アナリストの忙中閑話【第124回】

アナリストの忙中閑話

(2021年9月16日)

【第124回】「政界、一寸先は闇」、G7諸国で政治不安台頭、延期されていた大作映画が続々公開

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

カブール陥落でバイデン大統領の支持率急落、政権発足後初めて不支持が上回る

過去1カ月間の内外の出来事を振り返ると、「政界、一寸先は闇」という言葉が改めて脳裏に宿る。

米国のジョー・バイデン大統領は本年4月、「911:ナイン・イレブン」、2001年の同時多発テロから20年目となる9月11日までにアフガニスタン戦争を終結させることを国民向けのテレビ演説で表明した。

8月末までの駐留米軍の全面撤退を計画していたが、撤退完了前の8月15日にはイスラム原理主義勢力タリバンが首都カブールを20年ぶりに制圧、政権を掌握したことで、「米国最長戦争」はあっけない幕切れとなった。

加えて、8月30日の米軍完全撤退前に米国人やアフガニスタン人関係者全員の退避が完了しなかったことや、「ISIS-K」による自爆テロで米兵13人が犠牲となったことなどで、バイデン大統領の支持率は急落、政権発足後初めて、不支持が支持を上回る事態に。

今月は5,500億ドル規模のインフラ投資雇用法案、米国雇用・家族計画を法案化した3.5兆ドル規模の財政調整法案、2022会計年度統合歳出法案ないし歳出継続法案の議会審議が大詰めとなり、8月1日に28.4兆ドルで設定された米政府債務上限の停止ないし引上げ問題も解決する必要がある。

共和党地盤州主体に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種も伸び悩み、デルタ株のまん延で、新規感染者や死者も増加、2022年11月8日に中間選挙を控えるバイデン大統領にとって、今秋は極めて重要な局面となりそうだ。

9月20日に下院総選挙を控えるカナダでも政治不安が台頭

来週月曜日、9月20日に下院総選挙を控えるカナダでも、足元、政治不安が台頭している。

カナダはCOVID-19のワクチン確保で先行、接種率でもG7でトップを走る。

支持率上昇を背景に、自由党のジャスティン・トルドー首相は総督に下院解散を要請、単独過半数回復を目指した。

但し、デルタ株の感染拡大で、選挙の前倒しに批判が出たところに、解散日の8月15日にカブールが陥落、自国民やアフガニスタン人関係者の退避が遅れたことで政権への批判が一気に高まることに。

8月下旬以降は、野党保守党が支持率第1位に浮上、自由党との差が拡大している。トルドー氏は政権を維持できたとしても、引き続き少数与党内閣となる可能性が高まっている。

9月26日には、ドイツの連邦議会(下院)総選挙では、社会民主党が第1党の勢い

一方、9月26日には、ドイツの連邦議会(下院)で総選挙が実施される。

今回の総選挙には、アンゲラ・メルケル首相は出馬せず、政界を引退するが、8月以降、同首相率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)の支持率が急落、現在、大連立を組む社会民主党(SPD)が支持率でトップとなり、総選挙後は連立の枠組みが変化する可能性が強まっている。

CDU/CSUの支持率低下は、メルケル人気の剥落の影響も大きいが、ドイツで7月14日から2日間にわたってラインラント・プファルツ州とノルトライン・ヴェストファーレン州を中心に発生した大規模な洪水がなければ、状況は相当違った可能性もある。

アール川の氾濫では少なくとも183人が死亡(7月18日付けAFP)。今回の水害の死者数は1962年の北海沿岸地域での洪水(約340人)に次ぐとされ、約60年ぶりの洪水被害となった。

CDUの党首であり、CDU/CSUの首相候補であるアルミン・ラシェット氏は現在、被災地のノルトライン・ヴェストファーレン州の首相を務めているが、シュタインマイヤー大統領が記者団の前で犠牲者に哀悼の言葉を述べていた時に、ラシェット氏が背後で談笑している姿が全独に放映され大きな不評を買うことになり、その後、CDU/CSUもラシェット氏も支持率が急低下した経緯がある。

フランスでの「ヘルスパス」導入を巡り混乱

2022年春に大統領選及び国民議会選挙が予定されているフランスでも、いわゆる「ヘルスパス」、ワクチンないし検査証明の義務化等巡って、国内が混乱。9月15日から始まった医療従事者のワクチン接種義務化へのデモが続いている。

