アナリストの忙中閑話【第129回】

(2022年2月17日)
【第129回】北京冬季五輪とウクライナ情勢、対COVID最後の大戦が山越す、ドライブ・マイ・カーが米アカデミー賞作品賞にノミネート
金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙
北京冬季オリンピックが開幕、既にメダル獲得数は過去最多に
北京冬季オリンピック(第24回オリンピック冬季競技大会)が2月4日に開幕し、20日の閉会式まで、実質19日間(競技開始は2日)の熱戦が行われている。7競技、109種目を実施。90以上の国・地域から約2,900人の選手が参加。
今大会では、新疆ウイグル自治区等における中国の人権侵害への抗議から、米英豪など欧米諸国が「外交的ボイコット」を表明。国家首脳級の開会式出席は、ロシアのプーチン大統領や国連のグテレス事務総長、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長ら約30カ国・機関の首脳に限られた。
我が国の冬季五輪でのメダル獲得数は、前回の平昌大会での13個が最多、金メダルは長野大会の5個が最多(図表)。
6日にはノルディックスキー・ジャンプ男子で小林陵侑選手が金メダルを獲得した。ノーマルヒルでの金獲得は、1972年の札幌大会の笠谷幸生選手以来、50年ぶり。ジャンプ男子の金獲得は1998年の長野大会で船木和喜選手がラージヒルで獲得して以来、24年ぶり。小林選手はラージヒルでは銀メダルを獲得、ジャンプ個人競技での金銀獲得は長野大会の舟木選手以来。
また、11日には、平野歩夢選手がスノーボード・ハーフパイプで日本人初の金メダルを獲得。平野選手は、2014年のソチ、2018年の平昌で銀メダル獲得、今回、3度目の正直に。
メダル獲得総数でも16日時点で14個と、過去最多となった。
国際情勢はさておき、選手の活躍に祝福を送りつつ、大会終盤及び今後に期待したい。
冬季オリンピックにおける日本のメダル獲得数
- 出所:JOC資料よりSMBC日興証券作成
オリンピックは「平和の祭典」だが、過去は休戦期間中に国際紛争が度々勃発
オリンピックは「平和の祭典」とされる。紀元前776年に古代ギリシアのエリス地方にあるオリンピアで始まったとされる古代オリンピックでは、ゼウス神に捧げる競技祭のために「エケケイリア(聖なる休戦)」と呼ばれる休戦期間を設けた。
また、フランスのピエール・ド・クーベルタン男爵によって1896年第1回大会がアテネで開催された近代オリンピックも、スポーツを通じて平和な世界の実現に寄与することが目的に掲げられた経緯にある。
そうした精神を受け継いで、現在でも、オリンピックとパラリンピックの開催期間及びその前後の1週間は、休戦の順守が呼び掛けられている。
今回も国連総会は2021年12月2日の本会議で、中国が提出した北京冬季オリンピック・パラリンピックに合わせた休戦を加盟国に求める中国提出の決議案を議場の総意として、無投票で採択済だ。
但し、過去、「平和の祭典」の精神が尊重され、休戦が順守されたかは疑わしい。
むしろ、ナチス・ドイツが、1936年のベルリン夏季大会及びガルミッシュ・パルテンキルヘン冬季大会を国威発揚の場に利用したり、満州事変から第2次世界大戦に至る過程で、1940年の東京夏季大会及び札幌冬季大会が返上されることになった。
また、旧ソ連によるアフガニスタン侵攻への反発から、西側諸国が1980年のモスクワ夏季大会をボイコット、報復として、東側諸国が1984年のロサンゼルス夏季大会をボイコット。
最近でも、2008年の北京夏季大会(8月8日開会式、24日閉会式、競技開始6日)中の、2008年8月7日には、南オセチア紛争が発生している。当時、プーチン首相は北京の開会式に出席していた。
2014年のソチ冬季大会(2月7日開会式、23日閉会式、競技開始6日)直後の23日頃から、ウクライナ東部で紛争が発生、クリミア危機が発生している。
ウクライナ情勢が緊迫化
今回も、ウクライナに対するロシアの軍事侵攻の可能性がバイデン大統領を含む、欧米諸国の首脳から発信されており、ウクライナ情勢が急激に緊迫化している。
