アナリストの忙中閑話【第113回】

アナリストの忙中閑話

(2020年10月22日)

【第113回】米大統領選終盤情勢、郵便投票等が鍵に、ハリウッド大作続々公開延期も鬼滅効果で「倍返し」、事実は小説よりも「危」なり

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

11月3日の米大統領選まで2週間を切る、世論調査ではバイデン氏・民主党が優勢

11月3日の米大統領選・議会選・知事選まで2週間を切った。

引き続き、全米及び激戦州での支持率で、民主党大統領候補のジョー・バイデン氏(前副大統領)が現職のドナルド・トランプ氏をリードし、選挙戦を優位に進めている。

民主党は下院での過半数を維持するとともに、上院でも多数派を奪還する勢いだ。

但し、2016年の前回大統領選では世論調査で劣勢にあったトランプ氏が番狂わせとも言える勝利を勝ち取ったことから、わが国のメディア等では、トランプ氏の逆転シナリオの可能性を指摘する声も依然、多い。

筆者は2016年3月に米ワシントンDCの大手シンクタンク4社を訪問した際のヒアリング結果から、当時、クリントン氏の勝利は盤石とは言えず、両氏の当選確率は五分五分と指摘してきた。

【第58回】ワシントンDC出張記、シビル・ウォー前夜の米国、競技かるたと新たな家族の形

11月米国の大統領選や中間選挙では投票率が重要

一方、2018年の中間選挙では、全員が改選される下院選では民主党の勝利を予想していた。上院は共和党地盤州における民主党の改選議員が多かったことから、多数派奪還は困難と予想。

背景には、投票率の動向がある。米国では、わが国と違い、米国民というだけで、国政選挙で投票が可能となるわけではない。事前に有権者登録を行う必要がある。加えて、国土の広い米国では投票所が近隣に設けられていないケースも多い。投票は簡単ではない。

また、わが国同様、年齢別投票率は、高齢者は高く、若年層は低い。仮に有権者登録を行った米国民を対象とした世論調査で、クリントン氏が優位だったとしても、若年層が多い民主党支持者が多数棄権すれば、トランプ氏の勝利は十分あり得る状況だった。

2016年の大統領選では、クリントン氏の不人気に加え、民主党大統領候補の指名争いが長引いたバーニー・サンダース氏の支持者らが大量に棄権することになり、大票田のフロリダ州に加え、ラストベルトのスイング・ステート(ペンシルべニア、オハイオ、ミシガン、ウィスコンシン)で全て、トランプ氏が勝利することになった。

民主党支持者が多い黒人の投票率は、オバマ氏が勝利した2008年と2012年には平均投票率を上回ったが2016年は再度下回った

実際、民主党支持者が多い黒人の投票率は、バラク・オバマ前大統領が勝利した2008年と2012年には平均投票率を上回ったのに対し、2016年は再度下回っている。クリントン氏の人気が高いとされたヒスパニックの投票率も2008年及び2012年を下回り、低迷したままだ(図表)。

但し、今回は2016年とは状況が異なる。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに加え、トランプ政権への反発から、2018年の中間選挙同様、民主党支持者や無党派層の投票率が上昇する可能性が高いと考えられる。

〇米大統領選と中間選挙の投票率推移

米大統領選と中間選挙の投票率推移

米大統領選と中間選挙の投票率推移

出所: 米政府資料よりSMBC日興証券作成

2018年の中間選挙では、投票率が53.4%と、2014年の41.9%から11.5ポイント上昇、過去40年間で最高に

2018年の中間選挙では、投票率が53.4%と、2014年の41.9%から11.5ポイント上昇、過去40年間で最高の投票率となった。

一方、2014年は過去40年間で最低だった。2014年の中間選挙では、民主党は上院の支配を失い、上下両院とも共和党が多数派を占めることになった。

他方、2018年の中間選挙では、民主党が下院で多数派を奪還し、知事選でも勝利した。

背景には、ヒスパニックや女性、若年層等、潜在的な民主党支持者の投票率が上昇したことが挙げられる。また、それらの層の投票率上昇に寄与したのが、期日前投票や郵便投票だった。今回、期日前投票や郵便投票は、前回2016年の大統領選を大幅に上回る勢いで伸びている。

背景にはCOVID-19の感染拡大防止のため、有権者の84%以上が理由なしに、またはCOVID-19への不安を理由として郵便投票が可能となっていることが挙げられる。

