アナリストの忙中閑話【第72回】

アナリストの忙中閑話

(2017年5月25日)

【第72回】ロシアゲートでトランプ大統領窮地に、最後のウルヴァリン単独作公開

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

ロシアゲートでトランプ大統領が危機に直面、米メディアの1面には弾劾の文字

1月20日の米大統領就任式からまだ4ヶ月しか経っていないトランプ氏が危機に直面している。米メディアの1面には既に、弾劾(Impeachment)の文字が躍っている。

背景には、いわゆる「ロシアゲート」の存在がある。ロシアゲートとは、米大統領選へのロシアの介入及びトランプ陣営の関与疑惑を意味するが、ニクソン元大統領が1974年、辞任に追い込まれた「ウォーターゲート」事件に例えたものだ。

直接のきっかけは、トランプ大統領が5月9日、FBI(連邦捜査局)のコミー長官を突然解任したことにある。

FBI長官が解任されたのは、BOI(捜査局)からFBIに名称が変更された1935年以降歴代7人の長官の中で、職権濫用で更迭された第4代セッションズ氏とコミー氏の2人のみ。約37年間、BOI長官時代を含めば48年近く務め、FBI本部ビルにその名を残す初代のジョン・エドガー・フーバー長官の影響もあるが、過去の大統領は司法の独立の観点から基本的に10年の任期を尊重してきた。筆者も若い頃、フーバービルを訪問したことがあるが、FBIの威厳がそこはかに醸し出されていた記憶がある。

そのFBI長官が突然解任されたのだから、ワシントンに衝撃が走ったのは当然だ。

コミー氏は昨年11月の大統領選直前に民主党のヒラリー・クリントン候補のメール問題の捜査再開を発表し、大統領選に少なからず影響を与えた人物だ。ホワイトハウスは同問題を解任の理由に挙げているが、FBIは足元では、ロシアによる大統領選介入疑惑とトランプ陣営の関与を捜査していることから、同捜査の妨害を狙ったとの見方が民主党やメディアで浮上、その後、それを裏付ける材料が次々と明らかとなったことで、議会の一部では弾劾論にまで至っているのが実情だ。

米メディアでは、コミー長官の解任劇を、ニクソン元大統領がウォーターゲート事件渦中の1973年10月に特別検察官を解任し、それを受けて司法長官と副司法長官が辞任した、いわゆる「土曜の夜の虐殺」に例えた報道が氾濫している。

トランプ大統領によるロシアへの機密情報漏えい疑惑も浮上

この問題に輪をかけたのが、トランプ大統領によるロシアへの機密情報漏えい疑惑だ。

トランプ大統領が10日にホワイトハウスで、ロシアのラブロフ外相やキスリャク駐米大使らと会談した際、IS(イスラム国)掃討戦に関する機密情報を明かしていたとワシントン・ポストが15日報じている。機密情報には最近米国へ着陸する旅客機への持ち込みが制限され始めたノートパソコンに関連した航空機テロ等の情報が含まれ、情報源は同盟国のイスラエルとみられている(ニューヨーク・タイムズ)。イスラエルの情報機関と言えば、モサド(イスラエル諜報特務庁)が有名だが、機密情報が漏えいすれば、工作員や情報提供者の身に危険が及ぶおそれが高まるとともに諜報活動には大打撃になりかねない。

さすがに、問題の大きさに気付いたのか、会談に同席していたマクマスター国家安全保障担当補佐官は記者団に対し15日、大統領は情報源を知らず誤報だと強調したが、トランプ大統領自体は16日朝、ツイッターで「私は大統領としてテロや航空安全に関する事実をロシアと共有したかった。私にはそうする絶対的な権利がある」とコメント、ロシアへの情報提供自体は認めている。

しかも、トランプ氏は同席で、前日に解任したコミー前長官を「狂っていて本当に変人」と呼び、「私は大きな圧力を受けていたが、取り除かれた」などと発言していたとニューヨーク・タイムズが報じている。報道が事実であれば、トランプ氏は、ロシアゲートに関するFBIの調査を「圧力」と感じて解任したとの見方が強まる。

