アナリストの忙中閑話【第126回】

アナリストの忙中閑話

(2021年11月25日)

【第126回】祝MVP 大谷選手、総選挙と経済対策、THE WORLD IS HOT ENOUGH、NO TIME TO DIE、大作公開と制限解除で映画館に人出

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

祝MVP、「リアル二刀流」の本領発揮で、大谷選手は全米でも「記録のみならず記憶にも残る活躍」

今年も残すところ1カ月余りとなった。年初から、様々な事件やイベントがあったが、心から応援し、お祝いできたのは米大リーグエンゼルスの大谷翔平選手の活躍だろう。

「巨人の星」を見て育った筆者も近年はあまり野球を見ないが、7月13日夜(日本時間14日)に開催された米メジャー・リーグ・ベースボール(MLB、我が国では一般に「大リーグ」と呼称)第91回オールスター戦の映像は今でも脳裏に鮮明に蘇ってくる。

今年のMLBオールスター戦は、コロラド州デンバーのロッキーズの本拠地、クアーズ・フィールドで開催され、大谷選手(27)がア・リーグの先発投手と1番指名打者(DH)で出場した。

先発投手と投手降板後のDHでの出場継続は本来できないが、球宴向けの特別ルールで出場。メジャー4年目の大谷選手はファン投票のDH部門1位で初選出され、選手間投票では先発投手として選出。大谷選手は投手として1回裏に3者を打ち取り、勝利投手となった。打者としては2打数無安打。

大谷選手は、前日にはホームラン・ダービーにも出場、トーナメントでは延長戦の上、一回戦敗退となったが、米スポーツ専門局ESPNは500フィート(約152.4メートル)以上の打球を6本放ち、2016年にデータ解析システムであるスタットキャストがMLBの全ての本拠地球場に導入されて以来最多を記録したと伝えている。両日併せ、「リアル二刀流」の本領を発揮した。

その大谷選手、11月18日に発表された米大リーグの最優秀選手(MVP)で、ア・リーグのMVPをメジャー4年目で初めて受賞した。

全米野球記者協会の記者30人による投票で、全員の1位票を獲得。満票で選出されるのは、2015年ナ・リーグのブライス・ハーパー外野手(当時ナショナルズ)以来、6年ぶり。

大谷選手は、選手間投票による年間最優秀選手「プレーヤー・オブ・ザ・イヤー」及びア・リーグ最優秀野手にも選出され、大リーグ機構からは「コミッショナー特別表彰」も受賞しており、記者、選手、コミッショナーと多方面から最高評価を受けた。

他にも、ベースボール・アメリカの年間最優秀選手、スポーティング・ニューズの年間最優秀選手、AP通信社の年間最優秀選手、ベースボール・ダイジェストの野手部門最優秀選手、シルバースラッガー賞、オールMLBチームに2部門選出等、既に受賞は二桁に上っている。

大谷選手は今季、計158試合に出場。打者で46本塁打を、投手では9勝を挙げた。

当に、「記録のみならず記憶にも残る活躍」と、イチロー選手と新庄選手(現日本ハム監督)2人分の活躍を大リーグ4年目に実現したようなインパクトがあった。

是非、来年も、怪我に注意し、大活躍に期待したい。但し、ホームラン王を目指すならオールスター戦のホームラン・ダービーは見送った方が良いかも。但し、これはあくまで凡人の考えることで、大谷選手のような傑物に対するアドバイスにはならないかもしれないが。

第49回衆院総選挙投開票、自民は公示前より議席減も、単独で261議席と絶対安定多数確保

前月号で特集した第49回衆議院議員総選挙は10月31日に投開票が実施された。

岸田首相就任後、初の全国ベースの国政選挙となったが、自民党は前回2017年の選挙の284議席(追加公認含む)及び、公示前の276議席からは、議席を減らしたものの、追加公認含め、261議席と、国会の安定運営に必要な絶対安定多数(17ある全常任委員会で委員長を出し、委員の過半数を確保)を確保した。

