アナリストの忙中閑話【第138回】

(2022年11月24日)
【第138回】サッカーW杯開幕、日本白星スタート、米中間選挙でネジレ議会に、習総書記三選、COVID第8波到来、大作洋画公開
金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙
FIFAワールドカップ・カタール大会開幕、日本は強豪ドイツに逆転勝利
中東で初めてとなるFIFAワールドカップ・カタール大会が20日開幕した。最多の優勝回数を誇るブラジルや前回大会優勝のフランスなど32チームが出場し、12月18日まで熱戦が繰り広げられる。
グループEの日本は23日、初戦を強豪ドイツと対戦。2対1と逆転勝利、勝ち点3を得て、白星スタートとなった。
前半はドイツが優勢でPKで先制点をあげられたが、後半は効率的な攻撃で、堂安・浅野両選手がゴールを決め、終盤のドイツの猛攻を凌ぎ、振り切った。
グループEは、日本(7大会連続7回目)、ドイツ(18大会連続20回目)、スペイン(12大会連続16回目) 、コスタリカ(3大会連続6回目)と、ドイツ及びスペインという強豪を抱える。
実は筆者は高校の一時期までサッカー部に在籍していた過去がある。当時、CMでは「カイザー(皇帝)・ベッケンバウアー、ボンバー(爆撃機)・ミューラー」いうスポーツ用品会社のCMが流れ、ドイツは別格の存在だった。23日の試合、特に後半は隔世の感があった。内外にグローバル化した、日本サッカー界の国際競争力の進化を物語っていると言えそうだ。
一方、自身は懐かしのCMではないが、30代からは「やる気はあるけど身体がついてこん」状態でサッカーとはご縁がない。せめて、テレビ画面で在りし日のピッチの姿を思い出して、今は、プールで流して泳ぐのが日課だ。なお、バブル期、高田純次さんが宣伝していた栄養ドリンクには最近の方が御世話になっている。
今大会、既に、日本はライン入りのユニフォームが好評で、英デーリーメール紙などで、ランキング1位を獲得しているが、1993年の「ドーハの悲劇」の雪辱を果たすためにも、第2戦となる27日のコスタリカ戦を含め、一段の奮起に期待したい。
「2022 NHKサッカー」テーマ曲に採用されているの「King Gnu」の「Stardom」の歌詞のように『あと一歩、ここからあと一歩』か。
11月8日(火)に投票が行われた米中間選挙では、上院は民主党が多数派を維持するも、下院は共和党が多数派を奪還、「ネジレ議会」に
11月8日(火)に投票が行われた米中間選挙では、上院は民主党が多数派を維持するも、下院は共和党が多数派を奪還、いわゆる「ネジレ議会」となった。
非改選含め上院(定数100議席)は民主党が50議席、共和党は49議席を確保、過半数の得票を得る候補がなく、12月6日に決選投票が実施されることになったジョージア州の結果を待たず、民主党が現状の50議席を確保することになった。
なお、採決で50対50となった場合は、上院議長を兼ねるカマラ・ハリス副大統領が「タイ・ブレーク」投票を行うため、与党は50議席で実質的に多数派となる。
仮に、ジョージア州でも民主党の現職が議席を維持することになれば、民主党は1議席増の51議席となり、穏健派のジョー・マンチン議員(ウェストバージニア州)の意向を気にせずに済むことになる。尤も、同様に穏健派のキルスティン・シネマ議員(アリゾナ州)の存在を踏まえると、民主党は接戦となったウィスコンシン州でも勝利したかったはずだ。
一方、下院(定数435議席)は日本時間24日昼段階で、共和党が221議席、民主党が213議席(CNN、ABC、CBS)と、共和党が過半数の218議席を確保し多数派を奪還することになった。尤も、投票日直前の共和党大勝予想からは一変、最終的に両党の議席差は10議席を下回りそうだ。
共和党の進撃の最終盤での失速に三つの要因、アンチ・トランプ効果
共和党の最終盤での失速、民主党の土俵際での踏ん張りには、大きく3つの要因が寄与したと考えられる。
第1は、選挙戦終盤でトランプ氏の露出が急激に高まり、しかも、投票日前日の7日、2024年の大統領選への出馬を示唆したことで、2020年の大統領選・議会選同様、民主党支持者や無党派層の間で、アンチ・トランプの風が吹いた可能性だ。結果的にトランプ氏のプレゼンスは共和党の進撃には足枷となったとみられる。
