アナリストの忙中閑話【第60回】

アナリストの忙中閑話

(2016年5月19日)

【第60回】熊本地震対応の補正予算成立、今夏は猛暑に注意、デッドプールと米大統領選、お上から利息を取るのは大変

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

熊本地震対応の2016年度第1次補正予算が5月17日に成立

今年のGWは、最大10連休と日並びも良かったが、全国的に好天に恵まれ、行楽地は多くの人出で賑わった。

但し、4月に大規模な地震が発生した熊本では余震が続き、M7.3、震度7を記録した4月16日の本震から1カ月を過ぎた今なお1万人近くの方が避難生活を強いられている。

今週16日夜には、関東地方でも最大震度5弱の地震が発生、筆者も、「すわ、首都直下型地震」かと一瞬身構えたが、幸い大きな被害はなく一安心だった。

こうした状況下、政府は熊本地震からの早期復旧に向けた対策を盛り込んだ2016年度第1次補正予算案を決定し、5月13日、国会に提出。補正予算は全会一致で16日に衆院を通過、17日には参院本会議でも全会一致で可決・成立した。

追加歳出は7,780億円で、道路・公共施設等のインフラ復旧、がれき処理、被災者の事業再建等に使える7,000億円の「熊本地震復旧等予備費」の創設に加え、住宅の確保や生活再建支援金の支給等被災者支援に要する経費を780億円計上。一方、財源は、日銀のマイナス金利政策の導入で長期金利が一段と低下したことで、国債費を7,780億円減額し、全額充当した。

財務省によると、熊本地震の被害で、現時点で明らかとなっているのは、公共施設等が約3,000億円、農林水産業関連が約1,000億円の計約4,000億円。補正予算では7,000億円の予備費を確保するが、追加で必要になれば2016年度当初予算で3,500億円計上した予備費も振り向けるとのこと。

緊急防災・減災対策は喫緊の課題

同地震からの復旧・復興が足元の最優先課題であるのは間違いないが、今後は防災・減災対策も重要と言えそうだ。

今回の地震が南海トラフ地震等を誘発する可能性は規模や位置等から考えにくいが、後世、熊本地震が南海トラフ地震の前兆だったと認定される可能性は否定できない。

南海トラフ地震は過去、1605年に慶長地震(M7.9)、1707年に宝永地震(M8.6)、1854年に安政東海地震(M8.4)と安政南海地震(M8.4)が発生。直近では、1944年に東南海地震(M7.9)、1946年に南海地震(M8.0)が発生している。慶長地震以降の地震発生の周期は、90年〜147年となっている。

ちなみに、南海トラフ地震を東海、東南海、南海と3つの地区に分けた場合、東海地震は安政東海地震から既に162年が経過、東南海地震で72年、南海地震でも70年が経過している。

2011年に発生した東日本大震災(M9.0)以降、日本列島近辺では、地震活動や火山活動が活発化していることを勘案すると、南海トラフ地震、特にその前震はいつ発生してもおかしくないとも考えられる。1944年の東南海地震や1946年の南海地震の前後には、内陸部で規模の大きい地震が発生しており、今後も、内陸部での地震発生リスクにも留意が必要だろう。緊急防災・減災対策は喫緊の課題だ。

今夏は「猛暑・厳冬」をもたらすとされる「ラニーニャ現象」にも注意が必要

また、今夏は「猛暑・厳冬」をもたらすとされる「ラニーニャ現象」にも注意が必要か。

気象庁が5月12日に発表したエルニーニョ監視速報(No.284)によると、「2014年夏に発生したエルニーニョ現象は弱まりつつある」「エルニーニョ現象は春の間に終息するとみられ、夏にはラニーニャ現象が発生する可能性が高い」とのことである。

気象庁は4月発表の監視速報では、「(エルニーニョ現象終息後)、平常の状態が続く可能性もあるが、夏の間にラニーニャ現象が発生する可能性の方がより高い」としていたが、今回、今夏の同現象の発生確率を一段と高めた。

前回、ラニーニャ現象が発生したのは、2010年夏から2011年春だ。当時、米テキサス州では100年に一度の規模の大干ばつが発生し、畜産や農業に大きな被害が出た。また、アルゼンチンやブラジルではとうもろこしや大豆生産に打撃を与えるなど、干ばつの被害が世界各地で拡大した。

過去、エルニーニョ現象とラニーニャ現象は交互に発生しているが、強いエルニーニョ現象が終息すると間もなくラニーニャ現象が発生していることが多い。これは史上最強となった1997年春から1998年春のエルニーニョ現象後、1998年夏にはラニーニャ現象が発生していることからも実証される。

