アナリストの忙中閑話【第83回】

アナリストの忙中閑話

(2018年4月19日)

【第83回】アベンジャーズの蜂起で米中間選挙は波乱の展開に?GWの注目映画

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

最近、「デジャブ」が感じることが多いのは日常生活も国際情勢も同じ

既に56歳と、いわゆる「アラカン:アラウンド還暦」に達したせいか、最近、「デジャブ:既視感」を覚えることが多い。日常生活でも、この光景を過去に見たと思うことが多いが、近年の国際情勢も同様だ。

今月14日には、シリアの化学兵器使用疑惑に対し、国連安保理が常任理事国の拒否権行使で機能不全となり、米英仏軍がシリアのアサド政権の化学兵器関連施設に巡航ミサイル等計105発によるミサイル攻撃を加える事態となったが、同様の光景はちょうど1年前にもみられた。

昨年も4月にシリアでの化学兵器使用疑惑に対し、米軍が地中海に展開していた2隻の駆逐艦から巡航ミサイル59発をシリアの空軍基地に発射している。

但し、違うのは今後の地政学的リスクの拡大可能性だ。昨年はIS(イスラム国)という共通の敵が存在していたのに対し、今年はISがほぼ掃討されたことで、シリア及びその背後にいるイランやロシア、欧米諸国、スンニ派諸国、イスラエルといった国家間の対立が表面化しつつある。今後の展開次第では全面戦争に繋がりかねないリスクを孕んでいるからだ。

また、米国は11月6日に中間選挙を控え、トランプ大統領はコアの支持層へのアピールのためにも、様々な政策で勢い強硬策に傾きやすいという事情もある。通商・貿易面での保護主義的政策やメキシコ国境への壁建設、州軍の派遣、アマゾン等への攻撃等、トランプ大統領のツイッター口撃を含む様々な行動は当分、金融市場の変動率拡大要因とみた方が良いだろう。

繰り返し見たいショー・タイム

一方、同じ「デジャブ」でも繰り返し感じたいのは、オリンピックやワールドカップ、米メジャーリーグ等での日本人選手の活躍だ。米メジャーリーグについては、かつて本コラムでも、イチロー選手や上原浩治選手、田澤純一選手らの活躍を取り上げたが、今年は何といっても、大谷翔平選手の「ショー・タイム」だろう。

今シーズンからロサンゼルス・エンゼルスに移籍した二刀流の大谷翔平選手は、4月18日現在、投手として2勝1敗、打者としてホームラン3、打率0.367、打点11と大車輪の活躍を見せている。さすがに、17日の強力打線のレッドソックス戦は右手のマメの影響もあり、4安打3失点で2回を投げて降板、3連勝とはならなかったが、オープン戦の不調は何だったのかと思わせる活躍だ。「能ある鷹は爪を隠す」を実践しただけなのか。現代野球において、二刀流の継続は困難も多いと思われるが、持ち前の才能と努力により、真の意味で「ベーブ・ルースを超えた」と言われるように、今後の活躍に期待したい。金融市場関係者においても、大谷選手の活躍は、トランプ大統領のツイッター口撃から胃腸を守るための、一種の清涼剤になりそうだ。

ポール・ライアン米下院議長が引退表明

ところで、トランプ大統領のツイッター口撃が増えている背景には11月6日の中間選挙が半年後に迫る中、大統領や共和党の支持率が依然過半数割れの現状があると考えられる。

こうした中、ポール・ライアン米下院議長(48、共和党)は11日、11月6日の中間選挙に出馬せず、現在の第115議会が閉会する2019年1月初めで下院議員を引退することを明らかにした。

ライアン氏は記者会見で引退理由を家族と時間を過ごすためと説明、トランプ大統領の存在が今回の決定にどの程度影響したかとの記者団からの質問に対しては「まったく影響していない」(12日付けロイター)とした。なお、2020年以降の大統領選への出馬を検討している可能性があるとの観測に対しても、「大統領選に出馬しない」(12日付けCNN)と述べ、自身の計画にはないとした。

