アナリストの忙中閑話【第62回】

アナリストの忙中閑話

(2016年7月21日)

【第62回】変動の激しい2016年、ポケモンGOが社会現象に、今夏はアニメが熱い

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

「申酉騒ぐ」の相場格言通り、国際金融市場は大荒れ

「申酉騒ぐ」の相場格言通り、2016年の年明け後は中国リスクの台頭や原油安で変動の大きい相場となったが、6月下旬には市場参加者の大方の予想を裏切る形で英国が国民投票でEUからの離脱を選択したことで、またしても国際金融市場は大荒れとなった。

6月の本コラムでは、英国の国民投票は、残留がメインシナリオなるも、「残留が優勢との報道で、残留派の若者が棄権したような場合は、『どんでん返し』が起きる可能性も」と記したが、懸念が現実化したようだ。

英選挙管理委員会やBBC等の調査結果でも、残留派の多い北アイルランド、スコットランド、若年層の投票率に対し、離脱派の多いイングランドやウェールズ、高齢層の投票率が高かったことが明らかとなっている。また、運悪く、6月23日の投票日の夕刻、イングランド南部が豪雨に襲われたことで仕事帰りの若者の相当数が棄権したことも影響したと考えられる。投票結果を受けて、賭けに負けたキャメロン首相は辞任、鉄の女サッチャーに続く英国2人目の女性首相としてメイ氏が就任した。

英国民投票のネガティブサプライズをまともに受けたのが6月24日の東京市場

ネガティブサプライズをまともに受けたのが6月24日の東京市場。東京市場の変動が大きかったのは、ジョー・コックス下院議員の殺害事件以降、世論調査に加え、市場予想やブックメーカーの賭け率でもほぼ75:25程度で残留派が優勢となり、極め付きが投票後の世論調査会社YouGovの調査結果で残留52対離脱48と発表されたのが、開票作業が進むに連れて、結果が残留48対離脱52と覆ったことが大きかった。市場参加者も同事件までは、離脱の可能性を一部織り込み、ヘッジを行っていたが、その後投票終了時点までにほとんどアンワインド、再度、全面ヘッジを余儀なくされたことで、大幅な変動となったと考えられる。実際、離脱派の優勢が伝えられ始めた6月初に1ポンド/160円程度であったポンド円レートは、下院議員殺害事件の発生直前には、1ポンド/145円程度まで円高となったのが、6月23日引け時には、6月初の水準に一旦戻り、その後24日一日で30円近く円高ポンド安が進行した。また、日経平均株価は1万5千円の大台を割り込み、円ドルレートも一時1ドル/100円割れとなった。

参院選後は株価反発も、海外では混乱続く

7月10日に投開票が行われた第24回参院通常選挙は、いわゆる改憲勢力が無所属議員含め参院定数の3分の2超を占めるものの、自民党は単独では過半数に至らず(現在自民党に入党届を提出済の無所属議員が入党すれば57議席に)、安倍首相が会見で経済最優先路線継続を表明したことで、株価は反発に転じた(株式市場では与党の想定以上の大勝及び伸び悩みをリスクシナリオと見做していた)。

但し、海外に目を向けると、混乱が続いている。フランスの保養地ニースでは7月14日に大きなテロが発生、オランド大統領は昨年11月のパリ同時多発テロで発令された非常事態宣言を2017年1月まで延長することを決定、国民議会が19日に法案を可決した。

7月15日には、トルコで軍の一部勢力によるクーデターが発生。クーデターは失敗に終わったが、エルドアン大統領はクーデターの黒幕をイスラム組織「ギュレン教団」と名指しして、軍や警察、司法関係者、公務員を大量に拘束、更迭している。3ヶ月間の非常事態宣言の発令に加え、2002年に廃止した死刑制度の復活にも言及しているが、死刑廃止は欧州連合(EU)の加盟条件のため、EU加盟は困難になりそうだ。

今後、トルコが外交面で孤立化し、経済も悪化することとなると、トルコ国内に大量に滞留するシリア難民の拡散や米国等有志連合とISとの対決にも影響が及ぶ可能性がある。

一方、米国では、白人警官による黒人被疑者の射殺事件以降、白人警官を狙った黒人による銃撃事件が頻発している。

トランプ氏が共和党の大統領候補に正式指名、民主党はクリントン氏を来週正式指名へ

そうした中、オハイオ州クリーブランドでは、共和党の全国大会が7月18日に開幕(21日まで)、19日には大統領候補に不動産王のドナルド・トランプ氏を正式に指名した。

民主党の全国大会は7月25日から28日まで、ペンシルべニア州のフィラデルフィアで開催され、ヒラリー・クリントン前国務長官を大統領候補に指名する。クリントン氏は、私用メール問題で訴追されないことが7月6日にリンチ司法長官から正式に発表されたものの、同問題の影響等で最近、支持率は下降、トランプ氏との差が縮小している。