妊娠中絶問題がZ世代の女性に響いた可能性、オバマ効果も
第2は、妊娠中絶の問題が、いわゆる「Z世代」に響いた可能性だ。CNNの出口調査によると、今回の中間選挙は、インフレが第1の課題となり、中高年層で、民主党への投票率が低下している。これは、政権への批判票が集まりやすい中間選挙の特徴でもある。
但し、25-29歳の層だけは、民主党への支持が10ポイント以上伸びている。また、30-39歳の層も上昇。
尤も、当該層の投票率が上昇した訳ではないため、いわゆるZ世代等の中で、民主党支持の割合が上昇したと考えられる。
その背景にはやはり、妊娠中絶問題が影響した可能性が高い。
中間選挙における投票で最も重要な課題は、1位がインフレの31%だが、2位は妊娠中絶の27%、3位が犯罪の11%と銃規制の11%、5位が移民の10%となった。
この中で、民主党に投票した有権者では、妊娠中絶問題が最大の課題となっていた。妊娠中絶問題で最も影響を受ける20代のZ世代やその上の世代の女性が民主党に投票したことが民主党の善戦に繋がったとみられる。
第3の要因は、オバマ効果だろう。2008年の大統領選で一大ブームを巻き起こしたバラク・オバマ元大統領が最終盤で、接戦区に重点的に入り、バイデン氏とは異なる情熱的な演説を行ったことが、1ポイント未満の効果かもしれないが、接戦区では重要な役割を果たした可能性が想定される。
中間選挙での善戦により、バイデン大統領の再選出馬の可能性は残されるも、レームダック化は不可避
事前予想では、共和党の大勝予測もあった中、中間選挙での善戦により、バイデン大統領の再選出馬の可能性は残されることになった。
但し、ネジレ議会では、大統領指名人事等を除き、民主党が志向する重要法案の成立の目途は立たない。内政面での指導力発揮は困難となり、バイデン氏は、大統領権限の強い外交・安全保障、通商・貿易政策等に注力する他なくなろう。
大統領支持率が42%程度に低迷するバイデン政権のレームダック化は不可避だろう。11月20日には、バイデン氏は80歳の誕生日を迎えた。再選戦略に暗雲が立ち込めた状況に変化はない。
バイデン氏は9日、民主党の予想以上の善戦を受け、記者団に対し、「民主主義にとって良い日になった」(10日付けロイター)と述べた。また、「われわれの意図は再出馬することであり、それはずっと変わっていない」と表明。「最終的には家族の決断だ」と述べた。また、家族は自身の出馬を望んでおり、自身は最終的な決断を急がされているとは感じていないとも述べた。また、トランプ氏の出馬と再選出馬の判断は無関係とした上で、「われわれは、もし彼が出馬しても政権を取らないようにするだけだ」と述べた。
バイデン氏は再選出馬に関し、来年初めまでに最終判断すると語ったが、バイデン氏の健康状態等も熟知したジル夫人の意向が重要となりそうだ。
本来なら、まだ61歳と若いオバマ氏が2024年大統領選に出馬すれば、当選確率は急上昇することが予想される。然るに、フランクリン・D・ルーズベルト元大統領の4選と、在任中の死去に伴い、1951年に米国憲法修正第22条が承認され、いかなる者も2回を超えて米国大統領に選ばれることが禁じられたことで、オバマ氏の出馬は叶わない。
2024年の大統領選・議会選は、安全保障や経済に与える影響が大きくなることに、台湾情勢への影響も
一方、トランプ氏は15日に、2024年の大統領選への出馬を正式に表明。共和党予備選では、中間選挙で再選を果たしたロン・デサンティス・フロリダ州知事(44歳)やマイク・ペンス前副大統領(63歳)との攻防が想定される。
他方、民主党のバイデン氏に対する対抗馬は不透明だ。
2024年の大統領選・議会選は、今回の中間選挙とは比較にならないほど、国際情勢、特に、安全保障や経済に与える影響が大きくなることが予想される。
我が国も、台湾情勢等の展開次第では、戦後最大の混乱期を迎える可能性も想定され、「他人事」では済まされないと言えそうだ。
スナク氏の勝利で英金融市場はやや安定化、但し、英CPIはG7諸国でも最も上昇率が大きい、背景にEU離脱の影
10月号では英トラス政権の危機も特集したが、直後に、リズ・トラス氏は首相を辞任、保守党党首選の結果、9月の決選投票ではトラス氏に敗退したリシ・スナク氏が無投票で当選し、10月25日に首相に就任した。
スナク氏は42歳で、2010年に43歳の若さで首相に就任したデビッド・キャメロン氏を超え英国近代政治史上最年少の首相となった。