今年の期日前投票等は既に4,400万人が実施、前回2016年の全体の94%に

10月20日付けワシントンポストによると、今年の期日前投票等は投票日まで2週間を残し、既に、3,140万人が実施、前回2016年の全体の67%に達したとのことだ(一方、選挙プロジェクトによると、日本時間22日時点で期日前投票等は4,400万人に達している、うち郵便投票が3,207万人。前回実績の94%に相当し、まもなく上回ろう)。

うち、激戦州での投票は1,580万人に達している。こちらも前回の約3分2の水準だ。なお、WP紙の定義による激戦州は、テキサス、フロリダ、ミシガン、ノースカロライナ、ジョージア、オハイオ、ペンシルベニア、ウィスコンシン、ミネソタ、アイオワ、アリゾナ、ネバダ、ニューハンプシャーの13州。

従来と比較すると、共和党地盤州のテキサス、ジョージア、アリゾナの3州と民主党地盤州のミネソタが激戦州に位置付けられているのが特徴的だ。

こうした中、民主党は郵便投票を推奨しており、トランプ大統領への反発から民主党支持者や無党派層で期日前投票や郵便投票を活用して、投票を行う有権者も多いとみられる。

実際、党派別データを発表している19の州の合計では、期日前投票等の党派別内訳は民主党が52%、共和党26%、無党派22%となっている。

一方、トランプ大統領は、郵便投票は「不正の温床」として、対面投票を呼び掛けているが、従来、共和党支持者が多い高齢層は郵便投票を選択しない場合、COVID-19の感染が再拡大する中、棄権となる可能性も高まりそうだ。

また、世論調査によると、コロナ対策への不満から、ハイリスクセクターである高齢層のトランプ氏や共和党への支持率が低下しており、郵便投票でバイデン氏や民主党に投票する可能性もあろう。

郵便投票や期日前投票の急増は、バイデン氏や民主党にとって有利に

今回は、有権者の5〜6割が郵便投票や期日前投票を利用する可能性があるが、それらの急増は、2018年の中間選挙の事例を踏まえると、民主党支持層や無党派層の投票率が向上する一方、共和党支持層の高齢者の投票率が伸び悩むことが想定され、バイデン氏や民主党にとって、有利な情勢が固まりつつあると言えそうだ。

バイデン氏及び民主党の勝利で「一件落着」とはいかず

但し、バイデン氏及び民主党の勝利で「一件落着」というわけにはいかないだろう。

通常、大統領選の結果は、早ければ、日本時間で投票日翌日(今回は11月3日翌日の4日)の昼過ぎには判明する。これは、スイング・ステートがフロリダ州やラストベルト等、米国の東部に集中しているからだ。なお、大接戦の場合は、西部のアリゾナ州やネバダ州の結果を見る必要があることから夕方にずれ込むことになる。

然るに、今回は郵便投票の急増の影響で、翌日の早い段階で結果が判明しそうな州は事前に開票作業の開始が可能なフロリダ州等に限られる。ラストベルトの諸州では開票自体が3日スタートの州も多い。また、郵便投票分では3日以降の到着分以降も有効となるケースがある。

ペンシルベニア州で郵便投票は11月6日到着分まで許容、連邦最高裁追認

スイング・ステートの中では、フロリダ州(選挙人29人)に次ぐ大票田のペンシルベニア州(20人)では郵便投票の開票が3日にスタートとなるが、消印があることを条件に投票日の3日後の11月6日到着分まで認められることになった。

同州では州の規定により、郵便を含めた期日前投票用紙の開封、集計作業は投開票日からしか着手できないが、民主党が投開票日以降の到着分も集計できるよう求め、9月に州最高裁が3日間の延長を認めた。

延長に反対する共和党は不服として連邦最高裁の判断を仰いでいたが、連邦最高裁が19日、州最高裁の判断を追認した。

また、開票結果が僅差となれば、集計作業のやり直しを対立候補が求めるのは必至であり、集計結果の確定には相当の時間を要するのはほぼ確実な状況だ。

トランプ氏は3日の対面投票の速報で自らが優勢な状況となった段階で一方的に勝利宣言を行う可能性も

「郵便投票は不正の温床」と非難しているトランプ氏は、3日の対面投票の速報で自らが優勢な状況となった段階で一方的に勝利宣言を行う可能性もある。

特に、接戦州では、民主党と共和党が訴訟合戦を繰り返し、自らの陣営が勝利したとの主張を繰り広げる泥仕合に発展する可能性も高い。

最終的に選挙人が大統領候補と副大統領候補に投票するのは今回の選挙では、12月14日(月)であり、結果を同23日までに連邦議会に送付する。

最終的な選挙結果の判明は2021年1月6日

2021年1月6日に上下両院合同会議で各州の結果を集計し、過半数を得た候補が1月20日正午に大統領に正式就任するが、選挙人が実際に誰に投票したかは6日までわからない。