ロシアゲートの発端はロシアによる米大統領選への介入疑惑、フリン氏のスキャンダルが疑惑を増幅

元々、ロシアゲートの発端は、サイバー攻撃等によるロシアの米大統領選への介入疑惑であり、トランプ政権下で初代の国家安全保障担当補佐官だったマイケル・フリン氏とロシア政府との情報授受等のスキャンダルが疑惑を増幅させた経緯がある。

また、ニューヨーク・タイムズは16日には、トランプ大統領が2月、フリン前大統領補佐官に対する捜査を終結するようコミーFBI長官(当時)に要請していたと報じている。

一方、22日付けワシントン・ポストによると、トランプ大統領は、ロシアによる米大統領選干渉疑惑でトランプ陣営との共謀に関する証拠は一切、存在しないと公表するよう複数の情報機関トップに圧力をかけていたと伝えている。

トランプ大統領は、3月20日に当時のコミー連邦捜査局(FBI)長官が下院情報特別委員会の公聴会で疑惑へのトランプ陣営の関与に関し、FBIが捜査していることを明言した数日後に、コーツ国家情報長官と国家安全保障局(NSA)のロジャース長官に対して求めたと報じている。コーツ氏及びロジャース氏は何れも要請を拒否したとのこと。

同紙によると、ロジャース氏との会話は内部メモに記録されており、ロシアゲート関連の捜査を統括するモラー特別検察官や米議会に提出される可能性があるという。

また、当時、他のホワイトハウス高官も情報機関幹部に、コミー氏にマイケル・フリン前大統領補佐官(国家安全保障担当)への捜査を中止するよう頼めないか打診していたと報じている。

米司法省は17日、特別検察官にロバート・モラー元FBI長官を任命

こうした中、米司法省は17日、ロシア政府による米大統領選介入疑惑の捜査を指揮する特別検察官の設置を決め、ロバート・モラー元FBI長官(72)を任命したことを発表した。

ローゼンスタイン司法副長官は声明で「一般の関心を考えれば、通常の指揮系統から独立した権限の下に捜査を位置づける必要がある」(時事通信)と指摘している。セッションズ司法長官の声明によると、司法省はモラー氏に特別顧問の肩書でこの問題の捜査の指揮をとる権限を与えたと明記、ロシア政府とトランプ陣営の関係を捜査し、必要に応じて起訴できる権限も付与したとのこと(日本経済新聞)。

実は、ローゼンスタイン副長官はロシア介入疑惑に関する司法省の調査を率いる責任者でもあった。ジェフ・セッションズ司法長官は自身の承認に関する上院での公聴会後にロシアとの接触疑惑が浮上したことで同調査からは隔離されている。ここへきて、特別検察官が任命されたことは、司法省内部でもトランプ政権との距離を置く動きが広がっている可能性がある。10日付けのワシントン・ポストは、ホワイトハウスがコミー長官の解任の説明文書を作成したローゼンスタイン氏がトランプ政権により文書作成か辞任を強要されたと報じている。特別検察官の設置はローゼンスタイン氏の抵抗の表れかもしれない。

今回、特別検察官に任命されたモラー氏はニューヨーク出身の弁護士及び検事で、ブッシュ元大統領の指名により、911同時多発テロ直前の2001年9月4日に第7代のFBI長官に就任、対テロ捜査等を指揮した。本来、FBI長官の任期は10年で、2011年に退任予定だったが、オバマ大統領の求めで留任、2013年にコミー前長官と交代するまで12年間にわたり、FBIを率いた。海兵隊に従軍し、ベトナム戦争での戦闘経験もある。ブッシュ政権で7年強、オバマ政権下で5年弱、長官職にあり、党派的には中立的な人物であり、特別検察官に適任と言える。

特別検察官の任命はトランプ大統領にとっては「両刃の剣」

特別検察官の任命はトランプ大統領にとっては「両刃の剣」と言えそうだ。

モラー氏からお墨付きをもらえば、信認が大きく向上する一方、911テロ後のサイバー捜査等も指揮したモラー氏が、FBIに加え、NSA(国家安全保障局)やCIA(中央情報局)等の情報機関が有する情報も得て、ロシア疑惑を解明、そこにトランプ政権の関与が証明されれば致命傷になりかねない。

