アナリストの忙中閑話【第73回】

アナリストの忙中閑話

(2017年6月22日)

【第73回】明暗が分かれた英仏総選挙、「大どんでん返し」の映画がヒット、夏休み映画がまもなく公開

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

6月に実施された英仏総選挙は明暗が分かれる対照的な結果

6月に実施された英国下院及びフランス国民議会の二つの総選挙は明暗が分かれる対照的な結果となった。

4月18日に英国のメイ首相が下院の解散と前倒し総選挙実施を発表した際は、与党保守党の大勝が予想されていたが、6月8日の投票では同党は過半数割れと敗退。一方、11日に国民議会選挙の第1回投票、18日に決選投票が実施されたフランスでは、マクロン大統領が立ち上げた新党「共和国前進」が連携する「民主運動」と併せ、全体の6割の議席を制する圧勝となった。

保守党は英下院で過半数割れ、メイ首相の賭けは裏目に

メイ首相としては、株価堅調でEU離脱による負の側面が表面化する前に選挙で大勝し、保守党内で主導権を確立、EUとの交渉を有利に進める思惑だったとみられるが、介護費の自己負担増(後に撤回)を公約に掲げたことや、相次ぐテロの発生で支持率を落とし、選挙戦終盤では労働党に急速に追い上げられた。保守党は第1党の座は維持したものの解散前から13議席減の318議席(得票率42.4%)、労働党は同33議席増の262議席(40.0%)となった。過半数は326議席で、総選挙後、英国では過半数を確保する政党が存在しないいわゆる「ハング・パーラメント(宙吊り議会)」の状態となった。その後、どうにか北アイルランドの地域政党の民主統一党(DUP)の閣外協力を得て(協議中)、メイ首相は続投することとなったが、政権基盤は一気に脆弱化、メイ首相の賭けは完全に裏目に出ることとなった。19日には、EUとの離脱交渉も正式にスタートしたが、DUPは強硬離脱(ハード・ブレグジット)には反対の姿勢を見せており、今後の交渉に不透明感が漂っている。早期の解散総選挙の可能性も否定できないと言えそうだ。

実は、今回の英国の総選挙では、世論調査会社によって、獲得議席予想が大きく異なり、保守党が結果通り過半数を割るとの予想がある一方で、保守党が30〜100議席近く議席を増やすとの予想も出ていた。

差の背景は2015年の総選挙と昨年の国民投票で世論調査会社が予想をはずし非難を浴びたことで、会社によっては基礎データに相当バイアスをかけたことが挙げられる。具体的には過去2回の投票同様、労働党支持の多い若年層(世論調査では6-7割が労働党支持)の投票率が50%レベルないしそれ未満に留まるとみた調査会社は保守党の大勝を予想、今回は若年層の投票率が上がると予想した会社(サーベーションやユーガブ)は保守党の過半数割れを予想した。

メイ首相の風刺曲が総選挙直前に英週間ヒットチャート4位にランクイン、若年層の投票率上昇、「3度目の正直」に

勝利したのは後者で、筆者もそちらにややベットしていたのだが、実は今回は若年層の投票率が上昇する兆しがあった。英国のスカバンド「キャプテンSKA」が歌う「Liar Liar GE2017」が投票日直前の6月2-8日の週の英国ヒットチャート第4位に躍り出たことだ(Official Charts調べ)。メイ首相を痛烈に風刺した曲だが、オリジナル曲が2010年にリリースされた際の最高順位は89位だった。選挙への影響を考慮し、選挙期間中はBBC等では一切視聴ができない状況だったが、iTunesのダウンロード数が一時トップとなり、ミュージックビデオのユーチューブにおける閲覧数は投票日には250万回を超えていた(現在は約280万回)。筆者も選挙前に視聴してみたが、一度聞くと耳から離れない特徴的な曲だ。SNSを駆使した労働党のコービン党首の選挙戦略と相俟って、労働党の善戦に功を奏したようだ。

