アナリストの忙中閑話【第120回】

アナリストの忙中閑話

(2021年5月20日)

【第120回】緊急事態宣言9都道府県に拡大、東京・大阪では映画館も1年ぶり休館、ワクチン接種率で明暗、アジア系が活躍した米アカデミー賞

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

「緊急事態宣言」が延長され、9都道府県に拡大

5月16日、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく「緊急事態宣言」が、北海道、広島、岡山の3道県に発令された。期間は5月31日まで。

「緊急事態宣言」発令という急な決定となった3道県では、新聞の号外が配布される事態となった。

これで、緊急事態宣言の対象は4月25日に発令された東京、大阪、兵庫、京都、5月12日に発令された愛知、福岡の計6都府県から、9都道府県に拡大した。

加えて、群馬、石川、熊本の3県には「まん延防止等重点措置」が適用された。期間は5月16日から6月13日まで。

同重点措置の対象は10県となった。なお、埼玉、千葉、神奈川、岐阜、三重、愛媛、沖縄の7県の期限は5月31日。

分科会委員の異論で政府方針変更、背景に変異株の感染拡大

5月14日午前7時にスタートした「基本的対処方針分科会」に政府が当初諮った案は、8道県に適用されていた「まん延防止等重点措置」について、群馬、石川、岡山、広島、熊本の5県を追加する方針だったが、委員から北海道、広島県、岡山県については、より強い措置が必要との意見が相次いだことから、政府は諮問案を取り下げ、新たに、3道県については、「緊急事態宣言」を発令し、「まん延防止等重点措置」の適用は群馬、石川、熊本の3県を追加するとの案を諮り、了承を得た。

その後、国会への報告と質疑を経て、14日午後6時から開催した新型コロナウイルス感染症対策本部で正式決定、菅首相は8時から記者会見を開き、決定内容等を説明した。

菅首相は、「比較的人口規模も大きな北海道、岡山県、広島県において、新規感染者数が極めて速いスピードで増加しております。これらの地域においては、これまで地元の自治体と連携しつつ対策を進めてきましたが、今朝の分科会においては、専門家の方々からより厳しい対応が必要との考えが示されました。政府としても、変異株が広がる中で、今が感染を食い止める大事な時期だという考えに変わりはなく、専門家の御意見も尊重し、今回、追加の判断を行いました。期間は東京などの都府県と合わせて今月末までとし、その後の対応については、その時点で改めて判断を行ってまいります」(首相官邸HP)としている。

前述の通り、今回、「まん延防止等重点措置」の適用が追加となった3県の期限は6月13日であるのに対し、「緊急事態宣言」が追加で発令された3道県の期限は5月31日。

これは、既に、「緊急事態宣言」が発令されている東京、大阪、兵庫、京都、愛知、福岡の6都府県に合わせた形だが、3県に追加適用された「まん延防止等重点措置」は、既適用県と異なる期限となる6月13日が設定されており、変則的な対応となっている。

背景には、東京オリンピックの観客数上限の決定が6月に予定されていることと関係がありそうだ。

IOCのトーマス・バッハ会長は5月17−18日に来日予定だったが、東京などへの緊急事態宣言の延長を受けて、急遽延期、6月に来日予定と伝えられている。なお、IOCによると、別途、ジョン・コーツ委員長が6月15日に来日、バッハ会長は7月12日に来日予定とのこと。

緊急事態宣言の延長の有無、延長期間が重要に

5月31日までの緊急事態宣言が大幅に延長されることとなれば、無観客での開催、場合によっては、再延期や中止の可能性も高まることになろう。

緊急事態宣言の延長は過去の事例を見ても、数日前には正式決定しているため、今後1-2週間の感染動向が重要となる。

ちなみに、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言の発令は、2020年4月、2021年1月に続き3度目だが、今回は4月25日に、当初5月11日を期限に大阪府、兵庫県、京都府、東京都の4都府県に発令され、5月7日に、5月31日までの延長と、愛知県と福岡県の追加を決定している。

国内でのCOVID-19の新規感染者数は、ゴールデンウィーク後も高止まり、地方部の感染拡大が顕著

国内での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の新規感染者数は、ゴールデンウィーク後も高止まりしている。

