アナリストの忙中閑話【第75回】

アナリストの忙中閑話

(2017年8月17日)

【第75回】北朝鮮情勢Xデーは?夏休み映画特集第3弾、今年は女性活躍映画がヒット

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

心穏やかに平和を祈念すべき「お盆」の期間に物騒な報道

8月15日は終戦記念日でもあり、我が国では、祖先の霊を祀る「お盆」の時期でもあることから、本来、心穏やかに平和を祈念する期間のはずだ。但し、8月11日の山の日から続くお盆の期間、TVのワイドショー等では、連日、北朝鮮のミサイル発射と米国による報復攻撃の可能性が特集されていた。

北朝鮮がICBMに搭載可能な核弾頭の小型化に成功と米国防情報局が分析

今月に入り、北朝鮮問題が緊迫化したのは、ワシントンポスト(電子版)の8日の報道に始まる。同紙は北朝鮮がミサイルに搭載可能なレベルまで小型化した核弾頭の製造に成功した、と米国防情報局(DIA)が分析していると報じた。同報道を受け、8日のNY市場では、株価が反落、円が買われた。

DIAの7月28日付け機密扱いの分析要旨によると、北朝鮮が保有する核弾頭の数は「最大60発」と指摘、「IC(情報コミュニティー)は北朝鮮が弾道ミサイル運搬のための核兵器を製造したと評価。それには、ICBM-クラス・ミサイルを含む」としている(WP紙)。従来、北朝鮮が保有する核弾頭の数は、10-30発程度とみられていたが、今回のDIAの分析結果は従来の推計を大幅に上回る。

ちなみに、DIA(Defense Intelligence Agency)は国防総省傘下の主に軍事情報を収集・分析する情報機関。設立は1960年代初頭。人員規模は現在16,500人以上の情報プロを擁する。予算は非公表。CIA(中央情報局)やNSA(国家安全保障局)、FBI等、国家情報長官が統括する16機関で構成されるIC(情報コミュニティー)のメンバーでもある。

なお、WP紙にも、「北朝鮮が小型化を達成したことを示唆する証拠があると今週結論づけた」と引用されているが、我が国の防衛省も8日に閣議配布された防衛白書(平成29年版日本の防衛)で、「過去5回の核実験を通じた技術的成熟が見込まれることなどを踏まえれば、北朝鮮が核兵器の小型化・弾頭化の実現に至っている可能性が考えられる」としている。

北朝鮮が7月に2回実施したICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射実験において、28日夜に実施された2度目に関しては、NHKの映像から、大気圏再突入後の高度約4〜10キロの段階で、弾頭部分が分解し燃え尽きたとみられることから、ICBM弾頭の大気圏再突入技術は未完成との見方が強かったが、DIAの分析に基づけば、同技術の確立も時間の問題とも言えそうだ。WP紙は来年後半との専門家の見方を伝えている。

トランプ大統領は「これ以上米国を脅すと炎と怒りに見舞われることになる」とツイッターで警告

トランプ大統領は8日、同報道等を受け、滞在先のニュージャージー州ベドミンスターのゴルフコースで、記者団に対し「北朝鮮はこれ以上、米国を脅さない方がいい。過去に世界が見たこともないような炎と怒り(fire and fury)に見舞われることになる」と述べた。

一方、北朝鮮国営の朝鮮中央通信(KCNA)は9日、トランプ氏の発言から数時間後に、同国がIRBM(中長距離弾道ミサイル)「火星12型」を米領グアム周辺に向けて発射する作戦を「慎重に検討」していると伝え応酬した。

北朝鮮はグアム近海に向け中距離弾道ミサイル4発の同時発射を検討していると発表

北朝鮮で弾道ミサイルの運用を担う戦略軍の司令官は、10日朝、計画の詳細を発表。10日付けの朝鮮労働党機関紙「労働新聞」によると、「火星12型」4発の同時発射を検討しているとし、「日本の島根県、広島県、高知県の上空を通過し、3,356.7キロの距離を1,065秒間(17分45秒)飛行した後、グアム島の周辺30から40キロの海上に落ちるだろう」とし、「今月中旬までに計画を完成させ、核武力の総司令官キム・ジョンウン(金正恩)同志に報告し命令を待つ」と発表した。