英サウサンプトン生まれ。父母がアフリカ出身のインド系移民のヒンドゥー教徒で、アジア系初の英国首相でもある。
オックスフォード大で哲学、政治学、経済学を学ぶ。米スタンフォード大大学院で経営学修士(MBA)取得。米投資銀行ゴールドマン・サックスを経て、英投資ファンドで経営幹部。2015年にノース・ヨークシャー州リッチモンドから下院初当選。地方政府担当政務次官などを経て2020年2月に財務相就任。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに際しては、経済の停滞を防ぐため財政支出を大幅に拡大したが、党首選ではトラス氏ら他の候補が掲げる減税政策を人気取りの「おとぎ話」と批判し、記録的なインフレへの対策に注力する公約を掲げた。
スナク氏はトラス氏と決選投票を争った今夏の党首選でも、インフレ抑制のため財政緊縮路線を主張、「ミニ・バジェット」と呼ばれる減税策や燃料費の多額の支援策を公約に掲げたトラス氏とは対極的な主張を繰り返した。
政権発足後、トラス首相が公約実現に動くと、ポンド安、株安、債券安(金利上昇)のトリプル安に見舞われ、レバレッジ投資を拡大していた年金基金の破綻リスクが浮上、金融市場が混乱したことで、トラス氏は経済政策の大部分を撤回することになり、英政治史最短の首相辞任に追い込まれることになった。
スナク氏の勝利で、10月24日の英金融市場では、長期金利が急低下、ポンドが買われ、株高となった。
但し、英国の消費者物価はG7諸国でも、足元、前年比上昇率が最も大きい。10月は前年比11.1%の上昇となった。
背景には、保守党が推進したEUからの離脱の影響で、人件費や輸入価格が上昇していることも要因となっている。
英国では今冬の燃料費の高騰が予想されており、政府も燃料価格の高騰を受けた家庭や企業の光熱費抑制策を来年4月まで実施する予定だ(当初2年間の予定を半年に短縮)。
英スナク政権は11月17日、増税や歳出削減等550億ポンド規模の財政再建策を発表
スナク政権は11月17日、増税や歳出削減で550億ポンド(日本円で約9兆円)を捻出する財政再建策を発表した。
具体的には、所得税の最高税率の適用対象の拡大、石油・ガス会社等に対する課税強化、光熱費抑制のための財政支援の見直しなど。
今回の混乱を受けて、保守党の支持率は低迷。
政党支持率もYouGov調査では、トラス政権成立直後の9月7日発表分では、保守党29%に対し、労働党は44%だった。10月21日発表分では、保守党19%に対し、労働党は56%、11月16日発表分では、保守党26%に対し、労働党は47%と、やや持ち直したが、保守党は労働党にほぼダブルスコア近くリードされている。
解散なければ、次回総選挙は2025年1月、英国の政治混乱は長期化へ
英議会下院の総選挙は本来、5年に1度行われる。2011年議会任期固定法にもとづき、解散総選挙法案の可決には3分の2以上の賛成が必要。前回の総選挙は2019年12月12日だったため、次回の総選挙は、選挙期間を含めると、2025年1月となる。
野党が求める下院の解散・総選挙に対し、スナク氏は10月24日、非公開で行われた保守党内の会合で、早期の総選挙を否定したと伝えられている。但し、インフレ高進も相俟って、保守党の支持率低下が続けば、スナク首相も早期退陣に追い込まれる可能性は否定できない。英国政治の混乱状態は長引きそうだ。
中国共産党第20回全国代表大会が10月22日に閉幕、23日開催の第20期1中全会で、習近平総書記の3期目続投決まる
同じく10月号で特集した中国共産党第20回全国代表大会が10月22日に閉幕した。
23日に第20期中央委員会第1回全体会議(1中全会)が開催され、習近平総書記の異例の3期目続投が決まった。
会議では、中央政治局委員、中央政治局常務委員会委員、中央委員会総書記が選出された。
新たな政治局常務委員(チャイナ7)は習近平、李強、趙楽際、王滬寧、蔡奇、丁薛祥、李希の7氏。
68歳定年慣行が形骸化したことが明らかに
今回の党大会では、現在69歳の習近平氏が、従来の68歳定年慣行を覆して、最高指導者として3期目入りすることが確実な情勢であったが、68歳定年慣行が形骸化したことが明らかとなった。