4月25日に緊急事態宣言が発出された大阪府や東京都に関しては、一旦、ピークアウトし、減少に転じた可能性があるが、GW中の観光や帰省で、都市部からの人流が増えた影響からか、地方部で感染が拡大、全体としては、収束傾向には至っていない。

特に、新規感染者に遅行する重症者は5月19日現在で、1,293人と、過去最高となった。特殊要因があるものの、一日の死者も5月18日には216人と過去最多を記録(NHK)。

沖縄県は感染者の急増を受け、19日、政府に対し、緊急事態宣言の発令を要請した。

ちなみに、第1回目の宣言時はGW後、新規感染者は減少、全国でも100人を切る日が大半となり、前倒し解除に繋がった。2020年末から2021年初の年末・正月休みには感染者は一旦減少したが、1月5日以降急増、7日の3回目の緊急事態宣言の発令に繋がっている。

米国ではワクチン完全接種者はマスク着用義務撤廃

一方、米国では、疾病予防管理センター(CDC)の指針が13日、改訂され、ワクチン接種完了者は、屋内外や人数の規模にかかわらず、マスクを着用しなくてよいことになった。

但し、公共交通機関や空港や駅などの旅客施設では引き続き、ワクチン接種完了者もマスクの着用が義務付けられる。

バイデン大統領は13日にホワイトハウスで演説し、「ワクチン接種を受けるか、接種を受けるまでマスクを着用し続けるかだ」とし、ワクチン接種を強く勧奨した。

米国では、一日当たり一時400万件を超えていたワクチン接種数が、足元では200万件を下回るなど、ここへきて、ワクチン接種率が伸び悩んでいる。

背景には、ワクチン接種を忌避する国民の存在に加え、若年層等で関心の薄い者も多いことがある。

バイデン政権は、マスク着用義務の緩和に加え、州や地方政府、企業等が実施している様々な無料サービス等で全国民の6−7割による集団免疫達成のため接種率の引き上げを図る方針だ。

なお、CDC基準でのワクチンの完全接種は、ファイザー・ビオンテック製とモデルナ製は2回の接種後、ジョンソン&ジョンソン製は1回の接種後、各2週間経過した時点となる。

また、米国では社会経済活動の再開も相次ぎ、ニューヨーク州は5月17日から地下鉄の24時間運行を約1年ぶりに再開、19日には飲食店や小売店、劇場、文化施設なども収容人数の規制が原則撤廃された。但し、屋内では6フィートのソーシャル・ディスタンスを保つ必要がある。

映画館は3月に人数制限の下、1年ぶりに再開されたが、ワクチン証明があれば、フルキャパシティでの上映が可能となる。

一方、ブロードウェー・ミュージカルは9月14日に、「ライオンキング」「シカゴ」「ハミルトン」が公演を再開、その他の作品も順次再開されることになった。

ロックダウン(都市封鎖)が続いている欧州でも、徐々に緩和が開始

ロックダウン(都市封鎖)が続いている欧州でも、徐々に緩和が開始されている。

英国では17日、約4カ月間にわたり実施されているロックダウンが緩和され、カフェ、バー、レストランの屋内営業、映画館や劇場が再開された。

フランスでも19日、昨年10月末から閉鎖が続いていたルーブル美術館など美術館や映画館が営業を再開。飲食店も、屋外席に限って再開された。生活必需品を除く商店の営業も再開。夜間外出禁止の開始時間は午後7時から午後9時に緩和され、6月末にかけて段階的に解除される。

イタリアでは、6月1日から飲食店の屋内営業が再開する予定。

スペインも5月9日に非常事態宣言を解除し、地域間の移動が自由になった。

ワクチン接種率の水準が、経済活動の再開度合いやマインドの差を通じて、GDP成長率等にも大きな影響

ワクチン接種率の水準が、経済活動の再開度合いや消費者や企業のマインドの差を通じて、足元のGDP成長率等にも大きな影響を与えている。

我が国を含め、世界中で、ワクチン接種率の引き上げが、政権の最優先課題となりつつある。

図表1のように、我が国のワクチン接種率は英国や米国に大きな遅れをとっている。

ワクチン接種率の低い国は、ここまで、感染者が相対的に低く抑えられていた、アジア諸国に多いが、前月号でも特集した変異株(バリアント)の感染拡大で、ワクチン接種を急ぐことになっている。

図表1.新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種者の比率(5月18日現在)