トランプ氏は、副大統領候補に保守派でインディアナ州知事のマイク・ペンス氏を指名したが、クリントン氏は依然選考中のようだ。6月には、リベラル派の重鎮で女性のエリザベス・ウォーレン上院議員が有力との報道もあったが、足元ではティム・ケイン上院議員の名前が挙がっている。ケイン氏は大統領選本選の帰趨を決める接戦州、いわゆる「スイング・ステート」のバージニア州選出で、過去には知事と副知事も務めていた。

来週以降、共和・民主両党とも、本選に向けた選挙活動が本格化することとなるが、1年以上続いた予備選で繰り広げた「シビル・ウォー(内戦)」の傷は深い。共和党の全国大会をブッシュ元大統領親子や過去2回の大統領候補であるロムニー氏、マケイン上院議員らは軒並み欠席した。一方、民主党のサンダース上院議員はようやく予備選から撤退、7月12日にクリントン氏への支持を表明したが、1年3ヶ月も続いた予備選のしこりは大きく、サンダース支持層にはエスタブリッシュメント(特権階級)の代表格であるクリントン氏への反発は根深いようだ。

英国の国民投票同様、今回の米大統領選は、世論調査の支持率だけでなく、実際に投票に行くかといった投票率格差も重要となりそうだ。

トランプ氏は1980年代のニューヨークでの不動産取引を巡るビジネス経験から反日感情が強くなったとの指摘がある。一方、クリントン氏もサンダース氏ら民主党内の保護主義・内向き志向の高まりから、TPP等含め貿易・為替政策等ではハードルを上げてくることが想定される。米株価指数は連日、最高値を更新しているものの、11月の米大統領選は我が国にとっては、かつてなく厄介なイベントになる可能性に留意が必要だろう。

良いものは良い、ジャパニメーションが収穫期に

円高の急激な進行、不安定な株式市場、一時新発20年債までがマイナス金利となった債券市場等、先行き不透明な金融市場においても、やはり「良いものは良い」ことが国際的に再認識されているようだ。

ニュージーランドやオーストラリア等に加え、米国で先行配信され空前の人気を呼び、社会現象になっているスマートフォン向けゲーム「ポケモンGO」だ。近々に日本でも配信が始まると見られるが、「ポケモンGO」は任天堂の関連会社「ポケモン」と米ゲーム開発ベンチャー企業「Niantic」などの共同開発によって生み出された。既に、デイリー・アクティブ・ユーザー数は米国でツイッターを抜いたと報道され、社会現象化している。その名の通り、ポケットコンピュータ(スマホ)界のモンスターになりつつあるようだ。

任天堂の株価も急騰、7月19日には時価総額が東証一部で第13位となり、ソニーを抜くこととなった。ジャパニメーション(日本アニメ)もいよいよ、グローバルで収穫期に達し始めたと言えそうだ。

今夏はアニメ映画が熱い

ポケモンもジャパニメーションのキャラクターだが、夏には、1年で一番長い休暇に合わせて、家族で楽しめるアニメ映画が多数公開される。特に今夏はアニメ映画が熱い。

既に、「ポケット・モンスター」劇場版第19作『ポケモン・ザ・ムービーXY&Z 「ボルケニオンと機巧(からくり)のマギアナ」』と『それいけ!アンパンマン おもちゃの星のナンダとルンダ』、『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV』が公開中だが、7月23日には『ONE PIECE FILM GOLD』が公開される。

アニメと他のビジネスとのグローバルでのコラボに期待

『ONE PIECE FILM GOLD』

『ONE PIECE FILM GOLD』
2016年7月23日
(C)尾田栄一郎/2016「ワンピース」製作委員会

『ONE PIECE FILM GOLD』は「ONE PIECE」劇場版13作目で、7月15日にはアラブ首長国連邦の首都アブダビにある「エミレーツ・パレス・ホテル」で初の海外プレミア上映会が開催された。同ホテルは建設に当たり40トン以上の金が使われたとのことで、映画にぴったりの会場。中東でも「ONE PIECE」は大人気で大いに盛り上がったとのことだ。

なお、『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV』もCGの出来が良く、往年のFFファン以外でも楽しめる作品に仕上がっていた。「ポケモン」や「ONE PIECE」、「ファイナル・ファンタジー」等の作品は多国籍性に特徴がある。ゲーム等とのコラボを含め、一段の海外展開に期待したい。

また、8月6日には『ルドルフとイッパイアッテナ』、8月13日には『劇場版アイカツスターズ!/同時上映「アイカツ!〜ねらわれた魔法のアイカツ!カード〜」』、8月26日には『君の名は。』が公開される。

『ONE PIECE FILM GOLD』

『君の名は。』
2016年8月26日
全国東宝系にてロードショー
(C)2016「君の名は。」製作委員会

『君の名は。』の監督は新進気鋭の新海誠氏。同作品のワールドプレミアが7月3日、米ロサンゼルス・コンベンションセンターで開催中の北米最大のアニメコンベンション「Anime Expo 2016」で行われた。上映後には、超満員3,400人の大観衆から5分を超えるスタンディングオベーションが起き、米国での配給も発表された模様だ。