投票率は55.93%と、前回を2ポイント強上回ったものの、戦後3番目の低水準

注目された投票率は55.93%(総務省)と前回(53.68%)からは2ポイント強上回ったものの、戦後最低となった2014年の52.66%、2017年に次ぎ、戦後3番目の低水準となった。

今回は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック後初の国政選挙となったが、足元の新規感染者が大幅に減少していたことに加え、各党が分配政策で競いあう形になり、争点が薄れ、有権者の関心が事前予想ほど高まらなかったと考えられる。

今回ほど、午後8時の投票締め切り時点の、各テレビ局の議席予測がはずれたケースは記憶にない

それにしても、今回ほど、31日午後8時の投票締め切り時点の、各テレビ局の議席予測がはずれたケースは記憶にない。

各局の議席予測は、軒並み、自民党の大幅議席減、立憲民主党の議席増が示されていた。フジテレビ予測では、自民党の単独過半数割れとなっていたが、結果は前述の通り。

実は欧米など海外では、世論調査や選挙の出口調査は専門の調査機関が実施していることが多い。それでも、近年は予測がはずれることが増え、MRP等、世論調査に各種統計や国勢調査、選挙調査等のデータを組み合わせて分析する手法が導入されている。

わが国でも、メディアの負担を軽減し、正確性を担保するためには、専門の調査機関の育成が必要かもしれない。

単独で絶対安定多数を確保した岸田首相(自民党総裁)の政権運営は安定化

何れにせよ、今回の結果を受け、単独で絶対安定多数を確保した岸田首相(自民党総裁)の政権運営は安定化が予想される。

尤も、甘利明幹事長が神奈川13区で議席を失い比例復活当選となり、幹事長を辞任、石原派を率いる石原伸晃元幹事長が東京8区で敗北し比例選でも復活当選できず、派閥会長を辞任するなど、派閥の力関係などには影響が出た。

岸田政権が長期政権化するためには、2022年7月頃に予定されている参院通常選挙で勝利する必要

但し、岸田政権が長期政権化するためには、2022年7月頃に予定されている参院通常選挙で勝利する必要がある。

そのためのハードルも多そうだ。

まずは、今冬のCOVID-19の第6波来襲の可能性だ。再度、第4波や第5波のような医療崩壊が起きれば、菅政権のように、内閣支持率が急降下するおそれがある。

また、物価上昇等を受け、既にスタートした欧米の量的緩和縮小に加え、2022年の早期利上げ転換の観測も高まっている。

10月頃に見込まれる中国共産党第20回全国代表大会や11月8日に予定されている米中間選挙を控え、米中の覇権争いも、本格化するおそれがあり、経済や金融市場が再度、不安定化する可能性も否定できない。

第2次岸田内閣発足、過去最大規模の「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」を閣議決定

そうした中、11月10日に召集された特別国会で、岸田氏は第101代内閣総理大臣にに指名され、第2次岸田内閣が発足した。

岸田首相は19日には、選挙戦の公約を実現するため、財政支出で55.7兆円規模と、過去最大規模の「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」を閣議決定した。

間もなく、補正予算が策定され、12月召集見込みの臨時国会で審議されることになる。100年に一度のパンデミック対応とは言え、今回が4回目の経済対策だ。規模ありきではなく、コロナ禍で少子高齢化が一段と進行する中、ワイズ・スペンディングとともに、将来世代の生活改善に繋がるような先行投資に注力する必要があろう。

COP26がグラスゴー気候協定採択し閉幕、初めて石炭の使用削減を明記、但し、石炭火力の「段階的廃止」から「段階的削減」に修正

実は、岸田首相は総選挙直後の11月2日には、COP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)の「ワールドリーダーズサミット」に参加するため、弾丸ツアーで英国北部のグラスゴーに向かった。

COP26は当初、2020年に開催予定だったが、パンデミックで1年延期された経緯にある。

10月31日から11月12日の予定で開催されたが、合意文書の取りまとめが難航、13日夜(日本時間14日)に、COP26に参加した197カ国・地域は「グラスゴー気候協定:Glasgow Climate Pact」を採択し、閉幕した。

