アナリストの忙中閑話【第65回】

アナリストの忙中閑話

(2016年10月20日)

【第65回】アウトサイダーの台頭で米政治の混沌は続く?アウトローが主人公の話題作公開、「君の名は。」が興収154億円突破、海外で受賞

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

11月8日投票の米大統領選まで3週間を切ったが、予備選含め極めて異例の展開

11月8日投票の米大統領選(議会選・知事選)まで、3週間を切った。日本時間20日午前中(現地時間19日午後)には、民主党のヒラリー・クリントン前国務長官と共和党の不動産王ドナルド・トランプ氏の最後の直接対決となる第3回目のTV討論会が西部ネバダ州ラスベガスで実施されたが、過去2回同様、両候補のスキャンダルに対する非難の応酬が続く、異例の展開となった。

両候補のスキャンダルは、クリントン氏を支持する米リベラル系メディアによるトランプ氏の女性蔑視・猥褻発言等の公表に対し、(米政府によると)ロシア政府関与によるハッキングにより得られたクリントン陣営等のメールを内部告発サイト「ウィキリークス」が公開するという暴露合戦の様相を呈しており、予備選の展開を含め、歴史に残る選挙戦となったことは確かなようだ。

19日時点で、世論調査における平均支持率(10月10-18日RCP調べ)は、クリントン氏48.6%に対しトランプ氏は42.1%と、クリントン氏が6.5ポイントリードしている。大統領選挙人の獲得予想もRCPによれば、クリントン氏260人、接戦108人、トランプ氏170人と、クリントン氏は過半数の270人まであと10人に迫っている。19日時点の世論調査における支持率の差だけで、獲得選挙人を再集計すれば、クリントン氏333人、トランプ氏205人と、クリントン氏圧勝となる。

過去の選挙戦であれば、本コラムでも、クリントン氏勝利間違いなしと書いただろうが、今回ばかりは不透明要因が残る。それは、民主・共和両党の予備選に表れている。本来大本命のはずのクリントン氏が民主党予備選で、74歳と高齢、無所属、ユダヤ系(過去米大統領にユダヤ系はいないとされる)で、民主社会主義者を標ぼうするバーニー・サンダース上院議員になぜあれほど苦戦したのか。ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事等共和党の多くの有力候補が早々に予備選から撤退に追い込まれたのか。背景は本コラムでも述べたように、イラク戦争・金融危機の発生と格差拡大が続く中、アンチ・エスタブリッシュメント(反特権階級・反体制派)のうねりが米全土を覆っているからだ。

醜聞暴露合戦の動向を含め、今回の米大統領選は、投票日ギリギリまで目を離せない

それでも、現在退任間際としては歴代大統領でレーガン氏と並んで過去最高水準の支持率を誇るオバマ大統領のように個人的な人気があれば、今回の大統領選は安心して見物できたであろう。問題は、クリントン氏の人気のなさだ。10月上旬に実施されたReuters/Ipsosの世論調査で、クリントン支持と答えている有権者の半数程度はその理由をトランプ氏を大統領にさせないためと答えた。クリントン氏の政策が良いからとしたのは4割弱、人柄を理由に挙げたのは1割強しかなかった。

クリントン氏優勢との報を受けて、そうした消極的・消去法的なクリントン支持者が棄権した場合、6月23日のEU離脱を巡る英国民投票と同様な結果が生じる可能性がゼロとは言えない。醜聞暴露合戦の動向を含め、今回の米大統領選は、投票日ギリギリまで目を離せないと言えそうだ。

米政治は今後4年間、オバマ政権時代以上に「カオス」状態に突入する可能性も

なお、同時に行われる米連邦議会選だが、3分の1が改選される上院選は世論調査に基づくと民主・共和両党が伯仲状態にある。過去、上院選は大統領選と同様な結果(中間選挙除く)となることが多かったため、クリントン氏が勝利すれば、上院は民主党が多数を奪還する可能性がある。一方、下院選はどちらが大統領になろうとも、いわゆるゲリマンダリング(選挙区割操作)の関係で、共和党が引き続き多数を占めるとみられる。クリントン氏が大統領に就任しても、低支持率もあり議会コントロールは容易ではない。トランプ氏が勝利すればネジレ解消となる可能性があるが、トランプ氏は基本的にワシントンのアウトサイダーのため、議会とは対立状態が継続する可能性が高そうだ。

米政治は、今後4年間、オバマ政権時代以上に「カオス」状態に突入する可能性も否定できないと言えそうだ。オバマ政権8年間も、民主党が上下両院を支配したのは最初の2年間だけだった。

日銀の金融政策は量から金利にターゲット変更、短距離走からマラソンレースに

国内では、9月20-21日開催の金融政策決定会合で、日本銀行は、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入した。その柱は、短期政策金利を▲0.1%、長期金利をゼロ%程度とする「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)」と消費者物価(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまでマネタリーベースの拡大方針を継続するという「オーバーシュート型コミットメント」。

