アナリストの忙中閑話【第84回】

アナリストの忙中閑話

(2018年5月24日)

【第84回】日本人監督、21年ぶりにカンヌでパルムドール受賞、日本映画界の課題は人口減少とグローバル化

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

第71回カンヌ国際映画祭で是枝裕和監督の『万引き家族』がパルムドールを受賞

全国的に晴天となり、最高気温25度以上の夏日が各地で観測された前週末、フランスから日本列島にうれしい知らせが届いた。

5月19日(現地時間、日本時間20日)に開催された第71回カンヌ国際映画祭の授賞式で、是枝裕和監督の長編コンペティション部門出品作『万引き家族』(6月8日公開)が最高賞の「パルムドール」を受賞した。同作品は映画祭で『MANBIKI KAZOKU(SHOPLIFTERS)』と紹介されている。

日本作品の同賞受賞は1997年の今村昌平監督作『うなぎ』以来21年ぶりで、日本人の同賞受賞監督は、衣笠貞之助氏、今村昌平氏(2度)、黒澤明氏に次いで4人目。

カンヌ国際映画祭は、ベルリン国際映画祭、ヴェネツィア国際映画祭と並ぶ世界三大映画祭の一つで、世界で最も有名な映画祭の一つだ。世界三大映画祭での日本人監督の最高賞受賞は、2002年に宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』がベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞して以来となる。

是枝監督は2001年に『DISTANCE』でカンヌ国際映画祭のコンペ部門に参加して以来今回が7回目。長編コンペ部門での出品は『海街diary』以来3年ぶり5回目。是枝監督は2004年に『誰も知らない』で当時14歳だった柳楽優弥さんが最優秀男優賞を、2013年には『そして父になる』では審査員賞を受けており、3度目の受賞で最高賞を手にすることになった。

「今年のパルムドールはコレエダ」、授賞式で審査員長の女優、ケイト・ブランシェットさんが発表すると、大きな歓声と拍手が会場に巻き起こった。檀上に上った是枝監督は、「うわっ、ちょっとさすがに足が震えています。この場にいられることが本当に幸せです。そしてこの映画祭に参加させてもらっていつも思いますが、映画を作り続けていく勇気をもらいます。そして、対立している人と人を隔てる世界と世界を、映画がつなぐ力を持つのではないかと想像します」(20日付け朝日新聞)と喜びのスピーチを行った。

『万引き家族』
2018年6月8日(金)TOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー
©2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

『万引き家族』は生計を立てるため、家族ぐるみで軽犯罪を重ねていくうちに、一層結ばれる一家。だがそれは、許されない絆だった。人と人との関係が希薄な時代に、真の「つながり」とは何か、を問う作品。

日々万引きを繰り返す父親役にリリー・フランキーさん、その妻を安藤サクラさん、彼女の妹を松岡茉優さん、祖母を樹木希林さんが演じた。

是枝監督はインタビューで、本作は死んだ親の年金を不正に受給していた家族が逮捕された実在の事件にインスパイヤーされたと語っているが、是枝監督関連の3受賞作は何れも家族を描いているものの、特に、日本的とかオリエンタル的な作品ではなく、本作も世界で普遍的な問題を扱っている。

そういう意味では、日本映画がかつての侍・時代劇や怪獣・アニメ等とは異なったジャンルでも評価されたという意味で画期的な受賞だと言えそうだ。

是枝監督の活躍の背景に映画とテレビの融合

是枝氏は、当初、独立系のテレビ番組制作会社に入社し、テレビ番組のADなどをしながらドキュメンタリー番組の演出家でデビュー、1990年代央以降、映画監督に転身している。是枝氏の作品の特徴の一つに、家族映画とともに、登場人物が饒舌でなく、淡々と語るというのがあるが、背景にドキュメンタリー番組の製作経験があるのかもしれない。