ライアン氏はウィスコンシン州生まれで1998年に下院議員に初当選。当選時は28歳で議会最年少であった。2012年の大統領選では共和党大統領候補のミット・ロムニー氏とともに、副大統領候補となった。2015年10月、下院議員を辞任したジョン・ベイナー前議長の後任として、議長に就任。

2016年の大統領選予備選では、トランプ氏を支持せず、指名が確実になってからも暫く支持を表明せず、トランプ氏との間で確執が強まった。トランプ政権発足後は、ライアン氏と懇意のラインス・プリーバス共和党全国委員会委員長の大統領首席補佐官就任で距離がやや縮まったが、2017年7月にトランプ大統領はプリーバス氏を解任、その後、大統領と下院議長はギクシャクした関係が続いていた。今回の引退表明は税制改革法(Tax Cuts and Jobs Act)が2017年12月に成立したことで、自らの責務は果たしたということだろうが、人気のあるライアン氏の引退表明は11月6日投票と半年後に迫る中間選挙において、共和党にとっては大きな痛手となりそうだ。

金融市場の動揺とは裏腹に大統領及び共和党の支持率は2月以降むしろ回復

もっとも、足元ではトランプ大統領及び共和党の支持率は回復傾向にある。今年に入り、次々と繰り出されているトランプ大統領の保護主義的な政策やメキシコ国境への米軍(州軍)の派遣等「アメリカ・ファースト政策」は、金融市場には動揺を与えているものの、大統領支持率や政党支持率では、大統領及び共和党の支持率が2月以降はむしろ回復している。トランプ氏が大統領選で掲げた公約を実現しようとする姿勢は、コアの共和党支持層にはそれなりに受けているようだ。

投票行動では、民主党支持層でより積極化の兆し

一方で、実際の選挙でより重要な投票行動では、2016年の大統領選・議会選での逆バネ効果及びトランプ大統領の過激な政策遂行への反発等から民主党支持層で積極化の兆しが表れている。昨年12月のアラバマ州上院補欠選挙や本年3月のペンシルベニア州下院第18区補欠選挙では、共和党の牙城を民主党候補が崩す結果となったが、民主党支持層では、11月の中間選挙で投票を行うと意志表示した有権者が、2010年及び2014年の中間選挙前よりも増加していることが世論調査で示された。

ハーバード大学ケネディスクール政治研究所が4月11日(日本時間)に発表した若者(18-29歳)向け世論調査によると、11月の米中間選挙で必ず投票するという若者は過去2回の中間選挙より多いことがわかった。

3月8日から25日までの間に2,631人の18-29歳の若者に対して、オンラインで実施された世論調査では、投票権のある若者のうち、37%が「必ず投票する」と回答。同時期に行われた世論調査では、2010年が31%、14年は23%だった。「多分投票する」が16%、「50-50」が21%、「多分投票しない」が13%、「必ず投票しない」が12%。

民主党支持層の若者で「必ず投票する」との回答が上昇し過半数越え

民主党支持者の51%が「必ず投票する」と回答。2017年11月の調査からは9ポイントの上昇となった一方、共和党支持者で「必ず投票する」としたのは36%だった。

トランプ大統領の仕事ぶりを「支持する」としたのは25%。「支持しない」は72%。議会民主党の仕事ぶりを「支持する」としたのは41%。「支持しない」は56%。議会共和党の仕事ぶりを「支持する」としたのは24%。「支持しない」は73%だった。

中間選挙で民主党と共和党のどちらに議会の過半数を制してほしいかとの問いに対しては、「民主党」の58%に対し、「共和党」は36%、「答えない」6%となった。

トランプ大統領の自らの公約を実現しようとする過激な政策は、最近の世論調査動向を踏まえると、共和党のコアの支持層にそれなりにアピールしているようだが、反トランプの民主党支持層にはより大きな反発を生み出しているとも言えそうだ。

2016年の大統領選当初、メディアでは民主党のヒラリー・クリントン候補の勝利がほぼ確実とされていた。トランプ氏が逆転勝利となった背景には、いわゆる「ラストベルト(錆びついた地帯)」にある「スイング・ステート」、具体的には、ペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシン、オハイオの4州、特に事前の世論調査ではクリントン氏が優勢だった、ペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンの3州で、トランプ氏が逆転勝利したことが大きかった。敗因は何れも、民主党支持者の投票率が女性、若者、マイノリティー中心に伸び悩んだのに対し、いわゆる「隠れトランプファン」の共和党支持者の投票率が上昇したことだ。

