アナリストの忙中閑話【第107回】

アナリストの忙中閑話

(2020年4月23日)

【第107回】COVID-19で緊急事態宣言、大恐慌以来の経済危機、我が国の感染者が少ない理由、長期戦に必要な備え

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは大恐慌以来の経済危機を招くことに

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的な大流行)は少なくとも経済的には、第2次世界大戦ないしその前の大恐慌(グレート・ディプレッション:great depression)以来の危機を起こしつつある。

IMF(国際通貨基金)が4月14日に発表した2020年の世界のGDP実質成長率は▲3.0%と、リーマンショック後の2009年の▲0.1%を大きく下回り、1929年の大恐慌以来の低水準となる見通しだ。

欧米では財政出動に加え、中央銀行による追加緩和や量的緩和の再開・拡大を決定。我が国も過去最大規模の新型コロナウイルス感染症緊急経済対策を策定、日銀もETF等の買入増を行うことになった。

米国の財政赤字はフローベースでは第2次世界大戦以来の水準に、ストックベースでは過去最高を更新する可能性

特に、現在、COVID-19の感染の中心地となっている米国は既に3兆ドルに近い規模の対策を打ち出している。

具体的には、第1弾の「2020年コロナウイルス対策追加歳出法」の83億ドル規模、国家非常事態宣言による「スタフォード法第501条(b)」発動で500億ドル、第2弾の対策法「家族第一コロナウイルス対策法」の1,000〜2,000億ドル規模、第3弾の「ケア法」の2兆2,000億ドル規模に加え、週内にも成立見込みの第4弾の「給与保護プログラム及びヘルスケア強化法案」は4,840億ドル規模で、総額約2.9兆ドル規模に膨らむ。加えて、5月にも州政府向けの支援策等を盛り込む第5弾、感染収束後は、インフラ投資等含む1兆〜2兆ドル規模の第6弾の準備もスタートしている。

2020会計年度から2021会計年度に向けて、フローの米財政赤字が対GDP比で第2次世界大戦以来の水準となり、ストックでは数年以内に過去最高を更新する可能性が高い。対GDP比での米連邦政府の債務残高の最高はトルーマン政権下で記録した106%だが、追加分が数兆ドル規模となれば、2021会計年度にもその水準に近くなることが想定される。

そうした財政出動や金融緩和への期待もあって、米株価は下値から反発しているが、持続性には疑問が残る。

2月12日に過去最高値の2万9,551ドルと3万ドルの大台寸前まで上伸したニューヨークダウ30種平均株価は3月23日には、1万8,591ドルと高値から37%急落し、前回の米大統領選(2016年11月8日)の翌日の11月9日の1万8,589ドル以来の水準に下落。いわゆる「トランプラリー」分が一旦、全て剥落した形となった。その後はFRBによる金融緩和と過去最大規模の米国の財政出動期待で反発、4月17日にはいわゆる半値戻しも達成した。

但し、州政府によるロックダウン(都市封鎖)の影響等から実体経済は景気後退局面に入りつつあり、企業収益も大幅に悪化、既に企業破綻も発生している。当面、高変動相場継続は必至だろう。

原油先物価格がマイナス圏に

かつてない異変と言えば、原油市場も同様だ。4月20日のニューヨーク原油市場では、WTI先物、期近5月限の清算価格は1バレル/▲37.63ドルと、史上初めて、マイナス圏で引けた。粗大ゴミの回収時に手数料が徴収されるのと、同様な事態だ。

米国の原油貯蔵施設が満杯に近づいたことで、決済期日到来前の現受(買建玉の現物による受け渡し)を嫌った処分売りが背景にあるが、渡航・入国制限で航空機は空港で整列状態、自動車による通勤や観光等も止まる状況では、原油需給の改善には、感染の収束が必要で混乱状態はまだまだ続きそうだ。