2016年の大統領選でも、選挙人獲得数はトランプ氏が306人、クリントン氏が232人だったが、選挙人による実際の投票結果は304人対227人だった。

トランプ大統領は敗北時も結果を認めず、1月20日正午以降もホワイトハウスを退出しない可能性も否定できない。

2021年1月6日の開票で過半数を確保した候補がいない場合は、事態は一段と流動的に

また、2021年1月6日の開票で過半数を確保した候補がいない場合は、事態は一段と流動的になる。

「合衆国憲法修正第12条 (正副大統領の選出方法の改正、1804 年成立)」では、「上院議長は、上院議員および下院議員の出席の下に、すべての認証書を開封したのち、投票を計算する。大統領として最多数の投票を得た者の票数が選挙人総数の過半数に達しているときは、その者が大統領となる。過半数に達した者がいないときは、下院は直ちに無記名投票により、大統領としての得票者一覧表の中の3 名を超えない上位得票者の中から、大統領を選出しなければならない。但し、この方法により大統領を選出する場合には、投票は州を単位として行い、各州の議員団は1 票を投じるものとする。この目的のための定足数は、全州の3 分の2 の州から1 名または2 名以上の議員が出席することを要し、大統領は全州の過半数をもって選出されるものとする」とされており、第117議会で下院が各州の代表を1票として選挙を行うことになる。

下院に選出権が発生した場合に、1月20日(修正第20条により改正後)以前に大統領を選出しないときは、大統領に死亡その他憲法上執務不能の事情が生じた場合と同様に、副大統領が大統領の職務を行うとされ、副大統領として最多数の投票を得た者の票数が選挙人総数の過半数に達しているときは、その者が副大統領となるが、過半数に達した者がいないときは、上院が、得票者一覧表の中の上位2 名の中から、副大統領を選出しなければならないとしている。この目的のための定足数は、上院議員の総数の3 分の2 とし、選出には総議員の過半数を要するものとされている。

米国は、11月3日の大統領選・議会選の結果次第では「シビル・ウォー」前夜に近い状況に陥る可能性も

上院でも選出できない場合は、大統領継承順位に基づき、2021年1月3日に招集される第117議会で選出された下院議長が大統領代行を兼務することになるが、何れにせよ大混乱は免れないだろう。

南北戦争当時のように、大統領が二人併存する事態も夢物語ではないかもしれない。

米国は、11月3日の大統領選・議会選の結果次第では「シビル・ウォー」前夜に近い状況に陥る可能性も否定できないと言えそうだ。

10年間でトランプ政権では4.95兆ドル、バイデン政権では5.6兆ドル財政悪化

なお、トランプ氏とバイデン氏の政策が米財政収支に与える影響は、両氏の公約を実現すると、何れも10年間で5兆ドル規模の財政赤字が積み増しとなる見込みだ。

米国の非営利団体「責任ある連邦予算委員会(CRFB)」の試算によると、両氏の公約を実行した場合、中央値で、トランプ政権では10年間で4兆9,500億ドル、バイデン政権では10年間で5兆6,000億ドル、財政収支が悪化する見通しとのことだ。

CRFBは、ワシントンDCに本部を置く、中立系、超党派の民間シンクタンク。筆者も4年前に本部を訪問し、マヤ・マッギネアス会長にお会いしたが、前回の大統領選時も中立的なスタンスを示されていた。

CRFBは、トランプ氏の公約に関しては、トランプ氏が8月に発表した54項目の2期目のアジェンダ「Fighting For You:あなたのために戦う」やプラチナ計画等を参考にしたとしている。

一方、バイデン氏の公約に関しては、バイデン氏の選対HPには、「大胆なアイデア」等48の異なる計画が掲載されており、そのほとんどには、重複する個別の政策提案が含まれている。