若年層の選挙登録率及び投票率が上昇すれば、民主党に追い風

実は、2016年の大統領選でも、18-29歳の若年層はクリントン氏に投票した比率が高かった。CNNの出口調査では、クリントン氏55%に対しトランプ氏は37%だった。なお、全体では、男性はトランプ氏(53%)、女性はクリントン氏(54%)に投票した比率が高かった。

今年の中間選挙で、2008年の米大統領選・議会選時のように、若年層の選挙登録率及び投票率が上昇すれば、民主党に追い風となりそうだ。特に、影響は全員が改選となる下院選挙で大きいと言える。

アベンジャーズは昨年6月の英国の総選挙結果を左右

若年層の「リベンジ」ないし「アベンジ」は、英国でもみられた。

2016年6月のEU離脱の是非を問うた英国の国民投票では、EU残留派が多数の若年層が天候要因もあって多く棄権した結果、事前予想を覆し、離脱派が過半数となった。

一方、2017年6月の英国の総選挙では、労働党支持が多数の若年層の投票率が急上昇したことで、事前予想を覆し、保守党は過半数割れとなり、EU離脱交渉で優位に立つことを狙い、解散総選挙に打って出たメイ首相は政権基盤が弱体化、EU離脱交渉でも防戦一方となっている。なお、この場合、私怨ではなく、公的な政治問題のため、「アベンジ」が適当だろう。

アベンジャーズが中間選挙で投票所に大挙して押しかけることになれば、ワシントンの政治風景は2019年には大きく変わることに

人口ピラミッドが我が国と違い「釣鐘型」の米国では18-29歳の若年層の人口構成比率も高い。若年層が「アベンジャーズ(報復者)」として、11月6日の中間選挙に際し、投票所に大挙して押しかけることになれば、ワシントンの政治風景は2019年には大きく変わることになりそうだ。ライアン氏の引退発表もそうした状況を予見したからとみるのはやや穿ちすぎだろうか。

今年のGW商戦は、近年同様、邦画アニメとディズニー洋画のトップ争いか

前月号では春休み映画を特集したが、以下ではゴールデン・ウイーク(GW)前後に公開される注目映画をご紹介する。今年のGW商戦は今年も邦画アニメとディズニー洋画のトップ争いとなりそうだ。

『名探偵コナン ゼロの執行人』
2018年4月13日
全国東宝系にてロードショー
©2018 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

前週末(4月14・15日)の国内観客動員数では、『名探偵コナン ゼロの執行人』が初登場第1位となり、第2位は同じく初登場の『映画クレヨンしんちゃん 爆盛!カンフーボーイズ〜拉麺大乱〜』となった(興行通信社調べ、以下同じ)。第3位は今年のアカデミー賞長編アニメ賞を受賞したディズニーの『リメンバー・ミー』、第4位には初登場の『パシフィック・リム:アップライジング』が入った。今年のアカデミー賞で作品賞、監督賞を受賞したギレルモ・デル・トロ氏が前作『パシフィック・リム』では監督を務めたが、本作では製作に回り、オタクイズムを継承するスティーヴン・S・デナイト監督がメガホンをとった。

第5位の『ボス・ベイビー』は、『怪盗グルー』シリーズのユニバーサル・スタジオと、『シュレック』などのドリームワークス・アニメーションが初タッグを組んだ長編アニメ。原作はマーラ・フレイジーのベストセラー絵本『あかちゃん社長がやってきた』。

実は、「名探偵コナン」も「ボス・ベイビー」も何れも体は幼児だが、中身は大人(コナンは高校生)という点で共通している。その辺りがヒットの秘訣ならば、『ボス・ベイビー2』の全米公開日が2021年3月26日に決定している『ボス・ベイビー』もシリーズ化される可能性がありそうだ。