ラニーニャ現象が発生すると、「冷夏・暖冬」が特徴のエルニーニョ現象とはほぼ反対に、我が国では「猛暑、寒冬」になりやすいとされ、北大西洋でハリケーンの発生が増え、太平洋西部では多雨傾向となり、太平洋東部の米大陸では少雨傾向となりやすいとされている。

また、その勢力は直前に発生したエルニーニョ現象の勢力にほぼ比例することが多く、1998年夏から2000年春に発生したラニーニャ現象は過去最大級だった。一方、直近の2010年夏から2011年春に発生したラニーニャ現象も過去最大級となった。その背景には地球温暖化が挙げられる。

今夏に発生が予想される次回のラニーニャ現象は、過去3番目の規模となったエルニーニョ現象の直後及び地球温暖化の進展の影響で、史上最強となる可能性も否定できない。

2015年の世界の年平均気温は過去最高に

気象庁によれば、2015年の世界の年平均気温(陸域における地表付近の気温と海面水温の平均)の1981〜2010年平均基準における偏差は+0.42度(20世紀平均基準における偏差は+0.78度)で、1891年の統計開始以降、最も高い値となった。特に、近年は北半球での気温上昇が著しい。背景には、北半球には陸地が多いことと、中国やインド等新興国の台頭があると考えられる。

地球温暖化の影響で、気候変動の規模がかつてなく大きくなっていることで、エネルギー価格や個人消費、雇用、住宅着工等、内外の様々な経済指標への影響も強まっている。また、原油価格の変動や食料品の価格高騰等は、地政学的リスクを高める効果もあり、ラニーニャ現象の発生動向等含め、2016年は天候要因にも目が離せない。

5月から7月は東日本以西で高温・多雨の予報(全国3カ月予報)

ちなみに4月25日に、気象庁が発表した全国3カ月予報(5月から7月までの天候見通し)によると、向こう3カ月の平均気温は、北日本で平年並または高い確率ともに40%、東・西日本で高い確率50%、沖縄・奄美で高い確率60%。降水量は、東日本と西日本日本海側で平年並または多い確率ともに40%、西日本太平洋側で多い確率50%と、全国的特に東日本以西で高温・多雨の予想となっている。

GW映画は予想通り、日米のアニメ作品が人気を博した

GW映画は予想通り、日米のアニメ作品が人気を博した。

4月16日に公開された『名探偵コナン 純黒の悪夢(ナイトメア)』はGW中も人気が衰えず、5月8日までの興収は50億5,700万円と50億円の大台を突破。今回は劇場版20作目だが、前作の約45億円を上回り、シリーズ史上最高興収を記録。公開から3週連続で第1位を獲得し、観客動員数も400万人を突破、20作の累計興収は600億円に到達した。

一方、昨年、一昨年とGW商戦を制したディズニーも健闘。4月23日に公開されたウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ作品のCGアニメ『ズートピア』は5月に入り2週連続で興収第1位を記録。5月15日時点での累計は、興収が約37億円、観客動員数は292万人に達した。

なお、米国では公開第1週の興収が第1位となったマーベル・スタジオ作品の『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』は、我が国では公開第1週の興収はアニメ2作品の後塵を拝し、第3位となったが、過去のマーベル作品と比較すると、好調な結果と言えそうだ。我が国でもファンの多い「スパイダーマン」効果が発揮されたか。

現時点での2016年の全世界興収ランキング第1位は『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』だが、米国内では『デッドプール』が第1位

ちなみに、現時点での2016年の全世界での興収ランキング第1位は『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』、第2位が『ズートピア』、第3位が『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』、第4位が『ジャングル・ブック(2016)』、第5位が『デッドプール』となっている(5月18日現在、Box Office Mojo調べ)。

一方、米国内に限定すれば『デッドプール』が第1位で、第2位が『ズートピア』、第3位が『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』となっている(同)。

その『デッドプール』が、国内でも6月1日に公開となる。「デッドプール」は「マーベルコミック」の「X-MEN」シリーズに登場するキャラクター。いわゆる「正義の味方」型の「ヒーロー」とは言い難いが、人間味溢れる超人が、個人的な復讐と自分にとって大切な人を守るために戦うストーリー。「アベンジャーズ」の「アベンジ」は公的な報復というニュアンスがあるが、本作品は、個人的な仕返しのニュアンスの強い「リベンジ」物語が主体で、むしろ「リベンジャー」か。ちなみに、「デッドプール」とは、有名人などで誰が次に死ぬかの賭けを意味するような響きがある。