なお、是枝氏は、3月2日に授賞式が開催された第41回日本アカデミー賞では、メガホンをとった『三度目の殺人』が最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀脚本賞、最優秀助演男優賞(役所広司さん)、最優秀助演女優賞(広瀬すずさん)、最優秀編集賞の6冠を達成するなど、国内でも飛ぶ鳥を落とす勢いだが、こちらの要因には、最近の日本映画界における、映画とテレビの融合がありそうだ。

2017年の日本国内での映画興収は前年比2.9%減の2,286億円と過去2番目の高水準に

映画製作配給大手4社で構成される一般社団法人日本映画製作者連盟によると、2017年の興行収入は、過去最高となった2016年(2,355億800万円)比2.9%減の2,285億7,200万円と、興収統計を発表し始めた2000年以降で2番目の高水準となった。2016年の『君の名は。』や『シン・ゴジラ』のような大ヒット作がない中でも堅調な結果となった。

内訳は邦画が前年比15.6%減の1,254億8,300万円、洋画は同18.6%増の1,030億8,900万円だった。構成比は邦画の54.9%に対し洋画は45.1%。

公開本数は1,187本と過去最高更新。内訳は邦画が594本、洋画が593本。平均入場料金は1,310円と2016年(1,307円)比、3円上昇し、過去最高更新。

入場人員数は2016年(1億8,018万9千人)比3.2%減の1億7,448万3千人で、1974年以来42年ぶりに1億8千万人の大台を超えた2016年比では減少したものの高水準を維持した。

映画は、戦後の大ブームの後、娯楽の多様化やテレビの普及、特に1980年代以降は、ビデオ等の普及とテレビ画面の大型化・高画質化等で衰退傾向にあったが、1990年代後半から盛り返している。2008-2010年には総人口も減少に転じたにも関わらず、興行収入及び入場者数とも増加傾向を持続している。

テレビ局が高視聴率のテレビドラマの映画化やテレビアニメの劇場版長編アニメーションのシリーズ化、コミックの実写作品の製作に注力

近年、映画が好調な要因の第1に、邦画の「頑張り」が挙げられる。洋画と異なり、減少傾向にあった邦画の公開本数が、2000年前後から増加に転じ、興収シェアでも2008年以降は、洋画を恒常的に上回っている。

背景にあるのが、前述のテレビ業界と映画業界がコラボした作品が急増したことと、劇場版長編アニメ映画のシリーズ化だ。

連続テレビドラマの映画化作品の草分けとも言える1998年公開の『踊る大捜査線 THE MOVIE』が大ヒット、2003年公開の第2作、『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』は現在でも国内歴代興収ランキング第8位(173.5億円)の座を保っている(興行通信社調べ)。ちなみに、『踊る大捜査線』シリーズはフジテレビ製作だが、是枝氏の作品は『万引き家族』含めフジテレビが製作に入っているものが多い。

その後は他の局も、高視聴率のテレビドラマの映画化やテレビアニメの劇場版長編アニメーションのシリーズ化、また、コミックの実写作品の製作に注力している。

シネコンの普及によりスクリーン数が増加

こうした結果、邦画の公開本数も増加しているが、邦画の多様化を支えているインフラとして、スクリーン数の増加が挙げられる。特にシネコンの普及により、人々の多様な嗜好に対応した映画を大中小、様々な規模のスクリーンで並行的に多数上映できるようになったことも大きい。近年、中高校生をターゲットとした学園モノが多数公開されている背景にもこうした事情がありそうだ。

日本映画界の課題、国内の人口減少とグローバル化

国内では映画業界の衰退傾向が底打ちし、新進気鋭の監督の台頭等新たな潮流等も生まれつつあるが、日本映画界には大きな課題も残されている。それは、国内の人口減少とグローバル化だろう。

米アカデミー賞は世界的に極めて有名だが、興行成績的には不芳な作品も多い。それでも、同賞が維持できている背景には、ハリウッド映画の興収がグローバルで伸びていることが挙げられる。