どちらの公約にも、政策の曖昧さが存在することから、CRFBは、低コスト、中央値、高コストの3つの試算を示している。

既に、米財政収支はトランプ政権下での大型減税等の効果に加え、総額3兆ドルに上るCOVID-19対策費等の影響で、著しく悪化しており、連邦債務は2008年の経済(GDP)の39%から2016年には76%に増加し、2020年度末には97〜98%に達したとみられる。

追加のCOVID-19対策費は含まれず、一段と悪化へ

トランプ氏の計画の中心的な見積もりでは、債務は2030年までに経済の125%に上昇する一方、バイデン氏の計画の中心的な見積もりでは、債務は2030年までに経済の128%に上昇する。連邦債務の歴史的記録は、第二次世界大戦直後のトルーマン政権下で記録されたGDPの106%。

なお、何れの試算にも、追加のCOVID-19対策費は含まれていないため、仮に3兆ドルの追加対策が今後実行に移されるとすると、対GDP比で米連邦債務は2030年に10ポイント悪化することになる。

2020年度米財政赤字は3.1兆ドルと過去最悪

米財務省によると、2020会計年度(2019年10月から2020年9月)の連邦政府の財政赤字は3兆1,319億ドルと、前年度の3.2倍に急増、5年連続で拡大し、過去最悪となった。

追加のコロナ対策も予想され、大統領選の結果に関わらず、米財政収支は当面、悪化継続か

COVID-19の追加対策法案が11月3日の大統領選までに成立する可能性は低いと考えられるが、早ければ11月4日以降のレームダックセッション、遅くとも2021年1月3日にスタートする第117議会では成立することになろう。その規模は、バイデン氏が勝利し、民主党が上下両院を制することになれば、2.2兆〜3兆ドルに膨らむ可能性が高い。

11月3日の大統領選の結果に関わらず、米財政収支は当面、悪化継続となる可能性が高そうだ。

映画館運営世界2位が英国と米国の劇場を一時閉鎖

映画館運営世界2位の英シネワールド(Cineworld Group plc)は10月5日、8日の木曜日から、英国と米国の全ての劇場を一時閉鎖することを発表した。

閉鎖される劇場は、米国のリーガル傘下の536劇場と、英国のシネワールドとピクチャーハウスの127の劇場全て。

シネワールドによると、閉鎖の理由は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行(パンデミック)の影響で、特に主要マーケットである米国のニューヨークで映画館の閉鎖が続いており、再開の見込みがないことに加え、大作の新作の公開が見込めないことを挙げている。今回の一時閉鎖に伴い最大4万5,000人の雇用に影響することになるとのこと。

ニューヨークでの感染拡大と「007シリーズ」の新作の公開が延期となったことが契機か

このタイミングでの閉鎖発表は、ニューヨークでCOVID-19の感染が増加に転じ、一部の地区で学校の閉鎖が決まるなど、映画館の再開の可能性が遠のいたことに加え、人気スパイ映画「007」シリーズ最新作の公開延期を製作会社が決めたことが背景にあると考えられる。

シネワールドは、COVID-19に伴う制限措置が緩和され始めたことを受け、英国では7月に劇場を再開し始めていた。

但し、MGM(メトロ・ゴールドウィン・メイヤー)、ユニバーサル及びプロデューサーのマイケル・G・ウィルソン氏とバーバラ・ブロッコ氏は10月3日、「007ジェームズ・ボンドシリーズ」最新作でシリーズ25作目となる『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の公開が2021年4月2日となるとツイッターで発表した(日本公開は「2021年」で公開日は未定)。

同作品は当初、4月10日に公開予定だったが、COVID-19のパンデミックを受けて、3月に11月25日への延期が発表されていた。『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は、シリーズ21作目『007/カジノ・ロワイヤル』(2006)からジェームズ・ボンド役を演じてきたダニエル・クレイグ氏にとって最終作となる予定で、脚本・監督は日系のキャリー・ジョージ・フクナガ氏が務めている。

「007シリーズ」は英国のMI6(Secret Intelligence Service、SIS:秘密情報部)に所属するスパイが主人公であり、英国では大きな興行収入を見込める人気映画だけに、シネワールドにとって、新作の公開再延期は大きな痛手となったようだ。