ワクチン証明に関しては、賛成派も多く、足元の世論調査でエマニュエル・マクロン大統領の支持率に大きな変化はみられないが、今冬の感染動向次第の面もあろう。

大統領選では前回同様、「共和国前進」のマクロン氏と極右政党「国民連合(RN)」のマリーヌ・ルペン氏が決選投票に進むとみられているが、マクロン氏にとって強力な対抗馬となる可能性を秘めた候補が12日出馬を表明した。

東京オリンピックと東京パラリンピックの双方の閉会式に出席したパリ市のアンヌ・イダルゴ市長だ。左派の社会党候補として出馬する。高い知名度を持つイダルゴ氏が左派勢力の支持を取りまとめられれば、マクロン大統領にとって強力な対抗馬となる可能性があり、マクロン氏にとっても「ヘルスパス」の成否がより重要になりそうだ。

英国では「ブースター接種」開始へ

なお、今冬の感染拡大に備え、ワクチンパスポート(ワクチン証明)は英国でも導入が検討されたが、与党保守党の反対もあり、ボリス・ジョンソン首相は14日、導入を見送ると表明。

代わりに50歳以上の人らを対象に来週からワクチンの3回目の接種(ブースター接種)をするほか、12〜15歳にも接種することを発表した。

なお、感染が急拡大した際の「プランB」ではマスク着用の義務化やワクチンパスポートの導入も検討されている。

「政界、一寸先は闇」は「政界の寝業師」と呼ばれた自由民主党の川島正次郎氏の言葉

「政界、一寸先は闇」は「政界の寝業師」と呼ばれた自由民主党の川島正次郎元副総裁(元北海道開発庁長官・行政管理庁長官)の言葉とされる。

川島氏はNHK大河ドラマ「いだてん 〜東京オリムピック噺〜」にも登場するが(浅野忠信さん演)、前回の東京オリンピックで初代のオリンピック担当大臣(兼務)に就任し、1964年前後に政界で活躍した人物だ。

川島氏は自民党総裁選で池田勇人元首相の3選に貢献したことで、自民党副総裁に就任し、東京オリンピック閉会式翌日の1964年10月25日に池田氏が病で退陣表明した際には、後継に佐藤栄作氏を指名させるのに尽力、佐藤政権でも自民党副総裁に任命され、佐藤政権の下で終生自民党副総裁の地位を維持した経緯にある。

オリンピック後に政局が起きるというジンクスは今回も踏襲、菅首相が退陣表明

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックを受けて、当初予定から1年延期後の今年開催された東京2020オリンピック・パラリンピックは9月5日夜の東京パラリンピック閉会式で無事閉幕した。

但し、オリンピック後に政局が起きるというジンクスは今回も踏襲された。

菅首相は9月3日午前に開かれた自由民主党役員会で、今月に予定されている党総裁選に立候補せず、当初6日に見込まれていた党役員人事も行わない考えを示した。

新型コロナウイルス感染症対策に専念することを、総裁選不出馬の理由に挙げた。

背景には、7月の東京都議会選での自民党の苦戦、8月22日の横浜市長選で菅氏が推した候補が野党系候補に大差で敗れたことで、総裁選でも敗色が強まり、起死回生の一手として検討した総裁選前の衆院解散も自民党有力者らの反対で封じられ、持ち前の気力が大きく削がれたことが影響したとみられる。

総裁選前の衆院解散はなくなり、自民党総裁選は予定通り、「9月17日告示、29日投開票」で実施されることに

菅首相の退陣表明で、総裁選前の衆院解散はなくなり、自民党総裁選は予定通り、「9月17日告示、29日投開票」で実施されることになった。

結果、衆院解散は10月上旬以降となる見込みだ。法的には10月21日の任期満了日の解散も可能だが、常識的に考えると、10月上中旬解散、投票日は11月上中旬となる可能性が高い。

総裁選には早々と、岸田文雄前政調会長が出馬を表明していたが、その後、高市早苗前総務相、河野太郎行革相も出馬を表明、野田聖子幹事長代行も最終調整中と伝えられている。

一方、前回の総裁選にも出馬した石破茂元幹事長は今回は断念、河野氏の支援に回ることになった。

今回は3年ぶりに党員・党友も参加する「フルスペック」の総裁選に

9月17日告示、29日投開票の日程で行われる今回の自民党総裁選は、2020年の前回とは異なり、党員・党友も選挙に参加するいわゆる「フルスペック」の総裁選となる。「フルスペック」の総裁選が実施されるのは、安倍氏と石破氏の一騎打ちとなった2018年9月以来。