「グラスゴー気候協定」では、世界の平均気温の上昇を産業革命前から1.5度に抑える努力を追求するとともに、今回の会議ではCOPとして初めて、人為的な地球温暖化の主要因となっている化石燃料、特に石炭の使用削減を求める内容となった。

但し、インドと中国の強い反対を受け、石炭火力の「段階的廃止(phase out)」ではなく、「段階的削減(phase down)」に向けた努力の加速を各国に要請するという表現に土壇場で修正された。

また、各国は温室効果ガスの今まで以上に削減するほか、気候変動の被害を特に受ける途上国への資金援助を増やすと合意した。

2009年のCOP15で先進国は毎年1,000億ドルを提供し支援すると約束し、前回の合意では2020年まで援助が行われる予定だったが、この目標は未達に終わった。今回、議長は、2025年までに5,000億ドルを拠出すると発言している。

世界の平均気温の上昇を産業革命前から1.5度に抑えるという「1.5度目標」の実現に向けて、さらに温室効果ガス排出量の大幅削減を約束するため、各国は来年また集まると約束した。

また、第6.2条として知られる、各国が炭素クレジットを相互に取引することを許可する規則は、いくつかの運用基準を除いて合意された。

今回の合意に関し、環境NGO等からは、石炭に関する表現が弱められたことに批判が多い一方、石炭対策が初めて明記されたことを評価する声も

議長国英国のボリス・ジョンソン首相は、世界がやがて「グラスゴーのCOP26を振り返り、気候変動の終わりはあそこで始まったと思う」(14日付けBBC)ようになってもらいたいと述べ、「その目標へ向かって疲れ知らずの努力を重ね続ける」(同)と約束した。

ジョンソン首相はさらに、「今後数年の間にさらに膨大な作業に取り組まなくてはならないが、今日の合意は大きな一歩前進だ。何より、石炭使用の段階的に減らしていくという初の国際合意が得られたし、地球温暖化を1.5度に抑えるための行程表がまとまった」と成果を強調した。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は「採択された文書は妥協(の結果)だ。現在の世界の利害や状況、矛盾、政治的意思の状態を反映している」(14日付けロイター)とし、「重要なステップを踏んだが、深い矛盾を克服するに十分な共同の政治的意思は見られなかった」(同)と述べた。

また、グテーレス氏は「私たちのもろい惑星の安全は風前の灯状態だ。私たちは未だに、気候破局を目前にしている」(14日付けBBC)とし、「もはや緊急事態モードに入るべきだ。そうしなければ、(温室効果ガスの実質排出量を)ネットゼロにする可能性そのものがゼロになる」と述べた。

今回の合意文書に関し、環境NGO等からは、石炭に関する表現が弱められたことに批判が多い一方で、気候変動対策に関する国連の合意文書で石炭対策が初めて明記されたことを評価する声もある。

但し、世界の研究者による組織、「クライメート・アクション・トラッカー」は各国の2030年時点の目標では、今世紀末の気温上昇は2.4度に到達すると予測されている。

また、今回の合意文書では、これまでに各国が表明した温暖化ガス削減目標では不十分であることを実質的に認め、より踏み込んだ目標を2022年に設定するよう各国に求めた。これまでは5年ごとに目標を示す必要があった。

温室効果ガスの世界平均濃度が、パンデミック下の2020年に史上最高水準に

国連の世界気象機関(WMO)は10月25日、温室効果ガスの世界平均濃度が、パンデミック下の2020年に史上最高水準に達したという報告書を発表している。

一方、国連気候変動枠組み条約事務局は10月25日公表の報告書で、各国が現行の温室効果ガス排出削減目標を達成しても、壊滅的な気候変動を回避するには十分でなく、「終わりのない苦痛」を味わうことになると警告した。