というのも、『名探偵コナン ゼロの執行人』は、大人気コミックを原作に、少年探偵江戸川コナンの活躍を描く劇場版アニメシリーズの何と第22作だからだ。登場人物の画像とは裏腹に、劇場版では毎回、社会事件等をストーリーに織り込んでいるが、本作では、東京湾岸(中央防波堤埋立地?)に建設された統合型リゾートを舞台に公安警察と公安検察の軋轢等も描かれており、内容はむしろ大人向けか。こうしたことが観客層を広げ、ヒットを続けている背景だろう。

オタクイズムの拡散で日本の若手俳優の活躍余地も拡大

4月20日には、前月号で特集したスティーブン・スピルバーグ監督の『レディ・プレイヤー1』も公開される。13年ぶりに現在来日中のスピルバーグ監督は18日、東京都内で行われたジャパンプレミアに登場、「アニメに出合ってから、本当に日本のポップカルチャーに魅了されています。黒澤明や三船敏郎の作品に出合う前に、幼いころ、父に連れられて東宝の『ゴジラ』を見に行ったのが、初めて見た日本の映画です」とし、「完全に『ジュラシック・パーク』は、それ(『ゴジラ』)を基に作りました」(18日付け毎日新聞)と冗談半分に明かしている。なお、監督によれば、同作品には「メカゴジラ」が登場し、「ゴジラ」のテーマ曲が使用されているとのこと。

『パシフィック・リム:アップライジング』では、新田真剣佑さんが当初の予定を超えて、スティーブン・S・デナイト監督の抜擢で主要キャストとして出演。『レディ・プレイヤー1』でも、ミャンマー生まれの森崎ウィンさんが活躍している。日本の俳優がハリウッドで活躍できるようになった背景に、日本のアニメや怪獣映画の大ファン、スピルバーグ監督やデル・トロ監督、デナイト監督のような言わば「オタク」が今、ハリウッドで監督や製作者として多数活躍していることが挙げられる。日本の若手俳優もこのチャンスを逃さず、大谷翔平選手のような活躍に期待したい。

4月27日、日米でディズニー・マーベルの大作、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』公開

『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』
4月27日(金)公開
©Marvel Studios 2018

4月27日に日米で同時公開となるディズニー・マーベルのアクション大作、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』は、『アイアンマン』『キャプテン・アメリカ』『マイティ・ソー』『ハルク』など、「マーベル・シネマティック・ユニバース」に属する各作品からヒーローやヒロインが集結した『アベンジャーズ』シリーズ第3弾。

今回は前作のメンバーに加え、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』『ドクター・ストレンジ』『スパイダーマン ホームカミング』『ブラックパンサー』からも主要ヒーローが参戦。

6つ全てを手に入れると全宇宙の半分の生命を滅ぼせるという「無限の力」を持つインフィニティ・ストーンを巡り、最凶最悪の敵「サノス」に対し、「アベンジャーズ」が全滅の危機に陥るほどの激しい戦いを強いられる。監督は『キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー』『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』でメガホンをとったアンソニー&ジョー・ルッソ兄弟。

ちなみに、シリーズ第1弾の『アベンジャーズ』(2012年公開)は世界興収歴代第5位、第2弾の『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015年公開)は同第7位(4月18日現在、Box Office Mojo調べ)。

『となりの怪物くん』
2018年4月27日
全国東宝系にてロードショー
©2018映画「となりの怪物くん」製作委員会 ©ろびこ/講談社

同じく4月27日公開の『となりの怪物くん』は、講談社「月刊デザート」で連載されたろびこ氏原作の人気少女コミックを実写映画化。菅田将暉さん演じる行動予測不能な超問題児の春と、土屋太鳳さん演じる冷静かつ淡白なガリ勉の雫を中心に個性豊かな友達らが織りなす学園ドラマ。監督は『君の膵臓をたべたい』の月川翔氏。

『ラプラスの魔女』
2018年5月4日公開
©2018「ラプラスの魔女」製作委員会

『ラプラスの魔女』(5月4日公開)は、東野圭吾氏原作の同名ベストセラー小説を映画化。三池崇史監督がメガホンをとり、櫻井翔さん、広瀬すずさん、福士蒼汰さんが初共演を果たしたサスペンスミステリー。謎多き事件の調査に当たる生真面目な大学教授青江修介(櫻井翔)、自然現象を予言するヒロイン羽原円華(広瀬すず)、円華が探している失踪中の青年甘粕謙人(福士蒼汰)に加え、豊川悦司さん、玉木宏さん、リリー・フランキーさん、高嶋政伸さん、檀れいさん、志田未来さん、佐藤江梨子さん、TAOさんといった実力派俳優が集結。