邦画の歴代興収第1位は2001年公開の『千と千尋の神隠し』の308.0億円だが、米映画の世界興収第1位は2009年公開の『アバタ―』の27億8,800万ドルと一桁違う(5月23日現在、Box Office Mojo調べ)。本年公開の『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の世界興収も既に18億4,110万ドルに上り、歴代世界興収で第4位につけている(同)。対して、邦画の2018年興収第1位『名探偵コナン ゼロの執行人』の興収は72.0億円(5月20日現在、興行通信社調べ)と同シリーズ最高となったが、彼我の差は大きい。

潜在的な能力は大きいものの、残された時間はそう長くはない、アジア諸国との連携がまずは第1歩

ハリウッド同様、後世に残すべき良質の作品を生むためにも、広範な映画産業の維持は不可欠だ。そのハリウッドでも最近は『ウォーキング・デッド』等有料のケーブル・ネット配信のドラマに浸食されつつある。

コミックやアニメ等、多数の有望なコンテンツを抱えるだけに我が国の映画産業の潜在的な能力は大きいと言えそうだが、世界のエンターテイメント業界では時代が変化するスピードも速まっている。残された時間はそう長くはないと言えそうだ。文化的に近いアジア諸国との連携がまずは第1歩か。

『名探偵コナン ゼロの執行人』と『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』が記録的ヒット

今年の映画のゴールデン・ウイーク(GW)商戦は、予想通り、邦画アニメの『名探偵コナン ゼロの執行人』をディズニー・マーベルのアクション大作『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』が追う展開となった。

前述の通り、『名探偵コナン ゼロの執行人』は劇場版シリーズ最高興収記録をもつ前作『名探偵コナン から紅の恋歌』の68.9億円を抜き、6作連続でのシリーズ記録を更新。累計動員数は552万人(5月20日現在、興行通信社調べ)。

『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』も累計国内興収は33.4億円(同)と最終興収32.1億円を記録した前作『アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン』を早くも凌駕、30億円突破もマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)作品史上最速となっている。

北米では最初の週末で2億5,000万ドルを稼ぎ、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の2億4,790万ドルを抜いて史上最高のオープニング興行収入成績を記録した。また、全世界の興収成績でも6億3,000万ドルと過去最高となった。

累計世界興収は、シリーズ第1弾の『アベンジャーズ』(2012年公開15億1,880万ドル)と第2弾の『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015年公開14億0,540万ドル)を抜いて、既に歴代第4位の18億4,110万ドルに達した(5月23日現在、Box Office Mojo調べ)。歴代第3位の『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015年公開)の20億6,820万ドル、及び第2位の『タイタニック』(1997年公開)の21億8,750万ドル、第1位の『アバター』(2009年公開)の27億8,800万ドルを十分射程に入れてきたと言えそうだ。

但し、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』が週末の観客動員記録でオープニング以来1度もトップを獲れなかったのは、筆者の知る限り、世界中で日本だけだ(興行収入では4月28日-29日の週末は『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』が『名探偵コナン ゼロの執行人』を上回った)。我が国のアニメ人気恐るべしと言えそうだ。

今週末以降6月中旬までに公開される注目作品

以下では、今週末以降6月中旬までに公開される注目作品をご紹介する。

『恋は雨上がりのように』
2018年5月25日(金)全国東宝系にてロードショー
©2018映画「恋は雨上がりのように」製作委員会 ©2014 眉月じゅん/小学館

5月25日公開の『恋は雨上がりのように』は、冴えないファミレス店長に片思いした女子高生の恋の行方を描き、テレビアニメ化もされた眉月じゅん氏原作の同名コミックを実写映画化。

『帝一の國』の永井聡監督がメガホンをとり、主人公の女子高生橘あきらを小松菜奈さんが、ファミレス店長の近藤正己を大泉洋さんが演じた。

『犬ヶ島』
2018年5月25日(金)公開
©2018 Twentieth Century Fox Film Corporation

同じく5月25日公開の『犬ヶ島』は、第87回アカデミー賞で美術、衣装デザイン、メイクアップ&ヘアスタイリング、作曲の4部門で受賞した『グランド・ブダペスト・ホテル』のウェス・アンダーソン監督が日本を舞台に、「犬インフルエンザ」の蔓延によって離島に隔離された愛犬を探す少年と犬たちが繰り広げる冒険を描いたストップモーションアニメ。

第68回ベルリン国際映画祭のオープニング作品として上映され、コンペティション部門で監督賞(銀熊賞)を受賞。

『デッドプール2』
2018年6月1日(金)公開
©2018 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.

