アナリストの忙中閑話【第95回】

(2019年4月18日)
【第95回】新元号は「令和」、スーパーGW映画特集、大作続々公開、出口の見えないブレグジット
金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙
新元号は「令和」、新天皇の即位に伴い5月1日午前0時に施行
政府は4月1日、「平成」に代わる新元号を「令和(れいわ)」と発表した。新天皇の即位に伴い5月1日午前0時に施行される。645年の「大化」から数えて248番目の元号。
天皇の退位に伴う改元は憲政史上初めて。天皇一代で元号一つを定める「一世一元」制が確立した明治以降は、天皇崩御に伴い改元した。今回は一代限りの譲位を可能とする皇室典範特例法に基づく。
菅義偉官房長官は1日11時41分からの記者会見で、新しい元号を発表した。その後、安倍晋三首相も会見を開き、「令和」について「人々が美しく心を寄せ合う中で、文化が生まれ育つ、という意味が込められております」とした。首相はさらに、「令和」の典拠は万葉集で、歌の序文から2文字をとったとし、元号の典拠が中国の「漢籍」ではなく、初めて日本の「国書」になったと述べ、万葉集は「我が国の豊かな国民文化と長い伝統を象徴する国書だ」と説明した。
典拠となった歌の序文には「初春(しょしゅん)の令月(れいげつ)にして、気淑(きよ)く風和(かぜやわら)ぎ、梅(うめ)は鏡前(きょうぜん)の粉(こ)を披(ひら)き、蘭(らん)は珮後(はいご)の香(こう)を薫(かお)らす」という表現がある。
その後、メディアの報道によれば、新元号の候補は全部で6つあり、1日に開催された有識者懇談会等では、あいうえお順に、「英弘(えいこう)」「久化(きゅうか)」「広至(こうし)」「万和(ばんな)」「万保(ばんぽう)」「令和」が示されたとのこと。「英弘」は古事記、「久化」は中国の古典「易経」、「広至」は日本書紀と中国の古典「詩経」、「万和」は中国の古典「文選」、「万保」は「詩経」に由来するとの見方がある。
元号は日常使用しない言葉のため、「平成」に決まった30年前同様、「令和」にも、正直なところやや違和感があるが、時を刻むごとに徐々に慣れ親しむことになりそうだ。
ただ、昭和生まれの筆者には、「明治」からは「大正」以上に歴史の中に存在するような遠い響きが聞こえる。同様に、数十年後、「令和」生まれの若い世代から、「昭和」世代は、「絶滅危惧種」ないし「生きる化石」扱いされないかやや心配ではある。勿論、その頃には、人生100年時代が到来しているかもしれない。但し、健康で文化的な老後生活を送れているかどうかは別である。「令和」時代には、人類また地球自体が、SDGs(持続可能な開発目標)等、持続可能な成長を続けられるようなイノベーションが生まれることを期待したい。
スーパーGW(ゴールデンウィーク)映画特集
今年は、4月30日の天皇陛下の退位と5月1日の皇太子殿下の新天皇への即位に伴い、4月27日(土)から5月6日(月)までが10連休となる。いわゆる「スーパーGW(ゴールデンウィーク)」だ。既に、スーパーGWに向け、多くのアニメ映画等が公開されているが、今後も実写映画の大作の公開が目白押し。筆者が会員となっている映画館も、ポップコーン等の購入窓口は平日も長い行列が出来ているが、当分、この状況に変化はなさそうだ。
以下では、スーパーGW前後に公開される映画を特集。
前週末(4月13-14日)の観客動員数ランキングでは、『名探偵コナン 紺青の拳(フィスト)』が初登場で第1位となったが、第2位には6週連続で首位を守ってきた『映画ドラえもん のび太の月面探査記』が、第9位にも『映画プリキュアミラクルユニバース』が入り、相変わらず、我が国でのアニメ人気には恐れ入る(興行通信社調べ)。
初登場で第3位となったのが、前月号で特集した『ハンターキラー潜航せよ』、日本公開のキャッチ・フレーズは「潜水艦モノに外れなし」だが、まさにその通り。ストーリーも良く出来ており、近年のミリタリー物では秀逸な作品。地上でのアクションも半分程度あり、2014年公開の『ローン・サバイバー』に似た場面も。
第4位は『ダンボ』。こちらも鬼才ティム・バートン監督がメガホンをとっただけあって、子供から大人まで家族で楽しめるエンターテイメントに仕上がっている。
第5位は2月号で特集した『翔んで埼玉』。8週目を迎えてなお5位に留まる大ヒット。動員257万人、興収33億円を突破。