米国民全体の95%以上が行動制限中、全米の週間映画興行収入は3月20日以降、ほぼゼロ

米ニューヨークタイムズ紙によると、4月20日現在、米国では42州、3つの郡、10の市、コロンビア特別区(ワシントンDC)、プエルトリコで、少なくとも、3億1,600万人が行動制限措置を受けている。これは、米国民全体の95%以上に上る。

この行動制限措置が我が国よりも極めて厳しいのは、全米の週間映画興行収入が3月20日の週以降、ほぼゼロとなっていることからもわかる。

通常、全米の週間映画興収は1億〜2億ドル(日本円で約100億から220億円)だが、3月20-26日は5,376ドル(日本円で約60万円)、3月27日-4月2日が5,250ドル、4月3-9日は5,925ドル、4月10-16日は1万7,624ドルと、地方でのドライブ・イン・シアター等を除き全館休業状態であることがわかる(Box Office Mojo調べ)。

歴代世界興収第1位となった『アベンジャーズ/エンドゲーム』が公開された2019年4月26日-5月2日には5億2,683万ドルの興収を上げており、現状は数万から10万分の1の興収に過ぎない。

最大手のAMCシアターズ含め、映画業界でレイオフ相次ぐ

全米の映画館は2019年時点で、5,548の室内型映画館と321のドライブインの計5,869か所があり、スクリーン数は映画館が4万0,613、ドライブインが559の計4万1,172スクリーンある。

うち、全米で637の映画館と8,114のスクリーンを展開する最大手のAMCシアターズは3月17日から少なくとも6-12週間、全世界で展開する1,006の劇場、1万1,091スクリーン全ての休業を決定。同業のリーガル等も追随、大手は全て全米の興行を停止する事態となっている。

そうした状況を受けて、AMCシアターズは3月26日、同社のアダム・アーロンCEOを含め、600人に及ぶ全社員を一時解雇することを決定した。同社はその前に、売店やチケット窓口に勤務する2万6,000人の社員を解雇済。

新作映画の公開も製作も延期に、映画鑑賞のスタイルが大きく変化する可能性も

COVID-19の感染拡大を受けて、前月号でも紹介したが、内外の新作映画はその多くが公開延期となっている。

我が国でも当初3月6日公開予定だった『映画ドラえもん のび太の新恐竜』は2020年8月7日に、4月10日公開予定だった『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は、11月20日に延期となった。

また、3月20日公開予定だった『ドクター・ドリトル』に加え、『映画しまじろう「しまじろうと そらとぶふね」』、『劇場版ウルトラマンタイガ ニュージェネクライマックス』、『2分の1の魔法』、『映画プリキュアミラクルリープみんなとの不思議な1日』、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』、『ソニック・ザ・ムービー』、『僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46』、『ムーラン』、『ブラック・ウィドウ』、『クワイエット・プレイス PARTU』、『ワンダーウーマン 1984』、『魔女見習いをさがして』、『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』、『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』、『ミニオンズ フィーバー』、『STAND BY ME ドラえもん 2』等、主に、子供向け映画とディズニーの大作がドミノ倒し的に、夏以降に公開延期となった(『映画プリキュアミラクルリープ』は5月16日公開予定)。

米国では、新作映画の公開延期のみならず、映画製作も延期となり、撮影が休止ないし延期となった作品の数はNetflixやAmazonのオリジナル作品なども入れると100本以上に。具体的には、『リトル・マーメイド』(ディズニー実写版)、『シャン・チー/Shang-Chi(原題)』(MCU=マーベル)、『アバター2』、『マトリックス4』、『ファンタスティック・ビースト3』、『バットマン』、『ジュラシック・ワールド:ドミニオン/Jurassic World: Dominion(原題)』、『ロード・オブ・ザ・リング』(Amazonオリジナル)、『ミッション:インポッシブル7』など。ニュージーランドで行われている『アバター』の続編の製作も中断された。『アバター』の公開予定日については2月に、『アバター2』が2021年12月17日、『アバター3』は2023年12月、『アバター4』は2025年12月、『アバター5』は2027年12月と発表されているが、今後の公開予定日は不透明となったと言えそうだ。

