アナリストの忙中閑話【第61回】

アナリストの忙中閑話

(2016年6月23日)

【第61回】ニッポンの夏、ラニーニャの夏、政治の夏、インデペンデンス・デイとゴジラが復活

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

今夏は「猛暑」をもたらすとされる「ラニーニャ現象」に注意

6月5日には関東甲信が、13日には東北でも梅雨入りしたが、18日には埼玉県鳩山町と群馬県館林市で最高気温が35度を超え、全国で今年初めての猛暑日となった。同日は東京都心でも33度などと、全国の観測地点のうち3割近い269地点で30度以上の真夏日となった。

一方、沖縄は16日、奄美は18日と平年より7〜11日早く梅雨明けし、夏の太陽が燦々と降り注いでいる。

今年の夏は暑くなりそうだ。本コラムでも紹介したが、今夏はラニーニャ現象が発生する可能性が高まっているからだ。

気象庁が6月10日に発表したエルニーニョ監視速報(No.285)によると、「2014年夏に発生したエルニーニョ現象は、2016年春に終息したとみられる」「今後、夏の間にラニーニャ現象が発生し、秋にかけて続く可能性が高い」としている。

米気象予報センター(CPC)も9日、ラニーニャ現象が今年下半期に北半球で75%の確率で発生する可能性があるとの見方を示した。同センターは5月に確率を75%に引き上げていた。

前回ラニーニャ現象が発生した、2010年は最も暑い夏に

前回、ラニーニャ現象が発生したのは、2010年夏から2011年春だ。当時、米テキサス州では100年に一度の規模の大干ばつが発生し、畜産や農業に大きな被害が出た。また、アルゼンチンやブラジルではとうもろこしや大豆生産に打撃を与えるなど、干ばつの被害が世界各地で拡大した。

ラニーニャ現象が発生すると、エルニーニョ現象とはほぼ反対に、我が国では猛暑、渇水、寒冬になりやすいとされ、北大西洋でハリケーンの発生が増え、太平洋西部では多雨傾向となり、太平洋東部の米大陸では少雨傾向となりやすいとされている。

また、その勢力は直前に発生したエルニーニョ現象の勢力にほぼ比例することが多く、1998年夏から2000年春に発生したラニーニャ現象は過去最大級だった。一方、直近の2010年夏から2011年春に発生したラニーニャ現象も過去最大級となった。その背景には地球温暖化が挙げられる。

実は今年はまだ台風が発生していない(6月22日現在)。直近で6月まで発生数がゼロとなったのは1998年であり、エルニーニョ現象からラニーニャ現象への変わり目の年の特徴でもある。

2016年の世界の年平均気温は過去最高となる可能性、ニッポンの夏、ラニーニャの夏、暑い夏?

今夏に発生が予想される次回のラニーニャ現象は、過去3番目の規模となったエルニーニョ現象の直後及び地球温暖化の進展の影響で、史上最強となる可能性も否定できない。

気象庁によれば、2015年の世界の年平均気温(陸域における地表付近の気温と海面水温の平均)の1981〜2010年平均基準における偏差は+0.42度(20世紀平均基準における偏差は+0.78度)で、1891年の統計開始以降、最も高い値となった。特に、近年は北半球での気温上昇が著しい。背景にはエルニーニョ現象に加え、北半球には陸地が多く、中国やインド等新興国の台頭があると考えられる。

NASAの予測では、2016年の世界の年平均気温は過去最高となる見通しだ。

2010年は、我が国では、1898年以降で、6-8月の平均気温が最も高い「暑い夏」となったが、地球温暖化とラニーニャ現象が揃うことで、2010年を上回る「暑い夏」となる可能性も否定できないと言えそうだ。

「暑い夏」、「寒い冬」は景気にはプラスとされるが、程度問題だろう。今冬は「厳冬」が地球温暖化の影響で相殺され、適度な「寒い冬」となる可能性もあるが、今夏が「猛暑」どころか「酷暑」の域に達すれば、「渇水」被害や高齢者の外出手控え等で、景気にマイナスとなる可能性も想定される。