実際、今回の英国総選挙の投票率は68.7%と2015年選挙と比べ、2.6ポイント上昇、1997年以来20年ぶりの高水準となった。特に、若年層(18-24歳)の投票率はスカイニューズの調査では前回の43%(Ipsos Mor調査)から66.4%に急上昇したとのことだ。ユーガブの調査でも18-19歳は57%、20-24歳は59%となっており、前回よりは10%以上上昇した可能性が高そうだ。

英国の若年層は、2015年の総選挙と2016年の国民投票で多くが棄権し、彼らの思いとは逆に、保守党の勝利、EU離脱に繋がったが、今回は「3度目の正直」といったところか。

マクロン与党が仏国民議会で6割を制する大勝

一方、英国選挙と対照的な結果となったのがフランス国民議会選挙だ。11日の第1回投票と18日の決選投票の合計では、マクロン大統領が立ち上げた「共和国前進」が連携する民主運動と併せて350議席と全体の60.7%を占める圧勝となった。

大勝の背景は、共和党及び社会党の2大政党が大統領選の敗北とマクロン大統領による閣僚起用等の一本釣りで混乱していたことに加え、選挙制度改正で、市長等との兼務が禁止され、既存政党の現職が多数不出馬となったことも挙げられる。言わば、マクロン氏の好機を捉えた好手が圧勝の要因と言える。

何やら、史上最年少で将棋のプロ棋士となり、6月21日には歴代最多の連勝記録「28」に並んだ中学3年生の藤井聡太四段(14)の快進撃に似たような展開か。なお、デビュー戦から無敗での達成は初めてで、単独最多記録の29連勝がかかる次戦は26日に行われる。

投票率は第1回投票も決選投票も過去最低、若年層の投票率は2割台との調査も

フランスと英国では、総選挙の中身も対照的な展開となった。与党の勝敗の違いも大きいが、フランス国民議会選の投票率は第1回投票が48.70%(前回57.22%)、決選投票が42.64%(55.40%)と前回を大幅に下回り、何れも1958年に第5共和政が発足して以来最低となった。

マクロン人気は、選挙結果上は凄まじいものがあるが、実際に大統領選や議会選でマクロン氏に投票した有権者は、有権者登録をした有権者全体の半数に満たないのも事実であり、今後の政権運営において、アキレス腱となる可能性も否定できない。大統領選決選投票ではマクロン氏の得票率は66.10%だが、登録有権者全体に占める得票率は43.61%と半数に満たなかった。国民議会選でも決選投票における共和国前進の得票率は43.06%だが、登録有権者全体に占める得票率は16.55%。民主運動の2.33%を併せてもマクロン与党に投票した有権者は全体の2割にも満たない。英国と違い18-24歳の若年層の投票率はIpsos調査では26%にとどまったとのことで、相当白けた選挙だったと言える。

フランスの有権者は、39歳と史上最年少の大統領に大きなチャンスを与えたものの、一方で過半の有権者は「お手並み拝見」と傍観したとも言えそうだ。

「チェンジ」を掲げた米国のオバマ大統領の後継はトランプ大統領

マクロン大統領が5年後に再選されるか否かは今後の政策実行力次第か。マクロン大統領は総選挙後の21日の内閣改造で4人の閣僚を更迭した。何れもスキャンダルが原因で、民主運動党首のバイル法相に加え、同党出身のグラール国防相、ドサルネ欧州担当相、及び共和国前進(旧社会党)出身のフェラン国土整備相。主要4閣僚が就任後1カ月で交代することとなり、マクロン政権の前途が多難な兆しとも言えそうだ。

「チェンジ」というキャッチフレーズとともに高支持率でスタートした米国のオバマ前政権も1期目の中間選挙の敗北をきっかけに求心力が低下、2期目の中間選挙では上下両院とも多数を共和党に奪われ、レームダック化が進行、その後、トランプ大統領が誕生したという経緯がある。

「どんでん返し」は芸能の世界の用語、クライマックスで「大どんでん返し」となる映画がヒット中

昨年の国民投票に続き、「どんでん返し」の結果となった英国の総選挙だが、元々「どんでん返し」は芸能の世界の用語だ。歌舞伎の短時間での場面転換術である「強盗返(がんどうがえし)」の際、「どんでんどんでん」と鳴る大太鼓の音に由来するとされる。