なお、2008年同様、プーチン氏は、今回は大統領として、4日夜に開催された北京オリンピックの開会式に出席した。果たして、歴史は繰り返されるのであろうか。
米紙ワシントン・ポストは2021年12月3日、米情報機関の機密情報等を基に、ロシアが2022年初めにもウクライナ侵攻を計画していると報じた。計画には装甲部隊など100個大隊、17万5,000人の要員を動員、多正面作戦になる見通しだとし、ロシア軍がウクライナ北部、北東部、南東部、クリミア半島の4カ所に集結していると伝えている。
2月20日の閉会式が近づく中、各国の首脳外交に加え、情報戦も活発化
2月20日の閉会式が近づく中、ウクライナ情勢を巡る各国の首脳外交に加え、情報戦も活発化している。
ドイツのショルツ首相は15日、モスクワを訪れ、ロシア大統領府でプーチン大統領と会談した。ショルツ氏は今月7日には、米ホワイトハウスでバイデン大統領と会談し、14日には、ウクライナを訪問、ゼレンスキー大統領とも会談している。
天然ガスの供給等でロシアとの経済関係も深いドイツが、フランスのマクロン大統領に続き、首脳外交を繰り広げることになっている。欧州におけるウクライナ問題の重要性を物語っていると言えそうだ。
「2月16日」には、ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始する可能性との報道相次ぐ
一方で、ショルツ氏のロシア訪問後の「2月16日」には、ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始する可能性があると欧米メディアが一斉に報じた。元になった情報は米政府からとみられるが、米政府は公式には、16日という日付けには言及しておらず、「早ければ」という意味と考えられる。
こうした報道に対し、ウクライナのゼレンスキー大統領は14日夜の国民向けテレビ演説で、16日を国家の「団結の日」とすると宣言。ゼレンスキー氏は、「2月16日が侵攻の日だと言われている。われわれはこれを団結の日とする」とし、関連する命令に署名したと説明した。16日には式典が行われ、軍事侵攻は16日にはなかった。
ロシア国防省は一部の部隊が演習完了後、基地に撤収と発表、米欧は懐疑的
一方で、ロシアメディアは15日、ロシア国防省の発表として、ロシアの西部軍管区と南部軍管区の一部の部隊が軍事演習の完了後、基地に戻るため鉄道車両に装備を積み込んでいる映像を報道している。
但し、NATOのストルテンベルグ事務総長は15日、NATO本部での会見で、「ロシア軍の減少の兆候は何もみられない」として慎重な姿勢を崩していない。
一方で、「ロシア側も外交的対話を模索する態度を示している」と述べたうえで、「慎重ながらも楽観視できる理由にもなる」と、外交努力による事態収拾に期待感を示した。
バイデン大統領も15日の国民向け演説で、一部のロシア軍部隊がウクライナの国境から基地に戻っていることを米国がまだ確認していないと述べた。
また、バイデン氏は、ロシア軍は以前の約13万人の推定から大幅に増加し、15万人以上の軍隊を配置したと述べ、「侵略は明らかに可能である」と述べた。
依然、予断を許さない状況、ロシア軍は今回、東部軍管区等からも部隊を移動、現在、世界中で軍事演習中
15日の欧米市場や16日の東京市場では、ロシア軍部隊の一部撤収報道を受け、地政学的リスクの後退から、株価と長期金利が上昇したが、現段階での動きは、欺瞞工作等情報戦の一環の可能性もあり、予断を許さない状況と言えそうだ。
まず、今回のロシア国防省の発表では、西部軍管区と南部軍管区の一部の部隊が、軍事演習の完了後、基地に戻り始めたとしているが、その規模等は未発表であることだ。
作戦・戦略司令部(OSK)の機能を持つロシアの軍管区は現在、西部軍管区、南部軍管区、中央軍管区、東部軍管区、北方艦隊の5つが存在するが、一部撤収が発表されたのは、ウクライナ国境に近い地域を統括する西部軍管区、南部軍管区のみだ。今回、ロシア軍は、現在15万人規模(バイデン氏)、最終的に17万人規模(WP紙報道)の部隊を集結させるため、ウラルやシベリア西部を統括する中央軍管区やシベリア東部や極東地域を統括する東部軍管区からも機甲部隊や航空機、艦船を移動させている模様だ。国家親衛隊など準軍隊の集結報道もある。国防省の発表では、それらの部隊への言及がない。