今回は、「国会議員票」と「党員票」は同数で、国会議員1人1票の「国会議員票」383票と、全国の党員・党友による投票で配分が決まる「党員算定票」383票の計766票で争われる。

党員投票は党の規程では、昨年までの2年間、党費を納めた党員に選挙権が与えられることになっているが、2018年の総裁選挙と同様、今回も特例で、昨年1年分の党費を納めた党員にも与えられる。

投票は9月28日に締め切られ、「党員算定票」は各都道府県連が集計した得票数を党本部でまとめ、いわゆるドント方式で候補者に配分される。

但し、第1回投票で有効票の過半数を得た候補者がいない場合は、上位2名で決選投票となる。

決選投票は国会議員票383票及び地方票47票の計430票で争われるため、派閥の影響力が大きくなるとみられる。

世論調査では河野氏が支持率トップだが、決選投票となった場合は、形勢逆転の可能性もあろう。

コロナ禍の中、選挙運動には制約があるものの、自民党総裁選の結果は、その後の衆院解散総選挙、来年7月頃に予定されている参院通常選挙へも波及する可能性が高い。

加えて、COVID-19の感染動向は、菅内閣同様、新内閣の支持率等にも大きな影響を与える可能性があり、注目される。

緊急事態宣言及びまん延防止等重点措置が期間延長、区域変更に

政府は9月9日に、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく、新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言及びまん延防止等重点措置の期間延長及び区域変更を決定、13日から適用した。

従来、期間は9月12日までだったが、今回の変更で、新たな期間は9月30日までとなった。

13日からは、緊急事態宣言については、宮城、岡山の2県が重点措置に移行したことで、北海道、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、岐阜、静岡、愛知、三重、滋賀、京都、大阪、兵庫、広島、福岡、沖縄の19都道府県となった。

一方、まん延防止等重点措置は、富山、山梨、愛媛、高知、佐賀、長崎の6県が解除され、宮城、福島、石川、岡山、香川、熊本、宮崎、鹿児島の8県となった(図表1)。

図表1. 新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の実施期間と実施区域

図表1. 新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の実施期間と実施区域

  • 出所:内閣官房資料よりSMBC日興証券作成

12日までは、47都道府県の7割に当たる33都道府県が対象で、全人口の87%(日本人人口)が対象地域だった。

13日からは、47都道府県の6割弱に当たる27都道府県が対象で、全人口の82%(同)が対象地域となり、5%程度減少することになった。

従来、重点措置適用地域では、感染状況が「下落傾向にある」と知事が判断すれば、午後7時までの飲食店の酒類提供を認めていたが、13日からは最長で酒類提供は午後8時まで、営業も午後9時まで可能となった。

但し、首都圏や中京圏、近畿圏等の大都市部では宣言が延長されたことで、9月30日に全面解除されるか否か注目される。

全国の新規感染者は大きく減少、第5波ピークアウトも重症者は高水準

全国の新規感染者は8月に入り急増、8月20日の全国の新規感染者は2万5,868人(NHK調べ)と、過去最多を更新したが、お盆明け後、東京都主体に、新規感染者は減少傾向に転じている。

9月15日の全国の新規感染者数は6,806人(同)と、6日連続で1万人を下回った。

一方で、全国の重症者数は9月15日時点で1,834人と、過去最多となった9月4日の2,223人から減少したものの、第4波のピークの1,413人(5月26日)を上回り、依然高水準だ。

死者数も9月15日は74人と、高止まっている。

新型コロナウイルス感染症対策分科会が9月8日にまとめた緊急事態宣言の解除の考え方では、病床使用率や重症・中等症の患者数が継続して減少傾向にあることなどを解除条件に加え、従来よりも、医療負荷を重視した基準に方針を変更した。

具体的には、病床使用率:50%未満、重症病床使用率:50%未満、入院率:改善傾向にあること、重症者数:継続して減少傾向にあること、中等症者数:継続して減少傾向にあること、自宅療養者数及び療養等調整中の数の合計値:大都市圏では60人/10万人程度に向かって確実に減少していること、救急搬送困難事案が大都市圏で減少傾向にあることなどだ。