特に、モラー氏が「司法の独立」をトランプ大統領が侵したと考えているならば事態は深刻だろう。

大統領弾劾のハードルは高いが、中間選挙を意識した動きも

モラー特別検察官がロシアゲート解明の中で、トランプ大統領の司法妨害等を証明すれば、米議会は大統領の弾劾の是非を審議することとなろう。大統領弾劾は、下院が単純過半数の賛成に基づいて訴追し、連邦最高裁判所長官が裁判長として上院が裁判し、上院出席議員の3分の2の多数の賛成で弾劾が決定される。

共和党が上下両院とも多数派である米議会の勢力を勘案すると、ハードルは高いが、2018年11月には中間選挙が実施され、下院は全員、上院も3分の1が改選される。トランプ大統領の関与が証明されれば、いわゆるスイング・ステートや民主党地盤州で選出された共和党議員は弾劾に賛成する公算も高い。

ニクソン元大統領の場合も、下院での決議直前に辞任に至っており、トランプ大統領も弾劾の可能性が高まれば辞任し、大統領職をペンス副大統領に譲る可能性がある。なお、大統領が欠けた場合の継承順位は、副大統領、下院議長、上院仮議長に続き、国務長官ら15人の閣僚が規定されている。

ウォーターゲート事件の情報源はFBI副長官

実は、ウォーターゲート事件の際、ワシントン・ポストに情報を提供した政権内部の情報源、いわゆる「ディープ・スロート」はFBI副長官であったことが後に判明している。

トランプ大統領は政権発足前後に、ロシア問題の情報リーク等で、米国の情報機関を非難しており、元々、情報機関との関係は微妙とみられてきた。その後も政権内部から、様々な情報がメディア等にリークされていることから、政権内にトランプ大統領に反対する勢力が少なからず存在すると言えそうだ。

政治任用の遅れが政権運営のボトルネックに

背景には、トランプ大統領の性格等の問題もあるが、政治任用の遅れが政権運営のボトルネックになっていると考えられる。

米国では、政治任用(political appointee)ポストは約4,100、そのうち1,242ポストは上院の承認が必要(OPM)。政権移行時に上院承認が必要な主要ポストは600弱とされる。 5月24日現在、主要559ポスト中、上院承認済36、正式指名済54、正式指名待ち24、未指名445(PPS)であり、同時期での上院での承認数は、第1次オバマ政権時と比較すると半分程度にとどまり、依然、約8割が未指名のままだ。

指名が遅れている要因はトランプ氏がブッシュ政権時等の従来の共和党のスタッフを登用せず、自ら人選しているからと考えられるが、結果として、オバマ政権時に登用された人物が継続雇用されていたり、ポストが空席となっている。また、支持率の低下やスキャンダルの発覚が続くと、指名を辞退する人物も増え、ますます任用が遅れることになりかねない。

フリン氏は上院情報特別委員会からの召喚状に対し証言と文書の提出を何れも拒否

なお、フリン氏は許可を得ずに、駐米ロシア大使と対露制裁等に関して協議したことなどで、今年2月に辞任。トランプ氏は辞任の翌日、コミー氏(当時FBI長官)にフリン氏の捜査中止を求めたとされる。

そのフリン氏は疑惑に関する書類の提出を求める上院情報特別委員会からの召喚状に対し、黙秘権の行使を認めた合衆国憲法修正第5条に基づき、証言と文書の提出を何れも拒否したと報じられている。フリン氏は刑事訴追が完全に免責されるまで拒否する構えのようだ(ロイター)。

但し、22日付けWSJ等によると、フリン氏は昨年の身元調査の更新時にロシア企業から支払いを受けていたことを明らかにしていたかどうかを巡る問題で、外国から金は受け取っていないと調査員に語っていたことが、民主党議員が公開した書簡で明らかになった。