今夏は政治の世界でも「熱い夏」に、6月23日に英国のEU離脱の是非を問う国民投票、国際金融市場も動揺

一方、今年の夏は、政治の世界でも「熱い夏」となりそうだ。

本日6月23日には、EU離脱の是非を問う英国の国民投票が実施される(現地時間午前7時〜午後10時、日本時間23日午後3時〜24日午前6時)。世論調査等では、5月末以降、離脱派のモメンタム(勢い)が急速に高まり、賭け率も変化、金融市場でも「質への逃避」から、円高、債券高、株安が進行した。

但し、ウェスト・ヨークシャー州リーズ市近郊で16日に、残留派で労働党所属の女性下院議員ジョー・コックス氏(41)が離脱派で極右勢力と関係があるとみられる男に殺害されて以降、世論調査でも再度、残留(Remain)が、離脱(Leave)に対し、優勢となり、金融市場でも「質への逃避」からの巻き戻しの動きが起きている。

ブックメーカーの賭け率をみても、6月中旬以降、再度、残留(STAY)の比率が上昇、足元では、金融市場等でも、75対25程度の比率(IG調査75.5%:24.5%で残留予想、6月21日現在)で、残留がメインシナリオとなっていると考えられる。

残留がメインシナリオだが投票率が低下するとリスクも

私自身も6対4程度で残留優位と予想しているが、残留と完全に決めつけるにはややリスクがありそうだ。残留派は、首都ロンドン等都市部に在住する若年層及び高所得層、加えてスコットランド地域が主体であるのに対し、離脱派は郊外や地方に在住する高齢層及び中低所得層が主体であることだ。

21日に、英選挙管理委員会が発表した有権者登録数によると、今回の国民投票の登録者数は、昨年5月の総選挙(GE)時を約14万人上回り、過去最高の4,649万9,537人に達した。地域別では、スコットランドが11万人減る一方で、イングランドは22万人増加、ウエールズは微減、北アイルランドは微増だった。イングランドはロンドンを除き、離脱派が優勢だ。英フィナンシャル・タイムズは、投票率が65%を超えれば残留派に有利になると分析しているが、残留が優勢との報道で、残留派の若者が棄権したような場合は、「どんでん返し」が起きる可能性もあり、投票率には注意が必要だろう。

また、国民投票の結果、残留が過半数となっても、僅差となれば、現在、世界を覆いつつある不寛容な内向き志向、保護主義的な傾向を一段と煽る可能性も否定できない。11月8日の米大統領選・議会選等各国の選挙の動向を含め、中長期的な世界の分断リスク、経済や地政学的リスクを高める可能性にも留意が必要だろう。

我が国では7月10日に参院選、7月31日に東京都知事選

一方、我が国では、6月22日に第24回参院通常選挙が公示された。投票日は7月10日。また、舛添東京都知事の辞職に伴い、東京都知事選が7月14日に告示され、7月31日に投票が行われる予定だ。

安倍首相は、4月に発生した熊本地震等を受けて、衆参同日選挙は見送るともに、2017年4月に予定していた消費税率の8%⇒10%への引き上げも2019年10月まで2年半再延期することを、6月1日の通常国会閉幕後の記者会見で表明した。

2012年夏の民主・自民・公明の3党合意、及びその後に成立した社会保障と税の一体改革関連法では、2015年10月から消費税率の10%への引き上げが規定されていたため、当初予定からは丸4年の先送りとなる。

消費増税の先送り自体は、全ての政党が主張しており、市場も織り込んでいたため、参院選の大きな争点にはなりにくいが、有権者の関心の高い社会保障問題やアベノミクスへの評価を巡って、論戦が繰り広げられることとなりそうだ。