今回の第5波は、新規感染者数が最多となっている一方、死者数は抑制、重症者数は最多

一方で、新規陽性者数については、「2週間ほど継続して安定的に下降傾向にあること」を前提とし、足元の絶対数が「ステージ4」基準を超えていても解除を可能とした。

今回の第5波は、新規感染者数が最多となっている一方、死者数は現時点では、年初の第3波、今春の第4波と比較し、抑制されている。

但し、重症者数は最多だ。背景には新規感染者が多いことに加え、ワクチン接種の世代間格差により、第5波では中年・若年層の重症者が多いことが挙げられる。高齢層と比較し、中年・若年層の重症者は生存率が高い一方、入院期間が長期化する傾向があり、累積の重症者数が増加する要因となっていると考えられる。

東京都ではお盆の時期、全国では8月下旬をピークに、新規感染者が減少、ピークアウトした要因

今回、東京都ではお盆の時期、全国では8月下旬をピークに、新規感染者が減少、ピークアウトした要因は何か。

過去の感染波の動向からは、アナウンスメント効果と季節・天候要因が考えられる。

なお、ワクチン接種率に関しては、感染者数や重症者数、死者数、特に、死者数の絶対数には大きな影響をもたらしていると考えられるが、感染波のピークやボトムなどの形状に影響を与えたとは考えにくい。

ワクチン接種はわが国では1日、100万回前後でほぼ均等に実施されており、我が国よりも接種率の高い国、具体的にはイスラエルや英国、米国等でもデルタ株による感染が拡がっていることを勘案すると、新規感染者の急速な減少要因とは考えにくいだろう。

アナウンスメント効果と季節・天候要因

ここでのアナウンスメント効果とは、緊急事態宣言のアナウンスメント効果ではなく、新規感染者の数や医療体制のひっ迫に関する情報等による国民の危機意識、感染防止対策の高まりを意味している。

実際、過去の緊急事態宣言発出時、東京都では感染第1波及び第3波は宣言発出直後が感染のピークとなっており、感染から検査による陽性判定の時間(2週間程度)を勘案すると、宣言のアナウンスメント効果が大きかったとは考えにくい。

第4波では、宣言から2週間程度後にピークをつけているが、第4波はアルファ株(B.1.1.7)が蔓延した近畿圏の動向に注目が集まっていた。

今春の第4波では、大阪府など近畿圏がエピ・センター(感染の中心地)となり、東京の感染は年初の第3波と比較し、抑制されることなった。背景に、東京都では大阪府などと比べ、緊急事態宣言の解除が遅かった一方、まん延防止等重点措置が早期に適用されたという面もあるが、変異株(バリアント)の影響が大きかったと考えられる。

インド由来のデルタ株(B.1.617.2)の脅威が浸透し、医療体制が危機的な状況にあるとの報道が行動変容をもたらした可能性

大阪府や兵庫県では英国由来のアルファ株の感染が急拡大したが、東京都などでは、アルファ株の感染拡大以前に別の変異株の感染が拡大していた。由来不明のE484K単独変異を有する「R.1」系統株だ。「R.1」は、東京都では3月中旬から4月中旬まで主流となっていた。「R.1」は米国等でも一部の地域で流行したが、感染力や重症化率が際立って高い訳ではないことから、WHOや米CDCでは懸念される変異株(VOC)や関心ある変異株(VOI)には指定されていない。

その後、東京都でも、4月中旬にはアルファ株が主流となるが、ウイルス干渉の影響からか、東京都など首都圏では感染爆発には至らなかったと考えられる。

一方、第5波では宣言発出から1カ月以上経過してから、新規感染者数はピークをつけている。インド由来のデルタ株(B.1.617.2)の脅威が浸透し、医療体制が危機的な状況にあるとの報道が行動変容をもたらした可能性が高い。

スペイン風邪(H1N1インフルエンザウイルス・パンデミック)等、呼吸器系の感染症は、気温・湿度・UVが低下する冬場に感染のピークを迎えることが多いがエアコンの普及で夏場の感染が増加

もう一つの要因は季節・天候要因だろう。

スペイン風邪(H1N1インフルエンザウイルス・パンデミック)等、呼吸器系の感染症は、気温・湿度・UVが低下する冬場に感染のピークを迎えることが多い。

但し、2020年の夏は、米国やわが国など、北半球の温帯諸国でも気温の高めの地域で感染が拡大した。

背景には、100年前のスペイン風邪の時には存在しなかったエアコン(冷房)の影響が大きかったと考えられる。COVID-19の感染経路は、接触感染よりも、飛沫やエアロゾルによる感染のケースが多いとされている。密室での感染は、シンガポールの外国人寄宿舎での大規模クラスター等が証明している。