金正恩朝鮮労働党委員長は14日、戦略軍司令部を視察、計画を承認したとされるが、発射に関しては「米国の行動をもう少し見守る」とし、21日から始まる米韓合同軍事演習(乙支(ウルチ)フリーダムガーディアン)の動向等を見極める姿勢を示した。なお、乙支は高句麗の将軍の乙支文徳にちなむ。

トランプ大統領は金正恩委員長のミサイル発射保留を受け、ツイッターで評価するコメント

グアムには、米空軍のアンダーセン空軍基地や米海軍第7艦隊のグアム海軍基地がある。最近、朝鮮半島に度々飛来しているB1B戦略爆撃機に加え、朝鮮半島近海に出没している攻撃型原子力潜水艦もグアムを拠点としているものが多く、米国の軍事行動を牽制したとみられる。なお、B1Bは、8月8日にもグアムから飛来し、空自のF2戦闘機と九州上空で共同訓練を実施、その後、韓国空軍のF15戦闘機と朝鮮半島上空で共同訓練を行ったことが明らかとなっている。

前述のように、北朝鮮の挑発に対して、トランプ大統領はかつてない苛烈な表現で非難、一方、北朝鮮も、「グアムへの攻撃を慎重に検討している」とするなど、ヒートアップしている。但し、現実には、米議会は夏季休会中、トランプ大統領も夏季休暇を取得中であり、「一触即発」といった状況ではない。

トランプ大統領も16日には金正恩委員長がミサイル発射を保留したことを受け、ツイッターで「北朝鮮の金正恩委員長は非常に賢く、理にかなった決断をした。他の選択肢を採っていたら、壊滅的で受け入れ難い事態になっていただろう」とコメントしている。

秋には緊迫感が再度高まる可能性も

但し、秋には緊迫感が再度高まる可能性も否定できない。

当初、米議会上院は11日まで夏季休会入りを先送りする予定だったが、オバマケア廃止・代替法案の採決が全て失敗したことで、レイFBI長官ら大統領指名人事の承認を行った後、4日から事実上夏季休会に入った。但し、依然、大統領指名人事の承認は過去の政権と比較し大幅に遅れており、同法案の頓挫で減税等の財源には一段と不透明感が拡がっている。

但し、9月には債務上限問題も解決する必要がある。既に、3月16日以降、米連邦政府は1ドルたりとも、追加の借入ができない状況が続いている。ムニューシン財務長官は9月中は資金繰りに目途をつけているとしているが、CBO(議会予算局)の試算でも、10月上旬から半ばには資金繰りが枯渇するおそれがある。やはり9月末が期限の2018会計年度予算の成立が遅れることになれば、米連邦政府のデフォルトリスクとガバメント・シャットダウン(政府機関閉鎖)リスクが同時に金融市場を襲うことになる。

こうした中、トランプ大統領の平均支持率は8月14日には37.4%と過去最低を更新、一方で、平均不支持率は57.4%と過去最高、支持から不支持を差し引いたギャップは20.0ポイントと過去最大に膨らんだ(RCP)。15日には人種差別を容認するかのような発言を繰り返しており、支持率が一段と下落する可能性も否定できない。

支持率浮揚のため、トランプ大統領が通商・貿易問題に加え、安全保障問題においても、秋に向けて強硬姿勢を強めれば、国際金融市場にも影響が波及するおそれがある。「週刊現代」の最新号は、トランプ大統領が7月31日に安倍首相と行った電話会談で、「4月にシリアを叩いたように、北朝鮮の建国記念日である9月9日に北朝鮮を叩く」と発言したと伝えている。真偽や本気度は定かではないが、北朝鮮は昨年の9月9日には、5回目の核実験を実施しており、9月9日が何らかの意味で、「Xデー」となる可能性は否定できない。なお、8月25日は、金正日総書記が先軍政治を始めた「先軍節」。北朝鮮は昨年の8月24日にはSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)北極星1型を発射している。