一部の映画スタジオでは一定の売上を確保するため、新作映画をストリーミングやペイ・パー・ビューで先行上映する動きも広がっている。

実は、「巣ごもり消費」の代表格が、自宅での映画鑑賞となっており、世界同時株安となる中、米動画配信サービス大手ネットフリックスの株価は足元、最高値を更新している。

COVID-19の終息に時間を要することになれば、映画鑑賞のスタイルが大きく変化する可能性も出てきたと言えそうだ。

安倍首相は16日、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態宣言を全国に拡大

感染は我が国でも、じわじわと拡大、安倍首相は4月7日、「新型インフルエンザ等対策特別措置法、以下(特措法)」の第32条第1項に基づく新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態宣言を埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府、兵庫県及び福岡県の7都府県を対象に発令。16日には、対象が全国に拡大された。

クルーズ船を除き、4月22日現在の国内の感染者は1万2,023人、死者は299人。クルーズ船を含めると感染者は1万2,735人、死者は312人に達している。

世界全体でのCOVID-19の感染者は262万人、死者は18万人超、「インフルエンザ・パンデミック」は20世紀以降4度発生

日本時間4月23日14時現在の米ジョンズ・ホプキンズ大学の集計では、全世界の感染者は262万人、死者は18万人に達している。

今回のパンデミックはいつ以来の規模か。

現在、WHO(世界保健機関)の制度上、「パンデミック」は公式には「新型インフルエンザ」のみが対象となっている。

米CDC(疾病管理予防センター)によると、「インフルエンザ・パンデミック」は20世紀以降、過去4度発生している。

  • 1918年のパンデミック(H1N1ウイルス)⇒通称、「スペイン風邪」:約5億人または世界人口の3分の1がこのウイルスに感染したと推定され。死亡者数は世界中で少なくとも5,000万人。世界の全人口の1〜3%が死亡したとみられる。
    致死率は、若年層が高く、高齢層は低く、高齢層は免疫を有していた可能性がある。米国の第1次世界大戦参戦によりパンデミック化し、戦争の終結を早める要因にもなったとされる。
  • 1957-1958年のパンデミック(H2N2ウイルス)⇒通称、「アジア風邪」 :1957年2月、新しいインフルエンザA(H2N2)ウイルスが東アジアで出現し、パンデミックを引き起こした。1957年2月にシンガポール、1957年4月に香港、1957年夏に米国の沿岸都市で初めて報告された。推定死亡数は世界で110万人〜200万人。
  • 1968年のパンデミック(H3N2ウイルス) ⇒通称、「香港風邪」:1968年のパンデミックは、鳥インフルエンザAウイルスの2つの遺伝子から構成されるインフルエンザA(H3N2)ウイルスによって発生。推定死亡数は世界で100万人。死者のほとんどは65歳以上。 H3N2ウイルスは、現在でも季節性インフルエンザAウイルスとして世界中に広がり続けている。
  • 2009年 H1N1パンデミック(H1N1pdm09ウイルス):2009年春に新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスが出現。米国で最初に検出され世界に急速に感染。世界中で151,700〜575,400人が2009年に死亡。2010年8月10日にWHOはパンデミックの終結を宣言。但し(H1N1)pdm09ウイルスは季節性インフルエンザウイルスとして継続的に流行。