国連気候変動枠組み条約事務局、10月25日公表の報告書で、各国が現行の温室効果ガス排出削減目標を達成しても、壊滅的な気候変動を回避するには不十分

同報告書はCOP26開幕に合わせて公表されたもので、現状では、気温上昇を産業革命前比で1.5度にとどめるという地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」の目標が未達となる可能性が高いことが明らかになった。

エスピノサ事務局長は「気温が目標を上回って上昇すれば、世界の不安定化と終わりのない苦痛を招くことになる。とりわけ大気中の(温室効果ガス)排出量に関する貢献度が最も低い国・地域が痛みを負うだろう」(10月26日付けロイター)と述べた。

報告書の分析結果によると、各国が現行目標を達成しても、2030年の排出量は10年比で16%増える見通し。世界の気温上昇を1.5度に抑えるには2030年までに45%の排出量削減が必要と指摘し、報告書は、一段と野心的な目標を設定しない限り、今世紀末までに産業革命前と比べた世界の気温上昇が2.7度に達する可能性があるとした。

「世界は十分に暑い、死ぬ暇はない、今こそ、我々の気候コミットメントを言葉ではなく行動で示す時」、今回の合意内容は「それだけでは十分でない」

ジョンソン首相はCOP26の「ワールドリーダーズサミット」の開幕スピーチで、新作の『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』が公開中で、英国が生んだMI6のスパイ「ジェームズ・ボンド」を引用し、気候変動に対処するための「時間がなくなってきている」と強調した。

007シリーズの映画の新作のタイトルは、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』だ。「NO TIME TO DIE」、主題歌を歌うビリー・アイリッシュさんの歌詞に従い直訳すれば、「死ぬ暇はない」となる。

一方、007シリーズ第19作のタイトルは『ワールド・イズ・ノット・イナフ』だ。「THE WORLD IS NOT ENOUGH」は直訳すると「世界を手に入れてもまだ足りない」、映画ではボンド家の家訓とされる。

『ワールド・イズ・ノット・イナフ』が公開されたのは1999年。COP5がドイツのベルリンで開催された年だ。当時は、温室効果ガスによる地球温暖化に懐疑的な見方も多く、翌年の2000年の米大統領選では、環境保護運動家でもある民主党のアル・ゴア副大統領と共和党のジョージ・W・ブッシュ・テキサス州知事が争ったが、僅差でゴア氏は敗北することになった。

但し、その後の地球の平均気温の変化を見ると、ベルリンの壁が崩壊し、中国やロシアなど旧東側諸国と西側諸国の交易が拡大し、新興国の経済成長率が急上昇したタイミングと重なる。

2020年の世界の平均気温は1890年以降で2016年に次ぎ第2位の高温となったが、北半球は最高だ。過去の推移を見ると、1990年代後半以降、北半球の気温上昇が著しく、トレンドを逸脱している。人類の全人口の9割超は北半球に居住しており、気温上昇は人類の活動の影響が大きいと考えられる。

007のシリーズのジェームズ・ボンドとバイデン大統領のサミットでの1日の演説のコメントを合体して言えば、「The World Is Hot Enough、No Time To Die, The Time To Show That Our Climate Commitment Is Action, Not Words.」、「世界は十分に暑い、死ぬ暇はない、今こそ、我々の気候コミットメントを言葉ではなく行動で示す時」ということになろう。また、今回の合意では「It Is Not Enough」、「それだけでは十分ではない」ということになりそうだ。

2日の岸田首相の演説に「化石賞」、「化石大賞」はオーストラリアが受賞

一方、我が国に対しても、特に、石炭火力の廃止に関し、今後、海外からの圧力が高まることが予想される。

議長国のジョンソン首相は今回のCOP26の目玉を石炭火力の廃止に向けた道筋付けとしたかった模様だ。ジョンソン首相は、先進国は2030年までに石炭火力発電の廃止、途上国も2040年までの廃止を掲げている。