中央政治局委員及び中央軍事委員会副主席に再任された張又侠氏は72歳、張氏と習氏は、双方の父親が同じ部隊に所属したことがある親子二代の関係。また、68歳の王毅国務委員兼外相も中央委員に残り、今回、24人選出された政治局委員に昇格した。
一方で、68歳に達していない、李克強(67歳)、汪洋(67歳)の両氏は、今回、政治局常務委員から外れることになった。両者は中国共産主義青年団出身。
また、やはり、共産主義青年団出身で、李克強氏らに近い胡春華国務委員副総理(副首相)は、今回、中央委員(205人)には再任されたが、政治局委員(24人)には再任されず、降格となった。
中央委員会主席のポストの復活はなかったが、習近平氏の独裁体制がほぼ確立
筆者は、毛沢東氏が終身で就いた中央委員会主席のポストを復活させ、習氏が就く可能性を指摘してきたが、今回、そこまでの制度変更は実施されなかった。
但し、実質的には、習近平氏の独裁体制がほぼ確立されたと言えそうだ。習近平氏を除く政治局常務委員は、新任となった4氏を含め、6人が全て習近平氏の側近や元部下だからだ。
李強氏(新任、63)は、習氏が浙江省トップ時代に秘書長を務め、上海市トップの党委員会書記として、ゼロコロナ政策の下、上海のロックダウンを指揮。今回、常務委員の中で、習氏に次ぐ序列2位となっており、次期国務委員総理(首相)が有力視される。
趙楽際氏(再任、65)は、習氏の側近の王岐山氏の後継の中央規律検査委員会書記として、過去5年間、反腐敗運動を指揮。序列3位で、全国人民代表大会常務委員長が想定されている。
今回、序列4位となった王滬寧氏(再任、67)は、復旦大学の法学院長を務めた経験もある党内屈指の理論家で、これまで江沢民、胡錦濤、習近平の総書記を理論面で支えたことから「三朝帝師」の異名を持つ。戦狼外交等、習近平の政策のアドバイザーとされる。全国政治協商会議主席が想定される。
序列5位の蔡奇氏(新任、66)は、蔡奇氏は浙江、福建両省で習氏と共に勤務、2017年に北京市党委書記に就き、中国初の冬季五輪を北京市トップとして迎えた。今回、党中央書記処書記に就いた。
序列6位の丁薛祥氏(新任、60)は、地方のトップを務めた経験がないが、党中央弁公庁主任として習近平の地方視察等に同行。筆頭副首相が想定されている。
序列7位の李希氏(新任、66)は、習氏とは1980年代からの関係があり、広東省トップに就く前は遼寧省トップの党委書記を務めていた。今回、党中央規律検査委員会書記に就き、反腐敗運動を指揮する。
新たに選出された政治局常務委員は全員、60歳以上、習近平氏の4期目続投が既定路線に
5年前の第19期1中全会同様、新たに選出された政治局常務委員は全員、60歳以上となった。過去の最高指導者は、5年間、常務委員に就いた後、総書記に就任している。
習近平氏は15年前の2007年、54歳で常務委員に就任。2012年に59歳で中央委員会総書記、中国共産党中央軍事委員会主席に就き、翌2013年に、中華人民共和国主席、中華人民共和国中央軍事委員会主席を兼任している。
つまり、今回も5年後の最高指導者候補は選出されなかったことになり、習近平氏の4期目続投が既定路線となったと言えそうだ。
5年後の第21回中国共産党全国代表大会後の第21期1中全会では、中央委員会主席のポストを復活させ、就任する可能性は十分あると言えそうだ。
過去、中央委員会主席には、終身の毛沢東氏に加え、華国鋒氏が4年9カ月間、胡耀邦氏が1年3カ月間と、計3氏が就いたが、1982年の第12回全国代表大会で廃止された経緯がある。
仮に、5年後、中央委員会主席のポストを復活させ、習近平氏が就くことになれば、国家主席の復活・任期撤廃と併せ、毛沢東氏同様、終身での最高指導者の道筋も見えてくることになる。毛沢東後の集団指導体制から先祖返りし、個人崇拝・独裁体制的な色彩が大きく強まることになる。
その場合、今回は実現出来なったが、党規約に「二つの確立」が追加され、呼称も「党の核心」から「人民の領袖」等に代わり、常務委員定数も削減される可能性がある。
習近平氏は「中国式現代化」を度々、強調、欧米の民主主義とは異なる、中国共産党が指導する独自路線を進めることを一段と明確化
習氏は党大会の政治報告で、「現在から、中国共産党の中心的任務は、全国各民族人民を団結させ、率いて、社会主義現代化強国を全面的に築き、第2の百年奮闘目標を達成するよう導き、中国式現代化によって中華民族の偉大な復興を全面的に推進することだ」(人民日報)と指摘。