フリン氏は上院情報特別委員会、今後は下院監視・政府改革委員会についても、証言ないし文書提出を拒否し続ければ、議会侮辱罪に問われる可能性も出てくる。23日には、上院情報特別委員会は今度はフリン氏が経営していた会社宛に文書を提出するよう命令する方針と伝えられている。

特別検察官の捜査が進めば、フリン氏らが訴追される可能性も一段と高まり、司法妨害疑惑等の余波がトランプ大統領自身へも及ぶ可能性も出てくる。

現在、トランプ大統領はサウジアラビア、イスラエル、パレスチナ自治区、バチカン市国、ベルギー、イタリアと、中東及び欧州を歴訪中であるが、ワシントンではトランプ政権包囲網が徐々に強まっているように見える。

トランプ政権は23日、2018会計年度予算教書を議会に提出

こうした中、トランプ政権は23日、遅れていた2018年度予算教書を議会に提出した。歴訪中に予算教書を発表すること自体、トランプ大統領のトランプ・バジェット(予算)に対する思いはやや不可解だが、ようやくトランプ・バジェットの全体像が明らかになった。

その内容は、「楽観的かつ弱者切り捨て型予算」と言える。

2018会計年度予算の歳出規模は約4兆0,940億ドル。財政赤字は4,400億ドルと、2016会計年度の5,850億ドル(実績)、2017会計年度の6,030億ドル(見込み)と比較しても減少する見通しとなっている。結果対GDP比の財政赤字も2.2%と2016会計年度の3.2%、2017会計年度の3.1%比改善する。

もっと大幅な改善見込みとなっているのが10年後の2027会計年度であり、財政収支は160億ドルの黒字、政府債務残高の対GDP比は2016会計年度末の77.0%が2027会計年度末には59.8%と60%未満となる見通しとなっている。

3%の実質成長率と10年間で3兆5,630億ドルの歳出削減で、大型減税と国防費の増額を賄うプラン

この間、連邦法人税率の35%から15%への引下げ、所得税の10%・25%・35%への単純化や税控除額の倍増、AMT(代替ミニマム税)や相続税の廃止、キャピタルゲイン課税の引下げ等大型減税に加え、国防費の増額等を行うのに、財政収支が黒字化する背景には、いくつかのからくりがある。

第1に、2020年後半以降3.0%の実質成長率、5.1%の名目成長率の前提等で大型減税に関わらず、歳入が10年間で2兆ドル以上伸びる見通しとなっている。CBO(議会予算局)見通しでは実質成長率は2021年以降1.9%。

第2に、メディケイド(低所得者向け医療保険)の適用厳格化や生活保護費の削減、オバマケアの見直し等で、10年間で3兆5,630億ドル歳出が削減される見通しとなっていることだ。 10年間の歳出削減のうち、メディケイド関連が▲6,160億ドル、フードスタンプ等福祉制度関連が▲2,720億ドル、オバマケア関連が▲2,500億ドル、学生ローン関連が▲1,430億ドル、障害給付金▲720億ドルと社会保障・教育関連が何れも大きなシェアを占める。

一方で、10年間でインフラ投資に2,000億ドル、国防費に4,690億ドル増額する計画だ。他方、非国防関連費は10年間で1兆4,040億ドル削減する内容。

トランプ・ウォール建設費用として、2018会計年度に26億ドルを計上

なお、2018会計年度に限れば、前年度比予算増減率は、農務省が▲20.5%、商務省が▲15.8%、教育省が▲13.5%、エネルギー省が▲5.6%、保健・福祉省が▲16.2%、住宅都市省が▲13.2%、内務省▲10.9%、司法省▲3.8%、労働省▲19.8%、国務省▲29.1%、運輸省▲12.7%、財務省▲4.1%と予算が大きく削減される省が大半だが、国防省は+10.1%、国土安全保障省は+6.8%、退役軍人省は+5.8%と安全保障関連の省のみが増額となっている。また、メキシコ国境との「トランプ・ウォール」建設費用として、2018会計年度に26億ドルを計上。