足元公開中の映画でも、クライマックスに「大どんでん返し」となる作品がヒットしている。

『22年目の告白―私が殺人犯です―』
6月10日(土)全国ロードショー
(C)2017 映画「22年目の告白−私が殺人犯です−」製作委員会

『美女と野獣』の公開後興収ランキング8週連続1位を阻んだのが、藤原竜也さんと伊藤英明さん主演の『22年目の告白―私が殺人犯です―』。同作品は2週連続で1位をキープ。

予告CMも衝撃的だが、予想以上に展開が面白い作品に仕上がっていた。詳細はネタバレになるので説明できないが、脚本と演技力が光る、怖い映画が苦手な方でも大丈夫な作品。

一方、洋画で「どんでん返し」に「夏」とくれば、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズか。7月1日公開の『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』は、シリーズ第5弾。原題は『Pirate’s of the Caribbean: Dead men tell no tales』、日本語では「死人に口なし」となる。実は、ディズニーランドの「カリブの海賊」のアトラクションでボートに乗ると、まず「Pirates Cove(海賊入り江)」に向かう。そこで、聞こえてくる声が「デッドメン・テル・ノー・テイルズ」。本作では、現在ビール会社のCMに出演中のジョニー・デップさん演ずるジャック・スパロウ船長の若かりし頃も映し出される。今夏は特に8月、猛暑の予報が出ているが、映画館と東京ディズニーランドも熱くなりそうだ。

日本関連のハリウッドの話題作がまもなく公開

今週末6月24日公開の『ハクソー・リッジ』は今年のアカデミー賞を2部門受賞した作品。

【第70回】「まさか」の展開となったアカデミー賞授賞式、独仏選挙情勢、政治の世界でも「まさか」は起きる?

俳優のメル・ギブソンさんが『アポカリプト』以来10年ぶりにメガホンをとった。太平洋戦争で最も激戦となった沖縄戦で75人の命を救った米軍衛生兵デズモンド・ドスの実話を映画化した作品。ドス氏は、「良心的兵役拒否者(Conscientious objector)」として初めて名誉勲章が与えられた人物。「ハクソー・リッジ」とは、沖縄戦において、浦添城址の南東にある断崖「前田高地」に米軍がつけた呼称(弓鋸の峰)からきている。やはり日本を舞台とした『沈黙 サイレンス』でポルトガルの宣教師役を演じたアンドリュー・ガーフィールドさんが主演を務めた。

沖縄は毎年のようにスキューバダイビングのため訪れる美しい島だが、過去の歴史を知ることも重要だろう。同作品の戦闘シーンのリアリティさは凄まじいものがあるが、沖縄本島で1945年の5月から6月に起きた史実である。

現在公開中の『キング・アーサー(2017)』はガイ・リッチー監督。「アーサー王と円卓の騎士」の物語を『ロード・オブ・ザ・リング』風にアレンジした作品。ガイ・リッチー監督らしい、コマ送り的な映像と音楽が特徴。なお、「円卓の騎士」の円卓は、上座下座の区別がなく卓を囲む者すべてが対等であるとの考えからとされる。さすが、民主主義先進国の伝説だが、円卓は場所もとるし、作るのも大変だ。民主主義のコストを反映しているようにも見えるが、最近の国際社会はコストをかけたくないようでもある。

7月7日公開の『ジョン・ウイック:チャプター2』は『マトリックス』のキアヌ・リーブスさんがCGではなく、肉弾戦で伝説の殺し屋役に挑んだ作品。2014公開の『ジョン・ウイック』の続編。2作とも鑑賞済だが、銃とカンフーを融合させた新銃術「ガンフー」を操る生身のキアヌ・リーブスさんが熱演している。アクション映画やキアヌ・ファンには必見の作品。

『ライフ』(7月8日公開)は、真田広之さんも出演するSF作品。

『パワーレンジャー』
2017年7月15日公開
(c)2017 Lions Gate TM&(c) Toei & SCG P.R.