6月1日公開の『デッドプール2』は、本コラムでもご紹介した2016年公開の『デッドプール』の続編。前作は、R指定作品では全米歴代興収第2位。国内では2作品ともR15+指定。

マーベルコミック「X-MEN」シリーズに登場するキャラクターで、人体実験により驚異的な治癒能力と不死の肉体を得るが、醜い身体に変えられてしまった元傭兵のウェイド・ウイルソン/デッドプールの活躍を描くアクションコメディ。

本作の敵は未来からやってきた機械男のケーブル。ライアン・レイノルズさん演ずるデッドプールは特殊能力を持ったメンバーを集めて、「Xメン」ではなく「Xフォース」を結成。なお、ケーブル役を演じたジョシュ・ブローリンさんは、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』には、ラスボスのサノス役で出演しており、パロディ調のデッドプールを象徴したキャストとなっている。本作には、忽那汐里さんが初めて参加。監督は前作のティム・ミラー氏からデビッド・リーチ氏に交替。前週末(18-20日)の全米興収で、前前週まで3週連続首位だった『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』を抜いて初登場トップに躍り出た。

『終わった人』
2018年6月9日(土) 公開
©2018「終わった人」製作委員会

6月9日公開の『終わった人』は、脚本家内館牧子氏による同名小説を映画化したハートフルコメディ。大手銀行の出世コースから外れ、子会社に出向させられたまま定年を迎えたサラリーマンが主役。これまで仕事一筋だった日々が一転、やることがなく、時間の進みが遅すぎる。ジムへ行っても図書館へ行っても、よく見ると周りにいるのは「終わったように見える人」ばかり。主演の元銀行員を舘ひろしさんが、その妻を黒木瞳さんが演じた。元銀行員の筆者にとっても、「人生100年」と言われる時代、まさに身につまされる映画。『リング』の中田秀夫監督がメガホンをとった。

6月15日公開の『空飛ぶタイヤ』は、池井戸潤氏の同名ベストセラー小説を、長瀬智也さん主演で映画化。ある日起きたトレーラーの脱輪事故。
事故を起こした運送会社社長、赤松徳郎(長瀬智也さん)は車両の欠陥に気づき、製造元である大手自動車会社のホープ自動車カスタマー戦略課課長、沢田悠太(ディーン・フジオカさん)に再調査を要求。同じ頃、ホープ銀行の本店営業本部、井崎一亮(高橋一生さん)は、グループ会社であるホープ自動車の経営計画に疑問を抱き、独自の調査を開始する。

『メイズ・ランナー:最期の迷宮』
2018年6月15日(金)公開
©2017Twentieth Century Fox Film Corporation.

同じく6月15日公開の『メイズ・ランナー:最期の迷宮』は、本コラムでもご紹介した、難攻不落の巨大迷宮に挑む若者たちの運命を描いたサバイバルアクション『メイズ・ランナー』のシリーズ完結編となる第3作。巨大な迷宮から脱出するために3年もの歳月を費やしたトーマスと仲間たちだが、捕らわれた仲間を救い出すため、そして自分たちが閉じ込められた理由を突き止めるために、彼らは決死の覚悟で伝説の迷宮に逆侵入する。前2作も手がけたウェス・ボール監督が引き続きメガホンをとった。

『ニンジャバットマン』
2018年6月15日(金)新宿ピカデリー他ロードショー
Batman and all related characters and elements are trademarks of and ©DC Comics. ©Warner Bros. Japan LLC