第24回参院通常選挙は、「一票の格差」是正等を目的とし2015年7月に成立した改正公職選挙法により、議員定数の10増(北海道・東京・愛知・兵庫・福岡各2人)10減(宮城・新潟・長野各2人、鳥取・島根と徳島・高知を合区し各2人)が実施される。また、選挙権年齢も18歳以上に引き下げられる。

参院選の焦点

参院選の最大の焦点は、自民、公明両党が非改選の76議席と合わせて過半数(122)の維持は当然として、自民党が27年ぶりに単独で過半数を獲得できるか、また、与党に加え、おおさか維新等、いわゆる「改憲勢力」で参院定数の3分の2を確保し、与党が3分の2を確保している衆院と併せ、憲法改正の発議に必要な要件を揃えることができるかだろう。

参院選の帰趨を左右するのは、今回から32選挙区となる改選定数1の「1人区」。今回は、全ての「1人区」で事実上、与野党の一騎打ちの構図となる。4月24日に実施された衆院北海道5区補欠選挙では、野党統一候補は惜敗となったが、死票が減るのは間違いなく、接戦の選挙区では与党の脅威となりそうだ。

自民党は、非改選の65議席をあわせ、57議席以上を獲得すれば、27年ぶりの単独過半数を確保できる。公明党は、改選定数が1増えた愛知など過去最多の7選挙区に候補を立てた。自民党は、前回、2013年の参院選で大勝していることから、3年後の2019年の参院選では議席の上積みは困難な状況だ。今回の参院選で敗れることとなると、安倍首相が在任中の憲法改正は事実上不可能となる。安倍首相の自民党総裁の任期は2018年9月まで。仮に党則を改正して、もう一期、総裁を務めたとしても、2021年9月には任期が満了する。今回の参院選の次回の改選は2022年7月となることから、参院での3分の2確保には、今回の参院選での勝利が絶対条件となる。

一方、今回から選挙権年齢が20歳から18歳に引き下げられる。最近の選挙では、20歳代の投票率は60歳代の半分程度にとどまっている。特に参院選でその傾向が強い。選挙権年齢の引下げで、若年層の投票率が向上し、ひいては、家族での投票等により全体の投票率向上にも寄与するか注目したい。

クールダウンに最適な作品が公開、夏映画の定番は、お化けと恐竜(怪獣)に加え、最近は宇宙人物

参院選の公示に加え、東京都知事選の告示も控え、全国で、7月に向けては、熱い選挙戦が繰り広げられることになるが、今年は猛暑が予想されていることもあり、適度に頭と体を冷やすこと、「クールダウン」も重要と言えそうだ。

こうした中、映画の世界では、例年の夏同様、「肝を冷やす」作品が多数封切られる。

【第5回】夏の風物詩と言えば、お化け、恐竜、宇宙人?

でもご紹介したように、夏の映画の定番は、お化けと恐竜(怪獣)物に加え、最近は宇宙人物が流行りとなっている。

宇宙人物が急速に増えている背景には、冷戦終結後、ロシアや中国等旧東側諸国もハリウッドの商圏に入る中、人類共通の仮想敵として、宇宙人やエイリアンが格好の題材となったことが挙げられる。特に、米国では、毎年7月4日の独立記念日前後に多数公開される。

『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』

『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』
2016年7月9日
TOHOシネマズ スカラ座他全国ロードショー
© 2016 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved

今年は、ずばり『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』が7月9日に国内で公開される。1996年に製作・公開され、世界中で大ヒットした『インデペンデンス・デイ』の20年ぶりの続編。ストーリーも、エイリアンを撃退してから20年後、再度来襲したエイリアンを全人類が総力を挙げて撃退する話となっている。監督は、前作同様、ディザスター映画の巨匠ローランド・エメリッヒ氏。エメリッヒ監督は「エイリアンの侵略があった後、共通の敵を相手に世界が一つにまとまっている。これがリサージェンス(復活)の意味だ」と説明している。冷戦終結後の地域紛争の拡散や、英国のEU離脱問題を鑑ると、人類の統合には共通の敵が必要なのかもと思わせる作品だ。

