明している。

フランスは「戦争状態」と宣言、テロのリスクは欧州大陸諸国が相対的に高い

問題は、こうした変化が、キリスト教徒とイスラム教徒の対立を煽る可能性も否めないことだ。

オランド大統領は16日、ベルサイユ宮殿に上下両院議員全員を集め演説、「現在戦争状態にある」と宣言した。戦闘機や攻撃機を搭載した原子力空母「シャルル・ド・ゴール(Porte-avions Charles de Gaulle, R 91)」を18日にペルシャ湾に派遣し、4カ月間駐留させることを決めた。今後、ISの掃討のため、空爆の強化に加え、米国が参加する場合は地上軍の派遣も検討する可能性がある。ちなみに、「シャルル・ド・ゴール」は米国以外が保有する唯一の原子力空母で核兵器搭載艦とされる(ミリタリー・バランス2015等)。

フランスは、フランス革命後、政教分離を徹底しているため、本来、宗教対立には巻き込まれにくい国のはずだが、イスラム過激派は疎外感にあえぐ中東・アフリカからの移民の若者のリクルートに力を入れる可能性がある。フランス王国は11世紀から13世紀にかけて実施された約8回の十字軍遠征で主導的な立場を占めた経緯もあり、イスラム武装勢力からは恰好の喧伝材料とされるおそれもある。

テロの拡大の可能性に関しては、やはり当面は欧州のリスクが高いと言わざるを得ないだろう。16日には、ISが制作したとされる複数の映像がインターネット上で公開され、その中では戦闘服姿の男が「今度はワシントンの中枢を攻撃する」と脅迫している。但し、ワシントンでISやISに共鳴する勢力が大規模テロを発生させる可能性は低いのではないか。

米国は「911テロ」後、入国審査や国境管理、空港での手荷物検査等を厳格化していることに加え、通信の傍受等の技術・システム等においては、先進国の中でも頭抜けているからだ。

近年、独仏や日本等同盟国との間でも、米NSA(国家安全保障局)による通信傍受が国際問題化しているが、先般のロシア旅客機の墜落の原因として、爆発物によるテロの可能性を最初に指摘したのは米英政府だった。米英及びカナダ、オーストラリア、ニュージランドの5カ国は、1946年に設立されたBRUSAが1952年に改組されたUKUSA(United Kingdom-United States Agreement)に加盟しており、連携して情報収集にあたっているとされる。いわゆる「ファイブ・アイズ」ないし「エシュロン・システム」だ。

また、前述のように、英国はシェンゲン協定非加盟国(協力国)であることから、同国もややリスクは低いと言えるのではないか。

一方、フランスのバルス首相は16日、「テロはシリアで計画され、組織されたものだ」としたうえで、「新たなテロが今後、数日から数週間以内に再び起きるおそれがある。フランスだけでなくヨーロッパ全域が標的になる」(NHK)と述べている。

その後、18日にはフランスの治安当局がパリ郊外のISのアジトを急襲、銃撃戦の上8名を拘束、2名が死亡した。フランス検察は死亡者の1人が今回の同時テロの首謀者であると発表したが、仮に、欧州に他のテロリストや協力者が潜伏しているとすると、捜索の手が及ぶ前に次のテロを実行に移す可能性もあり、当面は警戒を怠れないと言えそうだ。

米国及び日本への影響

また、米国の2016年大統領選にも間接的な影響があるとの見方がある。

民主党では、クリントン前国務長官が第1回テレビ討論会と下院の公聴会を乗り切り、バイデン副大統領の不出馬表明もあったことで、支持率を50%超に回復させた。同党の大統領候補はクリントン氏でほぼ決まりつつある。

一方、共和党の大統領候補指名争いは、依然14名が乱立中であり(当初17名が参戦、3名が撤退)、混迷状態が続いている。但し、現在、支持率第1位のトランプ氏及び第2位のカーソン氏は、外交経験どころか政治経験もない。米国が国際テロや大国間の権益争いに直面する中、米軍の最高司令官の器が務まるのかという疑念が今後生じる可能性も想定される。

一方、支持率第3位のルビオ氏は現職のフロリダ州上院議員だ。今回の事件はトランプ氏らが批判するワシントン在籍の既存の政治家が浮上するきっかけとなる可能性もありそうだ。