また、現在、隣国のベラルーシでは、ロシア軍とベラルーシ軍による、合同軍事演習「同盟の決意2022」が10日から20日までの日程で実施されている。
演習は、黒海や極東地域など、世界的な規模でも実施されている。岸防衛相は2月15日の記者会見で、2月1日以降、日本海とオホーツク海でロシア海軍の艦艇24隻を海上自衛隊の護衛艦などが確認したと発表した。
今回のウクライナ情勢の緊迫化は最近始まった訳ではない。西部軍管区、南部軍管区の部隊は、2021年秋から、ウクライナ国境沿いに展開しており、当然、補給や休息のためのローテーション移動は必要となる。ロシア国防省の発表が事実としても、ウクライナ侵攻問題との関連は現時点では不確かだ。
ロシア軍は国境地帯の部隊のうち、長距離砲やロケット砲を射撃位置に移動させたとの報道も
むしろ、重要なのは、侵攻時の第一撃となる、航空戦力やミサイル、長距離砲、ロケット砲などの展開状況だろう。仮に、ウクライナの首都キエフの占領を狙うとするなら空挺部隊(エアボーン)も重要だ。
サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は11日、ロシアはウクライナ侵攻に十分な兵力を集結させたとし、侵攻はいつ開始されてもおかしくはないとの見方を示した。おそらく空爆やミサイル攻撃で始まるとの見解を示し、首都キエフへの奇襲もあり得るとした。
長距離砲やロケット砲などはここ数日で臨戦態勢が整った可能性が高い。米CBSニュースは14日、米政府当局者の話として、ロシア軍がウクライナ国境地帯に集結中の部隊の一部を「攻撃態勢」に移行させたと報じた。米当局者によると、ロシア軍は国境地帯の部隊のうち、長距離砲やロケット砲を射撃位置に移動させたとのこと。
国防総省のカービー報道官も同日の記者会見で、ロシアは即座に攻撃に移ることが可能だと分析した。
英国のジョンソン首相も15日、ロシア軍による野戦病院の設営や大隊戦術群のウクライナ国境付近への移動が続いているとし、部隊の撤収には懐疑的な姿勢を示している。
侵攻のタイミング、「北京オリンピック」と「ラスプティッツァ」がキーワード、焦点となる「Xデー」?向こう1か月間は情報戦も継続の可能性
ロシア軍とウクライナ軍を比較すると、航空戦力や海軍艦艇等では、大きな戦力差がある。
仮に本格的な戦闘が発生すれば、緒戦はロシア軍の優位は動かないとみられる。
但し、戦車など機甲部隊の移動には大きな制約がある。「ラスプティッツァ(雪解け)」の訪れだ。
13世紀のモンゴルのノヴゴロド共和国の侵略、1812年のナポレオンのモスクワ攻略、第2次世界大戦時の独ソ戦車戦でもみられたように、ロシアやウクライナの大地は12月から2月にかけて、完全に凍り付き、戦車等機甲科部隊の移動に適すが、3月下旬から4月になると、「ラスプティッツァ」によって、泥濘(ぬかるみ)となり、移動に大きな制約となる。
なお、「ラスプティッツァ」は秋から初冬にも起きることから、戦地での大規模な機甲師団の移動は夏か冬に限られることになる。
仮に、今回、ロシアによるウクライナ軍事侵攻があると仮定した場合、焦点となる「Xデー」は、北京オリンピックが閉幕し、ロシア軍とベラルーシ軍の共同演習が終了する2月20日の直後から、遅くとも3月上中旬までとなる可能性が高い。
逆に言えば、ロシアによる、瀬戸際戦術も、向こう1か月間が焦点となることが予想される、ロシアと欧米との情報戦も、まだまだ続くことになりそうだ。
戦闘長期化なら、ロシア軍に大きな損害も、経済的にも大ダメージ
一方、ロシア軍によるウクライナ侵攻が現実化した場合、正面戦力で劣るウクライナ軍はゲリラ戦的な抵抗を続けることで、春を待ち、雪解けによる泥濘で、ロシア機甲師団の動きが止まる前に、ロシア軍の撤退を促す戦術にならざるを得ないだろう。
都市部でのゲリラ戦等では、ウクライナ軍が欧米から供与された「FGM-148ジャベリン」など対戦車ミサイルで戦車や装甲車を、「FIM-92 スティンガー」など地対空ミサイルでヘリコプターや低空飛行の航空機等を迎撃する戦術はロシア軍の脅威となりそうだ。しかも、首都キエフが陥落せず、抵抗が続く限り、NATO諸国等からの支援は続くことになり、継続戦闘能力も維持されることになる。