簡単に言うと、金融政策のターゲットを「量」から「金利」に変更し、消費者物価上昇率が2%を超えるまで長期戦で金融緩和を続けると約束したということだ。なお、1月に導入した際、表現がネガティブだとして評判の悪かった「マイナス金利付き」という表現は削除されている。

ご参考:【第57回】ディカプリオさん5度目のノミネートで悲願のオスカー初受賞、気候変動と映画、米大統領予備選とマイナス金利政策

「2年で物価上昇2%」という目標に向けて、猛ダッシュを続けてきた日銀だが、マイナス金利の導入で金融機関の収益が減少する一方で、3年半経過時点で物価上昇率が再度マイナス圏に転落と、さすがに、短距離走では上手くいかず、マラソン型の耐久レース対応に切り替えたということだろう。但し、東京マラソンで言えば、7時間、スタートまでの待ち時間を含めると実質で6時間半の制限時間が存在する。2018年4月の黒田総裁の任期満了までに物価上昇率2%への道筋は明らかとなるのであろうか?

映画の世界では、組織からドロップアウトした「アウトロー」的主人公が活躍する作品が相次いで公開

黒田日銀総裁も、出身官庁の財務省内では、やや「アウトサイダー」ないし「一匹狼」的な評が無いわけではないが、映画の世界では、組織からドロップアウトした「アウトロー」的な主人公が活躍する作品が相次いで公開される。

『ジェイソン・ボーン』
公開日:2016年10月7日
配給:東宝東和
(C) Universal Pictures

既に、国内でも公開中の『ジェイソン・ボーン』と11月11日(金)公開の『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』だ。マット・デイモンさん演ずるジェイソン・ボーンは元CIAのエージェントだが、記憶をなくして組織を離脱、自分探しの旅に出ることに。原作はロバート・ラドラム氏の「暗殺者」など。同作品は「ボーン・シリーズ」として『ボーン・アイデンティティー』(2002年)、『ボーン・スプレマシー』(2004年)、『ボーン・アルティメイタム』(2007年)の3部作が製作され、大ヒットした。他に2012年には、スピンオフ(外伝)作品として、ジェレミー・レナーさん主演の『ボーン・レガシー』も製作されている。本作品は「ボーン・シリーズ」3部作のリブート(再始動)作品。前2作の監督を務めたポール・グリーングラス氏が監督・製作・脚本を担当。

マット・デイモンさんのリアリズム溢れる格闘アクションに加え、欧州財政危機後のギリシャの首都アテネ、ベルリン、ラスベガス等でのカーチェイスや、前作から9年後の現代社会を反映したサイバー対応等が見もの。

『ジャック・リーチャー』
北米公開: 2016年10月21日(金)
配給:東和ピクチャーズ
(C)2015 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

一方、『ジャック・リーチャー』は、リー・チャイルド氏の小説を実写化したアクション『アウトロー』の続編。本作のメガホンはやはりトム・クルーズさん主演の『ラストサムライ』(2003年)で監督を務めたエドワード・ズウィック氏がとった。

トム・クルーズさんと言えば、「ミッション・インポッシブルシリーズ」のイーサン・ハントが「はまり役」となっているが、本作品では、元米軍エリート秘密捜査官にして今は街から街へと放浪を続けるローンウルフ(一匹狼)のジャック・リーチャーを演じている。前作名通り、まさにアウトローのジャック・リーチャーはイーサン・ハントと比べ、無口だ。

アウトサイダーとアウトローの違いは口数の差?

ちなみに、アウトサイダーとアウトローの違いは口数の差にあるのではないかと思われる。アウトサイダー(outsider)の反対語はインサイダー(insider)だが、「インサイダー情報」の発信が禁止されるインサイダーと違って、アウトサイダーは何でも表明ができる。今、アウトサイダーは、米国のみならず、フィリピンでも、フランス等欧州でも歯に衣着せぬ発言で脚光を浴びているが、過去の社会常識に反する発言が世間で受けるということは、それだけ、人々の不満が鬱積していることの証とも言えそうだ。何やら、大戦前の状況に似てきたということかもしれない。

一方、アウトロー(outlaw)は、法の保護や秩序の外にある者、無法者を意味することから、一般人は彼らと接触を基本的にもたない。本人も表に出ないし、当然、話相手がいないのだから無口にならざるを得ない。反対語は「堅気」ないし「体制派」か。英語ではエスタブリッシュメント。何やら、アウトローブームの背景にもアンチ・エスタブリシュメントの流れがあるのかもしれない。

かつて米国の創造性と多様性を体現した映画が公開

続いて明日(10月21日)公開の作品をもう1作ご紹介したい。
筆者が少年時代、お気に入りの米TVドラマは、前述の原題「ミッション・インポッシブル」の邦題「スパイ大作戦」に加え、「コンバット」、「ターザン」、そして「宇宙大作戦」だった。