7月15日公開の『パワーレンジャー』は、「秘密戦隊ゴレンジャー」等日本の「スーパー戦隊」シリーズの米国版テレビドラマのリブート映画版。戦士の数は本家の日本同様、5人だが、さすがにハリウッドが作るとアクションシーンの規模や映像もスケールが違う。ちなみに製作費は1億ドル。将来的には是非とも、我が国のコンテンツをハリウッドの技術とマーケティング力で、ワールドワイドで興行可能な作品に仕上げられればと改めて感じた。

米国でも7月4日の独立記念日休暇に向けて大作が公開

なお、7月4日は米国の独立記念日で、連邦議会も7月第1週は休会となる。学校等も休校となることから、米国では、大作やアニメが公開されることが多い。

今年も、6月2日に『ワンダー・ウーマン』(日本公開8月25日)、6月19日に『カーズ/クロスロード』(7月15日)、6月21日に『トランスフォーマー/最後の騎士王』(8月4日)が公開され、30日に『怪盗グルーのミニオン大脱走』(7月21日)、7月7日には『スパイダーマン:ホームカミング』(8月11日)が公開される。

これらの作品は、日本では夏休み映画として公開されることから、来月号でご紹介したい。

邦画はアニメ、時代劇、マンガ実写版の話題作が公開予定

今年、邦画はア二メと時代劇、マンガ実写版に話題作が多い。

【第69回】2017年は欧州選挙の年、2017年の注目映画を特集、洋画はSFとアメコミ実写版、邦画はアニメに加え、時代劇とマンガ実写版に話題作

メアリと魔女の花
2017年7月8日公開
(C)2017「メアリと魔女の花」製作委員会

7月8日公開の『メアリと魔女の花』は、『借りぐらしのアリエッティ』『思い出のマーニー』の米林宏昌監督作品。なお、米林監督はスタジオジブリ出身だが、本作は『思い出のマーニー』の西村義明プロデューサーが設立したスタジオポノックの長編第1作目。但し、スタッフの8割が、スタジオジブリ出身とのことであり、タッチや色彩等、映像はスタジオジブリ作品に似ている。米林・西村コンビの新たな挑戦に期待したい。

『劇場版ポケットモンスター キミにきめた!』は7月15日公開。

一方、時代劇では、「嵐」の大野智さん主演の『忍びの国』が7月1日に公開される。天下統一に走る織田信長の軍勢と伊賀忍者が戦った天正伊賀の乱をモチーフとした作品。

『銀魂』(7月14日公開)は、空知英秋さん原作で「週刊少年ジャンプ」連載中の大ヒットコミックを、小栗旬さん主演で実写映画化したもの。SF時代劇とされるように、宇宙人に支配された江戸で万事屋を営む侍「坂田銀時」と仲間たちの活躍を描いた作品。共演には『帝一の國』の菅田将暉さん、橋本環奈さん、長澤まさみさん、岡田将生さんらが出演。

今夏は猛暑の予報、冷房の効いた映画館の効用が一段と増すことに

今週(6月18日〜22日)は、全国的に30度近い気温の日がある一方で、大雨に見舞われ、ボラティリティ(変動率)の大きい展開が続いた。

米国のトランプ大統領は選挙期間中から「地球温暖化はでっちあげ」としていたが、6月1日に地球温暖化防止のための国際的な枠組みである「パリ協定」からの離脱を正式に発表した。

但し、世界及び我が国の年平均気温は2016年に過去最高を更新、趨勢的な上昇が続いている。それに伴い、世界的に異常気象・気象災害が多発しているのも事実だ。東京でも近年は夕刻にスコールのような大雨が降ることが常態化している。

前述のように気象庁の長期予報では8月は全国的に猛暑が予想されている。

今夏は冷房の効いた映画館の効用が一段と増すことになりそうだ。ちなみに通常上映の入場料金は、夫婦どちらかが50歳以上であれば2人で2,200円、60歳以上のシニアは1人でも1,100円。他にも映画館によって各種割引きがあり、席の予約もインターネットで事前に可能なことを勘案すれば、映画は老若男女が楽しめるリーズナブルな娯楽と言えるのではないか。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。日経債券アナリストランキング、14年連続10位内ランクイン。日経財政アナリストランキング2位(2004年〜2006年)。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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