ウクライナの人口は、約4,400万人と、ロシアの1億4,400万人の3割にあたる。ウクライナ軍の総兵力は20万4,000人だが、準軍隊が8万8,000人、予備役を90万人擁しており、ウクライナ国内でのゲリラ戦となれば、ロシア軍にも相当な損害が出る可能性が高い。
ロシアにはクリミア併合後、欧米諸国の経済制裁が続いているが、今回、ウクライナを侵攻すれば、米国などは、ノルドストリーム2の稼働禁止に加え、重要製品の禁輸、スイフト(SWIFT)からの締め出し等を表明しており、中国の支援なくしては経済面で立ち行かない事態となることも想定される。
戦争は偶発的に起きることもあり、暫くはウクライナ情勢からは目が離せない
こうした状況を鑑みると、今冬から今春のウクライナ侵攻の可能性は低く、少なくとも、北京オリンピック開催期間中の侵攻の可能性は低いと予想している。
但し、戦争は偶発的に起きることもあり、暫くはウクライナ情勢からは目が離せないと言えそうだ。
地政学的リスクの高まりで原油価格高騰、WTI原油先物が2014年10月以来の90ドル台に
地政学的リスクの高まりは、原油価格高騰に繋がることが多い。第4次中東戦争とオイルショック(石油危機)が有名だが、御多分に漏れず、今回も、米国の原油の指標であるWTI先物価格が急騰。
2月3日のニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)で原油先物相場は続伸。WTI期近の3月物は1バレル90.27ドルで取引を終えた。90ドルを上回るのは2014年10月以来、7年4カ月ぶり。
ちなみに、WTI先物が過去最高値の147ドルをつけたのは、リーマンショック直前の2008年7月だが、イラン情勢の緊迫化が原油先物の高騰に影響していた。
当時、筆者が会った欧米のヘッジファンドの担当者は、8月までに、イスラエルがイランを空爆し、イランがホルムズ海峡を封鎖する可能性があるとして、原油先物を買い建てていると話していた。
イランの大統領は対外強硬派のアフマディーネジャド氏で、イスラエルとの関係が緊迫化していた。
実は、その背景にはロシアも関与していた。ロシアはイランに当時、輸出仕様としては、最新鋭のS300地対空ミサイルシステムの売却契約を締結、年内には実戦配備されるとみられていた。
イスラエルが空爆を急いだとされる背景にはそうした事情があった。但し、米国のブッシュ大統領がロシアと協議し、ロシアが輸出契約を解除(後に2015年に再契約、現在では実戦配備済)したことや、サイバー攻撃等で、イランの核開発に打撃を与えたことで、空爆は実行されなかったとされる。
WHOが新型コロナウイルスによる肺炎発生に関し、「国際的な公衆衛生上の緊急事態」を宣言してから、2年が経過
WHO(世界保健機関)が新型コロナウイルス(2019-nCoV、当時)による肺炎発生に関し、「国際的な公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言したのは、2020年1月30日。既に、2年以上が経過したが、この間、世界及び我が国では、同年春(北半球)、夏、冬、2021年春、夏、冬と、6回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染波が確認されている。
丸2年、パンデミック状態が続いているCOVID-19ではあるが、そろそろ出口が見えてきたようだ。
対COVID-19戦争は「エンドゲーム:終局」に、「ラスト・グレート・ウォー:最後の大戦」も山を越す
WHOによると、COVID-19の週次(2月7日から2月13日)の新規感染者数は2週連続で減少した。1週間の確認症例数は約1,629万人。前週比では▲357万人。
筆者は、オミクロン株による感染第6波を対COVID戦争における「ラスト・グレート・ウォー:最後の大戦」と定義しているが、世界的な感染のピークは過ぎたようだ。
一方、週次の新規死者数は6週連続の増加となった。約7万5,000人と、第4波の2021年5月以来の高水準。