宇宙人物では、『10 クローバーフィールド・レーン』も公開されているが、こちらは、「エイリアンと人間どっちが怖い」かという選択を迫られる作品。

7月1日公開の『ウォークラフト』は、戦争の相手が「オーク」だが、世界的人気を誇るPCゲーム「ウォークラフト」シリーズを実写映画化したファンタジー大作。

同じく7月1日公開の『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』はティム・バートン監督が英国人ルイス・キャロル原作の「不思議の国のアリス」及び「鏡の国のアリス」をもとに描いた『アリス・イン・ワンダーランド』(2010年公開)の続編。本作ではバートン監督は製作として参加。

1975年公開の『ジョーズ』に似た作品では、7月23日に『ロスト・バケーション』が公開される。但し、鑑賞後は海水浴やサーフィンが怖くなるかも。

お化け物では、7月9日に、『死霊館 エンフィールド事件』、8月19日には、1980年代の人気シリーズ『ゴーストバスターズ』が「女性活躍」の時代らしく装いを変えて公開される。

ジョディ・フォスターさん監督で現在公開中の『マネーモンスター』は、ジョージ・クルーニーさんが財テクTV番組の司会者役で登場するが、推奨した株の暴落で損をした投資家に番組をジャックされるストーリー。証券アナリストらにとっても正確な情報とデータに基づいた分析の重要性が再認識させられる作品だ。

本当に怖いのは宇宙人でもお化けでもなく、人間?

邦画では、『貞子vs伽椰子』が現在公開中。同作品は『リング』シリーズの貞子と『呪怨』シリーズの伽椰子の対決を描いた新作ホラー。ちょうど、「バケモノを以てバケモノを制す」、ハリウッド映画の『エイリアン対プレデター』の日本版か。

同じく公開中の『クリーピー 偽りの隣人』も「怪優」と評される香川照之さん演じる隣人が「お化け」以上に怖い作品。『64-ロクヨン-前編』及び『64-ロクヨン-後編』同様、実は本当に怖いのは宇宙人でもお化けでもなく、人間か。

怖い映画に飽きたときは、『高台家の人々』がお薦め。綾瀬はるかさんと斎藤工さんの好演が冷えた心を温かくさせてくれる。

インデペンデンス・デイとゴジラが復活

『シン・ゴジラ』

『シン・ゴジラ』
2016年7月29日
全国東宝系にてロードショー
(C)2016 TOHO CO.,LTD.

一方、怪獣物では、『シン・ゴジラ』が7月29日に公開される。ゴジラシリーズの第29作で、『ゴジラ FINAL WARS』以来約12年ぶりの日本製作のゴジラシリーズ。総監督・脚本は『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズで知られる庵野秀明氏。英題は『GODZILLA Resurgence』で、前述の『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』と重なるが、今回の企画は、2014年公開のハリウッド映画『GODZILLA ゴジラ』のヒットが背景にある。同作品のギャレス・エドワーズ監督は、今年12月公開の『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』の監督も務めているが、『GODZILLA ゴジラ』の2019年及び2020年公開の続編でも監督を務める予定。

『シン・ゴジラ』もハリウッド映画に負けない作品に仕上っていることを期待したい。

今秋にもリスクイベント

今年の夏は「暑くて、熱い夏」となりそうだが、映画で肝を冷やすのは別にして、現実世界で、政治リスクの拡大等から国際金融市場が大混乱し、冷や汗をたらすのだけは勘弁願いたいものだ。今年は、厳しい残暑が予想されているが、秋には米大統領選(11月8日、議会選、知事選も同時)という、より世界経済や安全保障に影響を与えうるイベントが控えているのだから。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。日経債券アナリストランキング、14年連続10位内ランクイン。日経財政アナリストランキング2位(2004年〜2006年)。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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