COVID-19のパンデミックに伴いハリウッドの大作映画は3月以降、軒並み公開延期、春以降に公開された大作は『TENET テネット』のみ

COVID-19のパンデミックに伴いハリウッドの大作映画は3月以降、軒並み公開延期となっており、春以降に公開された大作は現在、わが国でも公開中の『TENET テネット』のみとなっている。同作品は、『ダークナイト』3部作や『インセプション』『インターステラー』の鬼才クリストファー・ノーラン監督によるオリジナル脚本のアクションサスペンス超大作。名作であり、筆者は既に3回、鑑賞した。

但し、製作費は2億0,500万ドルに上るが、現時点での世界興収3億3,400万ドルに対し、米国及びカナダでの興収は5,060万ドルにとどまっている(21日付けIMDb)。

こうした状況が、大作の一段の延期を促す格好となり、9月25日から公開予定だった『キングスマン:ファースト・エージェント』は、2021年2月21日に公開(世界同時公開)に大幅に延期されることになった。

1998年のディズニー・アニメ『ムーラン』を実写化した『ムーラン』は、当初は今春に公開予定だったが、延期後、劇場公開を断念、2020年9月4日から「Disney+」での独占配信に切り替えられた。

一方、「アベンジャーズ」の一員を主人公とし、5月1日に公開予定だった『ブラック・ウィドウ』は、11月6日(日米同時公開)に延期されたが、2021年5月7日(日本公開は2021年4月29日)に再度の延期となった。これで、マーベル作品の公開は2020年中全て無くなった。

一般公開を中止ないし延期した大作映画は『ブラック・ウィドウ』など含め12作品以上に達し、映画業界に大きな損害

今後の焦点は、マーベルと並ぶアメコミの2大ブランド、DCの大作『ワンダーウーマン 1984』(12月25日公開予定、10月9日から延期)が、延期後の公開予定日に無事公開できるかどうかだ。

COVID-19の影響で一般公開を中止ないし延期した大作映画は『ブラック・ウィドウ』など含め12作品以上に達し、映画業界に大きな損害を与えている。

米国映画協会や全米劇場所有者協会などは、米連邦議会に映画館への優先的な金融支援を要請。現状が続けば中小規模の映画館の運営企業の69%が破産もしくは永続的に閉鎖する事態に追い込まれると警告。映画館関連の職務の66%が失われるとも訴えていた。映画業界回復の道は険しい。

米映画館チェーン最大手のAMCエンターテインメント・ホールディングスも苦戦している。

今春には経営陣を含む大規模なレイオフを実施。ようやく、同社は座席間隔をあけ、清掃頻度を増やすなどの安全対策をした上で、米国内で運営する劇場の約8割を10月9日までに再開。19日には、ニューヨーク州の十数カ所の映画館を23日から再開すると発表した。

但し、年内のハリウッドの大作が軒並み公開延期となり、米国内でもCOVID-19の感染が再拡大しつつある。再度、閉鎖に追い込まれる可能性は否定できないだろう。

米国でも新規感染者数はレイバーデイ頃をボトムに増加に転じている

既に、北半球では中秋に入っており、欧州を含め、「秋の感染第2波」がみられつつある。

WHOによると、感染者累計は4千万人を突破、10月17日の新規感染者は40万人台と過去最高となった。

米国でも、新規感染者数はレイバーデイ(9月7日)頃をボトムに、横ばいから、増加に転じつている。10月16日の新規感染者は7万0,078人と8月24日以来の高水準となった。

今後、北半球でCOVID-19のいわゆる「第2波」が襲うことになれば、航空業界等と同様に、映画業界等エンターテイメント業界への本格的な支援が必要になりそうだ。

全人類の1割は既にCOVID-19に感染?

陸地の比率は、北半球では39.4%を占めるのに対し、南半球は18.4%しかないこともあり、全人類の9割超は北半球に居住している。北半球が夏であった7-8月には、新規感染者数は平均して25万人前後で、ほぼ横ばいとなっていたが、9月に入り30万人弱、現在では35万人程度と増加傾向にある。

なお、WHOの緊急事態責任者であるマイケル・ライアン氏は10月5日、世界中で10人に1人は既にCOVID-19に感染した可能性があると指摘している。

世界中での抗体検査の結果を基にしているとのことだが、推計が正しければ、既に全人口77億人の1割の7億7千万人程度が感染したことになる。但し、WHOは、地域的に感染状況等は異なるとしている。