オミクロン株の感染例では、重症化率はデルタ株等に比べ低いものの、感染者数の急増で、欧米諸国では医療ひっ迫が起きており、世界的にも、暫くは重症者数や死者数も増加傾向が続くと想定される。
実際、米国では、オミクロン株による新規感染者数は1月中旬にピークアウトしたが、入院者数や重症者数がその後、急増。死者数も、デルタ株による、昨年夏の感染波を抜いて、第3波の昨冬以来の水準に増加している。
我が国でも新規感染者数は10万人台となり、過去最多を更新後、ピークアウト
我が国でも、全国の新規感染者数は2月5日に、10万5,618人(NHKまとめ)と、10万人を突破し、過去最多を更新したが、その後、ピークアウトしたとみられる。
一方で、重症者数や死者数は増加が続いており、特に、死者数は、過去最多の水準に増加している。
米ワシントン大の保健指標評価研究所(IHME)は、1月21日付けレポートで、報告された症例の最初の大きな急増から報告された症例のピークまでのタイミングを見ると、国全体で約20〜25日かかっており、これは、ワクチン接種率等に影響していないとしている。背景にはオミクロン株の感染力の強さがあるとしている。
米国では昨年11月下旬にニューヨークで複数の市中感染が確認され、12月中旬に最初の大きな急増が起きているのに対し、我が国では12月22日に大阪府で初の市中感染が確認され、急増は1月上中旬と、米国とは1か月弱のタイムラグがある。
米国の1月中旬のピークアウトに対し、我が国は2月上旬に感染のピークを過ぎたと考えられる。
尤も、実際の感染者数は、無症候者や軽症者含め、確認症例の5〜10倍程度と考えた方がよさそうだ。
BA.2亜系統株への置き換わりに加え、今後、検査における陽性率が低下することで、確認症例の減少ペースが鈍化する可能性もあろう。
重症者数は新規感染者数から2週間程度の遅れがあることを勘案すると、2月が正念場と言えそうだ。
IHMEは、4月までに、世界人口の過半がオミクロン株に感染すると予想
IHMEは、1月中旬時点で、世界中で、1日当たり1億2,000万人以上がオミクロン株に感染していると推定しており、3月までに、世界人口の6割が感染すると予想していた。
その後、試算を改定。2月4日付けレポートでは、4月中に、世界人口の大部分(50%以上)がオミクロン株に感染し、過去、観察された最大の集団免疫が生じることで、北半球の夏を通し、秋までの間、感染は収束する可能性があるとしている。但し、新しい変異株が発生しないという前提に基づく。
対COVID戦争は現在、「最後の大戦:ラスト・グレート・ウォー」の真っ只中だが、対COVID戦争全体では「エンドゲーム:終局、終盤」にあると言えそうだ。
なお、「最後:ラスト」と名付けているのは、オミクロン株の感染は人類の過半を上回る規模に上ると予想しているからであり、収束時には一時的であれ、集団免疫が達成していると考えているからである。
COVID-19は「収束」しても、「終息」せず、季節性戦争への移行や他の変異株によるパンデミックの可能性は続く
但し、COVID-19は「収束」しても、「終息」せず、季節性コロナウイルス、言わば「季節性戦争:シーズナル・ウォー」への移行や他のバリアント(変異株)によるパンデミックの可能性は続くことになろう。
実態経済や金融市場への影響も、完全に収束とはいかず、ウイズ・コロナ状態が続くことになりそうだ。
我が国では、第4波や第5波で医療崩壊が起きたことを教訓として、医療体制や検査体制の強化を行い、ワクチンのブースター接種の前倒しを急ぐべきだろう。
オミクロン・バリアントによる第6波に関しては、マスク・手洗い・3密回避という従来の感染予防対策に加え、ワクチンのブースター接種と経口治療薬の投与等により、重症化と医療崩壊を避けつつ、社会経済活動を維持し、集団免疫を獲得するまで、もう暫く耐え忍ぶしかなさそうだ。
前週末の映画の観客動員ランキングのトップ10は、何れも本コラムで特集した作品
第5波の収束後、感染が抑制されていた我が国では、2021年10月以降、映画館の定員や時間制限等も解除され、夜遅くまで作品が上映され、多くの観客で賑わっている。
集客に寄与しているのが、公開が延期されていた大作・注目作品の一斉公開だ。