第6位は『キャプテン・マーベル』。米国では公開後2週連続で興収首位となったが、我が国ではアニメに劣後するのは『スター・ウォーズ』シリーズ同様か。なお、「キャプテン・マーベル」は「アベンジャーズ」創設にも深く関わるが、4月26日公開の『アベンジャーズ』最終章となる『アベンジャーズ/エンドゲーム』でも重要な役割を果たすため、ファンにとっては必見の作品。
日米の大作、続々公開
『キングダム』
2019年4月19日(金)全国東宝系にてロードショー
© 原泰久/集英社 © 2019「キングダム」製作委員会
4月19日公開の『キングダム』は、「週刊ヤングジャンプ」連載中の中国の春秋戦国時代を舞台にした原泰久氏のベストセラー漫画を山崎賢人さん主演で実写映画化。
紀元前245年、春秋戦国時代、中華・西方の国「秦」。戦災孤児の少年の信(シン)と漂(ヒョウ)は、いつか天下の大将軍になることを夢見て日々剣術の鍛錬を積んでいた。ある日、漂は王都の大臣である昌文君(ショウブンクン)によって召し上げられ王宮へ。王宮では王弟・成蟜(セイキョウ)によるクーデターが勃発。戦いの最中、漂は致命傷を負いながらも、信のいる納屋にたどり着く。「今すぐそこに行け…」血まみれの手で握りしめていた地図を信に託し、漂は息絶える。信は漂が携えていた剣とその地図とともに走り出した。
地図が示す小屋にたどり着いた信の目に飛び込んできたのは、静かにたたずむ漂の姿だった。信を山崎賢人さんが演じ、吉沢亮さん、長澤まさみさん、橋本環奈さん、本郷奏多さん、満島真之介さん、高嶋政宏さん、要潤さん、大沢たかおさんら豪華俳優陣が共演。『図書館戦争』などの佐藤信介監督がメガホンをとった。プロデューサーの松橋真三氏によれば、総製作費は「今世紀の日本映画としては一番お金がかかっている。2ケタ億円」とのこと。
同じく19日公開の『シャザム!』は、マーベルと並ぶアメコミの双璧であるDCコミックスのヒーロー「シャザム」を実写映画化。見た目は大人だが中身は子どもという異色のヒーローの活躍を独特のユーモアを交えて描く。ある日、謎の魔術師からスーパーパワーを与えられた少年ビリーは、「S=ソロモンの知恵」「H=ヘラクラスの剛力」「A=アトラスのスタミナ」「Z=ゼウスの万能」「A=アキレスの勇気」「M=マーキューリーの神速」という6つの力をあわせもつヒーロー「シャザム(SHAZAM)」に変身できるようになる。シャザム役はTVシリーズ「CHUCK チャック」のザカリー・リーバイさん、監督は『アナベル 死霊人形の誕生』のデビッド・F・サンドバーグ氏。既に試写会で鑑賞したが、米映画の近年の潮流である多様性を特撮とユーモアを交えて表現した作品だった。なお、シャザムは原作では「キャプテン・マーベル」の名称だったが、DCコミックスが版権を買い取った際には、マーベル・コミックが商標登録をしていたため、「シャザム」に改称したという経緯がある。そういう意味では、映画館では、男女2人の「キャプテン・マーベル」が興収を争うことになる。
4月26日公開の 『アベンジャーズ/エンドゲーム』は、『アベンジャーズ』シリーズ完結編。最強の敵サノスによって、前作『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018年公開)では、アベンジャーズのメンバーを含む全宇宙の生命の半分が一瞬で消滅。本作品では残されたアイアンマンをはじめとするヒーローたちがもう一度集結し、世界を救うための最後の戦いに挑む。
前作の『インフィニティ・ウォー』では姿を見せなかったホークアイ、アントマンといったヒーローも登場し、新たにキャプテン・マーベルも参戦。前作に続き、アンソニー&ジョー・ルッソ兄弟がメガホンをとった。
前週末に家族で『名探偵コナン 紺青の拳(フィスト)』を鑑賞した際には、『名探偵コナン』と『アベンジャーズ/エンドゲーム』とのコラボCMが流されていた。今回はコナンファンの参戦もあって盛り上がりそうだ。
ちなみに、歴代世界興収ランキングで、前作『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』は第4位、新作が第1位の『アバター』(2009年公開)や第2位の『タイタニック』(1997年公開)、第3位の『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015年公開)を凌駕できるかにも注目したい。なお、12月20日には、『スター・ウォーズ』シリーズ最終章『スター・ウォーズ ザ・ライズ・オブ・スカイウォーカー(原題)』も公開される。