前述の『犬ヶ島』が日本コンテンツ由来の洋画アニメとすれば、米国コンテンツ由来の邦画アニメが、6月15日公開の『ニンジャバットマン』(日米合作)。

アメコミの世界で、マーベル・コミックに対抗するのがDCコミック。DCの人気ヒーロー「バットマン」を日本のクリエイターがアニメーション化。舞台は日本の戦国時代、歴史改変をもくろむジョーカーをはじめとした悪党たちを相手に、バットマンが戦うオリジナル長編作品。神風動画が手がける初の長編劇場アニメで、同スタジオ代表のクリエイター、水崎淳平氏が監督を務めた。

なお、2017年に公開された「バットマン」のCGアニメ『レゴ・バットマン』(ワーナー・ブラザーズ)は、2017年の全米興収ランキングで第16位となり、世界興収では3億1,200万ドルを挙げている。さて、和製アメコミ映画の結果は如何に。

北朝鮮問題がまもなく大きく動き出す可能性

昨年来、国際金融市場、特に本邦金融市場のリスク要因でもあった北朝鮮問題がまもなく大きく動き出す可能性がある。

6月12日にシンガポールで開催予定の米朝首脳会談の結果次第では、朝鮮戦争の休戦協定が平和協定に転換し、北朝鮮の核・ミサイル問題等も解決される可能性がある。一方で会談が決裂すれば、米国による軍事オプション行使の可能性が再度高まるからだ。何しろ、米朝首脳会談は今回が初であり、会談の可能性が浮上したのも、3月8日のトランプ大統領と韓国の大統領府国家安保室長の面会以降の話である。今週に入り、首脳会談の延期や中止の可能性も取りざたされているのも準備不足が背景にあると言え、先行きの不透明感は依然強い。

中間選挙を控え、トランプ政権はアメリカ・ファーストを声高に主張する可能性

トランプ大統領が前のめりになっていた背景に、11月6日の中間選挙があるのはほぼ確実だ。ロシアゲート問題を抱えるトランプ大統領にとっては、選挙結果次第では議会による大統領弾劾の可能性が浮上するからだ。

トランプ大統領は、大統領選の公約に掲げていた「米中貿易改革」、具体的には対中貿易赤字問題も取り上げ、中国政府を日々揺さぶっているが、この問題も中間選挙までに完全に解決する可能性は低いだろう。

これは、メキシコ国境との壁創設問題等移民問題も同様で、共和党の支持率が民主党に劣勢の間は日替わりで、対外圧力を強める公算が強い。

中間選挙を控え、トランプ政権は益々「アメリカ・ファースト」を声高に主張する可能性が高いとみたほうが良さそうだ。

映画等日本コンテンツのグローバル化に取り組む必要

但し、トランプ氏が対日貿易赤字問題に関して、新聞に意見広告を載せた1987年とは異なり、グローバル化は、当時、「鉄のカーテン」で区切られていた「東側諸国」のロシアや中国等にも及び、今や米国の対外貿易赤字の半分は中国向けとなっている。一方で、中国は安全保障面では依然、ロシア同様、米国の仮想敵国の一つとみられる。

前述の映画の世界でも、ハリウッドの大手映画スタジオの一つ、レジェンダリー・ピクチャーズは中国資本の傘下にあり、中国の映画市場は、既に米国に次ぐ世界第2位で、数年後には、世界最大の映画市場になる見通しだ。

実際、ハリウッド映画も近年は、中国でロケを行ったり、中国人俳優を起用するなど、中国市場を当て込んだものが多い。

既に、米国と中国の経済関係は簡単に切れるレベルではなくなっているが、どの国でも政治が絡むと経済合理性は二の次となることも多い。特に経済状況が悪化した際には、より自国第一主義に傾きやすいことは歴史が教えてくれる。

そのためのセーフティ・ネットの一つが文化交流だろう。我が国も、経済面のみならず、安全保障面からも、映画等日本コンテンツのグローバル化に取り組む必要があるのではないか。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。同投資戦略室長、大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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