前週末(2月12日-13日)の映画の観客動員ランキングのトップ10は、何れも本コラムで特集した作品。
第1位は『劇場版 呪術廻戦 0』(興行通信社調べ、以下同じ)。公開から8週目だが、4週連続でトップ。累計興収110億円を突破し、歴代興収ランキング27位に浮上と、予想通りの大ヒット。さて、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の404億円の大記録にどこまで迫れるか、楽しみだ。
2位には前月号で特集した『ウエスト・サイド・ストーリー』が初登場。スティーブン・スピルバーグ監督が、1961年にも映画化された名作ブロードウェイミュージカル「ウエスト・サイド物語」を再び映画化。1961年公開の『ウエスト・サイド物語』のストーリーはよく覚えていないが(TV放送で鑑賞)、音楽はそのままだった。
3位は12月号で特集した『コンフィデンスマンJP 英雄編』。累計動員162万人、興収22億円を突破。
4位も12月号で特集した『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』で、累計動員253万人、興収38億円を突破。
5位には1月号で特集した『嘘喰い』が初登場。「週刊ヤングジャンプ」で連載された原作を読んでいるが、期待以上の出来に驚いた。横浜流星さん演じる主人公斑目貘も似ているが、筆者が注目したのは、村上弘明さん演じる「賭郎」の弐號立会人・夜行妃古壱。特徴的な巻いた眉尻もそうだが、物静かな紳士風の立ち振る舞いが、やや若めの設定ながらとても似合っていた。
6位の『ゴーストバスターズ/アフターライフ』と7位の『大怪獣のあとしまつ』はエンディングに注目。
8位には公開26週目で『ドライブ・マイ・カー』が初のランクイン。
9位には、『バイオハザード:ウェルカム・トゥ・ラクーンシティ』が、10位には『鹿の王 ユナと約束の旅』が入った。
『鹿の王 ユナと約束の旅』も面白かった。主人公の戦士ヴァンの声は、堤真一さんが担当。声優初挑戦とは思えない上手さだ。堤さんは完成披露試写会で「二度とやりたくないくらい難しかったです」と告白しているが、独特の低い声は、むしろ、声優向きか。今後、オファーが殺到しそうだ。
『ドライブ・マイ・カー』が第94回アカデミー賞で邦画初の作品賞にノミネート
『ドライブ・マイ・カー』は前月号でも米アカデミー賞の有力候補とお伝えしたが、第94回アカデミー賞で日本映画史上初となる作品賞のほか、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞の4部門でノミネートされた。
『ドライブ・マイ・カー』は2021年第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、日本映画では初となる脚本賞を受賞。ほか、国際映画批評家連盟賞、AFCAE賞、エキュメニカル審査員賞の3つの独立賞も受賞した。
米国では、第79回ゴールデングローブ賞のドラマ部門の非英語映画賞に加え、第56回全米批評家協会賞で作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞の4冠に輝いた。主演男優賞はアジア人として初。他に、ニューヨーク映画批評家協会賞作品賞、ボストン映画批評家協会賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞で作品賞を受賞。
ちなみに、全米批評家協会賞の作品賞受賞作品は2020年、2021年とも、アカデミー賞作品賞を受賞している。
作品賞「ベスト・ピクチャー」のノミネーション作品は、『ドライブ・マイ・カー』に加え、『ベルファスト』『コーダ あいのうた』『ドント・ルック・アップ』『DUNE/デューン 砂の惑星』『ドリームプラン』『リコリス・ピザ』『ナイトメア・アリー』、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』『ウエスト・サイド・ストーリー』の計10作品。
米アカデミー賞の授賞式は3月27日(現地時間)。
なお、アカデミー賞主催団体は今回、2021年に公開された作品のファン投票を実施すると発表している。最も支持を集めた作品は授賞式で明らかにされる。