『ホース・ソルジャー』(5月4日公開)は、2001年9月11日に発生した米同時多発テロ直後の「最初の戦い」を映画化したもの。主演は前述の『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』で「ソー」を演じているクリス・ヘムズワースさん。

『ピーターラビット』
5月18日(金)公開

5月18日公開の『ピーターラビット』は、ビアトリクス・ポター原作の同名絵本を『ANNIE アニー』のウィル・グラック監督が実写映画化。ピーターは世界で一番幸せなウサギ。たくさんの仲間に囲まれ、画家のビアという心優しい大親友もいる。ところがある日、大都会ロンドンから潔癖症で動物嫌いのマグレガーが隣に引っ越してきたことで、ピーターの生活は一変!今までの幸せを守りたいピーターと、あの手この手で動物たちを追い払おうとするマグレガーとの争いはエスカレート。。。

『ランペイジ 巨獣大乱闘』
2018年5月18日(金)全国ロードショー
©2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

同じく5月18日公開の『ランペイジ 巨獣大乱闘』は、1986年に発売されたアーケードゲーム「RAMPAGE」をベースとしたパニックアクション映画。遺伝子実験の失敗によって、巨大化・狂暴化したゴリラ、オオカミ、ワニなどの動物たちが、北米大陸を破壊しながら横断していく。主演は『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』(公開中)で、マッチョな風采とともに、ファニーな演技も見せ、一部で2020年の米大統領選出馬観測も出ている「ロック」ことドウェイン・ジョンソンさん。ジョンソンさん演じる霊長類学者デイビスが巨獣たちに挑む。前週末(13-15日)の米興収第1位(Box Office Mojo調べ)。

トランプ大統領により解任されたFBIのコミー前長官が回顧録を出版

トランプ大統領により昨年解任された米連邦捜査局(FBI)のジェームズ・コミー前長官が今週17日、回顧録を出版した。タイトルは「A Higher Loyalty: Truth, Lies & Leadership(仮訳:より高い忠誠―真実と嘘とリーダーシップ)」。

コミー氏は回顧録の出版を控え、15日に放映されたABCニュースのインタビュー番組に出演し、トランプ大統領について、「危険かつ道徳的に不適格な指導者であり、組織や文化の規範を大きく損なっている」と指摘(15日付けロイター)。また、大統領が2013年のモスクワ訪問時に複数の売春婦がみだらな行為をしていた現場に同席していたとする情報から、大統領がロシアに弱みを握られ、操られる可能性を懸念していると述べた(同)。

回顧録でコミー氏はトランプ政権を痛烈に批判

12日付けワシントン・ポストが掲載した回顧録の抜粋によると、コミー氏はトランプ大統領との交流について、「かつて検事としてギャングと戦っていた若いころの経験がフラッシュバックした。暗黙の了解の輪。完全に支配しているボス。忠誠の誓い。身内か否かで決まる敵対的な世界観。道徳や真実の上に組織を置く忠誠の掟のために、全てについて、大なり小なり、嘘をつくのが当たり前になっている世界。」(筆者訳)と書き、トランプ政権を痛烈に批判している。

コミー氏は2016年11月の大統領選直前に民主党のヒラリー・クリントン候補のメール問題の捜査再開を発表し、大統領選に少なからず影響を与えた人物

コミー氏は、トランプ大統領により、2017年5月9日、FBI長官を解任され、ワシントンに衝撃が走ったのが記憶に新しいが、2016年11月の大統領選直前に民主党のヒラリー・クリントン候補のメール問題の捜査再開を発表し、大統領選に少なからず影響を与えた人物としても有名だ。