過去5年間に公開された筆者お奨めの作品

COVID-19はその致死率や経済的影響等から、いわゆる「スペイン風邪」以来、100年に一度の規模の「パンデミック」を発生させたと考えられる。

我が国での緊急事態措置を実施すべき期間は、現在5月6日までとなっているが、諸外国同様、その期間は延長される可能性も高まっている。

既に、東京では映画館は大半が休館となっており、前月号でご紹介した『エジソンズ・ゲーム』や『名探偵コナン 緋色の弾丸』も公開が延期となった。

ファンの移動等も勘案すると、感染者が最も多い東京都で緊急事態宣言が解除されるまでは延期となりそうな気配だ。

ちなみに、延期は映画のみならず、オペラや演劇、コンサート等に加え、前月号で紹介した「半沢直樹」等テレビドラマにも波及、ニュースやバラエティ番組でも出演者がソーシャル・ディスタンス(対人距離)を確保するか、ネット中継での出演となり、テレビ画面の風景も大きく変化することになっている。

結果、今回は、新作ではなく、ネット配信等されている公開済の映画の中から、筆者お奨めの作品を紹介したい。

まずは、過去5年間に公開された邦画と洋画及び内外のアニメから各一本(洋画は海外での公開日ベース)。

2015年公開作品では、洋画は『オデッセイ』、邦画は、『日本のいちばん長い日』、洋画アニメは『インサイド・ヘッド』、邦画アニメは『バケモノの子』。

2016年公開作品では、洋画は『ラ・ラ・ランド』、邦画は『シン・ゴジラ』、洋画アニメは『ズートピア』、邦画アニメは『君の名は。』。

2017年公開作品では、洋画は『シェイプ・オブ・ウォーター』、邦画は『ナミヤ雑貨店の奇蹟』、洋画アニメは『リメンバー・ミー』、邦画アニメは『夜は短し歩けよ乙女』。

2018年公開作品では、洋画は『グリーンブック』、邦画は『終わった人』、洋画アニメは『スパイダーマン:スパイダーバース』、邦画アニメは『未来のミライ』。

2019年公開作品では、洋画は『アベンジャーズ/エンドゲーム』、邦画は『翔んで埼玉』、洋画アニメは『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』、邦画アニメは『天気の子』。

基本的に日米アカデミー賞ノミネーション作品から選出したが、筆者の独断と偏見はご容赦頂きたい。来月も緊急事態宣言が解除されていなければ、歴代分野別ベスト5をご紹介したい。

内外で街の風景が大きく変わるとともに、働き方も変化

海外でのロックダウン、国内での緊急事態宣言による外出自粛や休業要請等により、内外で街の風景が大きく変わるとともに、働き方も変化している。

このコラムも在宅のテレワークで大筋を書いたものだが、筆者の場合、効率は会社の方が良さそうだ。本来は、テレビゲーム第1世代のはずだが、どうも、背広を着て会社に行かないと締まらない。尤も、10年後にこの文章を見ると、化石ないし絶滅危惧種扱いされていそうだが。

科学技術の進歩は過去、戦争の影響を大きく受けている。飛行機やコンピュータ、原子力、宇宙船、インターネット等々。

東京オリンピックに向けたテレワーク推進に消極的だった企業も今回ばかりは、社員の生命・健康リスクに加え、政府の要請・指示の下、風評リスク等も勘案すると、本気モードにならざるを得ない。閑散とした東京駅近辺の状況が物語っていると言えそうだ。

今回の対COVID-19戦争を契機に業務の見直しを進めることが国際競争力向上のためにも喫緊の課題となりそうだ。

海外からは我が国の感染拡大の動向に注目、我が国の感染者が少ない理由

但し、日本国としては、ワクチンの集団接種開始ないし集団免疫の確保まで、医療崩壊を防ぎつつ、経済のダメージを最小限に抑えることが求められる。

現在、海外からは我が国の感染拡大の動向に注目が集まっている。背景には、発生国中国に地理的に近く、交流が盛んなことに加え、クルーズ船「ダイヤモンドプリンセス」におけるアウトブレイク(集団発生)のイメージが強いにも関わらず、感染者及び死者が欧米諸外国に比べると、一桁ないし二桁少ないことがある。