第5波では、6月下旬から7月上旬を起点に、東京都を主体にスタートし、全国に拡がったが、これは、過去の感染波同様、春休み、GW、夏休み、お盆や年末・年始等の連休後に、感染が大都市部から地方部に拡がったケースと同様と考えられる。

一方、8月の中旬以降は、東京では気温が低下、エアコンの使用率が低下した。ちょうど、オリンピック期間中は猛暑が来襲していたが、パラリンピック期間中は天候不順の日が続いたことからもわかる。

結果、危機意識の向上に加え、気温低下等で、マスクの着用率も上昇、感染拡大防止に寄与したと考えられる。

第6波には警戒が必要

第1波及び第2波に対し、第3波がより大きな感染波となったことを勘案すると、第6波には引き続き警戒が必要だろう。

気温・湿度・UV(紫外線)の低下による新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)半減期の長期化は、エアロゾル感染が主流ともみられる、デルタ株の感染力を一段と強める可能性が高い。

デルタ株の感染力を米CDCは公式HPで従来株の2倍超とし、7月29日付けの内部資料では3倍程度との見方を示している。L452R変異を持つバリアントはアジア人にはより高い感染力を持つ可能性も指摘されている。

デルタ株の出現で、対COVID戦争は局面が変化、今冬とみられる「最後の大戦」に備えるには、総動員体制が必要

このまま、感染者が減少すれば、9月末で緊急事態宣言等が解除されることになろうが、今秋は今冬への備えに充てる期間と認識すべきだろう。

第5波では、デルタ・バリアントとワクチンとの攻防が繰り広げられているが、ワクチン接種率が向上することで、今後、重症化率の低下が期待される。

一方で、今冬には、季節要因による新型コロナウイルスの半減期の長期化に加え、ワクチン接種からの時間経過により、高齢者等で抗体価が徐々に低下、ブレイクスルー感染が拡大することも見込まれる。

引き続き、ワクチン接種を推進するとともに、医療体制の立て直しのため、COVID-19の重症や中等症患者の専門病院の設立、民間のクリニック等も含めた総動員体制を早期に構築することが肝要だ。

この場合、大規模病院においては、COVID-19の患者の受け入れを要請することになろうが、中小病院や各クリニックはCOVID-19の患者に直接接触するのではなく、重症者や中等症患者の専門病院のレッドゾーン以外のクリーンゾーンでの支援及び、宿泊療養者や自宅療養者への電話ないしリモートでの支援等を担当することで、クラスター発生を防止するとともに、日常の医療業務との両立を図ることが可能になると認識している。

デルタ株の出現で、対COVID戦争は局面が変化した。今冬とみられる、「最後の大戦」に備えるには、総動員体制で臨むしかないだろう。

4度目の緊急事態宣言の発令で、7月12日から東京都では、観客数上限50%で映画上映

4度目の緊急事態宣言が発令された7月12日以降、東京都では、観客数上限50%で映画の上映が行われている。

僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション

『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション』
2021年8月6日全国東宝系にてロードショー
©2021「僕のヒーローアカデミア THE MOVIE」製作委員会 ©堀越耕平/集英社

前週末(9月11日-12日)の映画の観客動員ランキングでは、『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション』が公開6週目にして2度目となる首位を獲得した(興行通信社調べ、以下同じ)。

「週刊少年ジャンプ」連載中の人気ヒーローアクション漫画を原作とするアニメシリーズの劇場版第3弾だ。

2位以下は本コラムで特集した作品が続いた。

第2位は前前週の首位から1ランクダウンとなった『シャン・チー/テン・リングスの伝説』、米国では興収3週連続第1位と大ヒット中。

第3位の『竜とそばかすの姫』は累計動員429万人、興収59億5,000万円を突破。2015年に公開され58億5,000万円をあげた『バケモノの子』を抜き、細田守監督作品の興収No.1記録を更新した。