10月のジョンソン首相と岸田首相との電話会談では、ジョンソン氏が「国内の石炭火力発電の廃止に関する日本の誓い」への期待を表明している。

但し、2日の岸田首相の「ワールドリーダーズサミット」での演説では、「1.5度目標」や石炭火力の廃止には触れず、100億ドルの途上国支援に積み増し(5年間に約700億ドル)や化石火力をアンモニア・水素などのゼロエミッション火力への転換支援等を強調。

結果、我が国は、NGO連合・気候アクションネットワーク(CAN)が気候変動対策に後ろ向きとみられた国に贈る「化石賞」を2日に受賞することになった。

なお、「化石大賞」を受賞したのは期間中に6回も「化石賞」を受賞したオーストラリア。

12月発足のドイツ信号連立政権は脱石炭の時期を2038年から2030年への前倒しを目指す方針

9月のドイツ連邦議会選挙で第1党となった社会民主党(SPD、政党カラーは赤)は24日、第3党の緑の党(緑)と第4党の自由民主党(黄)と、いわゆる「信号連立」で合意した。各党の機関決定及び連邦議会の議決を経て、SPDのオラフ・ショルツ副首相兼財務相が12月上旬にもアンゲラ・メルケル首相の後継に就くことになる。

連立合意には最低賃金の12ユーロ(約1,550円)への引上げの他、脱石炭の時期を2038年から2030年への前倒しを目指すことが盛り込まれた。

フランスは原発の新設を進める方針で、欧州は脱石炭へのアクセルを踏み込み始めたと言えそうだ。

米国の政策動向も不透明、気温上昇を1.5度以内にとどめるための気候変動対策を人類が一致団結して推進するための道のりは険しい

一方、米国のジョー・バイデン大統領が公約に掲げ、11月19日に下院を通過し、上院での審議は12月上旬が山場となるとみられる「ビルド・バック・べター法案:Build Back Better Act」の修正案には、クリーンエネルギーと気候変動対策のために5,550億ドルの予算が計上されている。

なお、総額1兆2,000億ドル、新規分で5,500億ドル規模の「インフラ投資雇用法案:Infrastructure Investment and Jobs Act」は11月15日に成立したが、バイデン大統領の支持率は足元、平均支持率で41.6%(RCP、11月23日現在)と、政権発足後最低水準に低下している。平均不支持率は53.1%。

2022年11月8日投票の米中間選挙や2024年の米大統領選の結果次第では、米国の気候変動対策が再度、大転換し、パリ協定からの再離脱の可能性もゼロではない。

また、足元では、ガソリン価格の上昇など、供給制約に伴うインフレ懸念も台頭しており、米バイデン政権はわが国などと協調し、戦略石油備蓄(SPR)を放出する方針を発表している。

気温上昇を1.5度以内にとどめるための気候変動対策を人類が一致団結して推進するための道のりは険しいと言わざるを得ないだろう。

東京都でも制限全面解除で映画館に賑わい

4度目の緊急事態宣言が9月30日に全面解除となったことで、東京都では、10月1日、観客数上限や上映時間の制限も解除された。

当初設けられていた飲食売店の営業時間制限やアルコール類の終日販売休止も解除され、現在ではビール等を飲みながらの映画鑑賞も可能となった。

夜間の上映開始時間が遅くなったことで、サラリーマン等の観客も増え、映画館は賑わいを取り戻している。

公開が延期されていた大作・注目作品が今後も続々と公開

集客に寄与しているのが、公開が延期されていた大作・注目作品の一斉公開だ。

前週末(11月20日-21日)の映画の観客動員ランキングでは、『映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ』が2週連続で1位を獲得した(興行通信社調べ、以下同じ)。

2位には公開から4週目を迎えた『そして、バトンは渡された』が前週の3位から浮上。第16回本屋大賞を受賞した瀬尾まいこ氏の同名ベストセラー小説を、永野芽郁さん、田中圭さん、石原さとみさんの共演で映画化。累計では動員82万人、興収10億円を突破。既に鑑賞したが、周りはすすり泣く人で溢れ、筆者も目頭が熱くなった。但し、鑑賞後の気分は爽やかでお薦めの作品。