5月3日公開の『名探偵ピカチュウ』は、世界的人気を誇る日本発のゲーム「ポケットモンスター」シリーズ(販売は当初は任天堂、現在は株式会社ポケモン)をハリウッドが実写映画化。
かつてポケモンのことが大好きな少年だったティムは、ポケモンに関わる事件の捜査へ向かったきり、家に戻らなかった父親ハリーとポケモンを、遠ざけるようになってしまった。それから年月が経ち、大人になったティムのもとにある日、ハリーと同僚だったというヨシダ警部補から電話がかかってくる。「お父さんが事故で亡くなった」。複雑な思いを胸に抱えたまま、ティムは人間とポケモンが共存する街ライムシティへと向かう。
荷物を整理するため、ハリーの部屋へ向かったティムが出会ったのは、自分にしか聞こえない人間の言葉を話す「名探偵ピカチュウ」だった。
『デッドプール』シリーズのライアン・レイノルズさんがピカチュウの声を担当し、『ジュラシック・ワールド 炎の王国』のジャスティス・スミスさんが主人公ティム、渡辺謙さんがヨシダ警部補を演じた。また、日本語吹き替え版でティムの吹き替えを担当した竹内涼真さんがポケモントレーナー役で本編にカメオ出演している。
5月10日公開の『オーヴァーロード』は、「オーヴァーロード作戦」ないし「史上最大の作戦」とされる第2次世界大戦下の「ノルマンディー上陸作戦」を舞台としたサバイバル・アクション映画。『スター・ウォーズ』『ミッション:インポッシブル』シリーズなどを手がけたJ・J・エイブラムスがプロデューサーを務めた。
5月17日公開の『コンフィデンスマンJP』は、3人の信用詐欺師が欲にまみれた人間たちから大金をだまし取る人気テレビドラマ「コンフィデンスマンJP」の劇場版。天才的な知能を持つが詰めの甘いダー子と、彼女に振り回されてばかりのお人よしなボクちゃん、百戦錬磨のベテラン詐欺師のリチャードの3人の信用詐欺師は、香港マフィアの女帝ラン・リウが持つと言われる伝説のパープルダイヤを狙い、香港へ飛ぶ。テレビドラマ版でおなじみの長澤まさみさん、東出昌大さん、小日向文世さんに加え、竹内結子さん、三浦春馬さん、江口洋介さんらも共演。
『レプリカズ』
2019年5月17日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国暴走開始!!
配給:ショウゲート
© 2017 RIVERSTONE PICTURES (REPLICAS) LIMITED. All Rights Reserved.
『居眠り磐音』
2019年5月17日(金)全国公開
配給:松竹
© 2019映画「居眠り磐音」製作委員会
同じく17日公開の『レプリカズ』は、キアヌ・リーブスさんが愛する家族のために倫理に反した暴走を加速させる科学者を演じるSFアクション映画。人間の意識をコンピュータに移す実験成功を目前にした神経科学者ウィリアム・フォスターは、突然の事故により最愛の家族4人を一度に亡くしてしまう。失意の中でフォスターは、家族の身体をクローン化させ、意識を移し変えることで完璧なレプリカとして甦らせることに成功する。
17日公開の『居眠り磐音』(いねむりいわね)は、佐伯泰英氏の人気時代劇小説「居眠り磐音 決定版」シリーズを松坂桃李さんの時代劇初主演で映画化。
3年間の江戸勤番を終えた坂崎磐音(松坂桃李)は、故郷・豊後関前藩で起きた、ある哀しい事件により、2人の幼馴染を失い、祝言を間近に控えた許嫁の奈緒(芳根京子)を残して脱藩。すべてを失い、浪人の身となった。江戸で長屋暮らしを始めた磐音は、長屋の大家・金兵衛(中村梅雀)の紹介もあり、昼間はうなぎ屋、夜は両替屋・今津屋の用心棒として働き始める。春風のように穏やかで、誰に対しても礼節を重んじる優しい人柄に加え、剣も立つ磐音は次第に周囲から信頼され、金兵衛の娘・おこん(木村文乃)からも好意を持たれるように。
そんな折、幕府が流通させた新貨幣をめぐる陰謀に巻き込まれ、磐音は江戸で出会った大切な人たちを守るため、哀しみを胸に悪に立ち向かう。
「ルパン三世」の原作者モンキー・パンチ氏死去