さらに、「中国式現代化とは、中国共産党が指導する社会主義現代化であり、各国の現代化に共通する特徴を持つだけでなく、自らの国情に基づいた中国の特色も備えている。中国式現代化は人口の規模が膨大な現代化であり、すべての人民が共同富裕を成し遂げる現代化であり、物質文明と精神文明の調和がとれた現代化であり、人と自然が調和し共生する現代化であり、平和的発展路線を歩む現代化だ」(同)と指摘した。
また、党大会閉幕時に、習近平氏が発表した重要談話でも、大会で採択された第19期中央委員会の報告について、「マルクス主義の中国化・時代化の新しい境地を切り開き、中国式現代化の中国の特色と本質的要求などの重要な問題を詳しく述べた報告であった。社会主義現代化国家を全面的に建設し、中華民族の偉大な復興を全面的に推進することについて戦略的な計画を立て、新時代の新しい道のりにおける党と国家の事業の発展、第二の百年奮闘目標の実現のための方向性を示し、行動指針を確立した」と表明、「中国式現代化」を度々、強調している。
欧米の民主主義とは異なる、中国共産党が指導する独自路線を進めることを一段と明確化した。
台湾統一問題も重要な焦点、人事とも密接に関連
また、台湾統一問題も重要な焦点だ。台湾統一は習近平氏が今回異例の3期目を続投したことや今後、党主席等に就くことの条件ともなりうる。5年後の党大会を見据え、台湾情勢の緊迫化が予想される。
16日に、習近平・中央委員会総書記が第19期中央委員会を代表して読み上げた中央委員会報告(政治報告)では、習総書記は、「最大の誠意をもって、最大の努力を尽くすことを堅持し、平和的統一という未来を成し遂げる。武力使用の放棄を決して確約するものではなく、一切の必要な措置を取る選択肢を保留する。国家統一と民族復興という歴史の車輪は勢いよく前進しており、祖国完全統一は必ずや実現しなければならないし、必ずや実現することができる」(人民日報)とした。
平和的統一を基本としつつも、武力使用を放棄せず、祖国完全統一は必ずや実現しなければならないし、必ずや実現することができるとしており、習氏が最高指導者として入った異例の3期目においては、最大のミッションとなると考えられる。
2027年に向けては、「台湾海峡波高し」に警戒する必要がありそうだ。
オミクロン株亜種による第8波が到来、我が国の感染者数は3週連続で世界最多に
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、オミクロン株による第7波が全世界同様、我が国でもほぼ収束、10月11日からの入国制限の緩和や全国旅行支援の開始で、観光地や繁華街にも外国人を含む人出が急速に増えている。
但し、北半球に冬が迫る中、我が国を含め、既に感染第8波がスタートしたようだ。
WHO(世界保健機関)によると、週次(11月14日から11月20日)の新規感染者数は前週比▲3万人の減少となった(速報ベース)。減少は2週ぶりだが、微減のため改定後は増加となる可能性も。1週間の確認症例数は約253万人。WHOの6つの地域区分(欧州、南北アメリカ、西太平洋、南東アジア、東地中海、アフリカ)のうち、南北アメリカ、南東アジアで増加、4地域で減少。
週次の新規死者数は4週連続減少。1週間の死者数は約8千人(速報ベース)。
なお、COVID-19関連の超過死亡数は、報告死亡者数の3倍程度に上るとみられている(WHO等)。
直近1週間で新規感染者数の多い国・地域は、1位日本、2位韓国、3位米国、4位フランス、5位中国と、第8波が発生したとみられる東アジアでの感染が目立つ。中国は従来、台湾での感染が多くを占めていたが足元では本土での感染も拡大。日本は9月19-25日の週まで10週連続世界最多だった。一旦、上位5位から離脱したが、6週ぶりに世界最多に復帰、3週連続で世界最多となった。
7月18日から24日の週から10週連続で我が国の新規感染者数が世界最多となった背景に海外の検査数の減少を挙げる向きもあるが、8月8日から14日の週は死者数でも米国に次いで世界第2位となり、6週連続で世界第2位に。その後3週連続で3位となり、第7波では我が国がエピセンターの1つになったことは事実だろう。第8波が到来したとみられる足元でも、我が国では死者数が増加している。