我が国の感染者が少ない理由として、①検査数が少なく表面化していない、②国民皆保険制度で医療が充実、③マスクの着用や手洗いの習慣、④握手やハグ、キスをしない習慣、⑤気候の影響、⑥その他の医療的問題等が指摘されている。

第1のPCR検査が少ないのは事実であり、人口1千人あたり検査数はG7諸国で最も少ない。トップのイタリアの25.59件、ドイツの25.11件、カナダの15.33件、米国の12.54件、フランスの7.05件、英国の6.11件に対し、我が国は1.03件に過ぎない(22日現在、アワー・ワールド・イン・データ調べ)。

我が国の感染者が少ない理由

但し、死者数も少ないので、実際の感染者は確認された人数よりも相当数多いとしても、現時点で欧米並みに多いということはないだろう。

第2の医療制度の影響は、国民皆保険制度ではない米国との比較では大きそうだ。但し、イタリアを含め、欧州では国民皆保険制度は一般的である。むしろ、財政的な裏付け、医療サービスの質が、特に死者数の面で、イタリアやスペインと、ドイツとの差を生んでいる可能性はありそうだ。

なお、日本や韓国では、欧州諸国のように、「かかりつけ医師制度」は一般化しておらず、「医療ショッピング」の習慣が、MERS(中東呼吸器症候群)の韓国でのアウトブレイク事例のように、感染症の感染拡大を招く可能性には注意が必要だろう。

第3のマスクに関しては、欧米ではマスクは患者がするものとの固定観念がある。奇異な目で見られることが多いことから、筆者を含め大半の日本人も海外でマスクをすることは少ない。一方、我が国では国民病と言える花粉症のおかげ(?)でこの時期、マスクをすることに違和感はなく、多くの家庭でマスクのストックがある。最近は、欧米でも無症状や軽症の感染者が他人にうつすリスクを軽減するため、マスクの着用を奨励する方向に変化してきた。マスクの着用は一定の効果が認められると言えそうだ。また、手洗いの習慣も感染予防の観点からメリットが大きい。

第4の社会習慣に関しても、我が国では挨拶は「お辞儀」が主流であり、濃厚接触を防ぐ意味では効果は大きいと考えられる。特に、感染が急拡大したイタリアやスペイン等ラテン・ヨーロッパの国では三世代住宅が多く、昼時も帰宅し、朝・昼・夕と3食を家族でともにすることも一般的だ。この習慣が高齢者の死者を増やした可能性はありそうだ。一方、我が国では、少子化の影響もあり、近年大都市部では核家族が多い。

第5の気候の影響だが、地球温暖化の影響で、世界的に暖冬傾向が続いているが、我が国は年中、相対的に多湿である。暖冬・多湿がCOVID-19やインフルエンザの感染を抑制している可能性があるが、季節性インフルエンザと異なり、COVID-19に関しては、推移を見守る必要がありそうだ。

第6は医療制度にも影響しているが、3月中旬以降、BCGワクチン接種と感染拡大に相関性があるとの論評がみられるようになってきた。

なお、BCGは結核を予防するワクチンの通称であり、このワクチンを開発したフランスのパスツール研究所の研究者の名前を冠した菌:Bacille Calmette-Guerin(カルメットとゲランの菌)の頭文字をとったもの。我が国では、戦後、生後1歳に至るまでの間に接種することが推奨されてきた。

一方、BCGワクチンが生まれた欧州では、近年、全ての乳児への接種は推奨しない国が増えており、米国やカナダ、イタリア等では過去一度も全ての乳児への接種は推奨されていない。

現在、COVID-19の感染者が多い国は、筆頭の米国を含め、スペイン、イタリア、ドイツ、フランス、英国等、現在ないし過去も非推奨の国が多い。結果、日本などアジア諸国を除く欧米の先進国で感染が拡大したのは、BCGワクチンが接種されていないからとの観測が浮上しているようだ。ちなみに、感染者が多い中国やイランは、接種が推奨されているが、文化大革命やイラン・イスラム革命の影響で一時期、接種が行われなかった影響との見方もあるようだが、筆者には確認がとれていない。