3位には新作『土竜の唄 FINAL』が初登場。シリーズ累計発行部数950万部突破を誇る、高橋のぼる氏による大ヒットコミックスを監督・三池崇史×脚本・宮藤官九郎コンビで実写映画化した、シリーズ第3弾にして完結編となるジェットコースターエンターテインメント。1、2作目に続き主演を務める生田斗真さんのほか、鈴木亮平さん、岡村隆史さん、菜々緒さん、滝沢カレンさんらが共演。

前月号で特集し、公開から3週目を迎えた『エターナルズ』は、2ランクダウンの4位にランクイン。累計では動員63万人を突破、興収は間もなく10億円を超える。

劇場版「きのう何食べた?」

『劇場版「きのう何食べた?」』
2021年11月3日全国東宝系にてロードショー
©2021 劇場版「きのう何食べた?」製作委員会
©よしながふみ/講談社

同じく公開から3週目となる『劇場版 きのう何食べた?』は前週と変わらずの5位。よしながふみ氏の人気漫画を西島秀俊さんと内野聖陽さんの主演でドラマ化して話題となった「きのう何食べた?」を、ドラマ版のキャスト&スタッフで映画化した劇場版。

雇われ弁護士の筧史朗(シロさん)とその恋人で美容師の矢吹賢二(ケンジ)にとって、2人でとる夕食の時間が日々の大切なひとときとなっている。累計で動員69万人を突破。こちらも興収は間もなく10億円に。

なお、7位に入った『老後の資金がありません!』もお薦め。定年退職後や配偶者に先立たれた場合の人生設計を面白おかしく、かつ真面目にシミュレーションするのに役立つ作品だ。

公開から8週目を迎えた9位の『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は累計で動員178万人、公開から6週目となる10位の『燃えよ剣』が動員80万人を突破。

『マトリックス』が復活

11月26日公開の『ミラベルと魔法だらけの家』は、『ズートピア』『モアナと伝説の海』のディズニーが贈るミュージカル・ファンタジー。

魔法の力に包まれた、不思議な家に暮らすマドリガル家。家族全員が家から与えられた「魔法の才能(ギフト)」を持つ中で、少女ミラベルだけ何の魔法も使えなかった。ある日、彼女は家に大きな「亀裂」があることに気づく。それは世界から魔法の力が失われていく前兆だった。残された希望は、魔法のギフトを持たないミラベルただひとり。なぜ、彼女だけ魔法が使えないのか? そして、魔法だらけの家に隠された驚くべき秘密とは?

12月3日公開の『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』はマーベルコミックのダークヒーロー、ヴェノムの活躍を描いたトム・ハーディ主演作『ヴェノム』(2018年公開)の続編。

「悪人以外を食べない」という条件でエディの体に寄生し、彼と共同生活を送る地球外生命体(シンビオート)のヴェノムは、食欲の制限を強いられストレスの毎日を過ごしていた。そんな中、未解決事件の真相を追うジャーナリストのエディは、サン・クエンティン刑務所である死刑囚と再会する。その男の名はクレタス・キャサディ。これまで幾度となく猟奇殺人を繰り返し、収監されたシリアルキラーで、彼には死刑執行の時が迫っていた。「私の秘密を教えよう」と不気味にほほ笑み、エディに対し異様な興味を示すクレタス。突如その時、クレタスはエディの腕へと噛みつき、エディの血液が普通の人間とは異なることに気づく。死刑執行の時、ついにクレタスはカーネイジへと覚醒。世界を闇へと変えていく。

12月10日公開の『あなたの番です 劇場版』は2019年に日本テレビ系列で放送され、都内マンションで新婚生活を始めた夫婦が住民たちの「交換殺人ゲーム」に巻き込まれていく様子を予想外な展開の連続で描いたテレビドラマ「あなたの番です」の劇場版。テレビ版に引き続き秋元康氏が企画・原案、原田知世さんと田中圭さんが主演を務め、もしもマンションの住民会に出席したのが妻ではなく夫だったら、そして交換殺人ゲームが始まらなかったら、というパラレルワールドを描く。