ノミネーション作品以外にも投票できることから、パンデミック後、最大の興収を上げている『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』などが選出される可能性がある。参加資格は18歳以上の米国在住者に限定。投票は3月3日まで。
2月及び3月公開の注目作品
2月18日公開の『オペレーション・ミンスミート-ナチを欺いた死体-』は、第2次世界大戦下で実行された奇想天外な欺瞞作戦の行方を、実話に基づいて描いたスパイサスペンス。
1943年、打倒ナチスに燃えるイギリス軍はドイツ軍の防備に固められたイタリア・シチリア島を攻略する計画を立てていた。そこで英国諜報部のモンタギュー少佐、チャムリー大尉、イアン・フレミング少佐らが練り上げたのが、欺瞞作戦「オペレーション・ミンスミート」だ。イギリス軍のギリシャ上陸計画を示す偽造文書を持たせた死体を地中海に流し、ヒトラーを騙そうとする奇策だ。
同じく18日公開の『アンチャーテッド』は、トレジャーハンターのネイサン・ドレイクが伝説の秘宝や古代都市の謎に挑む人気アクションアドベンチャーゲーム「アンチャーテッド」を『スパイダーマン』シリーズのトム・ホランドさんと『トランスフォーマー』シリーズのマーク・ウォールバーグさんの共演で実写映画化。
NYでバーテンダーとして働くネイサン・ドレイク(愛称:ネイト)は、器用な手さばきを見込まれ、トレジャーハンターのビクター・サリバン(愛称:サリー)から50億ドル相当の財宝を一緒に探さないかとスカウトされる。消息を絶ったネイトの兄サムが残した手掛かりを頼りに、2人は「地図にない場所」へ、辿り着けるか。
2月23日公開の『ドリームプラン』は、ウィル・スミスさんが主演・製作を務め、ビーナス&セリーナ・ウィリアムズ姉妹を女子テニス世界チャンピオンに育てあげたテニス未経験の父親の実話を基に描いたドラマ。第79回ゴールデングローブ賞では、ドラマ部門主演男優賞(ウィル・スミス)受賞。第94回アカデミー賞では作品賞、主演男優賞(ウィル・スミス)、助演女優賞(アーンジャニュー・エリス)ほか計6部門にノミネート。
リチャード・ウィリアムズは姉妹が生まれる前にTVで優勝したテニスプレーヤーが4万ドルの小切手を受け取る姿を見て、「娘を最高のテニスプレイヤーにしよう!」と決意。テニスの教育法を独学で研究し、「世界チャンピオンにする78ページの計画書」を作成、常識破りの計画を実行に移すことに。
2月25日公開の『ナイル殺人事件』は、アガサ・クリスティ原作の名作「ナイルに死す」を『オリエント急行殺人事件』を手がけたケネス・ブラナー氏の監督・製作・主演で映画化。「世界一の名探偵ポアロ」が挑むエジプトのナイル川をめぐるミステリー。
クルーズ船内で起きた連続殺人事件。容疑者は結婚を祝うために集まった乗客全員。豪華客船という密室で、誰が何のために殺したのか。ポアロの人生を大きく変えた衝撃の真相とは。
同じく25日公開の『シラノ』は、1897年の初演以降、世界中で映画化やミュージカル化されている不朽の名作「シラノ・ド・ベルジュラック」を映画化。シラノ役は『ゲーム・オブ・スローンズ』のピーター・ディンクレイジさんが演じた。
物語の舞台は17世紀フランス。剣の腕前だけでなく、優れた詩を書く才能をもつフランス軍きっての騎士シラノは、仲間たちからも絶大なる信頼を置かれていたが、自身の外見に自信が持てず、想いを寄せるロクサーヌに、心に秘めた気持ちをずっと告げることができない。そんな胸の内を知らないロクサーヌはシラノと同じ隊に配属された青年クリスチャンに惹かれ、こともあろうにシラノに恋の仲立ちをお願いする。複雑な気持ちを抱えながらも、愛する人の願いを叶えようとするシラノは、溢れる愛情を言葉で表現する才能がないクリスチャンに代わって、自身の想いを文字に込めて、ロクサーヌへのラブレターを書くことに。
3月4日公開の『余命10年』は、小坂流加氏の同名恋愛小説を映画化。小松菜奈さんと坂口健太郎さんの共演で、『新聞記者』の藤井道人監督がメガホンをとった。