今週、「ルパン三世」の原作者で、漫画家のモンキー・パンチ氏(本名:加藤一彦氏)の訃報が届いた。11日に81歳で亡くなったとのこと。テレビアニメ「ルパン3世」(第1シリーズ)が、1971年から1972年に放映された際は、その映像とストーリーに衝撃を受けた記憶がある(当時筆者は10歳)。但し、大人向けの趣向が視聴率に結びつかず、半年で打ち切られた後、再放送で人気を博し、その後の大ヒットシリーズとなったのは、「機動戦士ガンダム」と同様。モンキー・パンチ氏は手塚治虫氏やアメコミの影響を受けて自身の作風を作りあげたようだが、2003年には、65歳にして東京工科大の大学院メディア学研究科に社会人入学するなど、高齢になっても最新技術と新しい表現法の習得に勤しんだ。イノベーションの推進には、本人の努力とともに、多様性を受け入れる周囲の環境も必要と言えそうだ。ご冥福を祈りたい。
出口の見えないブレグジット
英国のEU(欧州連合)からの離脱問題が2016年以降、日々の新聞やテレビの国際ニュース欄を賑わせているが、いつまでたっても出口の見えない状況に辟易されている方も多いのではないか。ちなみに、欧米では英国のEUからの離脱を「ブレグジット:Brexit」と表現するが、ブリテン(英国:Britain)と エグジット(出口・離脱:Exit)を組み合わせた造語である。なお、英国のEU離脱を規定した法律、「2018年欧州連合離脱法:The European Union (Withdrawal) Act 2018」では、「Withdrawal」(離脱)という言葉が使われている。
実は、執筆時点(4月17日)の段階では、既に英国はEUを離脱しているはずだった。当初、離脱日は2019年3月29日23時(英国時間)と規定されていたからだ。
英国のEU離脱自体は法的に決定済だが、円滑な離脱のためには、英国はEU27か国と離脱協定を結び、同協定を双方が批准することが必要だ。さもないといわゆる「合意無き離脱」となり、離脱日に一挙に国境の検問や通関等が出現、人・物・金の移動が困難となり、経済が大混乱するリスクがあるからだ。
但し、離脱案(正確には法的拘束力のある離脱協定案及び法的拘束力のない英国とEUの将来関係に関する政治宣言案の二つ)の英国での批准は、議会下院での反対意見が多いことから、当初予定の2018年12月11日から2019年1月15日に延期された。英政権のキャンペーンにも関わらず、1月15日の下院(同協定案の批准は下院の権限)での採決結果は、賛成202票に対し、反対432票の大差で否決された。なお、批准のための投票は「ミーニングフル・ボート:meaningful vote(意味のある投票)」と言われる。2回目の「ミーニングフル・ボート」は3月12日に実施されたが、賛成242票、反対391票と、やはり大差で否決された。
そこで、EUは3月21日に開催した欧州理事会(EU首脳会議)で、英国から要請のあった離脱期限の延長を決めた。離脱日の延期は欧州理事会での全会一致の承認が必要。テリーザ・メイ首相は6月末までの延期を要請していたが、EUは離脱協定案を英国下院が3月29日までに可決した場合は5月22日まで、否決したり、採決されなかった場合は4月12日としていた。
メイ首相は、「3度目の正直」とばかり、3月29日に離脱協定案を下院で採決に付したが、賛成286票、反対344票となり、「2度あることは3度ある」かのように、再度否決された。なお、3回目は離脱協定案のみが採決に付された。
3度目の否決を受けて、メイ首相は4月3日から最大野党労働党のジェレミー・コービン党首と共同案の策定に向けて、協議を開始したが、難航しているようだ。労働党は関税同盟及び単一市場への残留を主張し、2度目の国民投票も選択肢に入れるよう主張しているが、関税同盟等への残留や2度目の国民投票の実施はメイ首相を含め保守党はこれまで拒否してきた。また、仮にメイ首相が同意しても、メイ首相は離脱案可決後の早期退陣を表明しているため、後任の保守党党首(首相)が約束を反故にする可能性があることもネックとなっている。
離脱協定案の3度目の否決を受けて、4月12日の「合意無き離脱」が迫る中、ベルギーのブリュッセルで4月10日に開催された臨時の欧州理事会では、8時間にわたった会議後の11日未明(現地時間)、英国の離脱期限の再延長で合意した。新たな離脱期限は10月31日で、進捗状況を6月に再確認する。
ドナルド・トゥスク欧州理事会議長(大統領)は11日未明(現地時間)、ツイッターで「EU27カ国はリスボン条約第50条の延長で合意した。これからメイ英首相に会って、英国政府との合意を得る」と発信、その後、「EU27か国と英国は、10月31日までの柔軟な延長で合意した。これは、英国が可能な限り最善の解決策を見つけるために、さらに6か月を要することを意味する」と発信した。
フレクステンション(柔軟な延長)は、「出口」ではなく「離脱撤回」への誘導路