ドラマ「半沢直樹」が高視聴率で有終の美

筆者が毎週欠かさず視聴していたドラマ「半沢直樹」(TBS系、日曜午後9時)の最終第10話が9月27日に、15分拡大で放送され、平均視聴率(世帯)は関東地区が32.7%、関西地区が34.7%(ビデオリサーチ調べ)と、番組最高を更新、有終の美を飾った。平成ドラマでは、前作に次ぐ2位の高水準。

今回から発表されたライブと録画を合わせた総合視聴率は関東地区が44.1%、関西地区では46.6%に達し、二人に一人が見た計算となる。

本作では、「3人まとめて千倍返し」等、前作を上回るインフレ気味なセリフが満載で、演技も一段と歌舞伎化していたが、日曜の夜の「スカッと」ドラマが終了したのは寂しい限りだ。

どうも、第3作はなさそうだが、外伝若しくはスピンオフ作品に期待したい。

邦画は『鬼滅の刃』が「倍返し」

前週末(10月17日-18日)の観客動員ランキングでは、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が初登場で第1位となった(興行通信社調べ、以下同じ)。

土日2日間で動員251万人、興収33億5,400万円は歴代記録の「約2倍」で、初日から3日間の累計では動員342万人、興収46億円を突破した。

コロナ禍のうっ憤を鬼滅ファンが「倍返し」といったところか。

同作品は2016年11月から2020年4月まで「週刊少年ジャンプ」に連載され、累計発行部数1億部突破(電子版含む)という吾峠呼世晴氏による大ヒットコミックの劇場版アニメ。TVアニメ版「竈門炭治郎 立志編」最終話に続く物語「無限列車編」が描かれている。

筆者は「週刊少年ジャンプ」を創刊時以来、今でも購読しており、ライブでも序盤の何作か読んでいたが、ここまで人気が沸騰するとは予想外だった。なお、本作を鑑賞するには、TVアニメ版を先に視聴することをお薦めしたい。

なお、同作品の公開に合わせ、TOHO CINEMASやユナイテッド・シネマ等の大手映画館チェーンはフード類の販売を停止することで、全座席の販売を再開した。映画館の営業スタイルも変えるとは、恐るべし「鬼滅の刃」。

8月号と9月号で特集し、前週首位に返り咲いた『TENET テネット』(ワーナー)は、3位にランクイン。累計では動員140万人、興収22億円を突破した。前述のように、既に3回鑑賞したが、まだ理解が足りない状況だ。

邦画の新作が続々と公開

前月号でも特集したように、COVID-19の感染が欧米に比べて抑制されている我が国では、邦画の新作が続々と公開されている。

10月30日公開の『とんかつDJアゲタ太郎』は、テレビアニメ化もされたイーピャオ氏と小山ゆうじろう氏の人気ギャグ漫画を北村匠海さん主演で実写映画化。

東京・渋谷の老舗とんかつ屋「しぶかつ」の3代目・アゲ太郎は、ある日、弁当の配達で足を運んだクラブで憧れていた苑子に出会う。キャベツの千切りばかりの日々を送っていたアゲ太郎は、音楽でフロアを盛り上げるDJたちのプレイに刺激を受け、これまで味わったことのない高揚感を体感。苑子のハートを射止めるため、アゲ太郎は、とんかつ屋の仕事もDJも精進し、豚肉もフロアもアゲられる「とんかつDJ」 になることを決意する。

罪の声

『罪の声』
2020年10月30日全国東宝系にてロードショー
©2020 映画「罪の声」製作委員会

同じく30日公開の『罪の声』は、フィクションでありながら、日本中を巻き込み震撼させ未解決のまま時効となった大事件をモチーフとした塩田武士氏のベストセラー小説を原作とし、小栗旬さんと星野源さんの初共演で映画化。『映画 ビリギャル』の土井裕泰監督がメガホンをとった。

新聞記者の阿久津英士(小栗旬)は、昭和最大の未解決事件を追う特別企画班に選ばれ、残された証拠を元に取材を重ねる毎日を過ごしていた。そして30年以上前の事件の真相を追い求める中で、どうしても気になることがあった。なぜ犯人グループは、脅迫テープに3人の子どもの声を吹き込んだのか。