ワクチン接種者の比率(5月18日現在、%)

  • 出所:Our World in Data資料からSMBC日興証券作成

感染が抑制されていたアジアで、足元、感染が急拡大、変異株の影響

インドでは、英国由来でN501Y変異を持つ「B.1.1.7」に加え、インド由来でL452R変異とE484Q変異を持つ「B.1.617」変異株の感染が急拡大し、5月7日には一日の感染者が41万4,188人と過去最多となり、死者も5月19日には4,529人に達した(WHO)。

既に、医療崩壊状態で、実際の感染者数や死者数は発表数を大きく上回っている可能性が高い。

なお、英国政府は7日、「B.1.617」に関し、懸念すべきバリアント(VOC:Variant of Concern)に指定したが、WHOも10日、関心あるバリアント(VOI:Variant of Interest)からVOCに分類を変更した。

WHOがVOCに認定している変異株は、英国由来の「B.1.1.7」の他に、南アフリカ由来の「B.1.351」とブラジル由来の「P.1」。何れも、N501Y変異とE484K変異を持つ。

変異株の流入で、アジアでは、台湾やタイ、ベトナム等、感染者が極めて少なかった国でも、急増している。

前述の通り、我が国でも、感染第4波は感染が抑制されていた地方部での感染が目立つことから、変異株は既存株と比較し、感染力の強さが際立っていると言えそうだ。

また、感染力が既存株に比べ最大1.7倍(CDCは1.5倍と推定)とされる「B.1.1.7」等の変異株は重症化率も高く、医療体制への負荷も大きくなっている。

やはり、ワクチン接種を急ぐことが重要と言えそうだ。

ワクチン接種率の格差は各国で政治的影響も拡大

ワクチン接種率の格差は、実体経済にも大きな影響を与えているが、各国の内閣支持率や政党支持率、大統領支持率等、政治的な影響も大きくなっている。

人口ピラミッドが「釣鐘型」の国が多く、高齢者の人口比率も高い先進国ではそうした傾向が特に強い。

COVID-19は高齢者の重症化率・致死率が高いことから、高齢者にとって、感染動向やワクチン接種に関する関心は極めて高いからだ。

米英と比較し、ワクチン接種が遅れているドイツやフランスでは政権与党や大統領の支持率が低下、一方、12万7千人と欧州最大の死者を出している英国では、ワクチン接種の進捗もあって、5月6日の統一地方選では与党保守党が善戦した。

我が国におけるワクチン接種の状況

我が国のCOVID-19の感染者や死者の状況は、欧米各国と比較すると、格段に少ないが、ワクチン接種は5月18日時点で、医療従事者等向けが5,730,967回、高齢者等向けが1,362,509回の計7,093,476回で、2回接種者は医療従事者等が2,035,059人、高齢者等が106,273人と、計2,141,332人で、完全接種者は全人口の約1.7%に過ぎない。1回接種者は約2.2%。

当初3月中を目途としていた医療従事者(480万人)への接種が大きく遅れていることは、高齢者(3,600万人)への接種の遅れとともに、接種会場や病院・介護施設等での感染リスクを拡大するおそれもあり大きな課題と言えそうだ。

我が国においても、COVID-19の感染動向やワクチン接種動向は、衆院解散総選挙のタイミングとともに、結果にも大きな影響を及ぼす可能性が高そうだ。

3度目の緊急事態宣言の発令で、東京都や大阪では、映画館が1年ぶりに休館となり、新作が公開延期に

我が国では、3度目の緊急事態宣言の発令で、4月25日から東京都や大阪府では、映画館が1年ぶりに休館となった。

結果、新作の公開も延期となり、前月号で特集した『ゴジラvsコング』(原題:Godzilla vs. Kong)も5月14日の封切り予定が公開延期となった。

他に公開延期となった作品では、『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争2021』『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』『アーヤと魔女』『映画 賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット』『100日間生きたワニ』『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』など。