トゥスク氏は臨時の欧州理事会の開催にあたり、各国首脳に対し、「最長1年間のフレクステンション(柔軟な延長)」を加盟国に提案していた。「フレクステンション:Flextension」は「ブレグジット」同様、造語で、フレクシブル(柔軟な:Flexible)とエクステンション(延長:Extension)を組み合わせたもの。要は、延長期間は最長1年だが、英国が離脱協定案を批准した場合は、離脱の前倒しを認めるという「柔軟な延長」を意味している。長期延長を求める声が多いEU27か国に対し、メイ首相は党内事情もあり、前回同様、6月末までの短期の離脱延期を求めていたことから、メイ首相にも配慮した案だ。
この提案にドイツ等の大半の加盟国は賛同したが、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が長期の延長に強硬に反対したことで、妥協案として延期期限が10月31日に設定されたとみられる。なお、離脱期限の延期には、欧州理事会での全会一致での承認が必要で、フランスが最後まで反対していれば4月12日に、「合意無き離脱」となったが、さすがにマクロン大統領も大混乱の張本人とは名指しされたくなかったようだ。なお、欧州理事会の発表によると、トゥスク氏の案同様、「フレクステンション」となっており、10月末までに英国が離脱協定案等を批准した場合には、離脱の前倒しが認められる。
一方、英国が、2019年5月22日までに離脱協定案を批准しなかった場合、英国は5月23-26日に実施される欧州議会選挙(英国での投票日は23日に設定予定)に参加する義務がある。欧州議会選挙が英国で実施されない場合は、離脱期限の延長は2019年5月31日に終了する。この場合、英国は5月31日に合意無き離脱となる。また、半年かけても、離脱協定案が英議会下院で承認されない場合の10月31日にも、「合意無き離脱」となるリスクは残存する。
今回の決定において、EUサイドは、離脱協定案の修正を明確に否定しており、ボールは英国に投げ返された格好だ。但し、メイ政権と労働党の協議は、保守党内の離脱強硬派、労働党内の残留派の双方の圧力もあり、難航している。合意のハードルは相当高いと言わざるを得ないだろう。
5月22日までに、離脱協定案等が英国で批准できず、メイ首相がここまで否定し続けてきた、欧州議会選挙に参加することになれば、英国は政局となる可能性が高そうだ。
メイ首相は、離脱協定案可決後の早期退陣を表明しているが、保守党内でのメイおろしの動きが強まり、労働党提出の内閣不信任決議案の可決、下院の3分の2の多数による総選挙の前倒し決議等により、メイ内閣の総辞職ないし下院の解散・総選挙が実施される可能性が高まろう。
一方、2度目の国民投票の実施には、最低半年を要するとみられることから、10月末までの延長では時間が足りない可能性もある。但し、2度目の国民投票の実施が決まった場合は、英国民の民意の確認という大義名分ができることから、EUサイドは再再度の離脱期限の延長に応じるのではないか。
しかるに、2度目の国民投票が実施される場合、2016年と異なり、残留派が多数となることも予想され、EU離脱問題が振り出しに戻る可能性も否定できない。一方、離脱派は「一勝一敗」と主張することが予想され、英国政治の混乱や英国民の分断状態は長期化することになろう。EU離脱問題の先行きは依然、五里霧中と言えそうだ。
英国のEU残留を希望するトゥスク欧州理事会議長(大統領)のフレクステンション(柔軟な延長)案は、「出口」へではなく、「離脱撤回」への誘導路かもしれない。
スーパーGWは、映画でも鑑賞しつつ、逆張り的に近場でゆっくりするのも一考か
その英国、トゥスク氏から11日の会見で、「Please do not waste this time:この時間を無駄にしないで」と釘を刺されたにも関わらず、議会下院は早速12日(金)から22日(月)まで、11日間のイースター休会に入ってしまった。
我が国でも27日(土)から10日間のスーパーGWに入るが、内外のツアー代金は急騰しているようだ。ここは英議会を見倣って、スーパーGWは、映画でも鑑賞しつつ、逆張り的に近場でゆっくりするのも一考か。
末澤 豪謙 プロフィール
1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。同投資戦略室長、大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。