「Anime Expo 2016」は日本アニメーション振興会が主催するイベントで、略称「AX」、今年は7月1日から4日に開催された。1992年の第1回の来客数1,700名程度が今回は26万人に達したとの報道もあり、世界中で「OTAKU」が急増している模様。

洋画ではディズニーの勢いが止まらない

一方、洋画ではディズニーの勢いが止まらない。GW映画では『ズートピア』が爆発的な人気を博したが、前週末我が国でも公開された『ファインディング・ドリー』は今年最高の興収を上げるアニメ映画となる可能性が高そうだ。既に、米国では、2016年の興収ランキング1位に躍り出ている(Box Office Mojo7月20日現在)。『ファインディング・ドリー』は2003年公開でアカデミー長編アニメーション賞を受賞したフル3DCDアニメの『ファインディング・ニモ』の続編。

8月11日には『ジャングル・ブック』も公開される。こちらも今年の全米興収で『ズートピア』(第5位)を抜いて第4位に浮上(同)。11日には、ユニバーサル作品の『ペット/同時上映 短編アニメーション 「ミニオンズ:アルバイト大作戦」』も公開される。こちらも今年の全米興収第7位(同)。

現時点で、2016年の全米興収ランキングの第1位、第4位、第5位、第7位、第9位の5作品がアニメで、4作品がアメコミの実写作品となっており、アニメはハリウッドにとって必須のコンテンツとなっている。世界興収も同様で、むしろ影響力は一段と大きくなりやすい。今年は中国映画の『美人魚』が第7位に入っている以外全て、ハリウッドのアニメまたはアニメの実写作品が上位10位を占めている。

ディズニーアニメの隆盛の背景には、当初ディズニーに入社したものの解雇され、後にピクサーの設立に加わり、ディズニーによるピクサーの買収によって、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ及びピクサー・アニメーション・スタジオの両スタジオのチーフ・クリエイティブ・オフィサーを務めることとなったジョン・ラセター氏らの存在が大きそうだ。ラセター氏はジャパニメーションのコアのファンでもあり、スタジオ・ジブリの宮崎駿氏らとの親交が深い。かつてのディズニーアニメは明らかに子ども向けだったが、最近はジャパニメーションの影響からかストーリー性のある奥の深い作品に仕上がっている。結果、老若男女問わず楽しめるファミリー向け作品となり、メガヒットを連発することとなっている。

『ファインディング・ドリー』でも、人間による海の汚染等も描かれており、最後に主人公らが「クリーブランド」行のトラックから逃げるシーンは、現在開催中の共和党の全国大会を筆者にイメージさせた。オハイオ州クリーブランドには「Greater Cleveland Aquarium」等の施設があり政治的意図はないと思われるが、ディズニーアニメが近年、日本の影響を受けているのは間違いないだろう。

ダイヤモンドの原石を研磨・加工し拡販するノウハウは欧米企業に「一日の長」

かつて映画館に行くと、毎回放映される有名なCMがあった。一つは、「メガネのパリミキ」というメガネ屋の、もう一つは「ダイヤモンドは永遠の輝き:A Diamond is Forever」という世界的なダイヤモンド会社のCM。私は若い頃、遠視気味でメガネとは無縁だったため(現在は反動で老眼が著しいが)、「メガネの三城(現在の株式会社三城ホールディングス)」のCMはスルーしていたが、「婚約指輪は給料の3ヶ月分」というデビアス社のCMには、そんな余裕はないと憂鬱にさせられた記憶がある。ただ、一説には、1970年代、米国では「給料の1ヶ月分」、欧州では「給料の2ヶ月分」と宣伝していたとのこと。事実だとすれば、ドル換算したサラリーマンの平均給与がかつては日本は米国の3分の1だったことが背景と思われる。但し、1人当たり国民所得が米国を抜いていたバブル期でもCMは続いていたことから、当時、日本は上得意の顧客だったのだろう。その後、バブルが崩壊し、金融危機が発生、デフレ経済に陥って以降、CMは減少、「草食男子」という言葉が流行となる中、トンと見なくなった。

ちなみに、「Diamonds Are Forever」というフレーズは1971年に公開された007シリーズ第7作、邦題『ダイヤモンドは永遠に』のタイトルにも使われている。映画とのタイアップの有無は不明だが、デビアス社の広告戦略は見事だったと言えそうだ。

「ポケモンGO」の人気化は、我が国が持つ素晴らしいコンテンツを世界に広めビジネスとして成立させるためのマーケティング及び広告戦略の重要性を再認識させたと言える。但し、デビアスやディズニーを見るまでもなく、原石をダイヤモンドに研磨・加工し、拡販するノウハウは欧米企業に「一日の長」がありそうだ。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。日経債券アナリストランキング、14年連続10位内ランクイン。日経財政アナリストランキング2位(2004年〜2006年)。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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