トランプ大統領は同問題を解任の理由に挙げたが、FBIは当時(現在でも)、ロシアによる大統領選介入疑惑とトランプ陣営の関与を捜査していることから、同捜査の妨害を狙ったとの見方が民主党やメディアで浮上、いわゆる「ロシアゲート」だ。その後、2017年5月17日には、米司法省は、「ロシアゲート」等の捜査のため特別検察官の設置を決め、元FBI長官のロバート・モラー氏を特別検察官に任命した。

トランプ大統領は激怒、回顧録はトランプ政権の人事にも影響か

回顧録では、クリントン氏のメールの再捜査に関して、選挙後の11月下旬、オバマ前大統領と大統領執務室で2人だけで会った際、大統領から「私は、あなたの清廉性と能力から、あなたをFBI長官に指名しました。私の見方は今も変わっていません」(筆者訳、以下同じ)と伝えられた際、コミー氏は思わず泣き出しそうになり、「私はただ正しいことをしようとしただけです」と答えると、オバマ前大統領は「わかっています。わかっています」と述べたことを振り返っている。

回顧録は、トランプ大統領のそれこそ「炎と怒り」を買っているが、トランプ政権の人事にも影響を与える可能性が高そうだ。

コミー氏は回顧録で、FBI長官を解任された直後、ジョン・F・ケリー国土安全保障長官(当時)、現在の首席大統領補佐官から、「感情的な電話」をもらったと記述している。

「彼は、私の解任に失望していた。そして、抗議して辞任するつもりだったと述べた」(筆者訳、以下同じ)とし、「彼は、このような方法で誰かを私のように扱う恥知らずな人々のために働きたくないと言った。私はケリーに辞任しないよう訴えた。この国は大統領の周りに筋の通った人々を必要としている。特にこの大統領の下では」。そして、「ケリーは辞任せず、2ヵ月半後に、ホワイトハウスの首席補佐官に指名された」と述懐している。

ケリー氏は、同書の記述に関し事前にコミー氏に受諾しているとすれば、既に辞任の意志を固めている可能性もありそうだ。トランプ大統領が回顧録の出版やコミー氏のテレビ出演等に関し、激怒しているのは間違いないだろう。ツイッター等での度重なる口撃に加え、実際、大統領の要請を受けてか、共和党全国委員会もコミー氏を批判するウェブサイトを立ち上げている。

中間選挙の結果次第では、トランプ大統領の弾劾の手続きが始まる可能性

ロシアゲート問題を抱えるトランプ大統領にとっては、11月6日の中間選挙は単なる「中間の」選挙にとどまらない。コミー氏が指摘しているようなトランプ大統領の捜査妨害が立証される等、ロシアゲートの展開次第では、議会による大統領弾劾の可能性が否定できないからだ。

大統領の弾劾は、下院が単純過半数の賛成に基づいて訴追し、連邦最高裁判所長官が裁判長として上院が裁判し、上院出席議員の3分の2以上の多数の賛成で弾劾が決定される。全員が改選される中間選挙で、民主党が多数派を奪還すれば、少なくとも下院での訴追の可能性が高まることになる。上院の3分の2以上の賛成のハードルは高いが、ロシアゲートが立証されれば、共和党の上院議員も賛成に回る議員がでてこよう。ニクソン元大統領の場合、下院での決議直前に辞任に至っている。

トランプ大統領にとっては、共和党による下院の多数派死守のためには、大統領及び共和党の支持率の引き上げが最重要課題となろう。トランプ大統領にとって、今後半年間は正念場と言えそうだ。

内政に躓いた指導者が、外に敵を見つけ、国民の眼をそらすことは古今東西、枚挙にいとまがない。今後は、米国の内政問題が、通商・貿易問題や国際的な安全保障問題に影響する可能性にも留意する必要があるかもしれない。

コミー氏の「アベンジ」の行方に注目、ポスト事実(真実)の時代では、小説と現実の区別も困難に

コミー氏の「アベンジ」の行方に注目したい。「事実は小説より奇なり(Truth is stranger than fiction.)」と言うが、ポスト事実(Truth、真実)の時代には、内外問わず、小説と現実の区別も困難になりそうだが。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。日経債券アナリストランキング、14年連続10位内ランクイン。日経財政アナリストランキング2位(2004年〜2006年)。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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