第4位は『科捜研の女−劇場版−』、第5位は『かぐや様は告らせたい−天才たちの恋愛頭脳戦−ファイナル』。

ちなみに、米国で前週末興収第2位となったのは『フリー・ガイ』。現在、我が国でも公開中だが、『デッドプール』のライアン・レイノルズさん主演で、何でもありのゲームの世界を舞台に、平凡なモブキャラが世界の危機を救うべく戦う姿を描いたアドベンチャーアクション。ストーリーも良く出来ており、2018年公開の『レディ・プレイヤー1』にやや似た作品。お薦めだ。

10月に向け、公開が延期されていた大作等、内外の注目作品が続々公開

感染第5波が世界的に落ち着きをみせつつあることもあってか、10月に向けては、公開が延期されていた大作を含め、内外の注目作品が続々公開となる。

前月号で特集済だが、9月17日公開の『マスカレード・ナイト』は、東野圭吾氏のベストセラー小説を木村拓哉さんと長澤まさみさんの共演で映画化した『マスカレード・ホテル』のシリーズ第2弾。

9月17日公開の『レミニセンス』は、ヒュー・ジャックマンさん主演のSFサスペンス大作。『インターステラー』『ダークナイト』などクリストファー・ノーラン作品で脚本を担当してきた、クリストファー・ノーラン氏の弟ジョナサン・ノーラン氏が製作を手がけ、ジョナサンの妻でテレビシリーズ「ウエストワールド」のクリエイターとして知られるリサ・ジョイ氏がメガホンをとった。

9月22日公開の『総理の夫』は原田マハ氏の小説「総理の夫 First Gentleman」を、田中圭さんと中谷美紀さんの共演で映画化。『かぐや様は告らせたい−天才たちの恋愛頭脳戦−ファイナル』の河合勇人監督がメガホンをとった。

妻が日本初の女性総理になったことで、自身も史上初のファーストジェントルマンとして担ぎ上げられてしまった鳥類学者の夫が、政界という未知の世界で奮闘する姿を描いた。

10月1日公開の『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』は、英国秘密情報部「MI6」のスパイ、ジェームズ・ボンドの活躍を描く「007」シリーズ25作目。

現役を退きジャマイカで穏やかな生活を送っていたボンドのもとに、CIA出身の旧友フィネアスリックス・ライターが助けを求めにきたことで、平穏な日常は終わりを告げる。誘拐された科学者を救出するという任務に就いたボンドは、その過酷なミッションの中で、世界に脅威をもたらす最新技術を有した黒幕を追うことになる。

本作で降板予定のダニエル・クレイグさんが5度目のボンドを演じ、『ボヘミアン・ラプソディ』のフレディ・マーキュリー役でアカデミー主演男優賞を受賞したラミ・マレックさんが悪役として登場。監督はの日系アメリカ人のキャリー・フクナガ氏。

本作の当初の公開予定は2020年4月世界同時だった。007ファンの筆者は2020年の年初、今回の作品のロケ地であるイタリア、マテーラの世界遺産「洞窟住居」を訪れ、映画のシーンを想像していたのだが、当時はここまで、パンデミックが拡大・長期化するとは予想していなかった。無事、公開されることを祈りたい。

護られなかった者たちへ

『護られなかった者たちへ』
10月1日(金)全国公開
©2021映画「護られなかった者たちへ」製作委員会

10月1日公開の『護られなかった者たちへ』は、中山七里氏の同名ミステリー小説を佐藤健主演、阿部寛さん共演で映画化。『8年越しの花嫁 奇跡の実話』で佐藤さんとタッグを組んだ瀬々敬久監督がメガホンをとった。

東日本大震災から10年、宮城県内の都市部で全身を縛られたまま「餓死」させられるという不可解な連続殺人事件が発生。捜査線上に浮かび上がったのは、過去に起こした事件で服役し、出所したばかりの利根という男。刑事の笘篠は利根を追い詰めていくが、決定的な確証がつかめないまま、第三の事件が起きようとしていた。

なぜ、このような無残な殺し方をしたのか。利根の過去に何があったのか。さまざまな想いが交錯する中、やがて事件の裏に隠された、切なくも衝撃の真実が明らかになっていく。