米軍が仮に軍事オプションを採るにしても、戦略爆撃機や空母打撃群等の集積、在韓米軍の家族らの避難、日韓との事前協議等が必要となるため、短時間での準備・実施は不可能とみられるが、北朝鮮が来週25日や9月9日に、グアム近海へのミサイル発射や6度目の核実験を実施することになれば、一挙に緊迫感が増し、金融市場の動揺も避けられないだろう。

トランプ政権は北朝鮮への積極的な対応を行っていない中国も非難しており、対中貿易赤字是正の観点から、通商法301条や通商拡大法232条、貿易円滑化・貿易執行法の発動も視野に入れていると伝えられている。

今秋は、海水温の上昇で警戒される大型台風等異常気象のみならず、米財政リスクや外交リスク、地政学的リスクにも警戒が必要のようだ。

今夏は前半と後半、東日本と西日本で対照的、台風5号は実質的に史上2位の長寿台風に

夏休みも終盤となり、夏休みの課題や宿題に追われる家庭も増えていると思われるが、今年の夏の天候は、前半と後半で、また、地域によって対照的となった。「空梅雨」で夏の前半は真夏日が続いた東日本では、梅雨明けとともに天候不順となり、一転、日照不足が心配な状況に。一方、西日本は迷走した台風5号等の影響を除けば、「猛暑」が続き、今後の長期予報でも9月までは「残暑」が厳しい予想となっている。

ちなみに、発生後太平洋を西に進み、18日18時間台風として存在した台風5号は、1986年の台風14号の19日6時間、1972年の台風7号の19日間に次ぐ至上3位の長寿台風となった。なお、1986年の台風14号は熱帯低気圧の期間が途中1.5日間あるため、実質的には今年の台風5号は史上2位の長寿台風。長寿台風にみられるように、太平洋の海水温が高い状況は、サンゴの白化現象が深刻化している沖縄等でも明らかなのだが(筆者も8月に沖縄を訪問し確認済)、7月下旬以降、なぜオホーツク海高気圧が強まった一方、太平洋高気圧の張り出しが弱まり、東日本が冷夏となったのかは理由がはっきりしない。地球温暖化等による世界的な気候変動は、様々な面で従来の常識を覆しつつあるようだ。

夏休み映画特集第3弾、女性活躍映画がヒット

長雨の東日本、残暑厳しい西日本でも、映画が気軽なレジャーであることは同じだが、今年の夏休み映画は大作揃いだ。今回は、夏休み映画特集第3弾と銘打って、注目映画をご紹介したい。

まずは、今夏日本公開作品で、米国内での興収が最も良かった『ワンダーウーマン』(8月25日公開)から。

イスラエル出身の女優、ガル・ガドットさん演じるダイアナ・プリンス/ワンダーウーマンは、DCコミックの女性キャラクターでスーパーヒロイン。DCでは、バットマン、スーパーマンに並ぶ重要人物であり、ジャスティス・リーグの一員でもある。

【第74回】夏の風物詩に変化、秋に向けて変動率拡大も、アベンジャーズとジャスティス・リーグ

2016年公開の『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』でも終盤に登場したが、今回の実写版では今から100年前、第1次世界大戦中が舞台となっている。

『ワンダーウーマン』の2017年の米国での興収は、やはり女性が主人公の『美女と野獣』に次いで現在第2位(Box Office Mojo調べ)。女性監督作品として歴代1位の記録を樹立。

『ワンダーウーマン』
8月25日(金) 全国ロードショー  3D/2D/IMAX
(c) 2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

なお、「ワンダーウーマン」というキャラクターが国連名誉大使に任命され、パティ・ジェンキンス監督やガドットさんらが出席して、2016年10月21日にニューヨークの国連本部で就任式が開かれた。女性の地位向上やジェンダー平等の啓蒙がワンダーウーマンの名誉大使任命理由だったが、「実在する女性を選ぶべき」との国連内部の反対もあり、任期は12月16日までの約2か月の短期間で終了と、やや残念な結果に。