数万人に1人という不治の病に冒され余命10年を宣告された20歳の茉莉は生きることに執着しないよう、恋だけはしないことを心に決めていた。ところがある日、地元の同窓会で和人と出会い恋に落ちたことで彼女の最後の10年は大きく変わっていく。
3月11日公開の『THE BATMAN-ザ・バットマン-』は、マーベルと並ぶアメコミの2大レーベルであるDCのヒーロー映画『ザ・バットマン』の新シリーズ。若き日のブルース・ウェインを描いた作品。新たなバットマン役は、『TENET テネット』のロバート・パティンソンさんが演じる。
世界の「嘘」を暴け。本性を見抜け。優しくもミステリアスな青年ブルースは、両親殺害の復讐を誓い、夜は黒いマスクで素顔を隠し犯罪者を見つけては力でねじ伏せ、悪と敵対する存在の「バットマン」になろうとしている。ある日、権力者が標的になった連続殺人事件が発生。その犯人を名乗るのは、史上最狂の知能犯リドラー。ヤツは犯行の際、必ず「なぞなぞ」を残し、警察や世界一優秀な探偵のブルースを挑発する。いったい何のために犯行を繰り返すのか。そして暴かれる政府の陰謀とブルースにまつわる過去の悪事や父親の罪。追い詰められたその時、彼の心の中で、何かが音を立てて壊れ始めた。
『ウェディング・ハイ』
2022年3月12日(土)<大安吉日>全国ロードショー
©2022「ウェディング・ハイ」製作委員会
3月12日公開の『ウェディング・ハイ』はお笑い芸人バカリズムのオリジナル脚本による、結婚式を舞台に描いた群像コメディ。
結婚式、それは新郎新婦にとって人生最大のイベント。プランナーの中越(篠原涼子)に支えられ、新郎・彰人と新婦・遥も幸せな式を迎えるはずだった。しかし、スピーチに命を懸ける上司・財津をはじめ、クセ者参列者たちの熱すぎる想いが大暴走。式はとんでもない方向へ。中越は披露宴スタッフと共に数々の問題を解決しようと奔走するが、さらに新婦の元カレ・裕也や、謎の男・澤田も現れて。果たして「絶対にNOと言わない」ウェディングプランナーは全ての難題をクリアし、2人に最高の結婚式を贈ることが出来るのか。
地球温暖化が札幌冬季オリンピックの開催可能性を高める?
北京冬季五輪を見ていて、思い出したのは、やはり、札幌大会と長野大会だ。さすがに、1972年の札幌大会の記憶はおぼろげだが、「日の丸飛行隊」の発祥となったジャンプ70m級(現在のノーマルヒル)で日本勢が金銀銅を独占したシーンと、1998年の長野大会のラージヒル団体で金メダルを獲得したシーンが脳裏に蘇った。
昨年公開の映画『ヒノマルソウル 舞台裏の英雄たち』では、長野大会のジャンプ団体競技における裏方の奮闘が描かれているが、札幌や長野と、北京大会を比べると、最大の違いは雪質だろう。北京大会は人口雪でコースが設定されており、大半がアイスバーン状態だ。
元々、北京近辺では、気温は低いものの、雪はあまり降らない。雪どころか、近年は雨もあまり降らず、北京近郊を流れる黄河も水不足が深刻化している。筆者が10年前に訪れた際は水流がほとんどなく、大河の趣は全くなかった。尤も、水不足は上中流域での利水過多の影響が大きいが。
パンデミック下で開催された昨年の東京夏季五輪で懲りたという人も多いかもしれないが、札幌市は2030年の冬季オリンピック・パラリンピックの招致活動を行っている。現時点では2030年大会の有力候補とみられる。
賛否については議論もあろうが、新たな要因が、2030年はさておき、将来的な札幌開催を後押しすることになるかもしれない。
それは、地球温暖化だ。カナダのウォータールー大などの研究チームが1月20日に公開した報告書によると、現在の温室効果ガスの排出量が続く場合、これまでに冬季五輪が開かれた20都市と北京のうち、今世紀末も適切な環境で開催できるのは札幌だけとのこと。「パリ協定」が掲げた排出削減目標を達成できた場合は、長野を含む8都市に増えるとのことだ。
ウクライナ情勢等を勘案すると、21世紀後半のカーボンニュートラル達成等、「パリ協定」目標達成の道筋は険しいと言わざるを得ないだろう。
末澤 豪謙 プロフィール
1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。同投資戦略室長、大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。