歳出削減策はトランプ氏のコアの支持層に打撃となる内容

減税や財政均衡は、共和党の伝統的な主張であり、特に社会保障支出を大幅削減することは近年の同党の公約に沿ったものだが、予算教書で示された歳出削減策はトランプ氏の大統領選中の公約とは異なるものも多い。

トランプ氏は、大統領選中、メディケイド関連予算は削減しないことを公約に掲げていたが、今回の予算教書では同予算の大幅圧縮が歳出削減策の柱となっている。トランプ氏のコアの支持層は低所得で中高年の白人層だが、予算教書に盛り込まれたメディケイド関連予算やフードスタンプ・低所得者向け住宅の補助・高齢者の食事宅配サービス向け補助金等の大幅削減は彼らを直撃することとなる。また、農家への補助金等も大幅削減されることとなる。中間選挙への影響も大きそうだ。

さらに、トランプ政権の税制改革は、予算教書上は歳入中立としているが、筆者が昨年訪問したワシントンのシンクタンク、「責任ある連邦予算委員会」や「タックス・ファウンデーション」では、大型減税は5兆ドル規模の歳入減少要因としており、後者は経済成長を勘案しても3兆〜4兆ドルの財政収支悪化要因としている。この点も、税制改革が法案化されれば、CBOから財政収支の見通しが出されることとなり、注目したい。

議会が法案化する2018会計年度予算ではトランプ予算は相当部分が棚上げか

現実には、民主党の猛烈な反対は当然として、共和党からも異論が出るのは必至であり、9月に向けて議会が法案化する2018会計年度予算は成立までに相当な時間を要し、混乱することが予想される。

しかも、9月頃には政府債務上限の引き上げ、ないし撤廃も必要となる。2018会計年度も暫定予算でまずはつなぎ、ロシアゲートの結果判明ないし中間選挙後まで、トランプ・バジェットは相当部分が棚上げされる公算も高そうだ。

ちなみにトランプ大統領の平均支持率は、RCP(5月11-23日)調査で39.9%、不支持は54.1%となった。1月20日の政権発足以来、足元の支持は最低、不支持は最高水準にある。 ロシアゲートは、ニクソン元大統領が辞任に追い込まれた「ウォーターゲート」事件に例えた表現だが、「ゲート」には「門」「入り口」という意味もある。今回の問題はトランプ政権がレームダック化する兆しだったと、後に振り返れば認定されるかもしれない。

大統領弾劾やFBIを扱った映画やTV番組

大統領弾劾やFBIを扱った映画作品としては、1976年公開の『大統領の陰謀』(原題:All the President's Men)がまず浮かぶ。同作品は、ウォーターゲート事件を取材したワシントン・ポストの2人の記者の手記を元に製作された。若かりし頃のロバート・レッドフォードさんとダスティン・ホフマンさんが記者を演じた。第49回アカデミー賞で8つのノミネーションを受け、助演男優賞、脚色賞、録音賞、美術賞の4部門で受賞している。

筆者が「FBIはすごい」と感じたのはTVアニメ『空手バカ一代』のワンシーン。1973年10月から1974年9月まで放映されていたアニメだが、極真会館を興した大山倍達氏をモデルとした空手家を描いた物語だ。主人公が戦後まもなく米国に渡り、プロレスラーやプロボクサーと闘うのだが、ジャパン・バッシングのご時世、地元の保安官も含めた観客にあやうくリンチで殺されそうになる。そこにFBIが登場すると騒ぎは一瞬で収まり、その後、主人公はFBIで空手指導をすることになるシーンだ。人種的偏見もないFBIの高潔で先進的な姿が描かれていたのを覚えている。