我が国でも、イラク戦争後、イスラム過激派が国内でテロを起こす可能性が指摘されたが、現実には発生しなかった。背景には、我が国の地理的な条件や人口構成等があったと考えられるが、来年には伊勢志摩でG7が開催される。より注意が必要なのは、2020年の東京オリンピックだろう。

既に、外国人観光客は年間2千万人ペースに近づいているが、オリンピック開催期間の前後は、より集中的な入国が予想される。警備体制の再検討とともに、国際協力等を通じて、IS等への資金供給の道を断ち、中東・アフリカ諸国の生活・教育水準の向上や難民対策に貢献し、テロリスト予備軍や協力者の醸成を止める等、テロの根源を封じ込めることに注力することも必要だろう。

来週末『007 スペクター』 が国内で先行上映

『007 スペクター』

『007 スペクター』
SPECTRE (c)2015 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc., Danjaq, LLC and Columbia Pictures Industries, Inc. All rights reserved.

来週末の11月27日から29日まで、『007 スペクター』 (原題:SPECTRE)が国内で先行上映される。正式な全国公開は12月4日。

『007 スペクター』は人気スパイ映画、「007シリーズ」の第24作目で、ダニエル・クレイグさんが英情報機関MI6のエージェント、6代目「007ジェームズ・ボンド」を演じて第4回目の作品。サム・メンデス監督が前作『007 スカイフォール』に続きメガホンをとった。本作品では「ジェームズ・ボンド」が「007シリーズ」往年の宿敵で悪の国際犯罪組織「スペクター」と対峙する。

「007シリーズ」は、英国で世界で最初にワールドプレミアが実施されるのが恒例で、今回も10月26日、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールには、サム・メンデス監督やダニエル・クレイグさんのほか、英王室のウィリアム王子やキャサリン妃、ヘンリー王子らが姿を見せた。

2012年のロンドンオリンピック開会式には、クレイグさんがエリザベス2世女王をエスコートして現れたが、今回、キャサリン妃と談笑する姿は、まさしく「キャサリン妃の007」といったところ。

なお、本作品では、巨大な建築物が破壊されるシーンが「映画史上最大の爆破シーン」としてギネス世界記録に認定された。

10月27日の英国の興行収入は920万ドル(630万英ポンド)と、火曜日の興行収入としては同国で過去最高となり、前作『007 スカイフォール』の同国における初日の興行収入も上回ったとのこと(ソニー・ピクチャーズエンタテインメント)。前評判通り好調なスタートとなった。北米でも11月6日に公開され、2週末連続で興収1位となった。既に2015年の世界興収ランキングで第8位に浮上している(11月19日現在、Box Office Mojo調べ)。

【第22回】スカイツリーとスカイフォール、映画と債券」でも記したように、私は同シリーズに特別な思いを持っている。今回は「ジェームズ・ボンド」の過去の謎が明らかとなるなど、クレイグ主演4作品の完結編的な位置づけにある。そのため、契約上はもう1作残っているクレイグさんの最後の作品となる可能性もあり、「クレイグ007」ファンにとっては、特に見逃せないと言えそうだ。

『俺物語!!』でピュアな気持ちに

『俺物語!!』

『俺物語!!』
2015年10月31日
全国東宝系にてロードショー
(C)アルコ・河原和音/集英社
(C)2015映画「俺物語!!」製作委員会

一方、公開中の邦画でお薦めしたいのは『俺物語!!』。原作は、河原和音さん、作画アルコさんで別冊マーガレットに掲載中のいわゆる「少女漫画」。主人公の高校1年生の剛田猛男を演じるのは鈴木亮平さん。鈴木亮平さんと言えば、本コラムでも紹介したTBSテレビ日曜劇場『天皇の料理番』で佐藤健さん演ずる主人公、秋山篤蔵の兄の秋山周太郎役を演じるにあたり、76キロあった体重を半年で56キロまで20キロ減量したことで注目された。それが直後に撮影が始まった今回の剛田猛男役では体重を86キロまで増やして臨んだとのことであり、役作りに向けたストイックな姿勢には驚きを隠せない。本作品はプラトニックな青春物語だが、鈴木亮平さんのそうした姿勢が画面から伝わることで、心がほんわかと温まる作品に仕上がっていた。パリ同時多発テロ等、世界は殺伐な雰囲気が強まっているが、同映画を見てピュアな気持ちを思い出すのもいいのでは。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。日経債券アナリストランキング、14年連続10位内ランクイン。日経財政アナリストランキング2位(2004年〜2006年)。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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