「宇宙大作戦」の名称は、その後、原題の「スター・トレック」に変わったが、同作品は、現実のアポロ計画等と相俟って米国のイノベーション等創造性と多様性を象徴し体現したドラマだった。「スター・トレック」に登場する宇宙船「U.S.S.エンタープライズ」の搭乗員は、1960年代の製作にも関わらず、白人男性に加え、女性やアフリカ系、アジア系の士官等で構成されていた。

アジア人では日系2世のジョージ・タケイさんが、主任パイロットのヒカル・スールー(日本語版では「カトー:加藤」)役として出演していた。ジョージ・タケイさんは、日系人で初めて米テレビドラマのレギュラーとなったが、アジア系でもブルース・リーさんに次ぐ2人目であった。

『スター・トレック BEYOND』
10.21(金)全国ロードショー
配給:東和ピクチャーズ
(C)2016 Paramount Pictures. All Rights Reserved. STAR TREK and all related marks and logos are trademarks of CBS Studios, Inc.

その「スター・トレックシリーズ」の新作『スター・トレック BEYOND』が21日金曜日に公開となる。本作は映画第13作目でジャスティン・リン監督がメガホンをとった。
既に試写会で鑑賞したが、おなじみのテーマ音楽(Theme from STAR TREK)と「宇宙、それは人類に残された最後の開拓地である。そこには人類の想像を絶する新しい文明、新しい生命が待ち受けているに違いない」というセリフは、毎回のことだが、少年時代のワクワク感を思い出させてくれる。なお、アジア系の主任パイロットのヒカル・スールー役は前作同様、韓国系のジョン・チョーさんが務めている。

「アウトサイダー」の台頭の背景には、現代の地球において、「イノベーション」の枯渇と「開拓地」がなくなりつつあることがあるのかもしれないが、依然、地球表面の7割を占める海や宇宙には未開拓地が大きく広がっている。
最近、宇宙開発は、米国やロシアから中国に主役が移りつつあるようにも見えるが、軍事利用ではなく、「スター・トレック」のように、人類全体の幸福・発展のために寄与してもらいたいものだ。

ちなみに『スター・トレック BEYOND』にも登場する「U.S.S.エンタープライズ」号のU.S.S.とは「United Federation of Planets Starship」(惑星連邦宇宙艦)の略であり、「United States Ship」(米海軍艦艇)の略ではない。

『君の名は。』の勢いが止まらない、興収154億円突破、海外で受賞

前月号でもご紹介したが、本コラム7月号【第62回】変動の激しい2016年、ポケモンGOが社会現象に、今夏はアニメが熱いで取り上げた新海誠監督の長編アニメーション『君の名は。』の勢いが止まらない。
8月26日公開の同作品は、10月15日・16日の土日2日間で約34万7,000人を動員し、興行収入4億6,800万円をあげ、興行通信社による全国映画動員ランキングで8週連続1位を獲得した。累計では、観客動員数1,184万人、興収154.1億円に達した(16日現在)。

今週末にも、宮崎駿監督の『崖の上のポニョ』の155億円を抜いて、我が国の歴代興収ランキング10位内に入るのは確実な状況だ。少なくとも『アバター』の156億円を超え、第9位に浮上しそうだ。アニメでは、『千と千尋の神隠し』の308億円、『ハウルの動く城』の196億円、『もののけ姫』の193億円に次ぐ第4位の興収となりそうだ(歴代ランキングは興行通信社調べ)。10月16日には世界三大ファンタスティック映画祭の一つに数えられる第49回シッチェス・カタロニア国際映画祭にて、Anima't部門(アニメーション作品部門)の最優秀長編作品賞にあたる「Award for Best Feature Length Film」を受賞した。

『君の名は。』のヒットの背景には、ストーリー、映像、演技、音楽の全てが出来が良く上手く調和していることが挙げられるが、過去の興収が1億円台の新海作品がSNSの拡散を含む口コミでここまでヒットしたことは、日本の映画ファン、特にアニメファン層が老若男女まで厚くなった証左と言え、若手の監督やクリエイター等にも大きな励みとなろう。また、2014年の『アナと雪の女王』の大ヒット同様、SNSの威力恐るべしか。

ちなみに、配給元の東宝は17日、2017年2月期の連結業績予想を上方修正し、最終利益が前期比27.7%増の330億円(従来予想は223億円)と過去最高になる見通しだと発表した。『君の名は。』と、7月公開の『シン・ゴジラ』の予想外(?)の大ヒットが貢献するためで、減益予想から一転して増益予想に変更した。なお、『シン・ゴジラ』も公開から16日までの興行収入が、77.8億円に達したとのこと。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。日経債券アナリストランキング、14年連続10位内ランクイン。日経財政アナリストランキング2位(2004年〜2006年)。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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