一方、2011年公開の映画『J・エドガー』は、クリント・イーストウッド監督で、レオナルド・ディカプリオさんが初代FBI長官のジョン・エドガー・フーバーを演じた。

3代目ジェームズ・ボンド役を演じたロジャー・ムーアさんが23日に死去

何処まで事実かは別として、FBIというと正義の味方というイメージがあるが、似て非なるものが、CIAやNSA等の情報機関だ。

いわゆるスパイを擁する機関だが、今週、訃報が届いた。スパイと言えば、英国のMI6(現在の公式名称はSIS:Secret Intelligence Service)の「007、ジェームズ・ボンド」が最も有名だが、映画『007』シリーズで、3代目ジェームズ・ボンド役を演じたロジャー・ムーアさんが23日に死去した。89歳だった。ムーアさんは1973年公開のシリーズ第8作、『死ぬのは奴らだ』から、『黄金銃を持つ男』(1974年)、『私を愛したスパイ』(1977年)、『ムーンレイカー』(1979年)、『ユア・アイズ・オンリー』(1981年)、『オクトパシー』(1983年)、『美しき獲物たち』(1985年)と、7作にわたりボンド役を演じたが、ちょうど、筆者の青春時代と重なり最も思い入れの深い俳優でもあった。ご冥福をお祈りしたい。

今年のGW商戦もディズニーが勝利

ゴールデン・ウィーク(GW)商戦は、予想通り、邦画アニメとディズニー実写版の対決となった。具体的には、『名探偵コナン から紅の恋歌』と『美女と野獣』の首位争いが現在でも繰り広げられているが、過去3年同様、ディズニーがトップとなりそうだ。

前週末の興収ランキングで2位となった『名探偵コナン から紅の恋歌』の5月21日までの累計興収は61億円(興行通信社調べ)。『名探偵コナン 純黒の悪夢(ナイトメア)』が持つシリーズ最高興収63.3億円に迫っている(同)。

一方、『美女と野獣』は公開初週から5週連続一位となり、累計興収は89億円(同)。世界興収は累計12億2,260万ドルと2017年のトップどころか、歴代世界興収ランキングで10位に躍り出た(5月24日現在、Box Office Mojo調べ)。

銀河の守護者続編が公開中

公開初週(5月13-14日)に2作品に次ぐ3位となったのが、ディズニーの『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』。2014年公開の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の続編。主人公でスター・ロードを自称するいい加減なリーダー、ピーター・クイル役のクリス・プラットさん、ゾーイ・サルダナさんらに加え、本作ではカート・ラッセルさんやシルベスター・スタローンさんら大物俳優も出演。

筆者も前作でファンになった作品だが、2017年の全米興収は『美女と野獣』に次いで現在第2位、世界興収は前月号でご紹介した『ワイルド・スピード ICE BREAK』に次いで第3位。前作は「友情」が、本作は「生みの親より育ての親」がテーマ。愛情が本シリーズの底流に流れていることが人気の理由か。

なお、グルートの声優を務めるヴィン・ディーゼルさん主演の『ワイルド・スピード ICE BREAK』は歴代世界興収が現在第11位に浮上しており、『美女と野獣』同様、大ヒットしている(5月24日現在、Box Office Mojo調べ)。

最後のウルヴァリン単独作が間もなく公開

『LOGAN/ローガン』
2017年6月1日(木) 全国ロードショー
© 2017Twentieth Century Fox Film Corporation

2017年の全米興収で現在第3位、世界興収では第4位につけているのが、『X-MEN』シリーズで、「ウルヴァリン」ことローガンを主人公とした、シリーズ3作目の映画、『LOGAN/ローガン』。日本公開は6月1日。

ウルヴァリン役のヒュー・ジャックマンさんにとって、最後の作品となる予定。オーストラリア出身で大の親日家でも知られるヒュー・ジャックマンさんだが、2013年公開の『ウルヴァリン: SAMURAI』は日本が舞台となるなど、ウルヴァリンは日本との関わりも深い。ヒュー・ジャックマンさん演じるウルヴァリンが今後見られなくなるのは残念至極。なお、プロフェッサーX:チャールズ・エグゼビア役のパトリック・スチュワートさんも本作がプロフェッサーX役最後となる予定。なお、スチュワートさんを有名にしたのは1987年のテレビドラマ『新スタートレック』のジャン・リュック・ピカード艦長役。『X-MEN』シリーズ2大キャラクターとも言える最後の作品をファンとしてはじっくり鑑賞したい。