但し、この主張にも疑問は残る。現在、全員には推奨されていない欧州でも、多くの国で中高年は接種済であるし、欧米諸国以外の世界の国はほぼ全て接種されている。推奨国のポルトガル(人口約1千万人)でも、感染者は2万人を超えている。一方、大半が推奨国の新興国や発展途上国でも感染が拡大しつつあることから、もう暫く様子を見ないと、定かなことは言えないのが実情だろう。

現時点では、COVID-19の感染拡大状況の違いには、複合的な要因が影響している可能性が高いと言えそうだ。

疫学調査等データに基づく長期戦略の提示が必要

筆者が気になっている情報がある。

米スタンフォード大学などの研究チームがカリフォルニア州サンタクララ郡の住民を対象にCOVID-19の抗体検査(感染後に体内で作られる「抗体の有無」の検査)を行ったところ、感染者は同郡の人口の2.5〜4.2%に上り、確認されている感染者の50〜85倍に及ぶ可能性が明らかになった。

また、やはり、カリフォルニア州のロサンゼルス郡で、郡の衛生当局と南カリフォルニア大学が実施した検査でも、郡内の成人の4.1%が抗体を持っており、確認されている感染者数の28〜55倍に及ぶという調査結果が発表されている。

これらの調査にはサンプリング方法等に疑問も投げかけられているが、同様な抗体検査は20日からニューヨーク州で開始され、ドイツやオランダでも大規模にスタートしている。まもなく、ある程度信頼できる推計が得られる可能性がある。

仮に、欧米各国では人口の5パーセント近くが感染済で、程度の差はあれ、我が国でも似たような状況だった場合、今後の対策は大きな変更が迫られることになろう。経済活動再開等においても有力な判断材料となりそうだ。

致死率は現在、WHOデータでは7%近いが実際は1%未満となろう。一方で、市中感染は大規模に発生中ということになり、高齢者や基礎疾患を持っている人のリスクは極めて高いことになる。

実はアイスランドの事例が参考になるかもしれない。同国の人口は約35万人、アイスランド保健当局によると、21日現在の感染者は1,785人で死者は10人。致死率は0.56%で、感染者の人口比率は0.51%。4月21日現在の累計検査数は4万4,468件と人口の約13%にあたり、人口比検査数は世界最高。一部複数回の検査が実施されているとしても、1割近い比率と言えそうだ。感染者の人口比率0.51%を10倍すると、5%となる。実際には感染リスクが高い人を中心に検査していると考えられるが、無症状者を含めた感染者が人口比数%に及ぶとしても驚きではない。

我が国でも、PCR検査及び抗体検査の拡充・開始による大規模な疫学調査が待たれる。

冒頭、今回の危機は第2次世界大戦以来との見方を紹介したが、我が国の敗戦の要因は、経済力格差や外交面等を排除した純軍事的観点においては、情報収集・分析・統合能力の不足・軽視、兵站の不足・軽視、戦力の逐次投入、戦略のない目先の戦闘行為等が挙げられている。所詮、長期戦に耐えられる態勢にはなかったと言える。

今回の「対COVID-19戦争」、長期化は必至であり、政府も長期戦への覚悟を訴えている。特に我が国では欧米と違い、ロックダウンは法的に出来ず、強制力のない外出の自粛要請や休業要請・指示にとどまる。そうした中、自粛を担保するのは財政的支援に加え、「納得感」しかないだろう。

政府には、疫学調査等データに基づく長期戦略の提示が求められると言えそうだ。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。日経債券アナリストランキング、14年連続10位内ランクイン。日経財政アナリストランキング2位(2004年〜2006年)。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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