12月17日公開の『マトリックス レザレクションズ』は1999年に公開され、革新的な映像技術とストーリーで社会現象を巻き起こした『マトリックス』シリーズ4作目。2003年公開の続編『マトリックス リローデッド』『マトリックス レボリューションズ』で3部作完結となった同シリーズの新たな物語を描く、18年ぶりとなるシリーズ新章。ストーリーは第1作『マトリックス』の続編。主人公ネオを演じるキアヌ・リーブスさんが前作に続き同役を演じ、トリニティー役のキャリー=アン・モスさんらが過去のシリーズから続投。シリーズの生みの親であり、過去の3作品を監督しているラナ・ウォシャウスキー氏がメガホンをとった。

真実の先を知りたいか?目に見えるものが真実とは限らない。あなたが疑ったこともないこの「現実」は、本当に「現実」なのか?知りたければ赤を。知りたくなければ青を。何を信じるべきか、自分の目で見極めろ。未来を選ぶとき、あなたの世界は一変する。

同じく12月17日公開の『ボス・ベイビー ファミリー・ミッション』は見た目は赤ちゃんだが知能は大人の主人公ボス・ベイビーの活躍を描いた、ドリームワークス・アニメーションによる映画『ボス・ベイビー』の続編(日本公開2018年)。

見た目は赤ちゃん、中身はおっさんだった「ボス・ベイビー」のテッドは成長し、正真正銘のエリート社長に。一方、兄のティムはタビサとティナという2人の娘に恵まれ、専業主夫として幸せな家庭を築いていた。すっかり疎遠になっていた2人は、久々に再会してもすぐに喧嘩を始める始末。そんな彼らを見かねたまだ赤ちゃんのティナが、2人に突如語り掛ける。「ワタシもボスなの。ベイビー社から新たな任務を伝えに来たわ」悪の天才博士が、赤ちゃんを操り世界征服を企んでいると聞いたテッドとティムは、スーパーミルクで赤ちゃんに戻って再びコンビを結成し潜入捜査に突入!家族を世界を救うため、彼らは史上最大のミッションを達成できるのか? 12月24日公開の『キングスマン:ファースト・エージェント』は英国紳士が過激なアクションを繰り広げるスパイアクション『キングスマン』シリーズの3作目。「キングスマン」の誕生秘話を描く。レイフ・ファインズさんとハリス・ディキンソンさんが新たなコンビを組んだ。監督、脚本、製作はシリーズ全作を手がけるマシュー・ボーン氏。

舞台は第1次世界大戦勃発の危機が迫る、ヨーロッパ。イギリス、ドイツ、ロシアと、大国間での陰謀が渦巻き不穏な空気が漂うなか、英国貴族のオックスフォード公(ファインズ)に連れられ、息子のコンラッド(ディキンソン)が訪れたのは、高級紳士服テーラー「キングスマン」だった。世界の危機を前に、世界最強のスパイ組織が立ち上がる。

劇場版 呪術廻戦 0

『劇場版 呪術廻戦 0』
2021年12月24日全国東宝系にてロードショー
©2021「劇場版 呪術廻戦 0」製作委員会

12月24日公開の『劇場版 呪術廻戦 0』は「週刊少年ジャンプ」連載の大ヒットコミックを原作とする人気テレビアニメ「呪術廻戦」の劇場版。原作者の芥見下々氏が本編連載前に短期集中連載で発表した前日譚「呪術廻戦0 東京都立呪術高等専門学校」を基に、呪いと化した幼なじみに憑かれた青年・乙骨憂太の「愛と呪いの物語」を描く。

自身の死刑を望む高校生・乙骨憂太。幼少の頃、結婚の約束を交わした幼馴染・祈本里香を交通事故により目の前で失った彼は、呪いと化した彼女に憑かれ苦しんでいた。

そんな中、「呪い」を祓う為に「呪い」を学ぶ学校「東京都立呪術高等専門学校」の教師であり、最強の呪術師・五条悟が現れ、乙骨を呪術高専に転入させる。呪いと化した里香によって周りの人々を傷つけてしまう日々を送っていた乙骨は、「生きてていいという自信が欲しい」と、呪術高専で里香の呪いを解くことを決意。同級生の禪院真希・狗巻 棘・パンダと共に呪術師として歩みだすのだった。