一方、京都でテーラーを営む曽根俊也(星野源)は、父の遺品の中にカセットテープを見つける。何となく気に掛かり再生すると聞こえてきたのは、幼いころの自分の声。それは30年以上前に複数の企業を脅迫して、日本中を震撼させた昭和最大の未解決事件で犯行グループが使用した脅迫テープと全く同じ声だった。

さくら

『さくら』
2020年11月13日(金)全国公開
©西加奈子/小学館 ©2020「さくら」製作委員会

11月13日公開の『さくら』は、直木賞作家の西加奈子氏が家族をテーマにつづった同名のベストセラー小説を『三月のライオン』の矢崎仁司監督が映画化。

音信不通だった父が2年ぶりに家に帰ってくる。スーパーのチラシの裏紙に「年末、家に帰ります」と綴られた手紙を受け取った長谷川家の次男・薫は、その年の暮れに実家へと向かった。母のつぼみ、父の昭夫、妹の美貴、愛犬のサクラとひさびさに再会する。けれど兄の一(ハジメ)の姿はない。薫にとって幼い頃からヒーローのような憧れの存在だったハジメは、2年前のあの日、亡くなった。

そしてハジメの死をきっかけに家族はバラバラになり、その灯火はいまにも消えそうだ。その灯火を繋ぎ止めるかのように、薫は幼い頃の記憶を回想する。やがて、壊れかけた家族をもう一度つなぐ奇跡のような出来事が、大晦日に訪れようとしていた。平凡な次男・薫を北村匠海さん、破天荒な長女・美貴を小松菜奈さん、人気者の長男・一を吉沢亮さん、彼らの両親を寺島しのぶさんと永瀬正敏さんが演じる。

11月20日公開 『STAND BY ME ドラえもん2』は国民的アニメ「ドラえもん」初の3DCGアニメーション映画として2014年に公開された『STAND BY ME ドラえもん』の続編。前作から引き続き監督を八木竜一氏、脚本・共同監督を山崎貴氏が担当した。前作で描かれた「のび太の結婚前夜」の翌日である結婚式当日を舞台に、のび太としずかの結婚式を描く。

ある日、優しかったおばあちゃんとの思い出のつまった古いクマのぬいぐるみを見つけたのび太は、おばあちゃんに会いたいと思い立ち、ドラえもんの反対を押し切りタイムマシンで過去へ向かう。未来から突然やってきたのび太を信じて受け入れてくれたおばあちゃんの「あんたのお嫁さんをひと目見たくなっちゃった」という一言で、のび太はおばあちゃんに未来の結婚式を見せようと決意する。しかし、未来の結婚式当日、新郎のび太はしずかの前から逃げ出してしまった。

事実は小説より「危」なり

近年のハリウッド映画業界を興収面で牽引してきたマーベル及びDCに代表されるアメコミの実写版映画は、前述のように、今年はマーベルの全滅が確定、DCも残すところ、12月下旬の『ワンダーウーマン 1984』(12月25日公開予定』の1作のみとなった。

前作で女性監督として世界最高興収を記録したパティ・ジェンキンス監督は本作の年末公開に意欲を示しているが、米メディアでは来年夏への公開延期の可能性も指摘されている。

筆者のご贔屓は、マーベルの『アベンジャーズ』シリーズ。ちょうど、今年同様、米大統領選で盛り上がっていた4年前には、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』が公開され、アベンジャーズの内紛が描かれたが、2019年公開の『アベンジャーズ/エンドゲーム』では一致団結、ラスボスを粉砕し、フィナーレを飾った。

『エンドゲーム』は原作者スタン・リー氏の最後のカメオ出演作品でもあるが、世界興収は27億9,780万ドルと、『アバター』を抜き、最高記録を更新した(IMDb)。

「半沢直樹」同様、有終の美を見事飾った訳だが、現在の米国政治は、既に、選挙後の混乱が懸念される状況だ。米国の分断が現実の「シビル・ウォー」に発展しないか心配している。

世界を見渡すと、コロナ禍においても、地政学的リスクは弱まるどころか強まっている。

黒海とカスピ海に挟まれた南コーカサスでは、ナゴルノ・カラバフ地方を巡って、アゼルバイジャンとアルメニアの紛争が再燃している。

北アフリカではリビア、中東ではイラン等を巡る緊張も高い状態が続き、アジアでは中国の海洋進出等も本格化している。

「事実は小説より奇なり」というが、むしろ、「事実は小説より『危』なり」か。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。同投資戦略室長、大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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