佐藤さんが容疑者の利根役、阿部さんが利根を追う刑事・笘篠役を演じるほか、清原果耶さん、倍賞美津子さん、吉岡秀隆さん、林遣都さんらが脇を固める。

10月15日公開の『燃えよ剣』は司馬遼太郎氏の歴史小説を、『関ヶ原』の原田眞人監督と岡田准一さん主演の再タッグで新たに映画化。

時は江戸時代末期。黒船が来航し開国を要求。幕府の権力を回復させ外国から日本を守る佐幕派と、天皇を中心に新政権を目指す討幕派の対立が深まりつつあった激動の時代。武州多摩の百姓の少年・土方歳三は、「武士になりたい」という熱い想いを胸に、近藤勇、沖田総司ら同士と共に京都へ向かう。徳川幕府の後ろ盾のもと、芹沢鴨を局長に擁し、新選組を結成。土方は「鬼の副長」と呼ばれ、討幕派勢力制圧に八面六臂の活躍を見せる。そんななか、土方はお雪と運命的に出会い惹かれあう。だが時流は、倒幕へと傾いていく。

土方歳三役を岡田さん、お雪役を柴咲コウさん、近藤勇役を鈴木亮平さん、沖田総司役を山田涼介さん、芹沢鴨役を伊藤英明さんがそれぞれ演じる。

劇場版 ルパンの娘

『劇場版 ルパンの娘』
2021年10月15日公開
©横関大/講談社 ©2021「劇場版 ルパンの娘」製作委員会

10月15日公開の『劇場版 ルパンの娘』は横関大氏の小説を原作に深田恭子が主演を務めた人気ドラマ「ルパンの娘」の劇場版。

代々泥棒一家「Lの一族」の娘として生まれた三雲華(深田恭子)は、あろうことか代々警察一家の息子・桜庭和馬(瀬戸康史)と恋に落ち、その正体を隠しながらも、普通の暮らしを夢見て過ごしていた。やがて和馬はその正体に気づいてしまうが、幾度となく困難を乗り越えた2人は、互いの運命を受け入れ、ついに結婚。杏という子宝にも恵まれ、泥棒一家と警察一家の家族間の問題に振り回されながらも幸せに暮らしていた。

そんなある日、父・尊(渡部篤郎)は、ある出来事をきっかけに「泥棒引退」を宣言。そして、これまで迷惑をかけたと華と和馬に、ちょっと遅めの新婚旅行をプレゼントする。しかしそれは、史上最大のお宝を求める「Lの一族」の最後のお仕事、そして、華も知らない一族の秘密に触れる、壮大な冒険となるのであった。

『翔んで埼玉』『テルマエ・ロマエ』の武内英樹監督が、ドラマ版に続きメガホンをとった。

10月15日公開の『DUNE デューン 砂の惑星』は『ブレードランナー2049』のドゥニ・ビルヌーブ監督が、かつてデビッド・リンチ監督によって映画化もされたフランク・ハーバート氏のSF小説の古典を新たに映画化したSFスペクタクルアドベンチャー。

舞台は西暦1万0,191年。過酷な砂の惑星「アラキス」、通称「デューン」で宇宙を支配する秘薬「メランジ」をめぐるアトレイデス家と宿敵ハルコンネン家の壮絶な戦いが勃発。一族と全宇宙を守るため、戦士として覚醒したポール・アトレイデスが宇宙帝国に挑む。

2022年に世界が正常化するためには、ワクチン接種の促進とともに、経口可能な特効薬の実用化と普及が必要

『DUNE デューン 砂の惑星』の当初の公開予定は2020年12月だったが、パンデミックの影響で10カ月延期となった。

その影響で、ワーナー・ブラザース系列では当初、2021年10月公開予定だった『THE BATMAN ザ・バットマン』は2022年春に延期されている。

ユニバーサル・ピクチャーズは『ジュラシック・ワールド/ドミニオン』の公開を2021年6月から2022年6月に延期。

その他多くの大作や注目作品の公開や製作が延期となっている。

映画界は、外食・旅行・観光業界や航空輸送業界などと並んで、パンデミックの影響を最も強く受けた業種である。

ワクチン接種率の向上で、世界的にワクチンパスポートの導入が進みつつあるが、基礎疾患等の事情以外にも、思想信条や宗教的な理由でワクチン接種を拒否する人々が米国などでは多く、新たな分断の要因ともなっている。

また、ワクチンの感染予防効果も時間経過とともに抗体価が低下することで、ブレイクスルー感染の確率も上昇する。

2022年に世界が正常化するためには、ワクチン接種の促進とともに、経口可能な特効薬の実用化と普及が必要になりそうだ。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。同投資戦略室長、大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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