11月14日から20日の週の報告死者数は1位米国、2位日本、3位中国、4位フランス、5位ロシア。
デルタ株及びオミクロン株では、「ファクターX」は確認されず、今冬の中国での感染爆発に警戒要
パンデミック1年目の2020年、アジア各国では、欧米諸国と比較し、感染者数や死者数が限定的で、背景に何等かの遺伝的特性等、いわゆる「ファクターX」を指摘する声が挙がった。
但し、2021年春には、インドでデルタ株の感染爆発が発生、WHOや米ワシントン大IHME等の試算では、インドでは、COVID-19関連で500万人近い超過死亡が発生、つまり、実際の累積感染者数も世界最多となったと推定されている。
2022年3月から4月にかけては、日本人と遺伝的特性が近い韓国が、確認症例ベースで世界最多となり、その後、台湾や北朝鮮に続き、我が国でも感染爆発が起きた。
こうした経緯を勘案すると、「ファクターX」の正体は、マスク・手洗い・非接触の挨拶等、生活習慣の違いに過ぎない可能性が高い。変異株の感染力が強まったことでアジアにも感染が拡大したと考えられる。
前述の通り、7月18日から24日の週の新規感染者(確認症例)は我が国が初めて、世界最多となり、その後も10週連続で、世界最多となった。直近も3週連続で世界最多に復帰。また、直近週では、死者数(報告死者数)でも世界第2位となっている。
オミクロン株(B.1.1.529)、特にBA.5やBQ.1系統等の亜系統株の感染力は凄まじいことから、今後は、パンデミック以来、ゼロ・コロナ政策を続けてきた中国の動向が最大の焦点となろう。
IHMEによると、人口に対するオミクロン株の自然感染率は米国の約76%に対し、中国では約2%(4月14日時点)。ゼロ・コロナ政策の緩和後には、極めて大きな感染爆発が起きる可能性があるとしている。また、ワクチン接種率の低い80歳以上の高齢者へ感染するリスクに懸念を示している。
COVID-19パンデミックとの最後の攻防は中国で起きる可能性が高そうだ。
今冬はインフルエンザとの同時流行に注意
また、今冬は、インフルエンザウイルスとの同時流行が懸念されている。米国では今シーズン、季節性インフルエンザの流行が例年より相当早いペースで既にスタートしている。
国際的な人流の回復で国内への輸入感染者も増加している。国内でも年末に向け接触機会が拡大、過去3年間のインフルエンザの抗体保有率の低下等から、COVID-19の第8波と、季節性インフルエンザの流行が同時発生する可能性は極めて高いとみるべきだろう。
映画観客動員ランキングで『すずめの戸締まり』が2週連続1位に
前週末(11月19日-20日)の映画の観客動員ランキングでは、前月号で特集した新海誠監督の新作アニメ『すずめの戸締まり』が初登場1位となった前週に続き、トップを維持(興行通信社調べ、以下同じ)。累計成績は動員299万人、興収41億5,400万円超に。
公開直後に鑑賞したが、『君の名は。』同様、変わらぬ映像美に加え、ストーリー展開も奥が深い。やや気になったのは、前作『天気の子』では、筆者居住の東京湾岸のマンションが水没、今回も大地震の危機に見舞われるなど、ディザスター映画の色彩が一段と濃くなったところか。
2位も前月号で特集した『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』。こちらも初登場の前週に続き2週連続で2位となった。累計成績は動員55万人、興収8億6,900万円。本作では、主人公でワカンダ国王ティ・チャラ役のチャドウィック・ボーズマンさん同様、重病で死去した『ブラックパンサー』が復活する物語となっている。
3位は、11月18日に公開された『ある男』が初登場。平野啓一郎氏のベストセラー小説を石川慶監督が映画化。亡くなった夫の身元調査という奇妙な依頼をされた弁護士が、真実に近づくにつれ、別人として生きた男への複雑な思いを抱き始める。
「ある男」の正体を追う弁護士・城戸に妻夫木聡さん、亡き夫の身元調査を依頼する里枝に安藤サクラさん、里枝の夫であり「大祐」として生きた「ある男」に窪田正孝が扮している。
冒頭シーンに登場する後ろ姿の男性の絵が象徴的で、ホラーではないがやや怖い、徐々に吸い込まれるような映画。
4位は、『ONE PIECE FILM RED』。前週の3位から1ランクダウン。累計成績は、動員1,327万人、興収184億円に迫り、歴代興収ランキングで9位と、トップ10内に。サウンドトラックは、年末の音楽賞を席巻する可能性濃厚か。