第93回米アカデミー賞では昨年に続き、アジア系映画人が活躍

米国では第93回アカデミー賞の授賞式が4月25日(現地時間)、米ロサンゼルスで開催された。

『ノマドランド』(国内で公開中)が作品賞、監督賞、主演女優賞の主要3部門を制し、最多受賞作品となった。

今年は、COVID-19の感染拡大対策から、従来のドルビー・シアターに加え、ダウンタウンのユニオン駅を会場に行われ、密を回避することに。

ファーザー

『ファーザー』
5月14日(金)TOHOシネマズ シャンテ他 全国ロードショー
©NEW ZEALAND TRUST CORPORATION AS TRUSTEE FOR ELAROF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION TRADEMARK FATHER LIMITED F COMME FILM CINÉ-@ ORANGE STUDIO 2020

主演男優賞は、『ファーザー』(公開中)アンソニー・ホプキンスさんが史上最高齢で受賞。本人は授賞式を欠席したが、『羊たちの沈黙』で受賞した第64回以来、29年ぶり2度目の栄冠となった。ホプキンスさんは、本作で自身と同名、同年齢、同誕生日のアンソニーを演じた。

他の受賞作は『Mank マンク』が美術賞と撮影賞、『サウンド・オブ・メタル』が音響賞と編集賞、『Judas and the Black Messiah」が助演男優賞と歌曲賞、『マ・レイニーのブラックボトム』がメイクアップ&ヘアスタイリング賞と衣装デザイン賞、『ソウルフル・ワールド』が作曲賞と長編アニメーション賞を獲得。

また、『ミナリ』のユン・ヨジョンさんが助演女優賞に輝き、『ノマドランド』のクロエ・ジャオ監督など、昨年の『パラサイト 半地下の家族』に続き、アジア系映画人の活躍が目立った。

第78回ゴールデングローブ賞はごたごた続き、NBCが来年の放送を見送ることに

一方、米国映画の『ミナリ』を外国映画賞にノミネートし(授賞も)、物議を醸した第78回ゴールデングローブ賞は、その後もごたごたが続いた。米NBCが2022年のゴールデングローブ賞授賞式中継の放送を見送ると発表したのだ。

ゴールデングローブ賞授賞式は、アカデミー賞の前哨戦のなかでもっとも注目される映画とテレビドラマの賞として知られているが、2月28日(現地時間)に行われたゴールデングローブ賞授賞式の直前、米ロサンゼルス・タイムズ紙がゴールデングローブ賞を選考するハリウッド外国人記者協会(HFPA)の会員87人(当時)に対し、黒人会員がひとりも存在しないことを報じた。

この記事をきっかけに、ハリウッドのパブリシティ会社100社は連名で、HFPAに抜本的な改革を要求。

これを受け、HFPAは年内に会員数を最低100人まで増やし、13%を黒人ジャーナリストにするなどの改革案を発表したが、改革のペースが遅すぎるとの批判が相次ぎ、Netflixやアマゾンがパブリシティ会社100社に賛同し、HFPAの取材拒否を表明。

NBCは2022年のゴールデングローブ賞授賞式の放送を見送ると発表した。

ちなみに、「プライム・ビデオ」を通じ、映像配信サービスに参入しているアマゾン(Amazon.com, Inc.)は、『007シリーズ』などを擁する米映画スタジオMGM(メトロ・ゴールドウィン・メイヤー)の買収に向け協議に入ったと伝えられている。

買収の成否は定かではないが、COVID-19のパンデミックもあって、ハリウッドを含む米エンターテイメント業界の勢力図は大きく変化しつつあるようだ。

6月は東京オリンピックにとって「正念場」、公式を解く最大の変数が、COVID-19の感染動向

NBCは2014年に2032年までの夏冬6大会における米国内での放映権をIOCから76億5千万ドルで買い取る契約を結んでいる。

また、NBCは東京オリンピック分を含む2020年までの夏冬4大会分の放映権は約44億ドルで取得しており、東京オリンピック分は10億ドルを大きく上回るとみられる。

前述の通り、IOCのバッハ会長は5月17日から2日間の日程で来日予定だったが、緊急事態宣言の延長を受けて、6月に延期になったと伝えられている。

6月には、観客数の上限も決まる予定であり、有観客か無観客での開催、ひいては延期や中止を含め、6月は東京オリンピックにとっては「正念場」となる。

そして、その公式を解く最大の変数が、COVID-19の感染動向と言えそうだ。

何れにせよ、各国同様、ワクチン接種の推進が肝要だろう。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。日経債券アナリストランキング、14年連続10位内ランクイン。日経財政アナリストランキング2位(2004年〜2006年)。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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