作品自体、下品な言葉が満載で、小さいお子さんを連れての鑑賞はお勧めできない。国内でも「R15+(15歳以上限定)」指定がされる予定だ。但し、『デッドプール』は、R指定映画としては歴代第2位の興収を米国で上げている(同)。歴代第1位は、2004年公開でイエス・キリストの最後の12時間を描いた『パッション』。但し、同作品は宗教的要因でR指定となった可能性が高く、実際、日本国内では「PG-12」(親または保護者の助言があれば12歳未満でも鑑賞可)だったことから、実質的には『デッドプール』はR指定映画としては歴代最高の興収を上げた作品と言える。

『デッドプール』人気は今年の米大統領選と通じたものがある?

『デッドプール』人気は今年の米大統領選と通じたものがあるかもしれない。

『デッドプール』

『デッドプール』
2016年6月1日
TOHOシネマズ 日劇ほか全国ロードショー
© 2016 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

5月3日のインディアナ州共和党予備選で、不動産王ドナルド・トランプ氏が大勝したことで、テッド・クルーズ上院議員とジョン・ケーシック・オハイオ州知事が撤退、共和党の大統領候補は実質的にトランプ氏に絞られた。一方、民主党では、ヒラリー・クリントン前国務長官が候補者指名を確実にしているが、バーニー・サンダース上院議員は足元でも善戦を続けており、民主党のクリントン氏、共和党のトランプ氏ともに、代議員の過半数を獲得するのは、カリフォルニア州などで予備選が実施される6月7日に持ち越される見通しだ。

大本命クリントン氏の苦戦と番狂わせとも言えるトランプ氏の台頭は、全米に吹き荒れる「アンチ・エスタブリッシュメント」トレンドの反映とも言えよう。イラク戦争に金融危機を経て、格差拡大等への不満が、世界の警察官たる「アメリカン・ヒーロー」よりも、毒舌のトランプ氏や「デッドプール」に喝采を送るムードを作りだしているのかもしれない。

前述のように、今年の興収ランキングが全世界と米国内で異なるのも、世界は米国に引き続き「アベンジャーズ」としての活躍を期待しているが、米国民は自分のことで手一杯で、むしろアジアやメキシコ等に「リベンジ」したいと思っている表れとしたら大変だ。トランプ大統領誕生リスクに備えるためにも、『デッドプール』は一見の価値がありそうだ。

お上から利息を取るのは250年前も今も大変

一方、邦画でも、世相・時勢を反映したような映画が現在公開されている。『殿、利息でござる!』だ。主演は阿部サダヲさん。共演に瑛太さん、妻夫木聡さん、竹内結子さんら。仙台伊達藩の重い年貢・苦役により、夜逃げが相次ぐ宿場町・吉岡宿に住む十三郎らは、藩に大金を貸付け、利息を取ることで町を救おうとする。私財をなげうち、千両、現在の価値にして3億円を集め、その利息で「伝馬役(てんまやく)」という運送役務のコストを賄い、商売を振興しようとするのだが、そう簡単に「お上」が利息を払うわけがない。

本作品は吉岡宿(宮城県黒川郡大和町)に伝わる実話に基づいているが、「お上」から利息を取るのは、現在の日本でも極めて難しい状況にある。日銀が1月29日に導入したマイナス金利政策の影響で、民間金融機関が日銀に預けている当座預金300兆円弱のうち20兆〜30兆円はマイナス金利(▲0.1%)が適用されている。また、長期金利(10年物国債利回り)も足元▲0.1%程度とマイナス圏での推移が恒常化し、運用難が深刻化している。

『殿、利息でござる!』

『殿、利息でござる!』
2016年5月14日
全国ロードショー!
(C)2016「殿、利息でござる!」製作委員会

今から250年前の伊達藩も財政難が深刻化していたとのことだが、現在の我が国政府も同様な状況だ。吉岡宿が最終的に成功したのは、利息を元手に、町の人口を維持し、商売を振興したことが大きい。現在の我が国でも、少子化対策と産業振興策が最重要課題と言えそうだ。

実は同作品の最後には、著名なスポーツ選手が伊達藩の藩主伊達重村役で登場するのだが、演技の上手さに驚かされた。さすがにオリンピックで金メダルを取る人は、氷上でもセット上でも表現力が違うと感心させられたものである。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。日経債券アナリストランキング、14年連続10位内ランクイン。日経財政アナリストランキング2位(2004年〜2006年)。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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