エイリアンの新作も公開

現在、公開中の『トランスフォーマー/最後の騎士王』や『スパイダーマン:ホームカミング』の映画の中のように、ワンダーウーマンやトランスフォーマー、アベンジャーズが実在していれば、北朝鮮情勢もここまで深刻化せず、皆が国連名誉大使となっていただろうが、現実は厳しい。一方で、エイリアンに地球を攻めてこられたら大変だが、エイリアンと見間違う過激派集団や指導者が増えている最近の国際社会も困ったものだ。

エイリアン:コヴェナント
2017年9月 全国ロードショー
© 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved

エイリアンと言えば、『エイリアン:コヴェナント』が9月15日に封切られる。筆者の記憶にも残るが、鮮烈なデビューを飾った1979年公開の『エイリアン』及び2012年公開の『プロメテウス』に続き、リドリー・スコット監督がメガホンをとった。本作は『プロメテウス』の続編であり、『エイリアン』のプリクエル(前日譚)として製作された新シリーズの2作目。

スコット監督は、1982年公開の『ブレードランナー』も有名だが、本年10月27日には『ブレードランナー2049』も公開予定。

史上最大の救出作戦と史上最大の合戦

9月9日公開の『ダンケルク』は、第2次世界大戦中の1940年、ドイツ軍によってフランスの港町ダンケルクに追い詰められた英仏連合軍40万人の英国への退却作戦、史上最大の救出作戦と言われる「ダイナモ作戦」を描いた作品。『インターステラー』のクリストファー・ノーラン監督が、初めて実話をもとに描いた。

今年日本で公開された沖縄戦を舞台とした『ハクソー・リッジ』やノルマンディー上陸作戦、正式名「オーバーロード作戦」を描いた『史上最大の作戦』『プライベート・ライアン』同様、現実の戦争の悲惨さが描かれている。我が国では8月に見るべき映画か。

関ヶ原
8月26日(土) 全国ロードショー
©2017「関ヶ原」製作委員会

邦画では、8月26日に『関ケ原』が公開される。ノルマンディー上陸作戦が「史上最大の作戦」とすれば、関ケ原の戦いは、「史上最大の合戦」だろう。司馬遼太郎原作。『日本のいちばん長い日』の原田眞人監督。

岡田准一さんが西軍の司令官、石田光成(総大将は毛利輝元)を、役所広司さんが東軍の総大将、徳川家康を演じる。今年の邦画はコミックの実写作品と戦国時代劇に大作が多いが、『関ケ原』は戦国時代劇の決定版か。

過去の戦争の悲惨さを顧みることが重要

「事実は小説よりも奇なり」と言うが、本や映画の中での「戦争」は、ある意味、安心して見ることができるし、歴史を知り教訓とするためにも見る必要があると考えられる。特に、我が国の場合、多くの人命を失った太平洋戦争の反省からも8月は過去の戦争の悲惨さを顧みるために重要な月だろう。

以下は、終戦から72年を迎えた8月15日に行われた政府主催の全国戦没者追悼式で、天皇陛下が述べられたお言葉。

「本日、『戦没者を追悼し平和を祈念する日』に当たり、全国戦没者追悼式に臨み、先の大戦において、かけがえのない命を失った数多くの人々とその遺族を思い、深い悲しみを新たにいたします。終戦以来、すでに72年、国民のたゆみない努力により、今日のわが国の平和と繁栄が築き上げられましたが、苦難に満ちた往時をしのぶ時、感慨は今なお尽きることがありません。ここに過去を顧み、深い反省とともに、今後、戦争の惨禍が再び繰り返されないことをせつに願い、全国民と共に、戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対して、心から追悼の意を表し、世界の平和とわが国の一層の発展を祈ります。」

実は、従軍経験のある政治家や軍人の方が悲惨な現実を知っていることから、軍事オプションの行使には基本的に慎重との見方がある。若い金正恩委員長は当然として、現在71歳のトランプ大統領にもベトナム戦争の従軍経験がないのがむしろ不安だ。ニューヨーク・タイムズは2016年8月、トランプ氏は1960年代、大学時代と卒業後、計5回徴兵猶予となり、ベトナム戦争での兵役を免除されていたと報じている。米国は1973年1月まで男性限定の徴兵制度が導入されていた。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。同投資戦略室長、大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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