5位は、ホラー携帯小説を橋本環奈さん主演で映画化した『カラダ探し』。前週の5位からステイ。
大作洋画の公開再開
前月号で紹介したように、パンデミックの影響等で、洋画は今秋公開の大作が極めて少ないが、『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』に続き、12月に向け、クリスマス向けの大作の公開がようやくスタート。
12月2日公開の『ブラックアダム』は、『ワイルド・スピード』や『ジュマンジ』シリーズなど大ヒットを飛ばし、「ザ・ロック」こと、ドウェイン・ジョンソンさんがプロデューサー兼主演、DCコミックスの最恐アンチヒーロー「ブラックアダム」を演じるアクションエンタテインメント大作。
5,000年の眠りから目覚めた破壊神ブラックアダム。かつて彼の息子は自らの命を犠牲にして父を守り、その力を父に託した。息子の命と引き換えにして手に入れた「呪われた力」。ブラックアダムは苦悩と悔恨に苛まれながらも、息子を奪われた復讐心から、その強大な力を使い、現代の地球で破壊の限りを尽くす。そんな彼を人類の敵とみなし立ち向かうのは、スーパーヒーローチーム「JSA(ジャスティス・ソサイエティ・オブ・アメリカ)」。果たして、ブラックアダムは人類の敵なのか。彼が現代に蘇った本当の理由とは?
ブラックアダムと対峙するヒーローチーム「JSA」のメンバーで魔術師ドクター・フェイト/ケント・ネルソン役を、『007』シリーズの5代目ジェームズ・ボンドで知られるピアース・ブロスナンさんが務めた。「JSA」のリーダーで空の王者ホークマン役にオルディス・ホッジさん、嵐を操るサイクロン役にクインテッサ・スウィンデルさん、巨大化する能力を持つアトム・スマッシャー役にノア・センティネオさん、物語の鍵を握る女性アドリアナ役にサラ・シャヒさん。『ジャングル・クルーズ』でドウェイン・ジョンソンとタッグを組んだジャウム・コレット=セラ監督がメガホンをとった。
なお、「JSA」は、マーベルの「アベンジャーズ」やDCの「ジャスティス・リーグ」よりも早く誕生したアメコミ史上初のヒーローチーム。
12月2日公開の『月の満ち欠け』は、2017年に第157回直木賞を受賞した佐藤正午氏による同名ベストセラー小説を、大泉洋さん主演、有村架純さん、目黒蓮さん(Snow Man)、柴咲コウさんの共演で映画化。『余命1ヶ月の花嫁』廣木隆一監督がメガホンをとった。
仕事も家庭も順調だった小山内堅の日常は、愛する妻・梢と娘・瑠璃のふたり不慮の事故で同時に失ったことで一変。深い悲しみに沈む小山内のもとに、三角哲彦と名乗る男が訪ねてくる。事故に遭った日、娘の瑠璃が面識のないはずの三角に会いに来ようとしていたこと、そして彼女は、かつて自分が狂おしいほどに愛した「瑠璃」の生まれ変わりだったのではないか、と告げる。それは数十年の時を超えて明らかになる、あまりにも切なすぎる愛の奇跡だった。
12月3日公開の『THE FIRST SLAM DUNK』は、1990年から1996年まで「週刊少年ジャンプ」に連載され、大人気を博したバスケットボール漫画「SLAM DUNK」を新たにアニメーション映画化。原作者の井上雄彦氏が監督・脚本を手がけ、高校バスケ部を舞台に選手たちの成長を描き出す。
12月16日公開の『ラーゲリより愛を込めて』は、二宮和也さん主演で、シベリアの強制収容所に抑留された実在の日本人捕虜・山本幡男を演じた伝記ドラマ。作家・辺見じゅん氏のノンフィクション小説「収容所(ラーゲリ)から来た遺書」を基に、『糸』の瀬々敬久監督がメガホンをとった。
第二次世界大戦後の1945年。そこは零下40度の厳冬の世界・シベリア。わずかな食料での過酷な労働が続く日々。死に逝く者が続出する地獄の強制収容所(ラーゲリ)に、その男・山本幡男は居た。「生きる希望を捨ててはいけません。帰国(ダモイ)の日は必ずやって来ます。」絶望する抑留者たちに、彼は訴え続けた。
山本の妻・モジミ役に北川景子さん、山本とともにラーゲリで捕虜として過ごす仲間たちに松坂桃李さん、中島健人さん、桐谷健太さん、安田顕さんらが集結。