仮面ライダー同様、アベンジャーズの戦士が熱演

ちなみに2011年公開の『X-MEN: ファースト・ジェネレーション』などで、若き日のプロフェッサーX:チャールズ・エグゼビア役を務めたジェームズ・マカヴォイさんが23の多重人格者を演じるサイコスリラー『スプリット』も公開中。本作品は公開後、全米で3週連続ナンバー1のヒットとなり、既に続編の製作が決まっている。既に、真夏のような暑さが続いている日本、肝を冷やすのによさそうだ。

我が国ではデビュー当時、仮面ライダー役を務めた俳優がその後、人気男優に成長しているケースが多いが、このあたりの事情は、米国でも同様のようだ。マーベルやDC関連の実写映画は、ワールドワイドで上映されるだけに、人気度も半端ないと言えそうだ。

『メッセージ』
5月19日(金) 全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

第89回アカデミー賞で音響編集賞を受賞した『メッセージ』は、空間と時間の概念が変化したような感覚を覚える作品だ。ちょうど、2014年公開の『インターステラー』にやや似ている。どちらもSF作品だが、怖いのはエイリアンよりも人間であることも同じ。原作は2000年のネビュラ賞中長編小説部門及び1999年のスタージョン賞を受賞した米作家テッド・チャンの短編小説「あなたの人生の物語」。

主人公で言語学者のルイーズ役には『アメリカン・ハッスル』『魔法にかけられて』のエイミー・アダムスさん。共演の物理学者役には『アベンジャーズ』シリーズでホーク・アイを演ずるジェレミー・レナーさんと、本作品にもマーベル・アベンジャーズの戦士が出演している。

世界的に良質なアニメやコミックへの需要が増し、膨大なコンテンツを誇る我が国では商機拡大も

今年、邦画では、現在公開中の木村拓哉さん主演、三池崇史監督の『無限の住人』を含め、時代劇が多数公開されるが、『たたら侍』(公開中)に続き、6月3日には『花戦さ』も公開される。

『たたら侍』は、EXILEのHIROさんがエグゼクティブプロデューサーを務める。第40回モントリオール世界映画祭ワールドコンペティション部門で最優秀芸術賞を受賞。戦国時代、出雲の山奥で千年錆びないと言われる「玉鋼」を作るたたら村の若者を描いた本格時代劇。原作・脚本・監督は島根県平田市(現・出雲市)出身の錦織良成氏。

『花戦さ』
2017年6月3日
(c)2017「花戦さ」製作委員会

一方、『花戦さ』は狂言師の野村萬斎さん演じる実在の花僧、池坊専好が太閤秀吉に「戦さ」を挑む物語。織田信長役に中井貴一さん、豊臣秀吉役に市川猿之介さん、千利休役に佐藤浩市さん、前田利家役に佐々木蔵之介さんと、狂言に加え、歌舞伎界、日本映画界から大物が多数出演する。また、「花戦さ」だけに、映像美にも期待したい作品だ。篠原哲雄監督。

今年は、既に世界歴代興収第10位に入る作品が現れているが、今後も大作の公開が目白押しで、ハリウッド実写映画の「あたり年」になりそうな予感がする。

一方、昨年は国内の映画興収が過去最高となり、入場人員数が1974年以来42年ぶりに1億8千万人の大台を超えた。人口減少社会に入り、趣味や媒体が多様化する中では画期的なことだろう。2020年の東京オリンピックに向けて、世界、少なくともアジアでヒットする邦画が作ることができれば、観光振興にも強い武器になることは間違いないだろう。『美女と野獣』もディズニーは初めにアニメを製作している。また、世界歴代興収トップ10のうち4作品がアニメないしコミック関連で、2016年の全米興収トップ10では同作品が9本に達した。

世界的に良質なアニメやコミックへの需要が増しており、膨大なコンテンツを誇る我が国では商機が拡大していると言えそうだ。昨年は『君の名は。』と『シン・ゴジラ』等が気を吐いたが、数年後を見つめた人材とコンテンツの発掘、クラウド・ファンディング等資金調達手段の多様化に向けた支援を官民挙げて取り組むことが必要だろう。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。日経債券アナリストランキング、14年連続10位内ランクイン。日経財政アナリストランキング2位(2004年〜2006年)。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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