アニメシリーズでの本格的な登場は本作が初となる乙骨の声を「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズで碇シンジ役の緒方恵美さんが演じる。

2022年は「ポストコロナ」?それとも「ウイズコロナ」?気象庁は11月10日、ラニーニャ現象の発生を認定

来週は12月、「師走」だ。「師走」の語源ははっきりしないが、この言葉の持つ語感が年末の「せわしなさ」にマッチしているのは確かだろう。

但し、時間感覚は相対的だ。還暦を迎えた年齢のせいか、今年の正月はつい最近のことのように思え、パンデミックの影響で、今年と昨年の区別もいまひとつだ。

本来、筆者もボランティアも務めた東京オリンピックが今年2021年を際立たせるはずだが、原則無観客で開催された「TOKYO 2020」のロゴが益々、2020年との境界線をあいまいにさせる。

来年こそは、「ポストコロナ」元年として、『マトリックス レザレクションズ』のように、レザレクション(復活)ないしリブート(再起動)の年にしたいものだが、世界的には第6波となる、新しい感染波に襲われている欧州などの現状を見ると、当面は「ウイズコロナ」で新しい生活様式を楽しむしかないのかもしれない。

それにしても、欧州に加え、韓国など西太平洋地域でも感染が拡大する中、我が国の新規感染者の少なさは異色とも言える。

背景に高いマスク着用率があるのは間違いないだろう。米ワシントン大学によると、11月8日現在、マスク着用率の世界平均は55%。

主要国で、高い順に、韓国94%、日本92%、カナダ69%、イタリア65%、中国59%、インド59%、ブラジル58%、ロシア57%、フランス46%、オーストラリア45%、ドイツ42%、ベルギー40%、米国36%、オーストリア30%、英国27%、オランダ7%。因みに、スウェーデンは2%だが、集団免疫政策を採っていることが背景にある。

ワシントン大のIHMEは95%をユニバーサルマスクとして推奨している。

オランダで過去最多の感染者が発生しているのは、当然とも考えられるが、我が国よりも着用率の高い韓国で、感染者が急増している背景には、やや早すぎた社会経済活動の再開に加え、高緯度で寒く、屋内活動が活発化していることが背景にありそうだ。また、ワクチンの種類が影響している可能性も考えられる。

我が国では11月24日現在で、接種済ワクチンの割合はファイザー製が83.7%、モデルナ製が16.2%、アストラゼネカ製が0.1%。一方、韓国ではファイザー製が53%、アストラゼネカ製が33%、モデルナ製が9%、ヤンセン(ジョンソン&ジョンソン)製が3%で、高齢者におけるアストラゼネカ製ワクチン接種が多いことがブレイクスルー感染を早めている可能性がある。

24日の東京の新規感染者は5人と、今年最少を更新したが、冬の到来を控え、完全に安心するのはまだ早いだろう。

気象庁は11月10日、ラニーニャ現象の発生を認定した。

11月24日発表の12-2月の3か月予報では、ラニーニャ現象の影響で、東日本以西は寒気の影響を受けやすいため、向こう3か月の気温は東日本で平年並か低く、西日本と沖縄・奄美で低いと見込まれている。

冬場には気温・湿度・UV(紫外線)の低下に伴い、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の半減期が長期化、エアロゾル感染も拡大しやすくなる。

今回のパンデミックにおいて、従来株の感染では、昨年の第3波が最大となったが、100年前のスペイン風邪(H1N1インフルエンザウイルス)のパンデミック時には、冬にかけて、2度の大きな感染波が生じた経緯にある。

老婆心、もとい老爺心ながら、感染予防対策だけは当面、継続が必要だろう。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。同投資戦略室長、大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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