12月16日公開『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』は、巨匠ジェームズ・キャメロン監督が革新的な3D映像を生み出し、世界興行収入歴代1位の大ヒット作となった『アバター』の約13年ぶりとなる続編。前作から約10年が経過した世界で、キャメロン監督自身の手により、新たな奇跡を巻き起こす。それは、「観る」の先にある「超現実」映像体験。
神秘の星パンドラの一員となった元海兵隊員のジェイクは、ナヴィの女性ネイティリと家族を築き、子供たちと平和に暮らしていた。再び人類がパンドラに現れるまでは。神聖な森を追われた一家は、「海の部族」の元へ身を寄せる。だが、この美しい海辺の楽園にも、侵略の手は迫っていた。
ジェイク役のサム・ワーシントンさん、ネイティリ役のゾーイ・サルダナさんらおなじみのキャストが続投し、前作でグレイス・オーガスティン博士役を務めたシガニー・ウィーバーさんが、今作ではジェイクの養子キリ役をモーションキャプチャーによって演じている。
『Dr.コトー診療所』
2022年12月16日全国東宝系にてロードショー
©山田貴敏 ©2022映画 「Dr.コトー診療所」製作委員会
12月16日公開の『Dr.コトー診療所』は、山田貴敏氏の同名漫画を原作に、2003年と2006年に連続ドラマとして放送されたテレビドラマ「Dr.コトー診療所」の16年ぶりの続編となる劇場版。
日本の西の端にぽつんと在る美しい島・志木那島。本土からフェリーで6時間かかるこの絶海の孤島に、19年前東京からやってきた五島健助=コトー(吉岡秀隆)。以来、島に「たったひとりの医師」として、島民すべての命を背負ってきた。長い年月をかけ、島民はコトーに、コトーは島民に信頼をよせ、今や彼は、島にとってかけがえのない存在であり、家族となった。数年前、長年コトーを支えてきた看護師の星野彩佳(柴咲コウ)と結婚し、彩佳は現在妊娠7ヶ月。もうすぐ、コトーは父親になる。
コトーは、彩佳、和田、そして新米医師の織田判斗、そして数年前から診療所に勤める島出身の看護師・西野那美と共に診療所を切り盛りしていた。しかし、2022年現在、日本の多くの地方がそうであるように、志木那島もまた過疎高齢化が進んでいる。財政難にあえぐ近隣諸島との医療統合の話が持ち上がりコトーに島を出て拠点病院で働かないかとの提案が。そうなればコトーは長年暮らした島を出て行くことになる。それが島の未来のためになると理解しながらも、コトーは返事を出来ずにいた。
そんな折、島に近づく台風。毎年多くの台風の通り道となっている志木那島だが、想像を超える被害がもたらされているという話が役場に入ってくる。
主演の吉岡秀隆さん、柴咲コウさんらおなじみのキャストが再結集し、原剛洋役の富岡涼さんは芸能界を引退していたが本作のために復帰。高橋海人さん、生田絵梨花さん、蒼井優さん、神木隆之介さん、伊藤歩さん、堺雅人さんら豪華キャストが共演。テレビドラマ版を手がけた中江功氏がメガホンをとった。
2022年は中国との関係変化を象徴する年になる可能性
現時点の2022年の世界興収ランキングは、第1位が『トップガン マーヴェリック』、世界興収は14億8,665万ドル、第2位は『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』の10億0,113億ドル(BoxOfficeMojo調べ)。
一方、現時点での歴代世界最高興収作品は前述の通り、2009年公開の『アバター』。実は、2019年公開の『アベンジャーズ/エンドゲーム』が最高興収を10年ぶりに更新したものの、2021年に『アバター』が中国で再上映されたことで、1位に返り咲いた経緯がある。
11月23日現在、『アバター』が29億2,291万ドルで、『アベンジャーズ/エンドゲーム』が27億9,750万ドル(同)。
2021年の『アバター』の1位復帰は、中国の影響力拡大を物語るが、中国で公開されていない『トップガン マーヴェリック』がこのまま、2022年の世界興収第1位となれば、ウクライナ戦争、ゼロ・コロナ政策、共産党大会、米中対立等、2022年は中国と西側社会の関係変化を象徴する年になる可能性も高そうだ。
末澤 豪謙 プロフィール
1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。同投資戦略室長、大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。